23 / 23
勇気を出さなければと自分を奮い立たせた
しおりを挟む目を開けると、私は別棟の教室にいた。
――戻ってきたのね。
ひんやりとした空気に、ぶるっと身体を震わせる。
それもそのはず、室内の壁から机に至るまで、全て氷漬けになっていた。
――また担当教諭に叱られてしまうわ。
白い息を吐きながら、窓の外を見下ろす。
木陰で抱き合う二人の男女――ゾフィーとジョシュアの姿があった。
今は抱き合っていないものの、何か話しているようだ。
私は矢も盾もたまらず、開けっ放しの窓から飛び降りた。
空中浮遊の魔法は既に習得済みだ。マーガレット先輩に屋上から突き飛ばされた後、必死に勉強したから。四階の教室から難なく地上に降りると、その足で二人の元へ急ぐ。
けれどゾフィーは既に立ち去った後で、ジョシュアだけが残っていた。
「ジョシュっ」
呼びかけると、彼は驚いたように私を見た。
「え、エマ、どうしてここに……」
「教室から二人の姿が見えたので」
「……だったら、さっきの」
慌てた様子の彼に、私は素直に頷いた。
「彼女のことを愛しているのですね」
「待って待ってエマ、違うからっ。君が想像しているようなことは何もしていないしっ」
「……抱き合っているように見えました」
「抱きつかれただけだよっ。浮気はしてないっ」
声を大にして、彼は否定する。
嘘をついているようには見えず、戸惑ってしまった。
「わたくしはてっきり、貴方に婚約破棄されるものと……」
「死んでもしないよっ」
怒鳴るように言われて、びくっとしてしまう。
「ああ、ごめん、怖がらせるつもりはなかったんだけど」
自己嫌悪するように、珍しく乱暴な仕草で頭を掻いた。
「ちゃんと説明するから、来て」
とりあえずどこかに腰を落ち着けようと、近くの東屋へ案内される。
「詳しいことは話せないけど、ゾフィー・ドロテアは問題児で、生徒会でも目を付けられているんだ。以前話したと思うけど、僕も生徒会役員だから。生徒会長に彼女を監視するように言われて、その流れで頻繁に話すようになった。そしたら彼女、誤解してしまって――」
抱きつかれて、告白されたと。
「もちろん断ったよ。僕には君がいるから」
「……どうして」
「僕の婚約者はエマだけだ」
真剣な目をしてきっぱりと言う。
私は唇を噛んで、うつむいた。
「愛の無い、政略結婚でも?」
「君はそう思ってるの? 僕が君の魔力目当てで婚約したと?」
だとしたら悲しいなと彼は笑う。
「それとも……あまり考えたくはないけど、他に好きな男でもいるの?」
口もとは笑っているのに目が怖い。
私は否定した上で、こういう時こそ、勇気を出さなければと自分を奮い立たせた。
「あ、あの、少し立って頂けますか?」
今の私はほとんど魔力を使い果たしているので、触れても問題ないはず。
思い切ってゾフィーのように彼に抱きつこうとしたものの、さすがにそれは自分らしくないと感じ――というより、私にとってはあまりにもハードルが高すぎるので――ジョシュアの手を取って、両手でぎゅっと握り締める。
「わ、わたくしは、あ、貴方のことが……だ、だ、大好き、です」
勇気を振り絞って思いを打ち明けたのに、ジョシュアは無反応だった。
あまりにも子どもじみた告白に、呆れてしまったのかもしれない。
それとも所々、言葉に詰まってしまったのがいけなかっただろうか。
恐る恐る彼を見ると、婚約者は顔を真っ赤にして固まっていた。
<END>
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
833
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(21件)
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
何か色々と皆さん書いてるのですね
私は一度書かれてから 萎えてしまい
それ以降は感想拒否しております
面白かった!
で いいと思うのです!
だって面白い物を読ませてもらっているのだから
手法なら 読んだ作者が嫌な気分にならないように書いたらいいのでは?と思いますが
毎作 展開が面白く読ませてもらってます~
あと 2作!行きます!
話がくだくだで、登場人物の目的がわかりづらい。
王子は特に気持ち悪い。
もっと短くまとめたら、もう少し面白くなるかも。
抱き合うと抱き付かれたじゃ、見た目的にも全然違うと思うが(笑)。1回目は魅了だったの?。なんか頬に手のところで1回目は時間戻した訳だけど、ほっといたらキスしてたのかな(笑)。誰も見てないとこで王子を魅了してもしょうがない気がするんだけど(笑)。やるなら人が見てるところでだろ(笑)。