超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

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夢に咲く花

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 すべてが終わったわけではないが、カダンたちはホッとして、気が抜けていた。

 火傷跡は残ってしまったが、ルイは目を覚ました。


 生き残った村人も、無事に守りきることが出来た。


 昨日今日で元に戻るものは何もないが、それでも明日が見えたような気がしていた。

 一度家に戻ろうと言うカダンの提案に、反対する者は誰もいなかった。

 ルイとカウルでさえも、一言の反論なく頷いた。


 そんな日の景色が黄昏に染まる時分、孝宏は外から車の中を覗いた。


 ルイはターバンを何度も巻いては解いていた。

 ルイの顔や首筋には、ケロイド状の跡が残る。

 彼の言葉を信じるなら、しばらくすると消えるらしく、心配はいらないという。

 それと、ルイは長かった髪を短く切っていた。

 あの時焼けたのは、何も皮膚だけではない。髪の毛もだ。

 側頭部の一部は根元まで焼け、仕方なくカウルと同じ坊主にしたのだ。

 だがそれが彼には相当不本意だったらしい。

 まるで砂漠の民のように、頭にターバンを巻き、すべてを隠そうとしている。


「髪が伸びるまでの辛抱だしね」


 ルイがあまりにも苦々しく言うので、孝宏は反応に困ってしまう。

 孝宏がカダンにこっそり聞いた所によると、昔好きだった女の子に、カウルと間違われたことがあったらしい。

 それ以来、常にカウルと違う髪型、違う口調で話すようになったとか。


 今はマリーと一緒に、どのように巻けば、しっかりと、かつ格好良くなるか試している。


 カウルとカダンは一緒に広げた地図を眺めていた。帰る道を模索しているのだ。

 どうやら、孝宏たちが来る時使った道が使えなくなったらしく、別ルートで帰るしかなくなっていた。


(あれどうしようか……今更って感じだしななぁ……)


 孝宏はめくっていた幕を閉じた。

 腹を満たした牛たちが、木の下で地面に突っ伏して休んでいる。

 邪魔するのも気が引けたので、孝宏は車の車輪にもたれ、地面に座り込んだ。


 あの時村の中で見つけた物はすでに村人に渡したが、例の家で見つけた物だけは渡さず、車の中の荷物と一緒に今も持っている。

 あの部屋を皆に見せなければならない。

 一目見てそう感じた。

 大事な物を守る為の特別な部屋だと思ったが、それも今は燃えて、砕けてしまった。


(そもそも役立つなんて、根拠があったわじゃないしなぁ……)


 孝宏は無意識に首から下げた、黒い石の首飾りを触った。

 紐の先に、丸く整えられた石が付いているだけの質素な物。

 それはお詫びと礼として、アベルから貰った物だった。

 アベルはきっと役に立つからと言っていたが、曇り一つない、漆黒の石は格好良くもあるが、どこか不気味だ。

 一応ルイに尋ねてみたら、魔除けに使われる石なんだそうだ。

 貰っとけば、と簡単な答えが返ってきた。

 彼がそう言うならそうなんだろうと、とりあえず首から下げている。

 こういうのは慣れておらず、気が付くと、孝宏は触っていた。



 不意にこちらに近づいてくる足音がした。それは車の傍で止まり、パンっと一回手を叩いた。


「やあ、カダン。愛しのカダン。私に美しい顔を見せてくれないかい?」


 声の持ち主は、孝宏からは死角となって見えないが、声だけであの人だと解る。

 車体を盾にそっと覗くと、やはりナルミーだ。

 爽やかな笑顔を張り付け、両手を広げ、片方の足を軽く曲げる。お決まりのポーズで立っていた。


「美しいカダン。私の愛しい人。あの日の事を忘れてないなら、そうか姿を見せて。あの時のように微笑んでくれないかい?」 


 ナルミーが並べる、歯の浮くようなセリフに、堪らずカダンが車から顔を覗かせた。


「ありもしない出来事を、でっち上げるのはやめて下さい」


 相変わらず、ナルミーを見るカダンの表情は厳しい。歯を剥き出して低く唸る。


 孝宏が初めてナルミーに会った時の、カダンの笑顔は何だったんだろうかと、首を捻った。


(てっきり、ツンデレってやつだと……違ったか)


 カダンは上半身だけを車から乗り出し、片手を木枠に付いて体重を支えた。

 空いたもう片方の手で、ナルミーに殴りかかったが、それをナルミーは一歩下がり、わずかに体をずらしただけで避けた。

 頭の横でカダンの拳を捕まえると、ナルミーにっこりと微笑んだ。

 口元をカダンの耳に寄せ、彼にだけ聞こえる声で愛を囁く。


「そんなことを言いに来たんですか?俺、今忙しいんですよね」


「そんな顔も素敵だ。君は堪らなく私を駆り立てる」


 ナルミーはカダンが車の中に戻れないよう、捕まえた手を引いて引き寄せた。

 片手で体重を支えていたカダンは、バランスを崩しそうになったが、辛うじて堪える。


「用事がないなら帰ってください。邪魔です……か……」


 ナルミーはカダンの手をさらに引き、顔を限りなく近づけた。

 それまでと同じ調子で、適当にあしらおうとしていたカダンは、腕を取られたまま、唇と唇が重なり、目を見開いたまま言葉を失った。

 喋っている最中に重なった口づけは、ナルミーの侵入を簡単に許してしまう。


 孝宏には始めはカダンも抵抗もなく、と言うか身じろき一つせず、ナルミーにゆだねているように見えた。

 ナルミーも気をよくしてニッと笑い、カダンを両腕で抱きしめる。

 カダンは片手が自由になるも、前のめりの態勢のままで落ちそうになり、咄嗟に頭上の幌を握り込んだ。


 口づけはより深く、より激しくなり、カダンが苦しそうに目を細め、眉間に皺を寄せた。


 絡み合う二人の息遣いにかすかに水音が混じる。


 漏れる吐息がどちらのものとも知れず、孝宏は顔が熱くなるのを感じた。


(ま……まじ?)


 孝宏は運悪く覗いてしまったことを後悔していた。


 知人の情事を覗き見するのは気が引けるし、ましてや未経験の身には刺激も強かったのかもしれない。


 とはいえ、孝宏は目を離すことができなかった。




















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