英雄の末裔も(語り継がれないけど)英雄

Ariasa(ありあーさ)

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三章 ―旅立ちの時― (ここからが本番)

―炎童の末裔― 1

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【某日・ゼレス共和国 地方都市ハーレス】

 ぜレス共和国はカルヴィヴァ山脈の向こうにある。その国は手先の器用な職人が多く住む国で、堅実、完璧主義、礼儀正しい、という国民性をもつ国だった。
 そして国の中でも指折りの職人が揃っているのが地方都市であるハーレス。
 ハーレスの町を歩けばいたるところに工房や鍛冶屋が軒を構えてモノつくり、それを売っていた。
 そのハーレスの地を代々治めている者が、スカイラインの英雄の末裔である『炎童えんどう家』だった。
 炎童の家の者は、人間には持ち得ない魔力を持ち、それを力として扱うことの出来る、稀有な存在だった。ただ魔人とは違い、魔法を使うことは出来ない。炎童家が使う力は『造る』『直す』『分解』する力であり、魔人の『創る』『癒す』『破壊』の力とは全く別物で、言うなれば力の劣化による力であった。
 それでも、炎童の職人が作るモノはどこの職人も真似できない唯一無二のモノばかりで、炎童家の職人はハーレスいちの職人と誰もが口を揃えて言った。
 その炎童家の次期当主、炎童 翔陽しょうようは特に才能溢れる人物だった。翔陽は六歳の時に力を操る事が出来るようになり、八歳の時には王侯貴族にその才能が認められて、作品を納品するようになった。
 炎童家きっての天才。英雄、翔飛の再来。彼はそうもてはやされて生きてきた。しかし、翔陽は一切鼻にかけることなく、謙虚に技を磨き、ものづくりを楽しんでいた。

 そんな彼はこの日、着流しをゆったりと着て、大きな風呂敷に包まれた物を背負いながらのんびりと町中を歩いていた。
「あら、翔陽くん。大きな荷物ね~。またあそこからの修理品かい?」
「こんにちは~。はい、今朝がた修理が終わったので、今から届けに行ってきます」
「そうだったんだね。気を付けて行ってらっしゃい」
「はい、ありがとうございます。行ってきます」
 翔陽は穏やかに微笑んで、荷物の位置を軽く直すと再びのんびりと歩き出す。その後もあちこちから声がかかり、翔陽は声をかけてきた一人一人と丁寧に言葉を交わしながら目的地に向かった。
「お疲れ様。大地だいち草子そうしはいる?」
 ゆったりと歩いて着いた場所は町を守る警邏隊の詰所で、翔陽は穏やかな気持ちになるような笑顔で見張り番に問いかけた。
「あ、翔陽さん、お疲れ様です! 隊長と副隊長は今、鍛練場で指導をしているはずですよ」
「ありがとう。修理品を届けに来たんだけど、通ってもいいかな?」
「はい、もちろんです!」
 笑顔で敬礼をして道をあける警邏隊員に、翔陽は笑顔で礼を言って中に入った。
 中に入ると至るところから声がかかり、すぐに持っていた荷物を受け取って貰えた。
「あ、兄ちゃん! ここにいたんだね!」
 荷物を渡したあと訓練場に向かっていると、燃えるような赤い髪を持つ女性が訓練場の方から歩いてきた。汗をかいている事から、今さっきまで体を動かしていたという事が伺えた。
「あんこ。訓練はもう終わったのかい?」
「ううん、まだ終わってないよ。あたしは兄ちゃんが来たって聞いたから抜けてきただけ~」
 えへへと笑う女性は翔陽よりも五つ年下の妹、炎童あんこ。天真爛漫な性格で、職人の道ではなく街の治安を守る武の道に進んだ女性だった。
「ダメだよ、あんこ。ちゃんと訓練に最後まで参加しないと」
「ごめんなさぁい。でも、もうすぐで終わるし今は大地と草子の模擬戦だからつまらないんだもん」
「人の技を見て、学ぶことも必要だよ?」
 唇を尖らせてそう言うあんこに、翔陽は苦笑をしながら指摘しつつもポンポンと頭を撫でて一緒に訓練場の方へ向かった。
 訓練場に近づくにつれて見学をしている隊員たちの声援がだんだん大きくなっていき、到着する頃には鼓膜が破れるのではないかという声量で中央で戦っている二人の男を応援していた。
「相変わらず、ここは賑やかだなぁ。…あ、もう決着がつく」
 熱狂的な場に似つかないのほほんとした口調で眺め、一瞬体勢を崩した細身の男を見た瞬間ぼそりと呟いた。
 そして翔陽が言った通り、その次の瞬間に逞しい肉体を持つ男性が細身の男の刀を弾き飛ばし、しりもちをついた所に刀を突きつけた。
「はぁっ、はっ…降参」
「はぁっ、はぁっ、はっ…ハハッ、実戦だったら隠し武器を使う癖に、相変わらずあっさりしているな」
「はぁ、はぁ、大地を殺したいわけじゃ、ないからね」
 大地と呼ばれた男は刀を収めて笑うと、細身の男に手を貸して立ち上がらせ、細身の男は弾き飛ばされた刀を鞘に収めて礼をした。
「これにて、本日の訓練を終了する。散っ」
 大地と呼ばれた男の号令によって熱狂していた隊員たちはビシッと姿勢を正して「ありがとうございました!」と声をそろえて言ったあと、訓練場を後にした。
 翔陽はぞろぞろと退場する隊員たちの波に逆らって、水を飲む二人の所に行くと、笑顔で二人をねぎらう。
「大地、草子、お疲れ様。良かったら食べてよ」
 言いながら懐から梅干しを取り出して二人に差し出すと、二人とも翔陽の姿を見て表情を緩ませ、梅干しをつまんだ。
「お、炎童家の梅干しだ。いただきます!」
「ありがとう、翔陽。いただきます」
「今日の修理品の荷物と一緒に梅干しも入れておいたから、みんなで食べて。みんな汗をかくから塩分が不足するし、水だけとっていてもダメだからね」
「相変わらず、母親みたいだね。翔陽は」
 細身の男、草子こと広瀬草子ひろせそうしがすっぱそうな顔をした後に笑うと、ガリッと種も噛んで飲み込んだ。
 この世界の梅は種まで食べられ、味も美味しいので種を残す人は滅多にいない。
「心外だなぁ。私は君たちを生んだ覚えはないよ」
 穏やかに笑いながら携帯用の梅干を懐に戻すと、大地こと山本大地やまもとだいちが一瞬名残惜しそうにしたが、すぐに翔陽の腰に差してある刀に目を向けてニッと笑った。
「翔陽、今日もせっかくだから手合わせをしていくか?」
「いいのかい? 草子と手合わせをしたばかりで疲れていると思って遠慮しようと思っていたんだけど」
「ハハッ、俺が底無しの体力を持っているのを知っているだろう? 今の休憩で十分回復した。あ、俺が勝ったらもう一つ梅を貰うからな」
 最早やる気満々で笑う大地に、翔陽も笑顔で「私が勝っても梅干しくらいあげるよ」と言って訓練場の中央に向かった。
 そして位置に着くと、二人をまとっていた和やかな空気は一瞬で消え去り、触れたら切れそうなほど緊迫した空気が包み込んだ。
「じゃあ、僕が開始の合図を出すよ。二人とも準備はいいかい? ……始め!」
 草子が二人の準備が整っていることを確認してから開始の合図を出すと、まず動き出したのは翔陽だった。迷いのない足取りで大地に向かって走り込み、居合いで大地を斬りつけようとした。しかし、大地はその斬撃を飛びのいてかわし、あらかじめ抜いていた太刀で翔陽に向かって力強い一撃を放った。
「っと」
 翔陽もこの斬撃は飛びのいてかわし、二人は同時に踏み込むと刀を交え、かわし、互いに一歩も引かぬ互角の戦いを繰り広げていた。
「兄ちゃん、カッコいい~」
「本職が何かを疑う技術だよね。大地と互角に戦える人なんて僕と翔陽とあんこくらいだもんね」
 訓練場の隅で武器の手入れをしながら二人の手合わせを眺める草子と、うっとりとした表情で兄を眺めるあんこはそれぞれ感想をこぼし、決着が着くのをのんびりと待っていた。
 しかし、毎日訓練をしている大地といつもは物作りにいそしんでいる翔陽とは体力の差が歴然で、徐々に翔陽が押されるようになる。
 するとのんびりと観戦していたあんこが不機嫌そうな表情を浮かべるようになり始め、手元に置いてある薙刀をしきりに構うようになった。
 そして翔陽が攻撃をかわそうと飛びのいて着地をした瞬間足がもつれると、あんこが薙刀を手に二人の所に行き、大地に斬りかかった。
「兄ちゃんをイジメる奴は大地でも許さない!」
「うおぉっ!?」
 地面を抉るような強烈な一撃を大地は間一髪で避け、敵意丸出しのあんこに太刀を向けた。
「おい、あんこ! 俺を殺す気か!」
「もちろん!」
「ぅおい! 「もちろん!」じゃねぇよ! これは手合わせだっつーの!」
 大地は本気で殺そうとしてくるあんこの攻撃を受け止めながら叫ぶが、あんこは聞く耳を持たず、急所を狙って攻撃をし始めた。
「相変わらず、あんこは短気だなぁ」
 攻撃をされなくなった翔陽は表情を和らげて刀を納めると、観戦していた草子は呆れたようにため息を吐いた。
「相変わらず、翔陽は本気を出さないよね」
「まあ、大地を殺すつもりは無いからね」
「君の妹は大地を殺すつもりみたいだけど?」
 ほら、と指をさす草子に、翔陽は苦笑をして「あー…」ともう一度刀を抜き、さらに脇差しも抜いた。そして打ち合う二人の間に一気に入り、太刀と薙刀を二本の刀で受け止めた。
「に、兄ちゃん!? 危ないじゃん!」
「翔陽! その方法は心臓に悪いからやめろ!」
「でも、二人とも熱中していたから声をかけてもどうせ止まらないでしょ?」
 すぐにそれぞれの武器を下ろす二人に、翔陽は柔らかな笑顔でそう言って刀を納めた。そしてその表情のままあんこの方を見る。
「あんこ、大地は隊長なんだから殺そうとしてはいけないよ。いつも言っているだろう? 親しき仲にも礼儀ありってね」
「……礼儀以前の問題では?」
 呆れた表情で冷静なツッコミを入れる草子だが、そのツッコミは綺麗にスルーされ、あんこはふてくされたように唇を尖らせる。
「だって、兄ちゃんが負ける姿なんてあたし、見たくないんだもん」
「っ…!! どうしよう…大地、草子。あんこが可愛い過ぎて昇天しそう……」
「そのまま昇天したら?」
「相変わらず、お前らの異常な愛はドン引きするわ…」
 すっかり元の空気に戻った四人はそのまましばらく談笑し、翔陽は新たな修理の依頼を受けて警邏隊の詰所を後にしたのだった。
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