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本物の勇者

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 僕たち3人は砦から王国へエレンさんの馬車で向かう。
 王様たちは砦の指揮があるのでまだ動けないらしい。

 あと、砦でのリリアや女王様との話は後回しになった。
 正直助かった。少しは考える時間が欲しい。

 ただ、リリアは一緒の馬車に乗っている。
 というか、僕の腕を抱きしめて寄りかかっている。

「あの、リリア。今日はすごく、近いね」
「うん。言っちゃったし、こうしていたいの。いいでしょ?」

 リリアを見ると、顔を隠すようにうつむいているが、耳が赤い。

「ああ、いいよ」

 なんだか、今日のリリアはいつもよりかわいい。
 こんな感じだっけ?

 ナンシーさんがため息をついている。

「はぁ。あなたたち、私も同じ馬車にいるのよ? エリオット。さっさとリリアに答えてあげなさいよ」
「いいの。ナンシーさん。今は世界平和とか勇者のことで大変だから、それが終わってからでいいの」

 僕は自分の気持ちがまだわからない。
 何も言えない。

 それに、本物の勇者のことも気になる。
 どんな人なんだろう。
 協力して戦えればいいな。


--------


 王国に着き、謁見の間に入る。
 前と同じように、第2王女のシルビア様とハゲたじいさんが奥にいる。
 ハゲたじいさんは宰相といって、とても偉い人らしい。
 シルビア様が笑顔で話しかける。

「勇者エリオット様。この度の活躍は聞いております。近くに来てくださいませんか」
「はい」

 僕たち3人は、シルビア様から3メートルくらいのところまで近づく。
 シルビア様は第1王女のサラ様と似た青い目をしている。
 胸は少し小さいが、成長の伸びしろを感じさせる。将来に期待。

「周囲の村を守っていただけるだけでなく、帝国軍を壊滅状態に追い込んだとの報告をうけております。誠にありがとうございます」
「ありがとうございます。仲間や王国軍のお陰です」
「話は変わるのですが、勇者エリオット様は恋人などおられますか? いないのでしたら、私と結婚していただきたいのです」

 え? シルビア様も?

「ダメです。エリオットはアタシが先なんだから」
「あら? そうなのですか。でしたら2人目の妻としてください。私は勇気があって強い男性が好みなのです」

 サラ様と似たような趣味!
 王族は強い男性が好きなんだろうか?

「あの……それにつきましては」

「お待たせしましたぁ!」

 バタンッ

 謁見の間の扉が勢いよく開く。
 見ると、赤毛のイケメンがエロい恰好の女性を3人連れて歩いてきた。
 キラキラした鎧と剣を腰に差し、口の片側に笑みを浮かべている。
 誰だこの人?

「ハーハッハ。勇者アレン・シーボルトです。シルビア様へご挨拶に参りました」
「なっ、今は勇者エリオット様との謁見中であるぞ。少し待っているよう伝えたはずでは」

 宰相が驚いている。
 勇者アレンは気にしていないのか笑みを崩さない。

「何を言うかと思えば。本物の勇者である俺が偽物を待つわけないでしょう」
「そうよそうよ。勇者アレン様が一番すごいのよ」

 堂々とした歩みを止めない勇者アレン。
 エロいお姉さんたちがキャーキャー言ってる。
 ああいう、見せつけるエロさは僕の趣味じゃない。
 こう、元気で、笑顔がかわいくて、良い匂いがして、細身で、髪の長さは肩くらいで、薄い茶髪で……っておや?

 僕が好みの女性について考えていると、アレンが目の前にいた。

「おい。お前が偽物だな。そこをどけ。俺がシルビア様と話せないだろ?」
「そうよそうよ。貧相な女を連れた偽物はどきなさいよ」

 貧相? 何言ってんだコイツ。

「あ?」
「エリオット。剣から手を放しなさい。ここは譲ってあげましょう。人間同士で争っている場合ではないわ」

 ナンシーさんが止めてくれる。
 僕はいつのまにか剣の柄を握っていた。

「はい……」

 体の力を抜く。

「おい。偽物。不満そうだな。どちらが強いか見せてやるよ」

 アレンのイラついた声。
 周りの女たちは離れたところへ移動していく。

 勇者アレンが素早く動き出した。

 カァンッ

 勇者アレンが剣を振るう。僕はなんとか防げた。
 速い。

「リリア、ナンシーさん。離れてろ」
「余裕だな。女を気にしてる場合か?」

 カンッカァンッ

 アレンが2回剣を振るう。
 王国の剣術に近く、型を覚えていたためか防げた。
 剣を振る前に体が動いていて、先読みしやすい。
 剣術自体は兵士の方がうまいな。
 コイツ、あまり剣の稽古をしていないのか?

 しかし、1撃が重く、手がしびれてきた。

「やめろ。同じ人間同士で争うときじゃない」
「ハッ。腰抜けが。」

 カキンッ

 しまった。剣が弾かれた。

「偽物は弱いな」

 ニヤニヤしている。
 余裕だな。
 だが、隙だらけだ。

 僕はアレンへ体当たりした。
 アレンが後ろへ倒れる。

「なっ。偽物のクセに」

 僕は剣を拾い、構える。

「やめろって言ってるだろ」

 アレンは立ち上がり、怒っている。

「うるさい。俺の力を見せてやる」

 アレンは聖剣を上に掲げる。

「勇者アレン・シーボルト。争いはやめなさい」

 シルビア様の冷静な声。

「うるせぇ。この偽物は俺を馬鹿にしやがった」

 別に馬鹿にしてねぇ。
 強そうな態度のクセに、剣は弱いと思っただけだ。

「エリオット。勇者は上から魔法を落とすわ」

 ナンシーさんの助言。
 助かります。
 僕は右手を上に向ける。

「サンダーボルト」
「はかいビーム」
 ギャリリリリリー
 ドガァッ

 僕の手から白い光が上に放たれ、謁見の間に穴を空ける。
 アレンが何かしたっぽいけど、よくわからなかった。
 僕のスキルは目立つしうるさい。
 勝手に城の天井を傷つけちゃったけど、まぁ、謝れば許してくれるかな?

「バカなっ。勇者の力だぞ」

 アレンはポカーンとしている。
 他の人もザワザワしている。

「勇者エリオット様。それが帝国軍を倒した力なのですね。美しい光です」

 シルビア様のうっとりした声。
 天井を壊したことを怒っていないようだ。良かった。
 僕は動けないので、右手を上に向けている。

「何? すごい魔力!」

 ナンシーさんの驚いた声。

 ドガァァンガラガラガラッ

 外の建物がたくさん崩れる音。
 確かに、何か嫌な予感がする。

 ドガアアァァァンッ

 謁見の間の壁や天井が吹き飛ぶ。
 大きな魔法がぶつかったようだ。
 でも、僕たちに魔法が当たった様子はない。
 またザワザワし始める。

「落ち着きなさい。ここは結界で守られているでしょう」

 シルビア様の大きな声でザワザワが落ち着く。

「シルビア様。さきほどの攻撃で謁見の間の結果が壊されました」

 兵士の報告。
 王様がいるところだからか、結界があったみたい。
 でも、壊されたってことは、もう一度攻撃されると危ないな。
 謁見の間の壁も吹き飛んでるし。

「近くに巨大な敵がいます」

 兵士が報告してくれる。
 ナンシーさんが王女様の方向を見る。

「あれは、ダークドラゴン! かつての魔王がなぜ現れたの? 以前の勇者に滅ぼされたはずよ」

 どうやら魔王が現れたようだ。
 ナンシーさんのスケスケローブは見えるが、ドラゴンがいる方向は見えない。
 僕も見たいけど、まだ体が動かない。

「わー。すっごいすっごい大きい」

 リリアが驚いている。
 どれだけ大きいの?

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