英雄の末裔も(語り継がれないけど)英雄

Ariasa(ありあーさ)

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三章 ―旅立ちの時― (ここからが本番)

―炎童の末裔― 3

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「良かったの? 私達の目的を彼らに話して」
 何の違和感もなく王都の街中を歩くテラソーに、ロゼリアは不思議そうにしながらテラソーに問いかけた。
「あぁ、もちろんだ。ただ理由も分からず滅びていく様を見るより、ちゃんと俺達の存在を認知し、圧倒的な力の前に絶望し滅びていく方が見ていて気持ちがいい。それに、ヒントを与えてやらねばやつらは俺達の情報を掴めないだろう。不安のなかもがくのもいいが、最大限に力が引き出された状態で、俺は戦いたい」
 テラソーの内側から発される憎しみと怒りを原動力とする闘志は、周囲にいた動物達を怯えさせるに十分で、鳥も猫も野犬も即座に逃げていった。周りにいた人間はその様子を不思議そうに眺めていたが、ロゼリアはその闘志を肌で感じ、その圧倒的な力にうっとりとした。
「そうね。兄様と私なら、世界を掌握する事が出来るわ。…復讐が終わったら、また二人でゆっくりとしましょうね」
「あぁ、誰にも邪魔されることなく、共に生きよう」
 チュッと軽いキスを交わし、二人はそのままどこかへと消えていった。

† †

 マスターの店を出て、そのまま一気に街も出た二人は、広い街道を騎乗して進む。
「なあ、ドラゴン。そういえばまずはどこから行くつもりなんだ?」
「まずは、炎童の末裔からあたってみようと思う。彼らは魔力を操る能力を持っている。私情を挟むようで悪いが、俺は魔力を操る方法を教わりたい」
「十分操れているように見えるけどなー」
「いや、まだまだ操れるという域にまでいってない。俺が出来るのは、まぐれに魔力の流れを感じ取り、無理やり魔法剣に力をぶちこんでる状況だからな。消耗が激しい上に、体への負担も大きすぎる。これでは実戦では使えない」
 眉間にシワを寄せて拳を握り締め、難しい表情になると、リオがケラケラと笑った。
「本当にお前は完璧主義だな~。ほら、眉間のシワが取れなくなるぞ~」
「余計なお世話だ」
 眉間のシワをさらに深くして言い返すドラゴンに、リオは「事実だし~」と笑顔のまま言い返す。
「ったく……置いていってやる」
 ドラゴンはそう言うや意趣返しをするようにダージクに走るよう指示を与え、一気にリオとの距離を離した。ダージクの走る速度は普通の馬ではありえない速度で、すぐにドラゴンの姿が小さくなってしまったほどだった。
 さすが馬の王とまで言われる翔王しょうおうである。
「あっ、ふざけんな! 待てドラゴン!」
 猛スピードで走り去っていくドラゴンに、リオは慌ててルーナに走るよう指示を与えるとルーナもダージクと同じように普通ではありえないような速度で走りだし、すぐに距離を詰めていく。
 じゃれ合うように街道を進む二人はただの親友としか見えず、幼い頃を彷彿とさせるようだった。
 そしてようやくドラゴンがスピードを落としてゆったりと馬を歩かせ始めた時にはすでに夕方となっていた。しかし少し向こうには少し大きめの街があり、夕飯の支度をしている家の煙がいたるところから上がっていた。
「今晩はこの街に泊まっていくぞ」
「ドラゴン、おま…飛ばし過ぎ……。俺、もうケツと腰が痛い……」
「いつも快適な馬車に乗っているからだろう。もうすぐだから我慢しろ」
 にべもなくそう言いながら街の門に向かうドラゴンに、リオも腰をさすりながら後に続いた。
 そして街に入ると、王都ほどではないが賑わう大通りが真っ先に出迎え、いたるところから笑い声や客引きの賑やかな声が聞こえてきた。
「この街も賑やかでなんか安心したぜ」
 上に立つ者の風格を滲ませ、子の無事を確認した親のようにホッとした表情を浮かべるリオに、ドラゴンは「そうだな」と同意しながら王に成るものとして成長をしているリオの姿を見て改めて、彼に仕える喜びに胸が高鳴った。
「とりあえず今日はホテルに泊まろうと思うが、それでいいか?」
「むしろ、それでお願いします…!」
「分かった。慣れるまではなるべく宿を取るようにするが、毎回いい宿に泊まれると思うなよ」
 さりげなく釘を刺してから高級宿泊施設が並ぶ通りに行くと、迷わず王室御用達の宿に向かった。そして厩番の者に愛馬達を預けて宿の中に入ると、フロントの案内人が困ったような表情でドラゴンとリオを止めた。
「申し訳ありません、このホテルは一般のお客様は泊まることの出来ないホテルでして……」
「このような格好で申し訳ありません。私はリオ殿下の側近を務めているドラゴン・ロディアノスと申します。急で申し訳ないのですが、ロイヤルルームに一晩だけ泊まることは出来ますか?」
 問いかけながら、全王家に仕えるごく一部の重臣や側近に与えられる、王家の紋章と偽造防止の魔石があしらわれた懐中時計を見せると、途端に態度を変えて「失礼致しました」と頭を下げた。
「いえ、こちらこそ外套を着たまま入ってきて申し訳ありませんでした」
 ドラゴンがそう言いながら外套を脱ぐと、ボーイがさりげなく受け取り、リオの外套も別のボーイが受け取った。しかしリオが素顔を晒した瞬間、ロビーにいた全員が驚き、慌てて頭を下げた。
「みんな、そんなに畏まらなくてもいいよ。楽にして。仕事の手も止めなくていいからね」
 親しみを感じる言葉遣いと声に、ロビーにいた全員はホッとしたように頭を上げて、おのおの仕事に戻った。
「では、ロイヤルルームに一泊、すぐにご案内致します」
「こちらへどうぞ」
 ボーイが荷物を受け取ると一般のホテルルームへ続く廊下ではなく、奥のロイヤルルームへ続く廊下へ二人を案内し、広い間隔で並ぶ豪奢なドアのうちの一つの扉を開けた。
「本日のお部屋はこちらになります。夕食はいかがいたしますか?」
「部屋に持ってきてくださるとありがたいです。あと、申し訳ありませんが朝食は6時に持ってきてください。明日も朝早くに出発をする予定なので」
「かしこまりました。そのように手配いたします。そして荷物はこちらに置いておきます。では今宵はゆっくりとお過ごしください。失礼いたします」
 ボーイが荷物を置き、ドラゴンに鍵を渡してからそう言うともと来た道を戻っていき、部屋にはドラゴンとリオの二人だけとなる。
「ここもなかなか良さそうなホテルだね。部屋は綺麗だし、広いし」
「陛下もこの宿に泊まったことがあるからな。質はいいだろう。リオ、夕食が来る前にシャワーを浴びてきたらどうだ?」
 部屋の中を見ていたリオに、ドラゴンが荷物の整理をしながらそう言うと、リオも「そうだな」と素直に同意し、部屋に備え付けられているバスルームに入った。
 バスルームからシャワーの音が聞こえてくると、ドラゴンは地図をテーブルに広げて今日までに進んだ距離をペンで印をつけ、これからの経路を考え始めた。
(俺の私情を挟んで最初に炎童の末裔の所に行くことになったが、ルート的にも正解だったな。ザラギの末裔とラフィアスの末裔は俺とリオですでに揃っている。残りの炎童と雪原はカルヴィヴァ山脈の向こう側にいる。そして、カルヴィヴァ山脈から近いのは炎童のほう。ただ、仮にスムーズに二つの英雄の末裔と合流し、賛同してついてきてくれたとしても、ここからが問題だな。世界を隔てるウォルド山脈を越えるだけで一年かかりそうだ。唯一、山脈を越えずに向こう側に行く道も魔物がはびこる迷宮で、入った者は生きて出られないと言われている。そんな危険な道を通ることになれば、俺はリオ以外を護れる自信がない)
[弱気だな]
「なっ…!」
 地図を睨んで頭を抱えていると不意に中性的な声が聞こえ、ドラゴンはガバッと顔を上げて周囲を警戒した。しかし周りには誰もおらず、相変わらずバスルームからシャワーの音が聞こえてくるだけだった。
(今のは……)
 緊張感に包まれたまま思考を止めずにいると、不意にシャワーの音が消えて「あっ!」と間抜けな声がバスルームから聞こえてきた。
「ドーラゴーン! タオル忘れたー! 持ってきてー!」
「っ…、あ、あぁ、今持っていく」
 動揺を少し引きずりつつ、クローゼットの中に入っていたホテルのタオルを手に脱衣場に入ると、リオは床を水浸しにしながら待っていた。
「はぁ……ほら、ちゃんと持ち物を確認してから入れ」
「ありがとな~……ん? あれ、なんかあった?」
 笑いながらタオルを受け取りガシガシと髪の毛を拭いていたリオだが、ドラゴンのわずかな動揺の名残りを見つけるとまじまじとドラゴンの顔を見つめた。
「いや、何もないが?」
「そうか? 顔、強張ってるぞ」
「気のせいだ。さっさと服を着ろ。風邪をひくぞ」
「ふーん? 気のせいね~」
 リオは怪訝そうにドラゴンを見るが、ドラゴンは何事もなかったかのように脱衣場を出ていった。
 脱衣場を出たドラゴンは再び地図の前に座り、最善のルートを考え始める。しかし、いくら考えても打開策となるようなものは思いつかず、頭を抱えてため息をつく他なかった。
「なーにが、「気のせいだ」だ! 思いっきり悩んでるじゃないか!」
 シャツのボタンを留めずに出てきたリオが、頭を抱えるドラゴンを見下ろしながら咎めるように叫んだ。
「ちゃんとボタンを留めないと風邪引くぞ」
「話を逸らすな! …で? 何に悩んでるんだよ」
 なんだかんだ言われた通りにボタンを留めつつ、向かいに座って問いかけると、ドラゴンは諦めたように苦笑をしつつトントンと地図を叩いた。
「ウォルド山脈を越えるルートに悩んでいた」
「あー…そうだよな。山脈を越えなきゃいけないんだよな……」
「律儀に山脈を登って越えようとすれば、年単位の時間がかかる。そうなれば一年以内という陛下の命令に背く結果となってしまう。一方、地下の迷宮がここにあるが、生きて出ることは出来ないと言われている場所だ。そんな場所に行ったら俺はお前を護ることで手一杯となり、ついてきてくれた仲間を見殺しにせざるを得なくなるかもしれない」
 悔しそうな表情を浮かべて拳を握り締めるドラゴンに、リオは顎に手を当てて少し悩むように「うーん」と唸った。
「……じゃあさ、魔人をさっさと仲間に引き入れればいいんじゃね? 魔人なら山脈を越えることなんて造作もないだろ」
「確かに魔人の力添えがあれば心強いが、魔人も山脈の向こう側にいるんだぞ。どうやって頼むつもりだ。ツテでもあるのか?」
「そこだよな~。王族の俺でもさすがにツテは無いし」
「……少しでも期待をした俺が間違いだったな」
 ふぅとため息をつくドラゴンに、リオは唇を尖らせて「でも発想は良かっただろー」と不服そうに言った。
「そうだな。……はぁ、やっぱり迷宮を攻略する他に道は無いのか……」
「迷宮攻略ってなんかワクワクするな!」
「迷宮の攻略は簡単なものではない。命がけなんだぞ。ワクワクするのは命知らずの馬鹿か、気が狂っている迷宮ハンターくらいだ」
「ドラゴンは夢が無いなー」
 つまらないと言わんばかりの表情を浮かべるリオに、ドラゴンは「それで結構だ」と席を立った。
「あれ、怒った?」
「怒ってない。シャワーを浴びにいくだけだ」
 ドラゴンは眉間にシワを寄せたままそう言うと「表情は怒ってるぞー」とリオに返される。しかしその声をスルーしてバスルームに向かい、汗でベタつく体を考えすぎて凝り固まった思考と一緒に洗い流した。
 その後、ドラゴンがバスルームから出てきた所でタイミングを図ったかのように食事が運ばれてきた。その料理は規模こそ違うものの、王宮の晩餐会に出しても遜色のない一級品であり、二人はこの短時間でこれほどの料理を作れる料理人達の腕を高く評価して一つ一つの料理を味わって食べた。さらに食器を下げに来たボーイにシェフ達への激励の手紙を託し、この日は早めに就寝したのだった。
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