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美食の街ルエドで愛の告白に舌鼓
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しおりを挟む「きゃーやめてぇウルスさんっ。シアが死んじゃうっ」
「この程度で死ぬようなやわな鍛え方はしていない」
「とか言って殴り続けないでっ」
ほんの数分前まで、アネーシャは危機的状況にあった。ドルクに羽交い締めにされた挙句、サウラを牽制するための盾にされたのだ。そしてそのまま人質として誘拐され、出張所から遠く離れた空き地にたどり着いわけだが、
「ごふっ」
唐突に拘束が緩み、驚いて振り返れば、ドルクが吐血して倒れていた。そしてどこからともなく現れたウルスが、おもむろに彼を掴み上げると、壁に押し付けて殴打している。
状況に頭が付いていかず、しばらくボケっとしてその光景を眺めていたアネーシャだったが、「きゃーやめてぇウルスさんっ。シアが死んじゃうっ」我を取り戻すと同時に慌てて止めに入った。
「し、シアは……シアは悪くないんですっ」
「君を殺そうとしたのに?」
「説明しますっ。説明するから……殴らないでっ」
横からしがみつくように抱きつくと、ウルスの拳がぴたりと止まった。
可哀想なシア――ドルクは既に意識を失っているらしく、白目を剥いている。
「……ということで、全部コヤ様が悪いんですっ」
鼻息荒くまくし立てると、ウルスは腕組みをしてじっと自分を見ていた。
「事情はわかった」
「本当に?」
「感情的になってすまなかったな」
「……感情的になってたんですか」
「ああ、つい我を忘れた」
「なぜに?」
「……それは」
珍しく言葉に詰まっている様子の彼に、首を傾げる。
「もしかして、先ほどの女性と何かあったんですか?」
恨みがましく、若干もじもじしながらアネーシャは訊いた。白目を剥いて倒れている仲間のそばで、不謹慎だとは思いつつも、あの女性のことが頭から離れないのだ。
「ウルスさんはあの人と付き合ってるの?」
「……あの人?」
「アビゲイルさん。実はさっきチラ見して……」
「彼女は陛下の愛人だ」
それを聞いてホッとするどころか、アネーシャの目は次第に潤んでいく。
「立ちはだかる障がいが大きければ大きいほど、愛の炎は燃え盛る」
コヤが口を酸っぱくして教えてくれた言葉だ。
「何の話だ?」
「愛し合う二人を、陛下が邪魔しているわけですね」
「愛し合う? 誰と誰が?」
「ウルスさんとアビゲイルさん」
たまらず泣き出したアネーシャに、ウルスは困惑していた。
長い両腕を上げたり下ろしたりしている。
「なぜ泣く?」
「う、ウルスさんに傷つけられたから」
「俺がいつ、君を傷つけた?」
なぜか乱暴に肩を掴まれて、怖い顔で覗き込まれる。
その鬼のような形相に、アネーシャは「ひっ」と息を飲んだ。
しかし黙って泣き寝入りするものかと口を開く。
「わ、私だけじゃない。こ、これまでも散々、女を泣かせてきたんでしょっ」
「……アネーシャ、わかるように説明してくれ」
「こ、この、女誑しの人誑しめっ」
思い込みと妄想が暴走して泣きじゃくるアネーシャを、ウルスは黙って抱き寄せた。
「は、離してっ」
「落ち着いてくれ、頼むから」
初めこそは暴れていたアネーシャだったが、いくら両手両足をばたつかせたところで、鉄格子の如き抱擁から逃れるすべはなく、次第に疲れて、しまいにはぐったりしてしまった。
ウルスの肩にもたれかかっていると、気づけば優しく髪を撫でられていた。
「俺は君を傷つけない」
「……うそ」
「なら話してくれ。俺が一体いつ、君を傷つけたのか」
「私はアビゲイルさんみたいに綺麗じゃないから」
「…………?」
「アビゲイルさんみたいに強くもないし、胸も大きくない」
「君は彼女に嫉妬しているのか?」
「……そう、です」
「それでなぜ、俺が君を傷つけたことになる?」
アネーシャは口ごもり、ややしてため息をつく。
「わからないのなら……」
「ヴァレ山で初めて祈る君の姿を見た時、美しいと思った」
遮るように言われ、アネーシャははっと息を飲んだ。
「周囲の景色に溶け込んで、自然と一体になっていた――目を奪われたよ」
驚いて顔を上げると、じっと自分を見下ろしていている彼と目が合う。
「これまで以上に強く神の存在を感じた。君は知らないだろうが、俺はあの時、泣いていたんだ。強さを求めるあまり、人の心を失いかけていたこの俺が――君の姿から目が離せなかった」
彼の声は低く掠れていたが、アネーシャの耳にはしっかりと届いていた。
熱を帯びた眼差しに、今にも口から心臓が飛び出しそうだ。
「あの瞬間から、俺の心は君のものだ」
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