英雄の末裔も(語り継がれないけど)英雄

Ariasa(ありあーさ)

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一章 -幼少時代-

―悠久の友、信頼の臣の始まり― 1

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 アークス=ナヴァル王国きっての大都市で人間王が住まう街、大王都・クィントスの関門をくぐった二人はとりあえず、血でベトベトになってしまった顔や手を街の水路で洗い、そのあとは当てもなく街の大通りを歩いた。多くの人が行き交い、酒場やギルドホールでは沢山の笑い声が聞こえ、至るところで商人達が客を寄せるために声を張る。そんな賑わいにいつもの二人なら目を輝かせるが、目の前で慕っていた人を亡くしたばかりの二人はとても心踊らせる気にはなれず、俯き気味に、ただはぐれないように手だけをしっかりと繋いで歩いていた。
 そうしてトボトボと街中を歩いているうちに、いつの間にか立派な屋敷がたくさん連なる通り、通称『ロイヤルロード』と呼ばれている通りに来てしまい、二人はハッとしてキョロキョロと元の場所に戻る道を探したが適当に歩いていたために元の道がわからず、完全に迷子になってしまった。
「兄ちゃん……」
「だ、大丈夫だよ。もう少し歩いてみよう」
 不安げにザギを見つめるドラゴンに、ザギは気丈にそう言ってキュッとドラゴンの手を握るとさらに歩みを進めた。
 そして完全に日が暮れて月が空に昇る頃、二人はとても大きな門の前に辿り着いた。その奥には堂々とした立派な城が建っていて、沢山の窓から漏れる明かりとその奥に輝く月が相まってとても幻想的で、二人は一瞬だけ悲しみや喪失感、罪悪感を忘れておとぎ話の世界に迷い込んだのかと錯覚し、その風景に見とれていた。
「僕達、こんな時間に外をうろつくのは危ないよ? お父さんとお母さんも心配するから、おうちに帰りな?」
 不意に声をかけられた二人はその瞬間に現実に戻り、ビクッと肩を震わせて声をかけてきた人物を見上げた。そこにいたのは白の制服に身を包んだ二人の衛兵で、門番の証の帽子を被っていることから二人は門番で、城に見とれていたザギとドラゴンに気付いて声をかけてきたのだと理解した。
「あ、う、えっと…僕達は──」
「あぁー! 面白そうな子、見ぃつけた! ねぇねぇ、フィルター、ダナン。この二人と遊びたい! 中に入れてもいい?」
「リオ殿下……。またパーティーを抜け出したんですか? ダメですよ。この子達の身元が分からないんですから」
 突然ヒョコッと門の陰から煌びやかな服を着、リオ殿下と呼ばれた少年が出てきて、ザギとドラゴンは思い切り驚いて「わあぁ!?」と叫んでしまったが、門番の二人は慣れているらしく呆れた表情でザギとドラゴンに近付こうとするリオを抱き上げて止めた。
「フィルター、はーなーせー!」
「おっと。暴れないでください、リオ殿下。落ちますよ」
「王子を落として怪我なんてさせたら、お前の首が飛ぶもんなぁ。ハハッ」
「笑い事じゃないよ、ダナン……」
 暴れるリオを抱き上げているフィルターにカラカラとダナンは笑いかけ、それを見てフィルターは眉を下げてため息をついた。リオは抜け出せないと諦めて、フィルターの腕の中に大人しく納まると笑顔でザギとドラゴンに声をかけた。
「ねぇねぇ、君達の名前は? 僕はリオ・ルディン・アークス=ナヴァル! 第二王子? だよ! 皆には「リオ殿下」とか「リオ王子」って呼ばれてる~。よろしくね!」
「えっと、僕はザギ・ロディアノス。こっちが弟のドラゴン…です?」
「よ、よろしく……えっと、お願いします?」
 敬語がよく分からない二人は、自信が無さげに首をかしげながら名乗り、リオはその自信が無い様子を不思議がりつつ、二人の名前を聞いて驚いた表情を浮かべた。
「え、え、『ロディアノス』って、もしかしてザラギの末裔!? スゴい! じゃあ、もしかしてドラゴンが背負ってる剣は魔法剣? 付いてる宝玉は〈ソウル〉!? 僕、父様の〈ソウル〉は見せてもらったことあるけど、他の人の〈ソウル〉は初めて見た。ねえ、近くで見たい! 見せて」
 バタバタと足をばたつかせて腕を伸ばし、輝く眼でドラゴンが背負っている魔法剣を求めた。ドラゴンはそんな好奇心旺盛で人懐っこいリオのオーラに自然と肩の力が抜けて緊張がほぐれ、魔法剣を鞘ごと背中から外すとリオに差し出した。
「いいよ。はい」
「少し俺に確認させてくれるかな? 万が一殿下に怪我をさせる細工があったら困るからな」
 横で会話を聞いていたダナンが表面上は穏やかだが、目だけは隙がない真剣な眼差しでドラゴンを見据えた。ドラゴンはその眼にビクッとなったものの、素直にダナンに従って魔法剣を一旦ダナンに渡した。
「あぁー! ダナンずるい! 僕も早く見たい!」
「はいはい、すぐに検分を終わらせますよ」
 軽い口調で返しつつもダナンの目は真剣そのもので、何度か抜いたり仕舞ったりしてみたり、装飾を軽く叩いて仕掛けが仕込まれていないか調べたりした。そして一通り調べると胸ポケットに仕舞っていた白いハンカチの上に乗せてリオに差し出した。
「どうぞ。特に仕掛け等はありませんでしたが、刃は危ないのでお気をつけて扱いください」
「はーい、ありがとう! ……わぁ、綺麗。すごく綺麗なそーしょくだね。こんなに綺麗な剣、僕初めて見たよ。紫の〈ソウル〉って、怖いくらい綺麗。…よっ! …はい、ありがとう! ドラゴン!」
 うっとりと魔法剣と〈ソウル〉を眺めたあと、リオはパッと笑顔に戻ってフィルターの腕から飛び降りるとドラゴンに直接魔法剣を手渡した。
「うん、どういたしまして!」
 最初は緊張していたドラゴンもリオの人懐っこさのおかげで完璧に緊張がほぐれ、自然な笑顔でリオから魔法剣を受け取った。人見知りであるドラゴンが初対面の人とすぐに打ち解けた姿を見たザギは、リオの分け隔てない態度がドラゴンの警戒心を解いたのかと驚き、同時に弟の笑顔にホッとして表情を緩めた。
「ところで、なんで二人とも服に血が付いてるの? どこか怪我しちゃったの?」
 近付いた事で二人の服に血が付着していることに気付いたリオは首を傾げてそう言うと、ザギとドラゴンが賊であることも視野に入れている門番の二人は、ザギとドラゴンが攻撃を仕掛けてくる可能性を警戒し、リオを二人から離した。
「ちょっと、何するんだよー! ダナン、はーなーせー!」
「この二人がリオ殿下に害を与える可能性を警戒しただけです。まったく、もう少し警戒心ってものを持ってくださいよ……」
「二人は僕に害を与えるような人じゃ無いよ! ねぇ、怪我しちゃったの? 大丈夫? 痛くない?」
 警戒心の強すぎる門番二人に強く言い返し、すぐにリオはザギとドラゴンを心配する言葉をかけた。リオの優しい声と言葉に、二人はさっきの賊の襲撃とゼノの死が鮮明に脳裏に浮かび、ドラゴンはポロポロと涙を流し、ザギもまた目に涙を浮かべながらも、その涙を堪えるように唇を噛んだ。
「あわわっ、二人とも大丈夫? どこか痛いところあるの? ほらー! ダナンとフィルターが怖い顔するから泣いちゃったじゃん!」
「えぇ~…俺達のせいですか? というか、怖い顔でお城の入り口となる門を護るのが俺達の仕事ですよ~」
「で? なんでお前たちの服に血が付いてるんだ?」
 リオの言い分に眉を下げるフィルターに構わずダナンは二人に問うと、ザギが涙を堪えるように一度深く息を吸い、震える声でここに来るまでの事を話した。
「……そっか、悲しいことがいっぱいあったんだね。…ねぇ、行く所が無いならここに住みなよ! そして僕の友達になって!」
「リオ殿下、それは門番として許容できるものではありません。身元が保証されていない者を城内に入れるなど、私達が任務を放棄したと見なされてもおかしくない事です。私達は陛下の信頼を裏切るような真似はしたくありません。故にご容赦願いたい」
「むぅ~! 僕も同じくらいの歳の子と遊びたいー! それに、身元なんてドラゴンが持ってる〈ソウル〉と、『ロディアノス』の姓があれば十分だよ! 二人とも正真正銘、スカイラインの英雄の末裔!」
「その剣を偽造して、英雄の末裔の騙っている可能性も否定出来ないんですよ?」
「〈ソウル〉は偽造出来ないよーだ! ソウルの器となる剣やネックレスの型は偽造出来ても、宝玉の中に模様を刻む技は英雄・翔飛しょうひにしか出来ない技なんだよ! ダナン、さっき見たでしょ? 宝玉の中に刻まれた綺麗な〈ソウル〉の紋章を」
 ドヤ顔で自信満々に説明をするリオに門番二人は感心するような表情になるが、次にいつも授業をサボって逃げ回っているリオがちゃんと内容を覚えているという事実に苦笑を浮かべた。
「勉強をサボっていても、興味のあることはちゃんと覚えているんですね」
「ふふーん♪ これは父様に教えてもらったんだ~」
 リオは苦笑を向けられた事も気にせず、とにかく自分の知識を人に教えることが出来た喜びにニコニコと嬉しそうな表情になった。しかしザッザッと城の方から足音がすると、警戒心がその表情に浮かび、ハッと振り返った。
「リオ、こんなところにいたのか。皆お前の事を心配し、走って探しているぞ?」
 幻想的な月と城を背景に、威厳あるオーラを纏いながら、慈しみも感じられるその人物が城の方から歩いてきて、柔らかい表情でリオを見つめていた。
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