超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

文字の大きさ
165 / 180
夢に咲く花

91

しおりを挟む
 印象深い場面であえてスローで表現する手法がアニメやドラマなどによくある。孝宏は今まさにそんな、奇妙な感覚を味わっていた。
 孝宏の腕を強く握るカダンの手が緩んだ一瞬の事だった。宙に浮く感覚と共に、見知った二つの影がゆっくり遠ざかっていく。


「ひっ」


 孝宏は身を縮こまらせながらも咄嗟に手を伸ばすが虚しく宙を掻く。見渡す限り広がる闇に既視感を覚え、孝宏は息を飲んだ。


(あ……あぁ……これは嫌だ……)


「助けて父さん!」


 どうしてこの場にいないはずの父親に助けを求めたのか、孝宏自身にもよく分かっていない。ただ親離れできていないとかそういう事ではない。
 助けを求めれば必ず答えてくれる強きヒーローが現実にいなくとも、ヒーローとはそういうもので、孝宏にとってそれは父親そのものだったのだ。

 落ちながら孝宏は、現れない父親にジレンマを感じつつ、己の情けなさを嘆き、今度こそ死ぬのだと漠然と考えてた。
 孝宏には見えていなかったが、この時真下の地上に生きている者はなく、巨大蜘蛛でさえもすべて切り刻まれ微動だにしていなかった。

 そんな中ただ一つだけ動く物がある。一見して人程の大きさの、しかし生き物の動きでなく、表面が波打ったかと思えば瞬きをする間に、建物の二階まで、道を塞ぐほどに大きく膨らんだ。
 孝宏はそれの上に落ちた。その何かは地面に叩きつけられるより遙かに優しく孝宏を受け止めただろうが、孝宏は衝突の衝撃で息を詰まらせた。

 その時だった。またもや頭の中に声が響いた。


──まだ決意は変わらないか?──


 決意とは何の事だろう。

 理解するよりも先に全身に鳥肌が立った。目を開くと、朱色の火の粉が舞い散り、まるで赤い花が舞うがごとく夜空を彩る。


(熱い……)


 火の粉がではない、己の体が熱いのだ。体中がドクドクと脈打ち、熱は次第に痛みへと変わる。意識ははっきりとし、視界が広がった。


「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ…………」


 湧き上がる高揚感から息が荒がる。孝宏は鼻から思いっきり息を吸い込み、口からゆっくりと吐き出した。拳を握り、己を鼓舞すれは、呼吸も気分もいくらか落ち着いた。


「ダイジョーブ、俺はやればできる。できるできる、大丈夫。俺はできる子。頑張れ俺!」


 孝宏は全身全霊で祈った。


(頼む、魔法がかけられている蜘蛛の巣を焼きたい。町中にあるんだ。蜘蛛の巣だけを…………あと蜘蛛も、焼きたい)


 孝宏が両腕を広げたとたん、全身から炎があふれ出した。炎から蝶が生まれ、ヒラリヒラリと火の粉をまき散らしながら飛び回り、次々と蜘蛛の巣を焼いていく。道の上、壁の中、屋根の上。火の粉が降りかかったとたんに全体へ火が回り、あるいは巨大蜘蛛もろとも蜘蛛の巣が火の中に消えていく。


「スッゲー…………やった……」


 ある程度予想はしていたものの、想像していたより蜘蛛の巣はずっと多かった。それらの蜘蛛の巣が燃え、火が広がっていく様子は圧巻の一言だった。

 色とりどりに飾られた電飾の並木通りやクリスマスツリーにも負けない、溢れんばかりのオレンジ色の光が、儚く散る桜のように刹那の時を謳歌して消えていく。
 暗闇でしかなかった世界が火に照らされて露わになっていく光景を、始めは満足げに眺めていた孝宏だったが、次第にその表情を曇らせていった。
 巨大蜘蛛が降ってくる代わりに、今度は火の粉が舞うのだ。兵士たちは驚き、慌てふためいた。例えば火を消そうとしたり、火の粉をまき散らす蝶をやろうと得物を振り回したり。あるいは火から逃げたり。

 多くの者が混乱していたが、冷静な者もいくらかはいた。
 冷静な者たちは、火が巨大蜘蛛と蜘蛛の巣と思しき物以外に燃え移らないのを早い段階で見抜き、ある者は巨大蜘蛛を押さえ、ある者は仲間を落ち着かせようとしている。
 マリーも一瞬は敵の新手かと身構えたが、道路の向こうで火に包まれる孝宏に気が付き声を張り上げた。


「落ち着けぇぇぇぇぇぇ!!」


 この娘は何を言い出したのか。疑心に満ちた目がマリーに集まる。


「この火は人を焼かない!」


 頭上から降り注ぐ火の粉が、高々と突き上げられたマリーの剣に煽られ舞い上がる。


「神は我らを見捨てない!見ろ!蜘蛛の巣は焼き払われた!最早我らの勝利だ!」


 この機を逃すな。マリーに呼応して兵士たちが雄叫びを上げた。
 無事な者など一人もおらず、皆満身創痍の身でありながらも、ようやく終わりの見えた戦いに力を取り戻したかのようだった。
 そこにカダンが加わるとさらに早かった。巨大蜘蛛は次々と倒され、今度は逃げ惑う巨大蜘蛛を兵士たちが追いかけ捕まえる。完全に立場が入れ替わっていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...