英雄の末裔も(語り継がれないけど)英雄

Ariasa(ありあーさ)

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二章 ―少年から青年へ― (読み飛ばしOK)

―賊の襲撃事件― 5

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「今日、舞踏会に出るんだろう? だから新しい服を持ってきた。どうせ全部小さくなっているだろうって、デルトアが新調したんだ」
「デルトアさんが……あの人には頭が上がらないな」
 ドラゴンは微笑をして差し出された箱を受け取り、さっそく開けると中には深い紫色を基調とした衣装一式が入っていて、銀糸で細やかに仕上げられた刺繍が控えめな色合いの生地を華やかに飾り立てていた。それでいて全くいやらしくない上品さがあり、凛とした雰囲気を持つドラゴンによく似合いそうな衣装だった。
「さすがデルトアさん。センスが良すぎる」
「だね。ほら、早く着替えて見せてよ! それに、もうそろそろ舞踏会の時間も迫ってきてるし」
 リオの言葉にドラゴンはバッと時計を見ると、サッと顔色を変えて急いで服を着替え始めた。その間リオはドラゴンの部屋を物色し始め、テーブルの引き出しから綺麗に包まれた箱を見つけるとドラゴンを振り返った。
「ドラゴン、これは何? 好きな女でもできたの?」
「女にうつつを抜かすほど俺は暇じゃない」
「うわっ、堅物~」
「軽薄であるよりは堅物の方がいい。それはレイドに贈ろうと思っていたブレスレットだ。誕生日の明日、届けに行こうと思っていた」
 髪を香油で整えてぴっちりとオールバックにすると、手に付いた油を拭き取ってから立ち上がり、最後に上品な刺繍が施されている上着を羽織って姿見で全身を確認した。
「おー、似合ってるな!」
「そうだな。しっくりくる」
「じゃあ、行くぞ!」
「ああ…って、おい、手を離せ! 男同士で手をつなぐ趣味はない!」
 リオはニッと笑うとガシッとドラゴンの手を掴んで相変わらず唐突に走り出し、ドラゴンは遅れることなく走り出したが、すぐに手を振りほどこうと繋がれている手を引いた。しかし、どういう訳かびくともせず、離してくれそうになかった。
「ハハッ、そんなに照れるなよ~。小さい頃は毎日のように手を繋いでたじゃないか~」
「照れてない! 五、六歳の子供が手を繋いでいるのと、十四、五の男が手を繋いでいるのでは意味合いが変わってくるんだよ! いいから離せ!」
「つれないなぁ~。せっかく仲直りしたのによ~」
 声はいかにも残念そうな声だが、顔は明らかにからかっている時の表情で、ニヤニヤと楽しそうに笑っていた。それでも本気でドラゴンが嫌そうな顔をすると「嘘ウソ!」と言ってパッと手を離した。
「ったく、調子のよさは相変わらずだな」
 あきれた声でそう言いつつも、やはり気心知れた仲であることには変わりないため、表情はすぐに柔らかいものに戻り、微笑んだ。
 そして二人は城まで走って行ったのだが、さすが普段から体を動かしている二人である。それなりの距離があったが、呼吸一つ乱さず涼しい顔で城の扉をくぐり、汗もかかないように調節して走っていたのか全く汗をかいていなかった。そしてリオは王族らしく堂々と、しかし高圧的ではない雰囲気をまとって廊下を進み、ドラゴンはその斜め後ろを付き人としての上品さと教養をにじませて、貴族たちに気後れすることなく歩を進めた。その様子はドラゴンが平民であったことを忘れさせるような佇まいだった。
 そして会場に着くと、国内外の王侯貴族たちが王に挨拶をしているところで、王やレイロンドがいるところには人だかりができていた。
「じゃ、俺も挨拶に行かなきゃいけないからまた後でね~」
「あぁ、また後で」
 ひらひらと手を振って群衆の中に入っていくリオを見送り、ドラゴンも王とレイロンドに挨拶をしに行くべく会場の奥に進んだ。
「ドラゴン、リオ殿下からちゃんと受け取れたんだな」
 すると、するりと人の間を縫うようにこちらに来たデルトアが表情を緩めてそう声をかけてきて、ドラゴンも笑顔で「はい」と頷き、デルトアに頭を下げた。
「立派な衣装を仕立ててくれてありがとうございます。おかげで助かりました」
「礼には及ばない。俺はお前の後見人だからな。それにしても、近衛騎士団に入ってから随分と顔つきが変わったな。とてもいい表情をしている」
「そうですか? 自分では分からないものですね」
 首をかしげながらそう言うと、デルトアはポンポンとドラゴンの肩を叩いた。
「そういうもんだろう。訓練で忙しいだろうが、たまには屋敷に顔を出せ。今回の衣装もドラゴンと似た背格好の使用人が居たからサイズを計れたが、本当はちゃんと計りたかったんだぞ。あと、ちゃんと両親に手紙を送っているか?」
「すみません。では、エストさんのお腹の赤ちゃんも気になりますし、近いうちに顔を出しますね。あと両親にも、近況を報告する手紙を毎月送っているので大丈夫です」
「あぁ、エストのお腹も大きくなってきて、最近声をかけると反応してくれるようになったんだ。可愛いぞ」
「もうそんなに大きくなったんですか? 以前伺った時はまだお腹は目立っていませんでしたよね」
「そうだったか」
「デルトア、また親バカになっているのか?」
 挨拶攻めの区切りが一度ついたのか、王とレイロンドがドラゴンとデルトアのところに来て、笑顔を向けた。
「陛下にだけは親バカと言われたくありません」
「ははっ、すまぬ。ドラゴン、来てくれたんだね。嬉しいよ」
「ドラゴン、来てくれてありがとう」
「陛下、レイロンド殿下、パーティーにご招待いただき、ありがとうございます。レイロンド殿下、お誕生日おめでとうございます。ご健康とご多幸を心よりお祈りいたします」
「ありがとう。でもドラゴン、そんなに堅苦しい口上は不要だよ。私たちは友達だろう? …それとも、あの時のこと、まだ怒っているのかい?」
 レイロンドが申し訳なさそうな表情でそう言うと、王が「あの時のこと?」と首を傾げた。しかし、王の問いには答えず、ドラゴンはレイロンドに笑顔を向けた。
「レイド、俺はもう気にしていない。そんな顔をするな。一応口上は述べなければいけないだろう? 誕生日おめでとう、レイド」
 砕けた態度で改めて祝いの言葉を贈るドラゴンに、レイロンドはホッとしたように表情を緩めて「ありがとう、ドラゴン」と改めて礼を言った。
「それで? レイドとドラゴンの間で何かあったのかい?」
「少し、喧嘩をしてしまって…。二ヶ月話ができなかったんです」
「そうだったのか。仲直りできたようで良かったな」
「はい」
 気に病んでいたことが解決して清々しい表情で頷くレイロンドに、ドラゴンも二人に拒絶された悲しみと会いに行けなかった後ろめたさが消えて、晴れやかな気持ちになるのを感じた。
「じゃあ、ドラゴンも今夜の舞踏会を楽しんでね」
「あー…あぁ、努力する」
 ドラゴンの煮え切らない返事に、レイロンドと王、さらにデルトアも苦笑を浮かべた。
「ご令嬢の相手に忙しくて一晩中踊り通しかもな」
「言わないでくださいよ……。デルトアさん」
 パーティーが始まればそこにいるだけで寄って来るであろう大勢の令嬢達の迫力を思い出し、ドラゴンが大きなため息をつくと後ろからバンッと思い切り背中を叩かれた。
「なに大きなため息をついてるんだよ~! たくさんの令嬢から声をかけられるなんて、羨ましい限りだぞ!」
「リオ…思い切り背中を叩くな。痛い」
「ハハッ、すまん、すまん。でもさ~、お前モテるのに全然女に関心を寄せないから勿体ないじゃんかよ。まあ、誰も側に置かないから令嬢たちからは「ストイックで素敵」ってどんどんお前の株が上がっていくんだけどな~。それで、さらに人気が高まっていく…。羨ましい循環だよな!」
 肩を組んでテンション高めに羨ましがるリオの情報に、ドラゴンは嫌そうな表情になり「俺はそんなことを望んでいないんだが」と、本気で勘弁してくれと言わんばかりの声で呟いた。
「リオの言うとおりだ。羨ましい奴め」
 話していると、反対側からもう一人腕を絡めてくる気品と親しみがにじむ男性が現れ、その男性が現れるとドラゴンはまた面倒くさそうな表情を遠慮なく浮かべていた。
「ロヘリオ様……」
「俺もいるよ~」
 ひょこっとドラゴンの前に現れたいたずらっぽい表情を浮かべる、ロヘリオと呼ばれた男性によく似た男性がニッと笑うと、面倒くささを通り越して疲れた表情を浮かべた。
「ロライト様もいらしていたんですね……」
「当たり前だろ~、従兄弟の生誕祭なんだからな」
 『ロライト・バルドル・ゴルファット』と『ロヘリオ・アルフ・ゴルファット』はレイロンドよりも三つ年上の二十四歳で、王の兄の双子の息子達である。しかし王の兄が早々に王位継承を拒否して継承権を前・人間王に返上し、辺境の地を治めるゴルファット伯爵家の令嬢と駆け落ちをして婿入りしたため、全王家の血は引くものの、王子ではない従兄弟だった。
 双子の兄、ロライトが綺麗に整えているドラゴンの髪をわしわしと撫でてぐちゃぐちゃにすると、王とレイロンドの方を向いて途端に上品な令息へと態度を変えた。
「お久しぶりです、叔父上。このたびはご招待いただきありがとうございます。あいにく父は職務が忙しく出席できませんでしたが、父もレイロンド様の二十一歳のお誕生日を心より喜んでおり、祝いの品を預かってここに馳せ参じました。後ほど、私達からの祝いの品とともにお部屋に届けさせますので、ぜひご覧ください」
「私達がゴルファット家を代表いたしまして、レイロンド様のご生誕日をお祝いし、心よりご子息のご健康とご多幸をお祈りいたしますと同時に、レイロンド様に素晴らしき一年が訪れることを願います」
 ロヘリオがロライトの言葉を受け継ぐように祝いの言葉を紡ぐと、二人そろって頭を下げ、王とレイロンドは笑顔で礼の言葉を返した。
「楽にしなさい。わざわざ遠くからレイロンドの誕生日を祝いに来てくれてありがとう。仕事が忙しいようだが、兄上はご健在か?」
「はい。忙しい忙しいと言いながらも仕事にやりがいを感じているのか、生き生きと毎日を過ごしています。私に家督を譲ってくれるのも当分先になりそうです」
 軽く肩をすくめながら笑顔でそう言うロライトに、王も変わらない兄の様子に思わず笑みがこぼれた。
「ハハッ、兄上の勤勉ぶりは私も見習わなければならないな」
「本当ですよ」
 王の言葉にデルトアがすかさず同意して、視線でものすごく大量の苦情を突き刺してくるデルトアに、王は笑顔を引きつらせてデルトアからそっと目をそらした。
「さて、堅苦しい挨拶はこれまでにしてっと、パーティーが始まるまでドラゴンは暇だろう? 俺達と一緒にご令嬢たちと談笑しようぜ」
「ドラゴンがいたら沢山のご令嬢が集まってくるからな。一緒にいようぜ」
 くるっとドラゴンの方を向き、先ほどの上品さはどこへ行ったのやら、遊び慣れたチャラ男と変貌してドラゴンに絡んだ。
「大変申し訳ありませんが、俺もお世話になっている方々に挨拶をしなければならないので──」
「はーいはい、そんな分かりやすい断り文句で俺達が引き下がると思ってるの~? 女の子達と遊ぶ楽しさ、教えてやるよ」
 しかし断ろうとしたドラゴンの言葉を途中でぶった切り、双子はドラゴンを挟んで腕をそれぞれ掴むと「では、お借りしま~す」と言ってドラゴンを拉致し、壁の花となっている令嬢達に声をかけ始めた。ドラゴンも途中で諦めたのか、その顔に鉄壁の笑顔営業スマイルを張り付けて双子の後ろに待機し、声をかけてきた令嬢達の相手をし始めた。
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