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調査隊との出会い
8.超常現象・検証編 その1
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アニマル系癒し動画を見る際に音量は小さめだったが、彼らの会話を聞くために画面内のスピーカーを操作して音を大きくする。
「――こちらは県内某所のAさん宅です」
画面の向こうにモザイクのかかった民家が写し出される。
おぼろげに確認できるのは小ぎれいな一軒家だった。
チャンネルの関係者は二人以上いるようで、民家の主と話す者と撮影する者に分かれているようだ。
「我々ホンキノ調査隊は、このお宅の家主から調査依頼を受けて現地を訪れています」
動画の進行役――調査隊のようなので調査員と呼ぶ――は二十代半ばに見える男性で聞き取りやすい声で話している。
いわゆる細マッチョな体形で長めの黒い髪。肌は色白。
見た目と声だけで判断はできないものの、好青年という印象を受けた。
説明に出てきた、「ホンキノ調査隊」の意味が分からないので、視聴を終えてから調べることにした。
当然ながら家主の男性にはモザイクがかかり、表情を読み取ることはできない。
調査員が家主に声をかけて家の中へ足を踏み入れた。
二人に続くようにカメラも中に入っていく。
少し経つと背景のモザイクが外れて屋内の様子を見ることができた。
落合さんが家を出なかったようにAさんもこの家に住み続けているようだ。
ところどころ生活感が垣間見えて全体的に清潔感がある。
調査員と家主は階段を上がり、二階の廊下を歩いていった。
ここで動画が停止して、ナレーションが入る。
声の主は調査員の男性のようだ。
『我々はAさんから依頼を受けた後、メールに書かれた内容を精査して、事前調査を始めました。相談内容は誰もいない家の中で視線を感じる、普段は使っていない部屋から物音がするというものでした。Aさんは業者への調査依頼、近隣の神主によるお祓い、インターネットで見つけた僧侶による祈祷――。それらを講じたものの変化はなく、藁をも掴む思いで連絡されたそうです』
ナレーションが終わると再び動画が進み始めた。
やがて二人はドアの閉じた部屋の前で立ち止まる。
「では、中へどうぞ……」
家主は消え入りそうな声で言った。
それを受けて調査員はドアを開く。
自然で力みのない様子から、この状況を恐れていないように見えた。
私と同じようにオカルトを信じていないタイプなのだろうか。
二人に続くカメラが室内を写した瞬間、奇妙な偶然に目を疑った。
引っ越し業者のロゴが入った段ボールはないものの、一見して落合さんの家で見た「あの部屋」にそっくりに思えた。
きっと目の錯覚だと思い動画を一時停止する。
画面を再確認すると似ているように見えても全然違うことに気づいた。
外観から玄関から間取りまで……ほとんどの部分が異なる。
冷静になろうと自分に言い聞かせて続きを見る。
「それで音がするというのはどの辺りでしょうか?」
「こ、ここの壁の中です」
怯える家主とは対照的に調査員は淡々としていた。
まるで内見に訪れた見学者のように壁に触れる。
こういった調査に慣れているのか、動きに無駄がないように見えた。
調査員は表情を変えずに壁をコンコンと軽く叩いた。
「中は空洞ですか?」
「施工の関係で隙間が空いているはずです……」
建築の専門家でもなければ自宅の設計を把握していることなど稀だろう。
家主は調査員の質問に答えたものの自信がなさそうだった。
「やはり、そういうことか」
調査員は納得したような反応を見せて、確認する範囲を広げていく。
ここまで調査員と家主の二人が画面に収まっていたが、途中から壁に触れる調査員が中心になっている。
やがて調査員は壁沿いに動きながら、ゆっくりと腰を下ろした。
何をするだろうと思った直後、継ぎ目などないように見えた壁の一部が動いた。
「ホンちゃん、すげえ!」
すぐ近くで誰かの声が入った。どうやら撮影役が声を出したようだ。
今のやりとりで調査員はホンちゃんと呼ばれていることが分かった。
調査員はシーっと静かにするようにカメラの方を向いて言った。
「ごめん、ごめん」
「全然いいよ。撮影に集中して」
気の知れた仲なのか、調査員は家主に向けるものよりも気さくな話し方をした。
「そこ外れるんですか……?」
「事前に建築関係の知人にアドバイスをもらいました。Aさんのお宅と近い設計図をいくつか見比べて、自分なりの仮説を立てています」
家主の質問する声が聞こえてから、調査員は謙虚な態度で答えた。
テロップに「ホンは多方面に顔が利きます」と出ている。
おそらく、知人というのは建築家もしくは設計士なのだろう。
まるで大きなパズルのピースのように壁の一部が抜けた。
調査員はそれを丁寧に床に置くと、中の空間を懐中電灯で照らした。
しばし全員が無言の状態になる。
調査員は壁の中の空間を見ていて一言も発しない。
撮影役は手持ち無沙汰になったようで、調査員と様子を見守る家主を交互に捉えている。
私は無音の画面を見守りつつ、「編集でここはカットしてもいいのに」なんてことを思った。
やがて動画の時間表示で、約二分が経過したところだった。
壁の外側から中を覗きこんでいた調査員が家主に声をかけた。
「――原因と思われるものを発見しました」
隙間から顔を出した調査員にカメラが向いた後、家主の様子がアップで写された。
モザイクの影響で安堵しているようにも怖がっているようにも見える。
視聴者である私も「原因と思われるもの」の存在に興味を引かれた。
設計士についての補足
建設業界では建築士という国家資格を所有せず、設計や補助業務を行う人を設計士といいます。
ComMaga:設計士と建築士の違いとは?それぞれの仕事内容を解説より
https://conma.jp/conmaga/article/104096/
アニマル系癒し動画を見る際に音量は小さめだったが、彼らの会話を聞くために画面内のスピーカーを操作して音を大きくする。
「――こちらは県内某所のAさん宅です」
画面の向こうにモザイクのかかった民家が写し出される。
おぼろげに確認できるのは小ぎれいな一軒家だった。
チャンネルの関係者は二人以上いるようで、民家の主と話す者と撮影する者に分かれているようだ。
「我々ホンキノ調査隊は、このお宅の家主から調査依頼を受けて現地を訪れています」
動画の進行役――調査隊のようなので調査員と呼ぶ――は二十代半ばに見える男性で聞き取りやすい声で話している。
いわゆる細マッチョな体形で長めの黒い髪。肌は色白。
見た目と声だけで判断はできないものの、好青年という印象を受けた。
説明に出てきた、「ホンキノ調査隊」の意味が分からないので、視聴を終えてから調べることにした。
当然ながら家主の男性にはモザイクがかかり、表情を読み取ることはできない。
調査員が家主に声をかけて家の中へ足を踏み入れた。
二人に続くようにカメラも中に入っていく。
少し経つと背景のモザイクが外れて屋内の様子を見ることができた。
落合さんが家を出なかったようにAさんもこの家に住み続けているようだ。
ところどころ生活感が垣間見えて全体的に清潔感がある。
調査員と家主は階段を上がり、二階の廊下を歩いていった。
ここで動画が停止して、ナレーションが入る。
声の主は調査員の男性のようだ。
『我々はAさんから依頼を受けた後、メールに書かれた内容を精査して、事前調査を始めました。相談内容は誰もいない家の中で視線を感じる、普段は使っていない部屋から物音がするというものでした。Aさんは業者への調査依頼、近隣の神主によるお祓い、インターネットで見つけた僧侶による祈祷――。それらを講じたものの変化はなく、藁をも掴む思いで連絡されたそうです』
ナレーションが終わると再び動画が進み始めた。
やがて二人はドアの閉じた部屋の前で立ち止まる。
「では、中へどうぞ……」
家主は消え入りそうな声で言った。
それを受けて調査員はドアを開く。
自然で力みのない様子から、この状況を恐れていないように見えた。
私と同じようにオカルトを信じていないタイプなのだろうか。
二人に続くカメラが室内を写した瞬間、奇妙な偶然に目を疑った。
引っ越し業者のロゴが入った段ボールはないものの、一見して落合さんの家で見た「あの部屋」にそっくりに思えた。
きっと目の錯覚だと思い動画を一時停止する。
画面を再確認すると似ているように見えても全然違うことに気づいた。
外観から玄関から間取りまで……ほとんどの部分が異なる。
冷静になろうと自分に言い聞かせて続きを見る。
「それで音がするというのはどの辺りでしょうか?」
「こ、ここの壁の中です」
怯える家主とは対照的に調査員は淡々としていた。
まるで内見に訪れた見学者のように壁に触れる。
こういった調査に慣れているのか、動きに無駄がないように見えた。
調査員は表情を変えずに壁をコンコンと軽く叩いた。
「中は空洞ですか?」
「施工の関係で隙間が空いているはずです……」
建築の専門家でもなければ自宅の設計を把握していることなど稀だろう。
家主は調査員の質問に答えたものの自信がなさそうだった。
「やはり、そういうことか」
調査員は納得したような反応を見せて、確認する範囲を広げていく。
ここまで調査員と家主の二人が画面に収まっていたが、途中から壁に触れる調査員が中心になっている。
やがて調査員は壁沿いに動きながら、ゆっくりと腰を下ろした。
何をするだろうと思った直後、継ぎ目などないように見えた壁の一部が動いた。
「ホンちゃん、すげえ!」
すぐ近くで誰かの声が入った。どうやら撮影役が声を出したようだ。
今のやりとりで調査員はホンちゃんと呼ばれていることが分かった。
調査員はシーっと静かにするようにカメラの方を向いて言った。
「ごめん、ごめん」
「全然いいよ。撮影に集中して」
気の知れた仲なのか、調査員は家主に向けるものよりも気さくな話し方をした。
「そこ外れるんですか……?」
「事前に建築関係の知人にアドバイスをもらいました。Aさんのお宅と近い設計図をいくつか見比べて、自分なりの仮説を立てています」
家主の質問する声が聞こえてから、調査員は謙虚な態度で答えた。
テロップに「ホンは多方面に顔が利きます」と出ている。
おそらく、知人というのは建築家もしくは設計士なのだろう。
まるで大きなパズルのピースのように壁の一部が抜けた。
調査員はそれを丁寧に床に置くと、中の空間を懐中電灯で照らした。
しばし全員が無言の状態になる。
調査員は壁の中の空間を見ていて一言も発しない。
撮影役は手持ち無沙汰になったようで、調査員と様子を見守る家主を交互に捉えている。
私は無音の画面を見守りつつ、「編集でここはカットしてもいいのに」なんてことを思った。
やがて動画の時間表示で、約二分が経過したところだった。
壁の外側から中を覗きこんでいた調査員が家主に声をかけた。
「――原因と思われるものを発見しました」
隙間から顔を出した調査員にカメラが向いた後、家主の様子がアップで写された。
モザイクの影響で安堵しているようにも怖がっているようにも見える。
視聴者である私も「原因と思われるもの」の存在に興味を引かれた。
設計士についての補足
建設業界では建築士という国家資格を所有せず、設計や補助業務を行う人を設計士といいます。
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