異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
214 / 555
異国の商人フレヤ

旅する見習い商人

しおりを挟む
 俺は店内に戻ってグラスを返すと、マリーさんにご馳走になったお礼を言った。
 それから店の外に出て、フレヤと合流した。

「お待たせしました」

「それじゃあ、案内よろしく」 

 フレヤは気さくで接しやすい印象だった。
 人懐っこい性格みたいで、好感が持てる人柄だと思う。
 後ろで一つに束ねた栗色の髪と日に焼けた小麦色の肌。
 服の袖から伸びる腕は細くとも筋肉質だった。
 
「この辺りは落ちついた雰囲気でいいところだね」

 マリーさんの店を離れて歩き出したところで、フレヤが町を眺めて言った。
 本人は旅人だと言っていたが、どこからやってきたのだろう。

「フレヤはどこから来たんですか?」

「ここからずっと遠い国。親が商人で仕事を継ぐつもりなんだけど、私の代でも同じ商売を続けるのもどうなのかなって思って。見聞を広めるために旅をしてるところ」

 ランス王国周辺は金色の髪の人が多いため、フレヤはこの辺りの出身ではないと思っていた。
 考えてみれば難しいことではないが、予想は当たったみたいだ。
  
「へえ、それはすごい。女性の一人旅だと色々と物騒じゃないですか」

「それなら大丈夫。護身術の一環で槍術を習ったから」

 フレヤはそう言うと、手にしている先が覆われた長い棒を指でつついた。
 町中なので布がかけられているが、その中身は槍ということだろう。

「実はこの町に着いたのがついさっきでさ、お昼ごはんはまだなんだよね」

「そうですか。地元の人間なので、食事ができるところは紹介できますよ」

「まずは町の案内の前に食事にしようよ」

 フレヤは食事を楽しみにするように足取りが軽くなった。
 彼女の期待に応えたいが、出身が違うと味の好みも変わってくる。
 どんなものが食べたいかだけでもたずねておこう。 

「魚料理以外はわりと幅広くありますけど、何か希望はありますか?」

「うーん、地元のものとか? 特産があるか分からないけどさ」

「特産ですか……あれ、何かあったか?」

 フレヤの返しはごくごく自然なものだったが、こちらに答えの用意がなかった。
 とりあえず、地元で親しまれている料理とかでもいいのだろうか。

「特産ではないかもしれないですけど、地元で愛されている料理はあります」

「いいじゃん、そういうの。まずはそれが食べれる店に案内してよ」

「そういうことでいいなら」

 俺たちはモントレイ通りを出て、マーガレット通りにつながる道を歩いた。
 徐々に人通りが多くなり、道沿いの店の数も増えている。

「けっこう色んな店があるね」

「この辺りがバラムの主要通りです。もう少し先へ行くと市場もあります」

「へえ、市場か。食事が終わったら行ってみたいかも」

 フレヤは町の様子に興味を示しながら歩いていた。
 それなりに人口の多い町から来たようで、通行人が増えても気にならないようだ。

「あっ、こっちです」

 フレヤに紹介する店が近づいていた。
 店名はたしか「キュイル」だったような……。
 入り口の周りに看板が見当たらないので確認できなかった。

「ふーん、雰囲気はまずまずってところかな」

「味は保証するので、よかったらここにします?」

「他を探す間にお腹が空きそうだから、ここでいいよ」

 フレヤの言葉を聞いてから、扉を開いて中に入った。
 席の少ない家庭的な店で、昼時をすぎたこともあって閑散としていた。

「はい、いらっしゃい」

 キュイルの女店主が陽気な声で言った。
 地元の店ということもあり、彼女の顔は何度か見たことがある。

「二人なんですけど、この時間でも料理は出せますか?」

「もちろん問題ないよ。席は好きなところに座って」

 俺はフレヤと空いた席に腰を下ろした。

「ねえ、注文はどうするの?」

「ここはメニューがなくて、料理の種類は少ないです」

 よそから来たのなら注文に困るだろうと思い、頼むことのできる料理について、簡単な説明をした。 

「そうしたら、そのポトフっていう料理とバラム風ソテーを頼もうかな」

「すいません、注文いいですか?」

 俺が呼びかけると、店の奥から先ほどの店主が戻ってきた。

「ごめんね、夕食の準備を手伝ってて」

「いえ、大丈夫です」

「私はポトフとバラム風ソテーを」

 フレヤが注文したバラム風ソテーはタマネギとジャガイモ、干し肉を塩コショウとハーブを加えて炒めたものだ。
 俺は昼食は済んでいるので、食事以外のものを頼むことにした。

「デザートを何か一つ。飲みものは紅茶で」

「はい、ありがとう。少し待っててちょうだいね」

 女店主は厨房の方に注文を通しに向かった。
 それから少し経った後、二人の注文したものがテーブルに並んだ。

 フレヤの頼んだポトフからは湯気が上がり、バラム風ソテーは焼きたてのいい匂いがしている。
 ちなみにデザートのオーダーに対して、プリンとタルトを足して二で割ったようなものが届いていた。

「これは期待以上だね。すっごく美味しそうだよ」

「味もなかなかだと思います。気に入ってもらえるといいですけど」

 俺はフォークを手に取り、デザートを食べ始めた。
 見た目通りの柔らかさで、力を入れなくても切れる。 
 そのまま口に運ぶとほどよい甘さで食べやすかった。

「こっちのポトフは具は美味しいけど、スープは薄味かな。ソテーの方はけっこう好みの味つけだよ」

「気に入ってもらえたならよかったです」

 フレヤとは会ったばかりだが、和やかな時間がすごせてよかった。
 
 それから、食事が終わったところで会計を済ませるタイミングになった。
 
「ここはご馳走させてください」

「ええ、いいよー。自分で払うって」

「今まで旅先で親切を受けることが多かったので、今日は親切にする方に回ってもいいかなと思ったんです」

「うーん、そこまで言うならいっか」

 俺は二人分の代金を支払って、フレヤと店を出た。
 マーガレット通りを歩いて町案内を再開する。

 食堂を出てからの彼女は満足そうな顔をしていた。
 その様子を見ているとうれしい気持ちになる。
 初対面だというのに不思議と気が合うと思った。
 
 二人でしばらく散策を続けた後、歩き疲れたフレヤのためにベンチに腰かけた。
 近くにはエレーヌ川が流れており、さわやかな風が吹いていた。

「ありがとう。色々見れて楽しかった」

「役に立てたのならよかったです」

 フレヤが喜んでくれたのなら、案内した甲斐があったというものだ。
 彼女の疲れが取れるまで休憩するつもりでいると、隣から視線を感じた。

「……俺の顔に何か?」

 手でペタペタと触ってみるが、特に違和感はない。

「マルクってさ。近くで見るといい顔してるよね」

「……えっ」

 まさか、出会ったばかりなのに愛の告白をされているのか!?

「違う、違う。そういう意味じゃなくて」

「そりゃあ、そうですよね。今日会ったばかりだし」

「人を招くような魅力があるっていうか……」

 フレヤの言葉は巡り合わせの祝福を言い当てたようで、内心驚いていた。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

処理中です...