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二章 ―少年から青年へ― (読み飛ばしOK)
―ドラゴンの初恋― 3 ※暴力表現あり
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今までドラゴンは見習いとして、近衛騎士団長に付いて訓練をしていたが、正式に近衛騎士となると若い近衛騎士が沢山所属している『第四小隊』に正式に配属された。
翌日、ドラゴンはいつもと変わらず早朝に起きて訓練場で自主的に訓練をし、シャワー室で汗を流してから朝食を食べ、近衛騎士団の訓練に参加した。
いつもと変わらないドラゴンに、少しは高揚したドラゴンを見られるのではと思っていた周囲は、苦笑を漏らしつつもドラゴンらしいと、その生真面目さに感心していた。
そうしていつもと変わらない一日が終わりを迎えようとしている夕方。自主訓練として、巡視がてら街中を走っていたドラゴンは裏路地から女性のくぐもった悲鳴が聞こえてきて、すかさず悲鳴が聞こえてきた裏路地に向かって走った。するとすぐに五人の男に押さえつけられている女性を発見し、ドラゴンはガラの悪い男達に何のためらいもなく声をかけた。
「そこで何をしている」
「あぁ? なんだ、兄ちゃん」
「何見てんだよ」
「今のうちに逃げねぇと、痛い目を見る事になるぜ?」
五人のうち三人の男がドラゴンを取り囲んで威嚇するように睨みつけるが、睨まれている当の本人は全くひるんだ様子もなく無表情で男達を見据えてもう一度口を開いた。
「何をしているのかを聞いている。答えろ」
「はっ、生意気な兄ちゃんだな?」
「痛い目に遭わねぇと分からねぇのか?」
「俺らの忠告を聞かない兄ちゃんが悪いんだ、ぜっ!」
男の一人がいきなりドラゴンに殴りかかったが、ドラゴンは難なくその攻撃をかわして冷めた目で男達を見ると、男達はそのドラゴンの冷めた視線が気に食わないのか次々と殴りかかってきた。しかし、ドラゴンはそれらの攻撃全てを淡々とかわし、しばらくするとあからさまにがっかりしたように大きなため息をついた。
「……弱い」
「んだと! ふざけんじゃねぇぞ! ちょこまかと逃げてばかりいて、本当は怖いんじゃねぇか!?」
ぼそりと呟いたその声が聞こえたのか、怒りに声を荒げてドラゴンを煽ろうとしたが、ドラゴンは特に何かを感じた様子はなく、逆に軽く首を傾げて本気で考え始めた。
「俺が、恐怖を感じる? ……しばらく恐怖を感じたことはないな」
「なめやがって!」
しかしドラゴンのその態度に男達はさらに逆上し、三人は隠し持っていたナイフを一斉に抜いた。その瞬間ドラゴンの表情が変わり、その瞳に真剣な色が宿った。
「……刃物を抜いたということは、命を懸けるということでいいな?」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ! 死ね!」
そう言ってナイフを振り上げた男の攻撃をドラゴンは護身用として常に持ち歩いているダガーで受け止め、空いている手で男の頬を殴り飛ばすと、背後からドラゴンを刺そうとしていた男の側頭部を回し蹴りで蹴り飛ばし、最後の一人は攻撃する暇もなくドラゴンにみぞおちを殴られてその場にうずくまった。
「おい! こっちを向け!」
その言葉にドラゴンは振り返ると、残り二人の男が取り押さえていた女性にナイフを向けてニマニマと嫌な笑いを浮かべていた。
「……で?」
しかしこんな状況であるにも関わらずドラゴンは表情を一切変えることなくその男達を見据えていて、全く危機的な状況に陥っているようには見えなかった。
悔しがるドラゴンを想像していた二人は、拍子抜けするほどあっさりしているドラゴンに戸惑い、用意していた言葉を言うタイミングを失って顔を見合わせた。
しかしその隙を突かないドラゴンではない。その瞬間、ドラゴンは瞬時に間合いを詰めて女性に向けられているナイフを素手で掴んでそのまま男を殴り飛ばすと、女性を背に庇ってもう一人の男も応戦する前に蹴り飛ばして壁に叩きつけた。そして立ち上がる男達にドラゴンが鋭い視線を送ってダガーを構えると、男達はその視線と気迫に気圧されて攻撃する意思を失った。
「くっそ! 覚えてろ!」
戦意を失い、勝ち目はないと踏んだ男達はドラゴンに攻撃をされたところを押さえながら、去り際の決まり文句を言い残して逃げていった。それを見送ったドラゴンはダガーを鞘に収め、今しがた救出した女性の安否を確認しようと、肩を抱いてうずくまる女性を見た。しかしその女性を見た瞬間、ドラゴンはドキリとひときわ強く心臓が脈打ち、思わず女性から目をそらしていた。
女性は男達の手によって服もスカートも破かれてあられもない姿となっており、その何とも言えない色気が漂う姿にドラゴンは今まで感じたことのない欲が湧き上がってくるのを感じた。しかし、すかさず戒めであるレイロンドの死を思い出してその感情をやり過ごし、再び女性の方を向いてその場に跪いた。
「もう、大丈夫ですよ。安心してください」
しかし、ドラゴンが声をかけた瞬間女性は「ひっ」と小さく悲鳴を上げて怯え切った目でドラゴンを見た。そんな女性の容姿をを見て、ドラゴンはまたドキリと心臓が高鳴り、心の中であの男達がこの女性を自分のものにしたいと思う理由がなんとなく分かったような気がした。
綺麗なストレートの髪は土で汚れてもなお綺麗だと思える金髪で、怯えるその瞳は宝石のように美しい緑色。均衡の取れた綺麗な顔立ちは、どんな表情を浮かべていたとしても芸術品のように美しいだろうと思えた。
「俺は、あなたに危害を与えるつもりはありません。……走った後なので汗で濡れていますが、もしよかったら俺のシャツを着てください。それでは…帰るに帰れないでしょう?」
ドラゴンは女性から目をそらしつつ制服の黒いシャツを脱いで女性に渡すと、女性はドラゴンを少し警戒した様子で観察しつつも恐る恐るシャツを受け取って破れて機能をはたしていない服の上からそのシャツを羽織り、きっちりと上まで前を閉めた。
「…その、ありがとうございます……。さ、寒くはありませんか?」
女性はタンクトップにズボンという冬の寒い時期にする格好ではないドラゴンの姿に思わず心配の声をかけると、ドラゴンは表情を変えずに頷いた。
「民を守ることが俺の使命です。この身も、その服も、身につけた力も、陛下が愛する民のものです。その民を守るためであればこの程度の寒さ、どうってことありません。それより身体は大丈夫ですか? どこか、痛むところはありませんか?」
「はい、お陰さまで大丈夫です。それより、貴方の手が…!」
服を着たことで冷静さを少し取り戻したのか、女性はポタポタとドラゴンの手から滴る赤い雫を見て顔を青ざめさせた。
「あぁ…この程度、問題ありませんよ」
しかしドラゴンは全く気にした様子もなく、ズボンのポケットからハンカチを取り出して手早く傷口にハンカチを巻き、簡単な応急措置をした。そしてもう一度女性の方を向いて事務的な声で確認をした。
「家はここから近いのですか? もし遠いようなら送っていきますよ」
「あ、えっと…だ、大丈夫です。一人で帰れます」
「そうですか。では、気を付けて帰ってください。もう日も沈むので、なるべく大通りに近い道を進むといいでしょう。では」
そう言って立ち上がり女性から背を向けると、クンッとズボンの裾が引っ張られ、ドラゴンは歩みだそうとした足を止めた。
「何か?」
「あ…いえ、その……すみません、腰が抜けてしまって……」
何の感情も映し出さないドラゴンの瞳に一瞬ひるんだ女性だったが恥ずかしそうにそう言うと、ドラゴンの表情に微苦笑が浮かび、もう一度跪くと「失礼します」と言って女性の膝裏と背中に腕を回して軽々と抱き上げた。
「ひゃっ」
「…怖いですか?」
「い、いえ…あ、えっと…少し……。こんなに高い視線になるのは初めてなので」
「大丈夫です。あなたのことは落としませんから。安心して俺に身を任せてください。家はどちらですか?」
「あ、えっと…あっちです」
女性は大通りとは逆の方向を指差し、ドラゴンは内心寂れた所へ女性一人で帰そうとした事を反省した。しかしドラゴンは考えている事を一切表情に出すことなく女性が指さした方向に歩きだし、怖がらせないように少しゆったりとした足取りで道を進んだ。
「…その、本当に寒くないですか?」
「寒いか寒くないかという二択なら、寒いです。ですが、この程度で音を上げるようでは近衛騎士は勤まりません。だから心配は無用です。…しかし、貴女の心配してくださる心はありがたく受け取っておきます」
この時、ドラゴン自身は気付いていないがレイロンドが亡くなる前のような優しい笑顔を浮かべていて、その笑顔を間近で見た女性は顔が真っ赤になるのを感じて、思わずドラゴンから目をそらしていた。
「? 顔が赤いですね。熱が出てきましたか?」
「い、いえ、大丈夫です。…あ、ここまでで大丈夫です。多分、もう立てますし、家もすぐそこですから」
「そうですか。分かりました」
ドラゴンはそう言うとゆっくりと女性を地面に下ろして、いつでも支えられるように構えたが、女性は自分で言うようにちゃんと立ち、ゆっくりだが一歩を踏み出してドラゴンを振り返った。
「助けてくれて、そして送ってくれてありがとうございました。この服はちゃんと洗って返しますね」
「いえ…そんな事をしなくても──」
いい、と言う前に女性はドラゴンに背を向けてゆっくりと歩きだし、その背中から否定の言葉は聞かないという意地のようなものを感じて、ドラゴンは苦笑を漏らし、代わりにこう言った。
「では、あなたを待っています」
その言葉に女性は振り返って笑顔を向け、次にハッとした表情を浮かべた。
「あ、あの、お名前を聞いてもいいですか? 私はアイネ・ハヴァロンといいます」
「俺は……ドラゴン」
大人として成長したドラゴンにとって「ロディアノス」の姓は利用される可能性のあるものという認識となり、街の人に名前を聞かれてもフルネームで答えないようにしていた。
「ドラゴンさん、ですね。じゃあ、必ずこれを返しに行くので待っていて下さいね」
アイネと名乗った女性は太陽のような笑顔でそう言うと手を振って家の方へ歩いて行った。ドラゴンは少し見送るとアイネに背を向けて、元来た道を戻って行った。
「お疲れ様です」
「おー、お疲れさ…ん?」
「相変わらずストイックだ…な?」
城に戻り、門番にそう声をかけて通っていったドラゴンの表情が、あまりにも優しいことに気付いた門番の二人が思わず二度見してしまったほどで、そんな門番二人の様子を気にした様子もなくドラゴンが城の中に入っていくと、残された門番二人は互いに顔を見合わせた。
「……あのドラゴンがあんな表情をするなんて…」
「レイロンド殿下が亡くなって以来じゃないか?」
「今夜は赤飯だな」
「セキハン? あぁ、そういやお前はカルヴィヴァ山脈の向こうの人だったな。仕事が終わったら、セキハンをおごってくれよな」
「おいしい赤飯を出してくれる店に連れて行ってやるよ」
二人はドラゴンを見送りながらお祝いの名目で飲みに行く約束を交わしたのだった。
翌日、ドラゴンはいつもと変わらず早朝に起きて訓練場で自主的に訓練をし、シャワー室で汗を流してから朝食を食べ、近衛騎士団の訓練に参加した。
いつもと変わらないドラゴンに、少しは高揚したドラゴンを見られるのではと思っていた周囲は、苦笑を漏らしつつもドラゴンらしいと、その生真面目さに感心していた。
そうしていつもと変わらない一日が終わりを迎えようとしている夕方。自主訓練として、巡視がてら街中を走っていたドラゴンは裏路地から女性のくぐもった悲鳴が聞こえてきて、すかさず悲鳴が聞こえてきた裏路地に向かって走った。するとすぐに五人の男に押さえつけられている女性を発見し、ドラゴンはガラの悪い男達に何のためらいもなく声をかけた。
「そこで何をしている」
「あぁ? なんだ、兄ちゃん」
「何見てんだよ」
「今のうちに逃げねぇと、痛い目を見る事になるぜ?」
五人のうち三人の男がドラゴンを取り囲んで威嚇するように睨みつけるが、睨まれている当の本人は全くひるんだ様子もなく無表情で男達を見据えてもう一度口を開いた。
「何をしているのかを聞いている。答えろ」
「はっ、生意気な兄ちゃんだな?」
「痛い目に遭わねぇと分からねぇのか?」
「俺らの忠告を聞かない兄ちゃんが悪いんだ、ぜっ!」
男の一人がいきなりドラゴンに殴りかかったが、ドラゴンは難なくその攻撃をかわして冷めた目で男達を見ると、男達はそのドラゴンの冷めた視線が気に食わないのか次々と殴りかかってきた。しかし、ドラゴンはそれらの攻撃全てを淡々とかわし、しばらくするとあからさまにがっかりしたように大きなため息をついた。
「……弱い」
「んだと! ふざけんじゃねぇぞ! ちょこまかと逃げてばかりいて、本当は怖いんじゃねぇか!?」
ぼそりと呟いたその声が聞こえたのか、怒りに声を荒げてドラゴンを煽ろうとしたが、ドラゴンは特に何かを感じた様子はなく、逆に軽く首を傾げて本気で考え始めた。
「俺が、恐怖を感じる? ……しばらく恐怖を感じたことはないな」
「なめやがって!」
しかしドラゴンのその態度に男達はさらに逆上し、三人は隠し持っていたナイフを一斉に抜いた。その瞬間ドラゴンの表情が変わり、その瞳に真剣な色が宿った。
「……刃物を抜いたということは、命を懸けるということでいいな?」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ! 死ね!」
そう言ってナイフを振り上げた男の攻撃をドラゴンは護身用として常に持ち歩いているダガーで受け止め、空いている手で男の頬を殴り飛ばすと、背後からドラゴンを刺そうとしていた男の側頭部を回し蹴りで蹴り飛ばし、最後の一人は攻撃する暇もなくドラゴンにみぞおちを殴られてその場にうずくまった。
「おい! こっちを向け!」
その言葉にドラゴンは振り返ると、残り二人の男が取り押さえていた女性にナイフを向けてニマニマと嫌な笑いを浮かべていた。
「……で?」
しかしこんな状況であるにも関わらずドラゴンは表情を一切変えることなくその男達を見据えていて、全く危機的な状況に陥っているようには見えなかった。
悔しがるドラゴンを想像していた二人は、拍子抜けするほどあっさりしているドラゴンに戸惑い、用意していた言葉を言うタイミングを失って顔を見合わせた。
しかしその隙を突かないドラゴンではない。その瞬間、ドラゴンは瞬時に間合いを詰めて女性に向けられているナイフを素手で掴んでそのまま男を殴り飛ばすと、女性を背に庇ってもう一人の男も応戦する前に蹴り飛ばして壁に叩きつけた。そして立ち上がる男達にドラゴンが鋭い視線を送ってダガーを構えると、男達はその視線と気迫に気圧されて攻撃する意思を失った。
「くっそ! 覚えてろ!」
戦意を失い、勝ち目はないと踏んだ男達はドラゴンに攻撃をされたところを押さえながら、去り際の決まり文句を言い残して逃げていった。それを見送ったドラゴンはダガーを鞘に収め、今しがた救出した女性の安否を確認しようと、肩を抱いてうずくまる女性を見た。しかしその女性を見た瞬間、ドラゴンはドキリとひときわ強く心臓が脈打ち、思わず女性から目をそらしていた。
女性は男達の手によって服もスカートも破かれてあられもない姿となっており、その何とも言えない色気が漂う姿にドラゴンは今まで感じたことのない欲が湧き上がってくるのを感じた。しかし、すかさず戒めであるレイロンドの死を思い出してその感情をやり過ごし、再び女性の方を向いてその場に跪いた。
「もう、大丈夫ですよ。安心してください」
しかし、ドラゴンが声をかけた瞬間女性は「ひっ」と小さく悲鳴を上げて怯え切った目でドラゴンを見た。そんな女性の容姿をを見て、ドラゴンはまたドキリと心臓が高鳴り、心の中であの男達がこの女性を自分のものにしたいと思う理由がなんとなく分かったような気がした。
綺麗なストレートの髪は土で汚れてもなお綺麗だと思える金髪で、怯えるその瞳は宝石のように美しい緑色。均衡の取れた綺麗な顔立ちは、どんな表情を浮かべていたとしても芸術品のように美しいだろうと思えた。
「俺は、あなたに危害を与えるつもりはありません。……走った後なので汗で濡れていますが、もしよかったら俺のシャツを着てください。それでは…帰るに帰れないでしょう?」
ドラゴンは女性から目をそらしつつ制服の黒いシャツを脱いで女性に渡すと、女性はドラゴンを少し警戒した様子で観察しつつも恐る恐るシャツを受け取って破れて機能をはたしていない服の上からそのシャツを羽織り、きっちりと上まで前を閉めた。
「…その、ありがとうございます……。さ、寒くはありませんか?」
女性はタンクトップにズボンという冬の寒い時期にする格好ではないドラゴンの姿に思わず心配の声をかけると、ドラゴンは表情を変えずに頷いた。
「民を守ることが俺の使命です。この身も、その服も、身につけた力も、陛下が愛する民のものです。その民を守るためであればこの程度の寒さ、どうってことありません。それより身体は大丈夫ですか? どこか、痛むところはありませんか?」
「はい、お陰さまで大丈夫です。それより、貴方の手が…!」
服を着たことで冷静さを少し取り戻したのか、女性はポタポタとドラゴンの手から滴る赤い雫を見て顔を青ざめさせた。
「あぁ…この程度、問題ありませんよ」
しかしドラゴンは全く気にした様子もなく、ズボンのポケットからハンカチを取り出して手早く傷口にハンカチを巻き、簡単な応急措置をした。そしてもう一度女性の方を向いて事務的な声で確認をした。
「家はここから近いのですか? もし遠いようなら送っていきますよ」
「あ、えっと…だ、大丈夫です。一人で帰れます」
「そうですか。では、気を付けて帰ってください。もう日も沈むので、なるべく大通りに近い道を進むといいでしょう。では」
そう言って立ち上がり女性から背を向けると、クンッとズボンの裾が引っ張られ、ドラゴンは歩みだそうとした足を止めた。
「何か?」
「あ…いえ、その……すみません、腰が抜けてしまって……」
何の感情も映し出さないドラゴンの瞳に一瞬ひるんだ女性だったが恥ずかしそうにそう言うと、ドラゴンの表情に微苦笑が浮かび、もう一度跪くと「失礼します」と言って女性の膝裏と背中に腕を回して軽々と抱き上げた。
「ひゃっ」
「…怖いですか?」
「い、いえ…あ、えっと…少し……。こんなに高い視線になるのは初めてなので」
「大丈夫です。あなたのことは落としませんから。安心して俺に身を任せてください。家はどちらですか?」
「あ、えっと…あっちです」
女性は大通りとは逆の方向を指差し、ドラゴンは内心寂れた所へ女性一人で帰そうとした事を反省した。しかしドラゴンは考えている事を一切表情に出すことなく女性が指さした方向に歩きだし、怖がらせないように少しゆったりとした足取りで道を進んだ。
「…その、本当に寒くないですか?」
「寒いか寒くないかという二択なら、寒いです。ですが、この程度で音を上げるようでは近衛騎士は勤まりません。だから心配は無用です。…しかし、貴女の心配してくださる心はありがたく受け取っておきます」
この時、ドラゴン自身は気付いていないがレイロンドが亡くなる前のような優しい笑顔を浮かべていて、その笑顔を間近で見た女性は顔が真っ赤になるのを感じて、思わずドラゴンから目をそらしていた。
「? 顔が赤いですね。熱が出てきましたか?」
「い、いえ、大丈夫です。…あ、ここまでで大丈夫です。多分、もう立てますし、家もすぐそこですから」
「そうですか。分かりました」
ドラゴンはそう言うとゆっくりと女性を地面に下ろして、いつでも支えられるように構えたが、女性は自分で言うようにちゃんと立ち、ゆっくりだが一歩を踏み出してドラゴンを振り返った。
「助けてくれて、そして送ってくれてありがとうございました。この服はちゃんと洗って返しますね」
「いえ…そんな事をしなくても──」
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「では、あなたを待っています」
その言葉に女性は振り返って笑顔を向け、次にハッとした表情を浮かべた。
「あ、あの、お名前を聞いてもいいですか? 私はアイネ・ハヴァロンといいます」
「俺は……ドラゴン」
大人として成長したドラゴンにとって「ロディアノス」の姓は利用される可能性のあるものという認識となり、街の人に名前を聞かれてもフルネームで答えないようにしていた。
「ドラゴンさん、ですね。じゃあ、必ずこれを返しに行くので待っていて下さいね」
アイネと名乗った女性は太陽のような笑顔でそう言うと手を振って家の方へ歩いて行った。ドラゴンは少し見送るとアイネに背を向けて、元来た道を戻って行った。
「お疲れ様です」
「おー、お疲れさ…ん?」
「相変わらずストイックだ…な?」
城に戻り、門番にそう声をかけて通っていったドラゴンの表情が、あまりにも優しいことに気付いた門番の二人が思わず二度見してしまったほどで、そんな門番二人の様子を気にした様子もなくドラゴンが城の中に入っていくと、残された門番二人は互いに顔を見合わせた。
「……あのドラゴンがあんな表情をするなんて…」
「レイロンド殿下が亡くなって以来じゃないか?」
「今夜は赤飯だな」
「セキハン? あぁ、そういやお前はカルヴィヴァ山脈の向こうの人だったな。仕事が終わったら、セキハンをおごってくれよな」
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