英雄の末裔も(語り継がれないけど)英雄

Ariasa(ありあーさ)

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一章 -幼少時代-

-小さな出逢いと別れ- 1

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 二人は日中ずっと歩き続け、暗くなった夕刻頃にようやく隣村のニーシェ村にたどり着いた。
 ニーシェ村はナシュ村よりも活気があり、夜でも賑やかで灯りが沢山ある村だった。しかし、その頃には二人とも体温を奪われて疲れ切り、もはや気力だけで歩いているようなものだったので、二人はようやく明るいところに来られた。程度にしか思えなかった。
「おや? 子供が二人だけでいるな。迷子、か?」
「んな訳ねぇだろ。この狭い村でどうやって迷子になれっていうんだ。村の外で遊びまくって、疲れて帰ってきたんだろ。ガキは元気が一番だからな!」
「だが、紫のガキが背中に背負っているものは明らかに剣だ。剣を背負って遊ぶガキはいないだろう。……まあ、精巧に作られた玩具なら別だが…」
 荷馬車の横で三人の男がザギとドラゴンを見ながら会話を交わすと、豊富に髭を生やしている、三人の中で一番年上の男性が二人に近付いた。
「おい、フラフラしてるが大丈夫か? …って、全身びしょ濡れじゃねぇか。おい、レッジ、ゼノ! タオル持ってこい!」
 二人に近付いた男性は、二人ともびしょ濡れで震えながら歩いていた事に気づき、荷馬車の横で、豊富に髭を生やしている男性とザギとドラゴンの様子を眺めていた二人に向かって声を上げてた。レッジとゼノと呼ばれた二人の男性はやれやれと言わんばかりの表情で笑いながら、しかししっかりと言われた通りにタオルを複数枚持ってきた。
「相変わらず、バーノは世話好きだな」
「あと、お人好しに俺達を巻き込むのも相変わらずだよね」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで拭いてやれ。あと、俺は気が向いたときにしかお人好しにならねぇから、お前らを巻き込む回数も多くないだろうが」
 バーノと呼ばれた豊富に髭を生やしている男性は、二人の嫌みとも取れる言葉を慣れた様子で返して指示を出し、二人もただ単にからかって言っただけのようで、すぐにザギとドラゴンを抱き上げて屋根のあるところまで連れていくとタオルで頭や身体を拭き始めた。そして粗方拭き終わった所でバーノがしゃがみ、二人と視線を合わせてから優しい声で声をかけた。
「大丈夫か?」
 その問いに二人ともコクりと頷き、ザギが寒さと若干の恐怖に震えながら口を開いた。
「あ…りがと……」
「おう、どういたしまして。ちゃんと礼を言えるなんて偉いな。それで? 二人は何処の家の子だ? よかったら家まで送っていくぞ」
「や、だ…! 帰、りた、く、ない…!」
 ガチガチと歯を鳴らして震えながらも、抱こうと腕を伸ばしたバーノの手を拒み、叫んだドラゴンに三人は少し驚き、次に困った表情を浮かべた。
「家出の途中のガキだったか」
「だから遊んで疲れた様に見えなかったんだね」
 頭にバンダナをして、あご髭を生やしている茶髪の男性と、右耳にリングピアスを二つ付けている金髪碧眼の男性が苦笑をしながらそう呟くと、バーノも一旦腕を引っ込めて「そうか、悪かったな」と言ってからもう少し事情を聞き出すために一度建物の中に入ろうと思い、「よっこいしょ」と立ち上がった。
「とりあえず、中に入るか。外は寒いからな」
「腹も減ったぜ…。バーノ、酒場に行こうぜー」
「この子達の服を着替えさせてからな。このままじゃ風邪引いちまう」
 ひょいっと片手ずつで二人を抱き上げ、目の前に建っている宿屋に入っていくと、慣れた様子で金髪の男性がカウンターで鍵を受け取り、部屋まで行くと鍵を開けた。バーノは礼を言ってからザギとドラゴンを抱えて中に入り、そのあとを二人が入ると今度は茶髪の男性が暖炉に火を着けた。
「レッジにしては気が利いてるね」
「あぁ? そりゃどういう意味だよ、ゼノ」
 レッジと呼ばれた茶髪の男性は、金髪の男性ゼノを少し睨みながらそう言うと、ゼノはいたずらっ子の表情でクスッと笑って答えた。
「どういう意味って、そのままの意味だけど。いつも言われてから行動するじゃないか」
「俺が言われねぇと何もできねぇみたいな言い方するんじゃねぇよ」
「レッジ、ゼノ、暖炉の前を空けろ。二人を暖めるのが先決だろうが」
 バーノは邪魔だと言わんばかりに顎でくいっと暖炉から少し離れた所にあるソファーを指し示し、二人は「はいはい」と笑って軽く肩をすくめながら暖炉の前を空けた。
「悪いな、二人がうるさくて。じゃあ、このままじゃ風邪を引いちまうから、着替えるぞ。服を乾かしている間は、でかいがゼノの服を着てもらうな。ゼノ、用意しろ」
「バーノは本当に人使いが荒いったらないよねー」
 クスクスと笑いながら、相変わらずからかうような口調で自分の荷物からシャツを二着取りだし、ある程度袖を巻くってからバーノに渡した。その間バーノはドラゴンの服を脱がせていて、濡れた身体をタオルで拭いて、さりげなくレッジが用意した、お湯に浸して温かくしたタオルでドラゴンの身体を包んでやった。ザギは一人で服を脱いでいて、レッジから貰ったタオルで身体を拭き、ドラゴンと同じように温かいタオルにくるまった。
「少しは落ち着いたか?」
「うん…。ありがとう、おじさん」
「あ、ありがとう……」
 二人が礼を言うと、バーノはホッとしたように目を細めて笑い「おう、どういたしまして」と二人の頭を撫でようと手を上にあげたが、ザギとドラゴンは手が上にあがった瞬間に怯え、反射的に腕で頭を守ろうとした。それを見たバーノは、その瞬間に二人の家出の理由を悟ってしまい、手を下ろした。しかし、バーノは調子を変えることなく笑顔のまま二人に話しかけた。
「二人が何処から来たのか、聞いてもいいか? 無理に連れ帰ろうとはしないと約束するからよ」
 バーノの言葉を聞いた二人は恐る恐る腕を下ろし、笑顔のままのバーノにホッとすると顔を見合わせてから、ザギが口を開いた。
「…ナシュ村から、来た」
「ナシュ村ったら、歩いて半日弱くらいの隣村か。この雪の中、よく歩いてこれたな。根性あるぜ」
「子供の足だったら半日以上かかるよね。よくこの寒い中頑張って歩いたね」
 レッジとゼノが驚いたような表情を浮かべながらも、柔らかく微笑みながら二人を誉めると、二人ともグッと涙を堪えながら頷いた。
「でも、何でそんな無謀な事したんだ? 下手すりゃ凍え死ぬ可能性だってあったんだぞ?」
 レッジが首をかしげて問いかけると途端に二人とも暗い表情になり、それを見たゼノがレッジの後頭部を殴った。
「イッテェ!」
「それは俺達が突っ込んでいい内容じゃない。俺よりも年上の癖にそんなことも弁えられないのか」
「だって、気になるだろうが! こんな小さなガキが理由もなくこんな大がかりな家出なんかするかよ。俺は孤児院で育ったから親なんてもんは知らねぇけど、普通、これくらいのガキは親と一緒にいるもんじゃないのか?」
 レッジの言葉にドラゴンが顔を上げ、レッジを見て少し迷うように口を開閉していたが、意を決した様に一度口を引き結ぶと、声を出した。
「あ、あの…、お、お兄さんも……お父さんに…捨てられた、の?」
「ん? 俺か? 俺はどっちに捨てられたか分からねぇなー。俺は赤ん坊の頃に捨てられたからな。お前らは親父に捨てられたのか?」
「多分……。じゃあな…って、言われた……。お母さんは、もっと前に家を出ていっちゃった……」
 ドラゴンが俯きながらそう言うと、レッジは「そうか」と俯くドラゴンの頭をわしゃわしゃと撫でた。ドラゴンはビクッと身体を震わせたが、叩かれた訳ではないと理解するとじわじわと涙が浮かび、レッジに抱きついてしゃくり上げながら泣き始めた。ドラゴンが泣きじゃくる姿を少し涙ぐみながら見守るザギに、ゼノが優しい声でザギに声をかけた。
「お前も泣きたいなら、泣いていいぞ。バーノでも俺でも抱きついて泣いていいからな」
「ゼノ、それじゃダメだぞ。こうするんだ」
 バーノはそう言うと、ザギをひょいっと抱き上げてザギが怯えなくなるまでポンポンとゆっくり、そして優しく背中を叩いてやった。そして落ち着いた頃にゆったりとした口調でザギに声をかけた。
「……お前さん、あの子のお兄ちゃんだろ?」
「うん…」
「そうか。お前さんはしっかり者のお兄ちゃんだなぁ。じゃあ、辛くても泣かなかったんじゃないか?」
「……うん。だって、僕はお兄ちゃんだから、強くなってドラゴンを守らなきゃいけないから、泣いちゃいけないんだ」
 ギュッと堪えるようにバーノの服を握り締め、泣くもんかと言うように口元を引き結んだ。それを横目に見たバーノはフッと笑って明るい声でこう言った。
「強いやつだって、泣くぞ? 泣かない奴が強いなんて事はないし、泣いちゃいけない、なんて事もない。守りたい奴がいる、心優しい奴が強くなれるもんだ。そして、優しい奴はよく泣く。俺みたいなおっさんだって泣くしな。……だから、小さいお前さんはいっぱい泣いていいんだぞー」
 よしよしと頭を優しく撫でてやると、グッと歯を食い縛って涙を堪えていたザギも、次第にボロボロと大粒の涙が頬を伝い始め、嗚咽を堪えながらもバーノの肩に顔を埋めて泣きじゃくった。
 そして泣きじゃくる二人を、三人は自然に泣き止むまで静かに慰め続けたのだった。
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