英雄の末裔も(語り継がれないけど)英雄

Ariasa(ありあーさ)

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三章 ―旅立ちの時― (ここからが本番)

―炎童の末裔― 2

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 わずかな一部の人達に見送られて城を出たドラゴンとリオは、それぞれの愛馬の手綱をしっかりと握って馬を引いて街中を歩く。
 二人とも外套のフードをしっかりと被って歩いていて、その様は時々見かける旅人となんら変わりがなく馴染んでいた。その為すれ違う誰もが、この二人が王子と騎士であるとは思わなかった。
「なんかいいな~。いつもは視察で街に来るからみんな恭しくて距離を感じているけど、今はありのままの民の姿を見られてる。この雰囲気、いいよな。ワクワクするぜ! こういうのは、ドラゴンとお忍びで飲みに行くときくらいしか見られなかったもんな」
「はしゃぐな。フードを上げすぎるとバレるぞ」
「分かってるけどよ~、ありのままの民の姿を見られる機会なんてそう無いんだし~…って、ドラゴン。どこに行くんだ?」
 大通りから路地裏に入るドラゴンに、リオはキョトンとしながらもちゃんとドラゴンの後をついていく。
「はっ、もしかして俺が騒いだから路地裏に──」
「違う。情報屋に顔を出すだけだ。昨日、マスターから手紙が来ていたらしくてな。元々、今日いく予定だった。リオも中に入るだろう? 入るならこの仮面をかぶってろ」
 ドラゴンは既にいつもの半仮面をつけていて、予備の仮面をリオに渡した。リオは渡された半仮面と半仮面をつけているドラゴンをまじまじと見つめるとドラゴンは怪訝そうな表情で「どうした」とリオに声をかけた。
「いや…結構長く一緒に居たけど、知らないことがあったんだなぁと思ってさ。お前、情報屋に行っていたんだな」
「あぁ、言ってなかったか?」
「聞いてないよ!」
「そうか。…まあ、言ったらお前も陛下も王妃様もついて来ようとしたかもしれないからな。それを危惧して俺は教えなかった」
 冷たいともとれる言葉に、リオは少なからず落ち込んだらしく「薄情だなぁ」とぼやいて仮面をつけた。
「心外だ。俺が情報屋に通うのは全て王家のためだ。俺ほど王家…しいてはお前に心酔している奴はいない」
 仮面越しでも分かる真直ぐな視線にリオはなんだかくすぐったい気持ちになり、自然と口角が上がった。
「相変わらず、お前の忠誠は怖いくらい真っすぐだな。ありがと」
「お前の為なら、俺は鬼にでも悪魔にでもなってやるよ」
 冗談のようにフッと笑ってそう言うドラゴンだが、リオはその言葉は本気であることを感じ取っていた。
 リオはその忠誠をありがたく思うと同時に重荷のようにも感じ、ドラゴンが命を懸けて仕えるに値する主だろうかという自問が頭をもたげた。しかしすぐにその感情を振り払い、いつものように笑いながらドラゴンの背中を叩いた。
「さすが俺の騎士だな!」
 互いに笑い合い路地を進むと、ドラゴンはいつもと何かが違う事に気付いて緩めていた気持ちを引き締めてあたりを警戒した。
「ドラゴン、どうした?」
「いつもと雰囲気が違う気がする。リオも気を引き締めておいた方がいい」
 カッポカッポと愛馬たちの歩く音すら耳障りなほど緊張するこの異様な空気に包まれたまま情報屋の居酒屋に到着すると、馬留に手綱をくくりつけて水を与える。
 そして顔を見合わせて覚悟を決めるようにうなずき合うと、ドラゴンがドアを開けた。
「遅かったな。この人間が手紙をお前の所に送ったのは確か昨日だったはず。待ちくたびれたぞ」
「仕方ないわよ。人間はいつも愚鈍な生き物なんだから」
 男が床に倒れているマスターを見ながらそう言うと、女はさげすむような眼差しでドラゴンとリオを見つめた。
 カウンターに腰掛けてこちらを見る二人から、圧倒的な力の差のようなものを感じ、本能で恐怖を覚えたリオは一歩後ずさったが、ドラゴンは〈ソウル〉の魔法剣を抜いて二人を見据えた。
「……誰だ」
「…それは〈ソウル〉か。懐かしくも忌々しい剣だな。だが…あの時よりも力は弱いみたいだな」
「今ならへし折れそうねぇ」
「誰だと聞いている」
 憎らしそうに見つめる男とくすくすと笑う女にドラゴンは視線を鋭くして改めて問うと、二人はニヤッと笑ってカウンターから音もなくふわりと床に足をつけると、ドラゴンに向かって歩いてきた。
「あぁ…そんなに慌てるな。言われなくても教えてやる。そのために俺達はわざわざこんな寂れた所で待っていたんだ。俺達は約千年前にザラギとアルジェントに封印された魔神。テラソー」
「同じく、妹のロゼリアよ」
「俺達は今度こそすべての人間と魔人を滅ぼすため、封印を破ってこの世界に舞い戻ってきた。俺達の目的はこの世界に、全ての人間に、絶望を与える事。だからお前たちは精一杯…魂をかけて抗い、そして絶望のなかで圧倒的な力に負けて散るがいい。お前達の絶望に歪む顔を見ることこそ、我々の喜びであり、慰みとなるのだ」
 目の前まで来たテラソーとロゼリアをドラゴンは微動だにせず見据えて聞いていたが、聞き終わると剣を構えたまま鼻で笑った。
「それを聞いて『はい分かりました』と答えると思うか? 答えは否だ。わざわざご丁寧に俺達の前に姿を現してくれたことはありがたいが、その余裕はいつの間にか無くなっていくぞ。人間の底力を、なめない方がいい」
 強気にも二人を睨むドラゴンに、ロゼリアは瞳の奥に憎しみをちらつかせつつも、目元を細めて「いいわねぇ」と頬に手を添えた。
「貴方のその、闘志に溢れた眼差し…ゾクゾクするわぁ。また会えたときも同じくらい…いいえ、もっとゾクゾクするような闘志を私達にちょうだいね」
「では、俺達はこれで失礼する。また会えることを祈る」
 テラソーとロゼリアは呪文を唱えることなくその場から消え、店内に沈黙が下りるとドラゴンは大きく息を吐いて緊張を解いた。そして剣を納めるとすかさずマスターに駆け寄った。
「マスター、マスター! 大丈夫ですか!」
「ぅっ……、くっ…そ……。死ぬかと思ったぜ……」
 ドラゴンの呼び掛けに、マスターは小さく呻くと眉間にシワを思い切り寄せつつも、ゆっくりと起き上がった。
「ったく…お前はとんでもねぇ奴らに目を付けられてるんだな」
「巻き込んでしまって申し訳ありません。お詫びと言ってはなんですが、俺の本名を教えます。場合によっては俺の情報として使ってくれてもかまいません。ただし、俺の情報を口にするのは一年後以降でお願いします」
 ドラゴンが真っ直ぐにマスターを見ながらそう言うと、マスターはその眼差しを受け止めて笑うとゆっくりと立ち上がりカウンター席に腰掛けた。
「あれだけ探られるのを嫌がっていた奴の言葉とは思えないな。分かった。条件を飲んでやる」
 マスターの言葉にドラゴンは深く頭を下げてからおもむろに半仮面を取り、外套も脱いでマスターに敬礼をした。
「近衛騎士団第七百人隊、隊長ドラゴン・ロディアノス。王家に助けられたスカイラインの英雄の末裔です」
「…そうか、お前が噂の……」
「噂のって、なんだよ。ドラゴンってそんなに有名になってるのか?」
 まださっきの魔人達の恐怖感が残っているのか、若干腰が引けて恐る恐る店内に入ってきていたリオだが、話はしっかりと聞いていたらしくドラゴンの後ろからひょこっと顔を出してマスターに問いかけた。
「連れと一緒に来るなんて珍しいな」
「彼は相棒です。これから一年間、彼と一緒に旅をするんです。なので一緒に来ました」
「俺の名前はリオ! 俺の相棒がいつも世話になってるな!」
 リオがニカッと笑って名乗るとドラゴンの頬がわずかに引きつり、マスターはその反応からすぐさまピンときてクツクツと笑った。
「ドラゴン、お前は本当に過保護だな。殿下、私から一つ忠告をしておきましょう」
「えっ! フルネーム言ってないのになんで分かったんだ!?」
「殿下が名乗った瞬間、ドラゴンの表情が変わったからな。ドラゴンは近衛騎士で王侯貴族と接する機会も多い。さらに王家が保護をした子供は英雄の末裔だという事も俺は聞いていた。その子供と殿下の仲がいいことも俺は知っている。だからすぐに分かったんだ」
 マスターは淡々とした口調で驚くリオに説明をすると、リオは素直に「おぉ~」と拍手を送り「すごいな!」と称賛した。
「だから、私みたいな奴には気を付けた方がいいですよ。すぐに身元がバレる」
「分かった。ありがとな!」
「マスター…」
 何かを言いたげな表情でマスターに声をかけるドラゴンに、マスターはフッと笑って足を組みかえた。
「分かってるよ。オマケとして殿下のことも黙っていてやる」
「ありがとうございます」
「おう、感謝しとけ。で、本題に入るがいいか?」
「手紙は本物だったんですね」
 ドラゴンは魔人がドラゴンをおびき寄せるために書いた偽物だったのではないかと思っていたため、素直にそう言うと「疑り深い奴だな」と少し呆れた。
「まあいい。…本当は殿下の御前で言うべきではないのかもしれないが、まあ、実情として聞いていてもいいか。…単刀直入に言う。王家は滅びの危機に面している」
「なっ…!」
「……。詳細を教えてください」
 ドラゴンの感情を押し殺したような声に、マスターも黙ってうなずき、得た情報をドラゴンに話し始めた。
「アークス=ナヴァル大王国の領地を預かり治めている貴族やホートラルド城に仕える家臣たちはまだ全王家を支持しているが、他国の王侯貴族は人間王とその一族の必要性を疑い、アークス=ナヴァル大王国に攻め入る算段を立てている国がある。さらに、法により禁じているにもかかわらず亜人を捕らえて『奴隷』にしている国もあり、侵略を受けた亜人の国は人間への復讐をしに戦争を仕掛けようとする動きもある。この国を出て旅をするなら、色々と気を付けながら移動したほうがいいだろう」
「分かりました。ありがとうございます。…その情報の信憑性は?」
「ほぼ確実だ。亜人の奴隷を使っている国は確実に何ヶ国かある。そのうちの何ヶ国かは俺自身の目で見たからな。ちょいと高額な追加料金になるが、教えることもできるぞ」
 真剣な眼差しでどうするかドラゴンに問うと、ドラゴンよりも前にリオが答えた。
「教えて欲しい。そして、その情報は確実に王家に届けて陛下の耳に入れてくれ。奴隷制度は忌むべきものであり、決して許していい事ではない。マスターが調べた情報は俺が買う」
「本当はおつかいはやってないんですがね。特別にやりましょう。でもきっちりおつかい料ももらいますよ」
「構わない」
 即座にうなずくリオにマスターは「交渉成立だ」と言い、奴隷を使っている国をサラサラと紙に書き出した。
「私が知る、奴隷使用国はこれで全てです。おつかい料も含めて、十万七千ヤーツをお支払い願います。ドラゴンは六万ヤーツな」
「十まっ…高くね?」
「ははっ、こっちも命懸けで情報を仕入れているんでね。これくらい貰わないと割に合わないんですよ」
「リオ、ちゃんと払わないと次は取り合ってくれなくなるぞ」
 ドラゴンが値段よりも少し高いの七万ヤーツを支払いながらそう言うと、リオはごそごそと懐から紙を出し、マスターが提示した値段をリオ自身の財産から代わりに支払ってほしいという一筆と自分のサインを入れてマスターに渡した。
「今持ってる手持ちは旅費だから、これを俺のもう一人の側近か執事に渡してくれ。で、これはチップ」
 リオはロート金貨一枚も紙と一緒に渡していて、マスターは満足げに頷いた。
「毎度あり。二人の旅がいいものになることを祈るぜ」
「ありがとうございます、マスター。では、失礼します」
「またな~」
 ドラゴンとリオは、それぞれマスターに別れを告げると愛馬のところへ戻り、旅路を進み始めた。
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