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一章 -幼少時代-
-故郷の記憶- 3
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このような生活が一年半ほど続き、二人とも心身共に傷だらけとなった寒い冬、二人がもうすぐ六歳と七歳になる頃のある日だった。
朝二人が起きると、いつもと様子の違うヴェルフが出掛ける準備をしていた。ヴェルフは起きてきた二人を見ると途端にばつが悪そうな表情になり、少しだけ目を逸らした。
「おう、起きたか。……おはよう」
いつも挨拶などしないヴェルフが挨拶をした事に二人は驚き、反応に遅れながらも挨拶を返すと、ヴェルフはフッと寂しそうな笑顔を二人に向けてその両手を上げた。叩かれると反射的に思った二人はとっさに頭を守るように腕を上げたが、その手は予想を大きく裏切って優しく頭に乗せられ、ゆっくりと撫でられた。その事に大きな驚きと戸惑いが湧いた二人は寂しそうに笑うヴェルフを見上げて、どういうつもりなのかと説明を求めるように見つめた。
しかしヴェルフは説明をしようとせずにそっと撫でていた手を下ろすと、ただ一言。
「しばらく家を空ける。…じゃあな」
とだけ言い残して家を出ていった。
ヴェルフが出ていくと、二人はしばらく呆然と今の出来事について考え、ヴェルフの言葉にどんな意味が込められていたのかを想像した。そして、二人の中に答えを見つけると顔を見合わせて同時に頷いた。
「ドラゴン、この村を出ていこう」
ザギの唐突な提案にもドラゴンはためらわずに頷き、決意をした眼差しでザギを見た。その様子にザギもホッとしたように息を吐き、ふわりと微笑んだ。
「じゃあ、さっそく準備をしようか」
「うん!」
二人は無謀だと分かっていながらも、これ以上の暴力には耐えられないと限界を感じ、これ以上暴力を受けるくらいならばいっそのこと、一か八かこの村を出ていって母親を探しに行ったほうがマシだと思ったのだ。
そして二人は旅の準備をし始め、とりあえず持てるだけの食料と水をバックに入れて、ザギは母親との別れの間際に貰ったネックレスを首にかけた。そしてザギはヴェルフの部屋に入ると、正面の壁に掛かっている一本の剣を見つめた。その剣は代々ロディアノス家に受け継がれ、大切に保管されているザラギの魔法剣で、ザギは椅子を踏み台にして壁から魔法剣を取り外し、その手に取った。子供が扱うには重いはずの剣だが、ザギが宝玉…〈ソウル〉に触れた瞬間に軽くなり、ザギでも楽々持ち運び出来る重さになった。
「兄ちゃん! これも持っていっていいかな?」
ドラゴンはパタパタと走ってヴェルフの部屋に駆け込むと、いつだったか、ザギとドラゴン二人で作った綺麗な石の二つのお守りを嬉しそうに見せた。ザギは椅子から降りてそれを見ると少し懐かしそうに目を細めて口元に笑みを浮かべた。
「うん、いいよ。僕の分も持ってきてくれてありがとう」
ドラゴンの弾ける笑顔にザギもつられて笑みを深め、片方のお守りを受け取った。そして、今しがた壁から外した魔法剣をドラゴンに見せた。
「ドラゴン、見て? これがザラギの魔法剣、紫の〈ソウル〉だよ」
「わあぁ……! すごく綺麗だね! カッコいいなぁ」
ドラゴンの前に魔法剣を出した瞬間、瞳を輝かせて魔法剣を見つめるドラゴンを見てザギも嬉しそうに笑い、さらにドラゴンの喜ぶ顔を見たいと思ったザギは自然とこう言っていた。
「じゃあ、これはドラゴンにあげるよ」
「本当!? やったぁ! ありがとう、兄ちゃん!」
ザギから魔法剣を受け取ったドラゴンは、嬉しそうに魔法剣を持って飛びはね、まるで大好きなぬいぐるみを抱き締めるかのように自分と同じくらいの長さの魔法剣を抱き締めていた。
「扱いには気を付けるんだよ? 振り回したら危ないから、無闇に振り回しちゃダメだからね?」
「うん!」
満面の笑顔で頷くドラゴンに、ザギは本当に聞いていたのかと若干不安になりつつも、ドラゴンの背中に魔法剣をくくりつけてあげた。
そして荷物の最終チェックをしてそれぞれ荷物を持つと、二人はコートとマフラー、手袋をして家を、そしてナシュ村を出ていった。
ナシュ村を出てしばらくすると急に気温が下がり、雪がちらつき始めた。
ひらり、ひらりと舞い落ちる雪は、美しい森と相まって幻想的な光景を演出しているのだが、身体に突き刺さるような寒さだけはどうすることも出来なかった。そのため二人はしっかりと手を繋ぎ、身を寄せあって少しでも寒さを和らげようととにかく歩き続けた。しかし残酷にも気温は下がる一方で、雪も徐々に本降りになっていった。
しんしんと降り続ける雪の中、ずっと歩き続けてうっすらと頭に雪がつもり始めた頃、静かで冷たい空間にいるのが急に心細くなったドラゴンがぐずりはじめた。
「ドラゴン……」
「っ、くっ……にい、ちゃ、ぇうっ…ど、して、っ、僕達っ、ズッ……こ、んな、目にっ、遭わなきゃいけなっい、の…? 僕達、っ、ぅっ、悪いこと…、したのか、なっ……? ぅう、ぅああぁぁぁん!」
ドラゴンの言葉を聞いたザギは痛みを堪えるような、悲しみを堪えたような表情になり、泣いているドラゴンを力いっぱい抱き締めた。
二人とも身体は冷えきって、コートも水を吸って本来の役割を果たしていなかったが、それでもザギは少しでも己の体温がドラゴンの寂しさを紛らわせて、慰められればと小さな手で背中をさすった。
「大丈夫、大丈夫だよ。僕達は何も悪いことしてない。お兄ちゃんの僕がドラゴンを守るから。何があっても、僕はドラゴンの味方でいるから。だから、もう泣かないで、ドラゴン」
気丈に涙を堪え、ドラゴンが泣き止むまでひたすら「大丈夫、大丈夫」と声を掛けながらずっと背中をさすっていた。
この時にザギは誰よりも強くなって、ドラゴンを守ろうと心に誓ったのだった。
強くなりたいという想いが、いずれ悲劇を生むと知らずに。
朝二人が起きると、いつもと様子の違うヴェルフが出掛ける準備をしていた。ヴェルフは起きてきた二人を見ると途端にばつが悪そうな表情になり、少しだけ目を逸らした。
「おう、起きたか。……おはよう」
いつも挨拶などしないヴェルフが挨拶をした事に二人は驚き、反応に遅れながらも挨拶を返すと、ヴェルフはフッと寂しそうな笑顔を二人に向けてその両手を上げた。叩かれると反射的に思った二人はとっさに頭を守るように腕を上げたが、その手は予想を大きく裏切って優しく頭に乗せられ、ゆっくりと撫でられた。その事に大きな驚きと戸惑いが湧いた二人は寂しそうに笑うヴェルフを見上げて、どういうつもりなのかと説明を求めるように見つめた。
しかしヴェルフは説明をしようとせずにそっと撫でていた手を下ろすと、ただ一言。
「しばらく家を空ける。…じゃあな」
とだけ言い残して家を出ていった。
ヴェルフが出ていくと、二人はしばらく呆然と今の出来事について考え、ヴェルフの言葉にどんな意味が込められていたのかを想像した。そして、二人の中に答えを見つけると顔を見合わせて同時に頷いた。
「ドラゴン、この村を出ていこう」
ザギの唐突な提案にもドラゴンはためらわずに頷き、決意をした眼差しでザギを見た。その様子にザギもホッとしたように息を吐き、ふわりと微笑んだ。
「じゃあ、さっそく準備をしようか」
「うん!」
二人は無謀だと分かっていながらも、これ以上の暴力には耐えられないと限界を感じ、これ以上暴力を受けるくらいならばいっそのこと、一か八かこの村を出ていって母親を探しに行ったほうがマシだと思ったのだ。
そして二人は旅の準備をし始め、とりあえず持てるだけの食料と水をバックに入れて、ザギは母親との別れの間際に貰ったネックレスを首にかけた。そしてザギはヴェルフの部屋に入ると、正面の壁に掛かっている一本の剣を見つめた。その剣は代々ロディアノス家に受け継がれ、大切に保管されているザラギの魔法剣で、ザギは椅子を踏み台にして壁から魔法剣を取り外し、その手に取った。子供が扱うには重いはずの剣だが、ザギが宝玉…〈ソウル〉に触れた瞬間に軽くなり、ザギでも楽々持ち運び出来る重さになった。
「兄ちゃん! これも持っていっていいかな?」
ドラゴンはパタパタと走ってヴェルフの部屋に駆け込むと、いつだったか、ザギとドラゴン二人で作った綺麗な石の二つのお守りを嬉しそうに見せた。ザギは椅子から降りてそれを見ると少し懐かしそうに目を細めて口元に笑みを浮かべた。
「うん、いいよ。僕の分も持ってきてくれてありがとう」
ドラゴンの弾ける笑顔にザギもつられて笑みを深め、片方のお守りを受け取った。そして、今しがた壁から外した魔法剣をドラゴンに見せた。
「ドラゴン、見て? これがザラギの魔法剣、紫の〈ソウル〉だよ」
「わあぁ……! すごく綺麗だね! カッコいいなぁ」
ドラゴンの前に魔法剣を出した瞬間、瞳を輝かせて魔法剣を見つめるドラゴンを見てザギも嬉しそうに笑い、さらにドラゴンの喜ぶ顔を見たいと思ったザギは自然とこう言っていた。
「じゃあ、これはドラゴンにあげるよ」
「本当!? やったぁ! ありがとう、兄ちゃん!」
ザギから魔法剣を受け取ったドラゴンは、嬉しそうに魔法剣を持って飛びはね、まるで大好きなぬいぐるみを抱き締めるかのように自分と同じくらいの長さの魔法剣を抱き締めていた。
「扱いには気を付けるんだよ? 振り回したら危ないから、無闇に振り回しちゃダメだからね?」
「うん!」
満面の笑顔で頷くドラゴンに、ザギは本当に聞いていたのかと若干不安になりつつも、ドラゴンの背中に魔法剣をくくりつけてあげた。
そして荷物の最終チェックをしてそれぞれ荷物を持つと、二人はコートとマフラー、手袋をして家を、そしてナシュ村を出ていった。
ナシュ村を出てしばらくすると急に気温が下がり、雪がちらつき始めた。
ひらり、ひらりと舞い落ちる雪は、美しい森と相まって幻想的な光景を演出しているのだが、身体に突き刺さるような寒さだけはどうすることも出来なかった。そのため二人はしっかりと手を繋ぎ、身を寄せあって少しでも寒さを和らげようととにかく歩き続けた。しかし残酷にも気温は下がる一方で、雪も徐々に本降りになっていった。
しんしんと降り続ける雪の中、ずっと歩き続けてうっすらと頭に雪がつもり始めた頃、静かで冷たい空間にいるのが急に心細くなったドラゴンがぐずりはじめた。
「ドラゴン……」
「っ、くっ……にい、ちゃ、ぇうっ…ど、して、っ、僕達っ、ズッ……こ、んな、目にっ、遭わなきゃいけなっい、の…? 僕達、っ、ぅっ、悪いこと…、したのか、なっ……? ぅう、ぅああぁぁぁん!」
ドラゴンの言葉を聞いたザギは痛みを堪えるような、悲しみを堪えたような表情になり、泣いているドラゴンを力いっぱい抱き締めた。
二人とも身体は冷えきって、コートも水を吸って本来の役割を果たしていなかったが、それでもザギは少しでも己の体温がドラゴンの寂しさを紛らわせて、慰められればと小さな手で背中をさすった。
「大丈夫、大丈夫だよ。僕達は何も悪いことしてない。お兄ちゃんの僕がドラゴンを守るから。何があっても、僕はドラゴンの味方でいるから。だから、もう泣かないで、ドラゴン」
気丈に涙を堪え、ドラゴンが泣き止むまでひたすら「大丈夫、大丈夫」と声を掛けながらずっと背中をさすっていた。
この時にザギは誰よりも強くなって、ドラゴンを守ろうと心に誓ったのだった。
強くなりたいという想いが、いずれ悲劇を生むと知らずに。
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