超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

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夢に咲く花

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 やがて唇が離れた。二人とも軽く息が上がっている。


「それで?何のようです?用事がないなら帰ってくれませんか?邪魔なんですよ」


 カダンがいつもの辛辣な口調で言った。

 ナルミーは一瞬真顔で、それからやや頬を緩め首を傾げた。


「おや?ずいぶんとあっさりした反応だね。もっと嫌がると思っていたよ」


 ナルミーは腕をカダンの腰に回したまま、もう一度口づけようとしたが、今度はカダンが顔を反らし彼を避けた。

 代わりにナルミーは、カダンの首筋にキスをしたが、それをカダンは鼻をで笑い飛ばした。


「野良犬に噛まれた位で騒ぐほど、生娘でもないですよ」


「あれが野良犬に見えたか、彼にも聞いてみるかい?」


 ナルミーが孝宏に送った視線で、カダンは孝宏の存在にようやく気が付いた。

 カダンはとっさに口を手で覆い、掌で唇を何度も拭う。

 驚いて見開かれた、孝宏を凝視する瞳の奥で、感情が揺れている。


「いつからそこに?まさか、全部見て……?」


「覗くつもりはなかったんだけど……声が聞こえて、何だろうなって……」


 孝宏の言い訳する声が震える。孝宏はカダンの顔をまともに見れず顔を反らした。

 熱は引かないし、孝宏の動揺に腹の奥で凶鳥の兆しが息吐いる。

 こんな気まずく思うなら、カダンに気が付かれる前に、さっさと逃げていればよかった。


「邪魔してごめん!」


 孝宏はその場から立ち去った。後ろから引き止めるカダンの声がする。

 御者席側から車の中をチラリと見たが、中には入らなかった。しかし、ここ以外どこにも行く場所もない。

 孝宏は仕方なく近くの木の根元に、車に背を向けて座った。


「タカヒロ、少し良い?さっきのアレ……なんだけどさ」


 背後からカダンが遠慮がちに声を掛けてきた。顔を見れず、孝宏は振り返らずに答えた。


「邪魔して悪かったって。言いふらしたりしないよ、俺……」


「違う、あいつと俺は変な関係じゃなくて、さっきのも無理やりっていうか、不意打ちで」


「そう、それは……本当に酷いな」


 言われて見れば、確かにそうだったかも知れない。だが、それだけでもなかったように思えた。

 孝宏が見た限り、カダンは抵抗なく流れに任せていた。そう思っても、孝宏は口には出さなかった。


「突然のことでびっくりして、逆に何もできなかったんだ。だって、まさかあんなことするとは思わないだろう?」


「確かに、びっくりして固まってしまうかもな……そういう関係じゃないなら」


 そういうこともあるだろう。しかしそう言う割にはずいぶんと余裕があった。

 ナルミーでさえも首を傾げたほどだ。そう思ったが、やはりそれも言わなかった。


「それに嫌がって抵抗して、あいつを喜ばすのも癪だったから。だから俺とあいつは何の関係もなくて、むしろ俺は嫌がっているって……いうか……」


「へえ、わかったよ。結構強引な人なんだな、あの人」


 確かに普段の態度はそのように見える。

 初めはツンデレなんて、特殊な状況かとも思ったが違ったようだ。


「っていうか……そう、俺とあいつは何でないから。さっきのは……」


「だから、関係ないのは解ったよ。何で長々と言い訳してるんだよ」


 孝宏はようやく振り返った。カダンは困惑した様子で、どう言おうか迷っている。


 カダンは考えて口を開いた。


「何でって…誤解してるみたいだったから」


「誤解ね。わかった。カダンとボウクウさんは、キスはするけど、そんな関係じゃないってことか?」


「だからそれが誤解だって言ってるの。あの人ふざけて俺をからかって遊んでるだけ。たちの悪い悪戯だよ」


 孝宏は見たままを言ったつもりだったが、カダンはお気に召さなかったようだ。言い様に力がこもる。


「だから、それは解ったって」


「解ってないから、言ってるじゃないか!」


 カダンの口調は荒げ、孝宏の肩を掴んだ。

 解ってる、解ってないと繰り返しやり取りしていると、孝宏は本当に何が解っていて、何を分かっていないのか混乱してきた。

 カダンは孝宏が何を言ってもお気に召さないらしく、不満を隠そうともしない。

 孝宏もカダンがムキになればなるほど、何かあるのではと勘ぐってしまう。


「ボウクウさんはちゃんとカダンが好きだと思うぞ。ふざけてるとは限らない」


 ふと思って、素直に口に出して言った。根拠がないわけではない。カダンは信じられないと、首を横に振った。


「あの人、たまにカダンを優しい目つきで見てるぜ?カダンがそんなんだから、ああいう態度しか取れないんじゃないか?確かに子供っぽいけど」


 小学生が好きな子にする、思春期のアレだ。

 ただ言葉を交わしたいだけなのに、どうして良いか解らず、つい意地悪を言ってみたり、ちょっかいを出したり。そのくせ見えない所で、感情を露わに見つめたりするものだ。


(そういうの、そのままじゃないか)


 キスまでするのなら、保護者的な感情でもないだろう。

 カダンの機嫌は、いよいよ悪くなっていった。

 表情硬く孝宏を睨みつけ、肩を掴む手に力が入る。指先が皮膚にぐっと食い込んだ。


「痛いっ」


 孝宏が小さな声で訴えると、カダンは力を抜いた。


「それ本気で言ってるの?ありえないね。あいつは珍しい人魚ってだけで、俺をコレクションに加えたがってるだけ。あんなの真剣に考えろって?バカげてる」


「バカげてるって…カダンこそそのバカげた考えをどうにかした方が良いと思う」


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