65 / 65
三章 ―旅立ちの時― (ここからが本番)
―ロアーズの末裔― 1
しおりを挟む
「もう出発するつもりなのかい!? 馬鹿言ってるんじゃないよ!!」
雷が落ちたのではないだろうか。そう思う声量で旅の準備を整えていたドラゴンに、エレーナが鬼の形相で怒鳴りつけた。ドラゴンはその声に思わずヒュッと息を呑み、肩をすくめた。
「師匠…」
「あんたの傷は一日やそこらで治るようなものじゃない。私があらかた治したとはいえ、激しい動きをすれば傷はすぐに開く。傷が開けば次はないよ」
「ですが、我々には時間が無いんです。一年で旅を終わらせなければならないのです」
「そもそもね、一年という時間が短すぎるのさ。言っておくけど、翔王に乗ったとしても人間には無理だよ。あの山には、カルヴィヴァ山脈以上に強力な魔物がうじゃうじゃいる。カルヴィヴァ山脈を越えるためにこんな大怪我を負ったあんたには荷が重い話さ。唯一、期限内に行けそうと思うダンジョンも同じ。山に住む魔物以上に強い魔物が平気で現れる。間違いなく死ぬ」
にべもなく非情な現実を突きつけるエレーナに、ドラゴンは思わず唇をかみしめて押し黙り、うつむいた。ドラゴン自身も分かっていた。魔物に後れを取り、大怪我を負ってしまった時点でこの旅の難易度の高さは自分の命一つをかけても足りないレベルであることを。
「それでも…陛下の命を遂行するためには、やるしかないんです」
「そのために、自分だけでなくあんたの主や私の愛し子の命まで捨てさせる気かい? だとしたら、あんたは今ここで死んだほうがいい。仲間の命すら危険にさらす奴にこの〈ソウル〉を持つ資格はない。死んであの世でザラギにその根性を叩き直してもらいな」
目にも留まらぬ速度で白刃の美しい刀をドラゴンの喉元に突きつけるエレーナに、ドラゴンはその速度に驚いてわずかに身じろぐ事しかできなかった。
「私程度に後れを取るようじゃ、あのお二人に勝つなんて無理。いろいろと足りていないのさ」
「……では、どうすればいいのですか。俺は、どうすれば良かった」
涙こそないが、今にも泣きだしそうな情けない表情でエレーナを見上げるドラゴンに、エレーナは刀を鞘にしまって慈愛に満ちた母のような優しい表情でドラゴンの頬を手で包み込んだ。
「今は、自分の怪我を治すことに集中しなさい。いいかい? この旅の肝はあんたさ。なぜか分かるかい?」
「……いえ」
「紫の〈ソウル〉を振るうものの宿命はね、種族間のわだかまりを無視してまとめ上げ、世界の脅威を排除することなのさ。〈ソウル〉を持つ者を集めるということは、当然人間以外の種族も仲間にしなければならない。その時にまとめるのは人間王じゃない。ドラゴン、あんたなんだよ。だから、あんたが死んだらいけないのさ。勅命は何よりも大事なのかもしれないけれど、それ以上に自分の命を大切にしなさい」
何よりも自分の命を大切にする。その言葉は今まで無意識に自分に課してきた理念とは異なり、違和感を覚えるドラゴンだが、同時にふと『生きていてもいい』と死に急いでいた感情から解放されたように根底にあった心の闇が薄れた。
「……俺は、生きていてもいいのか」
「当たり前さ」
ぽつりとつぶやいた言葉にエレーナはポンポンと優しくドラゴンの頭を撫でながら穏やかな声で言葉を返した。その声と言葉にドラゴンは、思わず熱いものが込み上げてきてそれをこらえるためにうつむいた。
「おやおや、案外泣き虫なところもあるんだねぇ」
「今は…顔を見ないでください」
「はいはい」
クスクスと笑いながらもエレーナは撫でる手を止めずにしばらくドラゴンの側に付き添い、そのまま子守歌を詠うかのように治癒魔法の詠唱をしてドラゴンの傷を癒した。
それからドラゴンはリオや翔陽達に断りを入れ、傷の療養を優先しつつエレーナに魔力の流れをつかむための特訓をつけてもらいながら炎童家に一週間ほど滞在することを決断した。
一方、リオはこの一週間、武器や新しい防具などを翔陽と話しながら修理、新調していた。
「殿下の武器はどれもとても美しいですね。芸術品のようでありながら使い手が使いやすいように工夫が凝らされている。素材も軽くて丈夫な物を使っているのでしょうか…。あぁ、私もこんなに素敵な物を作ってみたい。私がこの武器のメンテナンスを行って、本当にいいのですか?」
少年のように目をキラキラとさせながらリオの武器を点検する翔陽に、リオはニッと笑って「頼んだぜ」と翔陽の肩をポンポンと軽く叩いた。
「リオ君、リオ君、今までほとんど防具を着けていなかったようだけど、よく生きてられたね~」
「あぁ、俺あまり防具って着けたくなくてさ。重いし、臭いし。だから、魔法道具ですべてまかなってた」
「それじゃあさ、兄ちゃんに作ってもらえばいいんじゃない? 兄ちゃんならリオ君の要望に沿った防具を作れるよね」
椅子の背を体の前に持ってきて座るあんこが、今日のおやつは団子だよねというような軽さで提案をすると、翔陽はさも当たり前のように「作れるよ」と何の迷いもなく言ってのけた。
「つまり殿下は、防具の重さと保護する油の臭いが嫌なんですよね。それだけが原因なら解決は簡単ですよ」
「あー、あと防具を着けると動きづらくなるじゃん? 俺、結構激しい動きをするから防具があると邪魔なんだよね」
「…ふむ、では殿下と手合わせをする許可をいただけませんか? 木刀とはいえ王族に刃を向けるのは気が引けますが、戦闘スタイルは実際に見させていただいた方が話が早そうです」
顎に手を当てて少し考えたあと、真っすぐにリオを見据えてそう提案してくる翔陽に、リオが否を返す訳がなく、嬉しそうに笑いながら快諾した。
「いいね! でも、翔陽は職人だろう? 剣は使えるのか?」
「たしなむ程度ですけどね」
「謙遜しすぎでしょ、兄ちゃん。兄ちゃんは私が所属する自警団の団長と対等に戦えるから強いよ!」
翔陽が笑いながらそう言うと、すかさずあんこが自慢げに補足した。
「お、そうなのか! じゃあ楽しみだな! 早速手合わせするか?」
「えぇ、そうですね。祖がドラゴン殿を一喝して休息を取るよう説得しましたが、そう長く休んでいる場合でもないでしょうし」
「そうだな。でも、あの声はすごかったな。遠くにいた俺たちの所にも声が聞こえた」
「ま、祖が怒ればあんなもんだよね」
リオの言葉にあんこがカラカラと笑いながらそう言い、三人は自警団の訓練場へ向かった。
「大地、いる~?」
訓練場へ着くと、あんこはのんきな声で呼びかける。すると奥からガッチリとした身体つきの男性が出てきて、あんこと翔陽を見るや「おー」と片手をあげて軽く歓迎した。
「来るなら言ってくれりゃぁ良かったのに…って、後ろのヤツ、誰だ?」
「大地~、ヤツって言っちゃだめだよ。リオ殿下だよ?」
「は? リオ殿下って、全王族のリオ殿下か? こんなド田舎に来るかよ」
「それが来ちゃったんだな~。にっしっし! 俺はリオ・イズウェル・ルディン・アークス=ナヴァル。以後よろしくな」
明るく笑いながら名乗るリオに、大地は一瞬呆けた後すぐに慌てて跪き、頭を下げた。
「大変失礼しました。まさか殿下がいらっしゃるとは思わず…。無礼をお許しください」
「俺の方こそ、いきなり来てごめんね。気にしてないから頭を上げて、立って立って」
思った以上に緊張している大地に、リオは途端に申し訳なくなりポンポンと肩を叩いて立つように促した。大地は若干顔を青ざめさせつつ立ち上がり「寛大なお心に感謝します」と深く頭を下げてリオを見た。
「さて、今日はちょっとこの訓練場を借りに来たんだ。借りてもいい?」
「はい。今日は特に使用する予定はないので、いくらでもお使いください」
「ありがとう。じゃあ、翔陽。早速やろうぜ」
壁に掛けてあった木刀を二つ取り、そのうちの一つを翔陽に投げ渡すと、翔陽はそれを受け取りながら「お手柔らかに」と軽く笑った。そして二人は訓練場の中央に立つと、フッと緊張感が二人の間に流れて集中力が二人とも高まっていることがその真剣な表情から見て取れた。
「兄ちゃん、頑張れー!」
あんこが翔陽を応援すると、リオが真剣な表情から不敵な笑みに変えて翔陽に切り込んできた。
「っ!」
想像以上のスピードで切り込んできたリオに、翔陽は驚きつつも反射でその剣を受け止め大きく後ろへ飛びのいた。しかしそれを追いかけてリオも踏み込んでおり、翔陽は風切り音のする二撃目の斬撃を体をひねってかわしつつ、無理な体勢からリオの体勢を崩そうと足払いをかけた。
「おっと」
足払いをかけられる寸前でジャンプをしてかわすと、いったん距離を取った。翔陽は体勢を保てずにゴロゴロと地面を転がるがすぐに立ち上がり、木刀を再び構えた。
「強いですね、殿下」
「まあね。俺、もともと騎士になりたかったから鍛えてたんだ」
強いという誉め言葉にリオは素直に喜び、嬉しそうに笑いながら答えた。すると、あんこがどこから持ってきたのか、練習用の薙刀を持ってきて、翔陽の隣に並んだ。
「兄ちゃんが負けるとかありえないから、あたいも参戦するよ」
「おっ、いいね! 二人で全力で来てみてよ。俺、そういうスリリングなヤツ好きなんだ」
そう言うやリオは再び自分から攻撃を仕掛け、あんこに斬りかかった。あんこはそれを薙刀の柄で受け止めると、いなしてリオの背後を取り流れるような動作で攻撃に転じた。リオはその無駄のない動きに感動しつつ、攻撃を受け止めると、ぞわっと背後から闘気を感じてあんこを力任せに押し返すと背後から攻撃を仕掛けてきた翔陽の攻撃を避けた。
「ふぃ~、危ない危ない」
「次々行くよ!」
あんこは大振りな動きでリオに突っ込んでくるが、大振りな動きのわりに隙が無く、リオはつわものの気配に気持ちが高揚した。しかしリオも衛兵や近衛騎士達と訓練を重ねていた実績がある。あんこの攻撃はちゃんと見切って避け、翔陽の攻撃も勘と自慢の運動神経で受け止めていた。
自由自在に体を動かすリオに、翔陽は戦いながら確かにこの動きに合う防具はなかなか見つからないだろうなと考え、だからこそ魔法道具を使用しているのだと理解した。防具が重ければ、この動きは鈍くなり、さらに素材が固ければ動きを邪魔してしまう可能性もある。逆に薄すぎても防具としての機能を果たさない。
「…伸縮性のある丈夫な素材じゃないとダメかな。家の在庫に何かあったっけ」
「隙あり!」
攻撃の手を緩めて考え事にふけっていると、リオがその隙を見逃さずにすかさず翔陽の木刀をはじいて首に木刀を向けた。
「兄ちゃん! っ、兄ちゃんから離れろ!」
「うおっ⁉」
自慢の脚力で高く跳躍し、上から大上段で薙刀を振り下ろすあんこに、リオは思わず翔陽から離れて飛び退いた。
ドゴッと地面を抉る力強い一撃に、リオは少し青ざめつつ木刀を下ろして敵意は無いことを示す。
「あんこちゃ~ん、落ち着いて。もう勝負はついたから終わりにしよう?」
「まだ、私が負けてない! 兄ちゃんの仇は私が討つ!」
「えぇ~。…仕方ないなぁ。じゃあ、最後まで付き合ってもらうぜ!」
フーッと威嚇する猫のように闘志を燃やすあんこに、リオは少し困りつつもすぐに不敵な笑みを浮かべて再び木刀を構え直す。そしてすぐにダッと踏み込んであんこに斬りかかった。あんこもまた、真正面からリオに向かっていき、間合いの内に入られる前に薙刀を振り回してリオに攻撃をさせないよう巧みに薙刀を操る。
武器の長さに大きな差があるため、リオはなかなかあんこに攻撃を仕掛けることが出来ず、苦戦を強いられていた。
「長物って実際に戦ってみると厄介だ~。ドラゴンは俺の事をどんな風に攻撃してたっけな」
なかなか近づけないもどかしさに若干の苛立ちを覚えつつ、いつも手合わせをしているドラゴンは、自分が槍を使用した時にどんな戦いをしていただろうかと思い返した。
「……ダメだ。あいつめっちゃ捨て身で来る…。でも、こんな感じかなっ」
リオは、あんこの動きをよく観察し、もし当たっても致命傷にならないところに当たるように体を使いながら一瞬の間にあんこの間合いの内に入ると、胸ぐらと腕をつかんで思い切りあんこを投げ飛ばした。
「よしっ! 間合いの内に入れた!」
できた事の喜びにガッツポーズを取るリオの一方で、投げ飛ばされたあんこは、受け身を取って地面に転がりつつ、自分に起こった事を理解しきれない様子でパチパチと目を瞬いていた。
「……あんこ、大丈夫かい?」
「兄ちゃん…私、負けた?」
「そうだね。あの状態だとあんこの負けだね」
翔陽があんこを助け起こしながら穏やかに負けを告げると、あんこは途端に悔しそうに歯を食いしばり、その目に涙を浮かべた。それを見てリオはギョッとする。
「えっ、嘘、痛かった? あんこちゃん、ごめんね⁉」
「うあぁぁぁぁん! あたい負けちゃったぁぁぁぁ! 悔しいよぉぉぉ!」
周りを気にせず大声で泣き出すあんこに、リオはどうすることも出来ずにオロオロすることしか出来ず、翔陽と大地はやれやれと苦笑をした。
「はぁ…ガキかよ。申し訳ありません、殿下。あんこは負けると悔しくて泣く奴で…」
大地がすかさず間に入ってオロオロするリオに説明をすると、リオは「そうなの?」と大地を見た。
「まあ、一通り泣けばすぐにケロッと元に戻るので、放っておいても問題ありません。それにしても、素晴らしい剣技ですね。動きが洗練されて、幼い頃から剣を握られていたのが分かりました」
「えっ、そう? 俺、そんなに強かった? ありがとう!」
大地の称賛に、リオは素直に喜んで満面の笑みで礼を言うと大地の手をギュッと握ると、今度は大地はあわあわとどうすべきか慌てた。その様子を翔陽はあんこを慰めつつほっこりとしながら眺めていたのだった。
雷が落ちたのではないだろうか。そう思う声量で旅の準備を整えていたドラゴンに、エレーナが鬼の形相で怒鳴りつけた。ドラゴンはその声に思わずヒュッと息を呑み、肩をすくめた。
「師匠…」
「あんたの傷は一日やそこらで治るようなものじゃない。私があらかた治したとはいえ、激しい動きをすれば傷はすぐに開く。傷が開けば次はないよ」
「ですが、我々には時間が無いんです。一年で旅を終わらせなければならないのです」
「そもそもね、一年という時間が短すぎるのさ。言っておくけど、翔王に乗ったとしても人間には無理だよ。あの山には、カルヴィヴァ山脈以上に強力な魔物がうじゃうじゃいる。カルヴィヴァ山脈を越えるためにこんな大怪我を負ったあんたには荷が重い話さ。唯一、期限内に行けそうと思うダンジョンも同じ。山に住む魔物以上に強い魔物が平気で現れる。間違いなく死ぬ」
にべもなく非情な現実を突きつけるエレーナに、ドラゴンは思わず唇をかみしめて押し黙り、うつむいた。ドラゴン自身も分かっていた。魔物に後れを取り、大怪我を負ってしまった時点でこの旅の難易度の高さは自分の命一つをかけても足りないレベルであることを。
「それでも…陛下の命を遂行するためには、やるしかないんです」
「そのために、自分だけでなくあんたの主や私の愛し子の命まで捨てさせる気かい? だとしたら、あんたは今ここで死んだほうがいい。仲間の命すら危険にさらす奴にこの〈ソウル〉を持つ資格はない。死んであの世でザラギにその根性を叩き直してもらいな」
目にも留まらぬ速度で白刃の美しい刀をドラゴンの喉元に突きつけるエレーナに、ドラゴンはその速度に驚いてわずかに身じろぐ事しかできなかった。
「私程度に後れを取るようじゃ、あのお二人に勝つなんて無理。いろいろと足りていないのさ」
「……では、どうすればいいのですか。俺は、どうすれば良かった」
涙こそないが、今にも泣きだしそうな情けない表情でエレーナを見上げるドラゴンに、エレーナは刀を鞘にしまって慈愛に満ちた母のような優しい表情でドラゴンの頬を手で包み込んだ。
「今は、自分の怪我を治すことに集中しなさい。いいかい? この旅の肝はあんたさ。なぜか分かるかい?」
「……いえ」
「紫の〈ソウル〉を振るうものの宿命はね、種族間のわだかまりを無視してまとめ上げ、世界の脅威を排除することなのさ。〈ソウル〉を持つ者を集めるということは、当然人間以外の種族も仲間にしなければならない。その時にまとめるのは人間王じゃない。ドラゴン、あんたなんだよ。だから、あんたが死んだらいけないのさ。勅命は何よりも大事なのかもしれないけれど、それ以上に自分の命を大切にしなさい」
何よりも自分の命を大切にする。その言葉は今まで無意識に自分に課してきた理念とは異なり、違和感を覚えるドラゴンだが、同時にふと『生きていてもいい』と死に急いでいた感情から解放されたように根底にあった心の闇が薄れた。
「……俺は、生きていてもいいのか」
「当たり前さ」
ぽつりとつぶやいた言葉にエレーナはポンポンと優しくドラゴンの頭を撫でながら穏やかな声で言葉を返した。その声と言葉にドラゴンは、思わず熱いものが込み上げてきてそれをこらえるためにうつむいた。
「おやおや、案外泣き虫なところもあるんだねぇ」
「今は…顔を見ないでください」
「はいはい」
クスクスと笑いながらもエレーナは撫でる手を止めずにしばらくドラゴンの側に付き添い、そのまま子守歌を詠うかのように治癒魔法の詠唱をしてドラゴンの傷を癒した。
それからドラゴンはリオや翔陽達に断りを入れ、傷の療養を優先しつつエレーナに魔力の流れをつかむための特訓をつけてもらいながら炎童家に一週間ほど滞在することを決断した。
一方、リオはこの一週間、武器や新しい防具などを翔陽と話しながら修理、新調していた。
「殿下の武器はどれもとても美しいですね。芸術品のようでありながら使い手が使いやすいように工夫が凝らされている。素材も軽くて丈夫な物を使っているのでしょうか…。あぁ、私もこんなに素敵な物を作ってみたい。私がこの武器のメンテナンスを行って、本当にいいのですか?」
少年のように目をキラキラとさせながらリオの武器を点検する翔陽に、リオはニッと笑って「頼んだぜ」と翔陽の肩をポンポンと軽く叩いた。
「リオ君、リオ君、今までほとんど防具を着けていなかったようだけど、よく生きてられたね~」
「あぁ、俺あまり防具って着けたくなくてさ。重いし、臭いし。だから、魔法道具ですべてまかなってた」
「それじゃあさ、兄ちゃんに作ってもらえばいいんじゃない? 兄ちゃんならリオ君の要望に沿った防具を作れるよね」
椅子の背を体の前に持ってきて座るあんこが、今日のおやつは団子だよねというような軽さで提案をすると、翔陽はさも当たり前のように「作れるよ」と何の迷いもなく言ってのけた。
「つまり殿下は、防具の重さと保護する油の臭いが嫌なんですよね。それだけが原因なら解決は簡単ですよ」
「あー、あと防具を着けると動きづらくなるじゃん? 俺、結構激しい動きをするから防具があると邪魔なんだよね」
「…ふむ、では殿下と手合わせをする許可をいただけませんか? 木刀とはいえ王族に刃を向けるのは気が引けますが、戦闘スタイルは実際に見させていただいた方が話が早そうです」
顎に手を当てて少し考えたあと、真っすぐにリオを見据えてそう提案してくる翔陽に、リオが否を返す訳がなく、嬉しそうに笑いながら快諾した。
「いいね! でも、翔陽は職人だろう? 剣は使えるのか?」
「たしなむ程度ですけどね」
「謙遜しすぎでしょ、兄ちゃん。兄ちゃんは私が所属する自警団の団長と対等に戦えるから強いよ!」
翔陽が笑いながらそう言うと、すかさずあんこが自慢げに補足した。
「お、そうなのか! じゃあ楽しみだな! 早速手合わせするか?」
「えぇ、そうですね。祖がドラゴン殿を一喝して休息を取るよう説得しましたが、そう長く休んでいる場合でもないでしょうし」
「そうだな。でも、あの声はすごかったな。遠くにいた俺たちの所にも声が聞こえた」
「ま、祖が怒ればあんなもんだよね」
リオの言葉にあんこがカラカラと笑いながらそう言い、三人は自警団の訓練場へ向かった。
「大地、いる~?」
訓練場へ着くと、あんこはのんきな声で呼びかける。すると奥からガッチリとした身体つきの男性が出てきて、あんこと翔陽を見るや「おー」と片手をあげて軽く歓迎した。
「来るなら言ってくれりゃぁ良かったのに…って、後ろのヤツ、誰だ?」
「大地~、ヤツって言っちゃだめだよ。リオ殿下だよ?」
「は? リオ殿下って、全王族のリオ殿下か? こんなド田舎に来るかよ」
「それが来ちゃったんだな~。にっしっし! 俺はリオ・イズウェル・ルディン・アークス=ナヴァル。以後よろしくな」
明るく笑いながら名乗るリオに、大地は一瞬呆けた後すぐに慌てて跪き、頭を下げた。
「大変失礼しました。まさか殿下がいらっしゃるとは思わず…。無礼をお許しください」
「俺の方こそ、いきなり来てごめんね。気にしてないから頭を上げて、立って立って」
思った以上に緊張している大地に、リオは途端に申し訳なくなりポンポンと肩を叩いて立つように促した。大地は若干顔を青ざめさせつつ立ち上がり「寛大なお心に感謝します」と深く頭を下げてリオを見た。
「さて、今日はちょっとこの訓練場を借りに来たんだ。借りてもいい?」
「はい。今日は特に使用する予定はないので、いくらでもお使いください」
「ありがとう。じゃあ、翔陽。早速やろうぜ」
壁に掛けてあった木刀を二つ取り、そのうちの一つを翔陽に投げ渡すと、翔陽はそれを受け取りながら「お手柔らかに」と軽く笑った。そして二人は訓練場の中央に立つと、フッと緊張感が二人の間に流れて集中力が二人とも高まっていることがその真剣な表情から見て取れた。
「兄ちゃん、頑張れー!」
あんこが翔陽を応援すると、リオが真剣な表情から不敵な笑みに変えて翔陽に切り込んできた。
「っ!」
想像以上のスピードで切り込んできたリオに、翔陽は驚きつつも反射でその剣を受け止め大きく後ろへ飛びのいた。しかしそれを追いかけてリオも踏み込んでおり、翔陽は風切り音のする二撃目の斬撃を体をひねってかわしつつ、無理な体勢からリオの体勢を崩そうと足払いをかけた。
「おっと」
足払いをかけられる寸前でジャンプをしてかわすと、いったん距離を取った。翔陽は体勢を保てずにゴロゴロと地面を転がるがすぐに立ち上がり、木刀を再び構えた。
「強いですね、殿下」
「まあね。俺、もともと騎士になりたかったから鍛えてたんだ」
強いという誉め言葉にリオは素直に喜び、嬉しそうに笑いながら答えた。すると、あんこがどこから持ってきたのか、練習用の薙刀を持ってきて、翔陽の隣に並んだ。
「兄ちゃんが負けるとかありえないから、あたいも参戦するよ」
「おっ、いいね! 二人で全力で来てみてよ。俺、そういうスリリングなヤツ好きなんだ」
そう言うやリオは再び自分から攻撃を仕掛け、あんこに斬りかかった。あんこはそれを薙刀の柄で受け止めると、いなしてリオの背後を取り流れるような動作で攻撃に転じた。リオはその無駄のない動きに感動しつつ、攻撃を受け止めると、ぞわっと背後から闘気を感じてあんこを力任せに押し返すと背後から攻撃を仕掛けてきた翔陽の攻撃を避けた。
「ふぃ~、危ない危ない」
「次々行くよ!」
あんこは大振りな動きでリオに突っ込んでくるが、大振りな動きのわりに隙が無く、リオはつわものの気配に気持ちが高揚した。しかしリオも衛兵や近衛騎士達と訓練を重ねていた実績がある。あんこの攻撃はちゃんと見切って避け、翔陽の攻撃も勘と自慢の運動神経で受け止めていた。
自由自在に体を動かすリオに、翔陽は戦いながら確かにこの動きに合う防具はなかなか見つからないだろうなと考え、だからこそ魔法道具を使用しているのだと理解した。防具が重ければ、この動きは鈍くなり、さらに素材が固ければ動きを邪魔してしまう可能性もある。逆に薄すぎても防具としての機能を果たさない。
「…伸縮性のある丈夫な素材じゃないとダメかな。家の在庫に何かあったっけ」
「隙あり!」
攻撃の手を緩めて考え事にふけっていると、リオがその隙を見逃さずにすかさず翔陽の木刀をはじいて首に木刀を向けた。
「兄ちゃん! っ、兄ちゃんから離れろ!」
「うおっ⁉」
自慢の脚力で高く跳躍し、上から大上段で薙刀を振り下ろすあんこに、リオは思わず翔陽から離れて飛び退いた。
ドゴッと地面を抉る力強い一撃に、リオは少し青ざめつつ木刀を下ろして敵意は無いことを示す。
「あんこちゃ~ん、落ち着いて。もう勝負はついたから終わりにしよう?」
「まだ、私が負けてない! 兄ちゃんの仇は私が討つ!」
「えぇ~。…仕方ないなぁ。じゃあ、最後まで付き合ってもらうぜ!」
フーッと威嚇する猫のように闘志を燃やすあんこに、リオは少し困りつつもすぐに不敵な笑みを浮かべて再び木刀を構え直す。そしてすぐにダッと踏み込んであんこに斬りかかった。あんこもまた、真正面からリオに向かっていき、間合いの内に入られる前に薙刀を振り回してリオに攻撃をさせないよう巧みに薙刀を操る。
武器の長さに大きな差があるため、リオはなかなかあんこに攻撃を仕掛けることが出来ず、苦戦を強いられていた。
「長物って実際に戦ってみると厄介だ~。ドラゴンは俺の事をどんな風に攻撃してたっけな」
なかなか近づけないもどかしさに若干の苛立ちを覚えつつ、いつも手合わせをしているドラゴンは、自分が槍を使用した時にどんな戦いをしていただろうかと思い返した。
「……ダメだ。あいつめっちゃ捨て身で来る…。でも、こんな感じかなっ」
リオは、あんこの動きをよく観察し、もし当たっても致命傷にならないところに当たるように体を使いながら一瞬の間にあんこの間合いの内に入ると、胸ぐらと腕をつかんで思い切りあんこを投げ飛ばした。
「よしっ! 間合いの内に入れた!」
できた事の喜びにガッツポーズを取るリオの一方で、投げ飛ばされたあんこは、受け身を取って地面に転がりつつ、自分に起こった事を理解しきれない様子でパチパチと目を瞬いていた。
「……あんこ、大丈夫かい?」
「兄ちゃん…私、負けた?」
「そうだね。あの状態だとあんこの負けだね」
翔陽があんこを助け起こしながら穏やかに負けを告げると、あんこは途端に悔しそうに歯を食いしばり、その目に涙を浮かべた。それを見てリオはギョッとする。
「えっ、嘘、痛かった? あんこちゃん、ごめんね⁉」
「うあぁぁぁぁん! あたい負けちゃったぁぁぁぁ! 悔しいよぉぉぉ!」
周りを気にせず大声で泣き出すあんこに、リオはどうすることも出来ずにオロオロすることしか出来ず、翔陽と大地はやれやれと苦笑をした。
「はぁ…ガキかよ。申し訳ありません、殿下。あんこは負けると悔しくて泣く奴で…」
大地がすかさず間に入ってオロオロするリオに説明をすると、リオは「そうなの?」と大地を見た。
「まあ、一通り泣けばすぐにケロッと元に戻るので、放っておいても問題ありません。それにしても、素晴らしい剣技ですね。動きが洗練されて、幼い頃から剣を握られていたのが分かりました」
「えっ、そう? 俺、そんなに強かった? ありがとう!」
大地の称賛に、リオは素直に喜んで満面の笑みで礼を言うと大地の手をギュッと握ると、今度は大地はあわあわとどうすべきか慌てた。その様子を翔陽はあんこを慰めつつほっこりとしながら眺めていたのだった。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
新しく炎童の話が書かれてます
今までとは違って戦ってるシーンが良く再現されてて面白かったです!!
大地と草子の性格や翔陽の話し方、あんこの可愛さ等もイメージが出来てどういう人物って言うのが分かりやすかったです!!
文句なしの話でした!
これからも応援してます!
次の話を期待してます!( *˙ω˙*)و グッ!
応援、ありがとうございます!
これからも「面白い」と思って頂けるような物語を書けるように精進しますので、これからも応援をよろしくお願いします。
そして感想もありがとうございます!
どんな感想でも私の糧となるので、本当に嬉しかったです。
今後も丁寧に作品を作っていこうと思います。
次回更新は今のところ未定ですが、楽しみに待っていてくれればと思います。
貴重な感想、ありがとうございました!