異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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高級キノコを求めて

旧友であり好敵手

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 ハンクとトーレスは一触即発といった雰囲気だが、トーレスが先に気配を緩めた。
 彼はハンクから視線を逸らした後、武人のような物腰とは似つかわしくない態度で、主と思われる貴族然とした男に恭しく頭を下げた。

「これはとんだ失礼を」

「よい。コショネ茸は十分に採れた。あとは帰るだけ。平民など捨て置け」

「――承知しました」

 ハンクは何か言いたげな様子だったが、トーレスはそれを無視するように歩き出した。
 遠ざかる背中からは上手く言い表せないような圧力と実力者の気配が感じられた。

 ハンクが他者への執着を見せるところを初めて目にした。
 それほどまでにトーレスという人物を認めているということなのか。
 二人の発する気迫は尋常ではなく、下手な介入は裏目に出るような気がした。

 ハンクは何も切り出さず、トーレスを見送るかたちになった。
 するとそこで、それまで無言を貫いていたフランが口を開いた。

「よろしいですの? あの貴族は密漁者。もう一人の男はその護衛」

「いや、あいつにも何か事情が――」

 ハンクが言いかけた直後、近くを離れる途中だった貴族風の男が振り返った。
 信じられないもの見たかのように目を見開いている。
 その様子を訝しく思っていると、男は絞り出すような声を発した。

「……そ、その声は?」

「あの貴族、顔見知りか?」

「さあ、どうかしら? 公都だけでも貴族はたくさんいますもの」

 ハンクとフランのやりとりを耳にした男は、何かを確信したように近づいてきた。
 フランの存在に気づかなかったのは木の陰で見えなかったからだろう。
 男はフランに反応しているように見えた。

「――愛しのフランちゃーん!」

「ええい、気色悪い!」

 フランは脊髄反射的に蹴りを放って、貴族風の男を追い払った。
 だいぶ手加減したようで、男は落ち葉をクッションにするようにして落下した。

「――スヴェン様!」  

 トーレスが慌てて駆け寄ってきた。
 やはり、護衛のようでフランを睨(ね)めつけている。

「待て、トーレス。どう見てもその男が悪い」

「そうは言っても、今の雇い主でな。このまま見すごすわけにはいかないな」

 二人が鋭い視線を交差させたところで、貴族風の男がよろよろと立ち上がった。

「よせ、トーレスよ。オレにも立場というものがある」

「こいつは出すぎた真似を……」

「フラン様、本当にオレのことをご存知ないのですか?」

「ええ、知りませんわ」 

「そ、即答……」

 貴族風の男は気の毒だった。
 フランに気のあるふうだが、顔を覚えてもらってもいない様子だ。

「し、しかし、ここで出会ったのも運命。それにオレたちの服はよく似ているじゃありませんか」

「……げっ、本当ですわ」

 フランと男の服装はどちらも探検家風の草色の衣服だった。
 彼女はボソリと、服飾職人のおすすめが仇になりましたわねとこぼした。

「その『げっ』は服が被ったからですよね」

 俺はそれぐらいのフォローはしてあげてという意味で、小声で言った。
 もちろん、貴族様のフランにそんな気遣いは期待できず、貴族風の男は撃沈した。

 フランと男のやりとりが済んだところで、ハンクとトーレスが話し始めた。
 今度は先ほどのようなピリピリした空気は感じられない。
 俺とテオの出番はなく、二人並んで近くの倒木に腰を下ろした。

「そいつが密漁者だったのか?」

「密漁だって? 人聞きの悪い。そっちだって同じようなものだ」

「こっちは門を通って入ってきたぞ」

「そう言われると耳が痛い。だが、本(もと)を正せば、独占するために入れなくした貴族が悪いと思わないか」

「ちっ、論点をずらしやがって。だがまあ、そうだな。本来の誰でも入れる状態に根回ししてもらう方が話が早いかもな」

「それには同意だ。本当は自分もこそこそと盗人みたいなことはしたくない。雇い主に申し訳ないが……」

 二人の様子を見守っていると、トーレスは意気消沈中の男を見た。
 彼らの会話にフランが加わろうとした。

「わたくしたちも密漁であると、そしりを受けても仕方がないですわね。その代わりにはなりませんけれど、立入禁止が解かれるように働きかけますわ」

「おっ、さすがだな」

「それは見上げた心がけだが、お嬢ちゃ――貴女はどちらのお家か?」

 失礼な物言いになると気づいたようで、トーレスは慌てて言い直したようだ。
 フランはどう見ても庶民という雰囲気ではなく、言葉に注意したのだろう。

 俺はこのやりとりを興味深く見ているのだが、テオは眠たそうに大きなあくびをした。
 大いなる飛竜様には市井の動向など、取るに足らないものなのだと思った。

「わたくしはレニュイ家のフランシスカ。それで伝わるかしら」

 フランは堂々と言った後、不敵な笑みを浮かべている。
 それは今までに見たことのない仕草だった。
 あるいは貴族としての彼女の一面なのかもしれない。

「とんだ失態だ。こんなところにいるはずがないと決めつけていた」

 トーレスは納得したようにつぶやいた後、フランに対して大きく頷いた。
 彼女は相手の様子を意に介することなく、会話を続けようとした。

「あなたの雇い主の……スヴェンでしたかしら? 彼の家名を教えてくださる?」

「ふぅ、そっちが名乗ったのに教えないわけにはいかないよ」

 トーレスは困ったように息を吐いた。
 そこに連撃を重ねるようにフランが言葉を続けた。

「別に構いませんことよ。名乗るまでもない家名ということもあるでしょうから」

「やれやれ、なかなか手厳しいもんで。雇われの自分が言うのもなんだが、レニュイ家と比べれば格下になってしまうか……スヴェン様はラクス家のご子息だ」

「そう、ラクス家。中級貴族ですわね。家名は記憶にありましたけれど、全貴族の枝葉末節まで覚えているはずもなく、そこの方の顔は知りませんわ」

「……そ、そんな」

 フランはうなだれるスヴェンに容赦ない追撃を見舞った。
 やはり、彼女に気があるのだと思うが、相手にされないのは辛いものだ。

「や、やめてもらえないか。坊ちゃんの、スヴェン様の生命力は限界だよ」

 トーレスは懇願するようにフランに言った。
 しかし、彼女は気にする素振りを見せなかった。

「いやー、さすがに気の毒ですね」

 俺は一部始終を見ていたので、思わずそんな言葉が口をついた。

「そうか? それだけあの男に魅力がないということだろう」

「……ああっ」

 スヴェンに聞こえない位置だからよいものの、テオもきつい一撃を見舞っていた。
 二人とも、何か個人的な恨みでもあるのだろうか。
 ……いや、初対面だからそれはありえない話だ。

「ラクス家なら多少の発言権はありますわよね? わたくしは公都に戻ったら、立ち入り禁止を解くように働きかけますわ。あなたはそれに追随するようにラクス家に働きかけてもらいたいですわ」

「……つ、ついにオレの時代だ! フラン様に頼みごとをされた!」

「やれやれ、大げさすぎますわ。お願いしましたわよ」

 フランにまっすぐな瞳を向けられると、スヴェンは顔を真っ赤にした。
 いやはや、ラクス家はこんな男が後継者で大丈夫なのか。


 あとがき
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感想 30

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