英雄の末裔も(語り継がれないけど)英雄

Ariasa(ありあーさ)

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二章 ―少年から青年へ― (読み飛ばしOK)

―賊の襲撃事件― 1

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 ドラゴンの母親が見つかり、城に残ると決意をしてからさらに六年の時が経った。レイロンドは二十歳、ドラゴンは十五歳、リオは十四歳となり、それぞれ子供らしさは影を潜め、大人へと変わり始めていた。
 そして成人して、新しく『イーリス』の名を貰ったレイロンドは『レイロンド・イーリス・ルディン・アークス=ナヴァル』と正式に名乗るようになっていた。
 この世界の人間の成人は18歳とされていて、貴族や王族などの上に立つ者達は成人すると、そのお祝いとして神殿や自国の王から、祝福の名を貰う習わしがある。それゆえ、その名を貰うことで貴族、王族は大人と認められ、発言に影響力がついてくるようになるのだ。
 さらに全王は王位に就くときにもう一つ、神から寵愛の名と呼ばれる名を貰う。人間王『ライメティア・イーゼ・オズウェル・ルディン・アークス=ナヴァル』も、寵愛の名として『イーゼ』の名を信仰神、〔時の支配者・クロキュール〕から賜っている。
 寵愛の名を得ることでそれぞれの全王に与えられる力も得られるとされているため、とても大切な名であり、王たるものの象徴でもあった。
 そんな、レイロンドの新しい名が周知されてきて、王の執務や公務に付いていく機会が増えたこの頃、ドラゴンとリオもまた大きく成長をしていた。特にドラゴンの成長は目をみはるものがあり、庶民だったとは思えない豊富な知識と気品溢れる出で立ちは並の貴族では対抗できない程となり、端正な顔立ちが浮かべる鉄壁の笑顔営業スマイルは年頃の令嬢をたちまち虜にさせた。さらにラエルにみっちりとしごかれたお陰で、筋肉、体力共に申し分ないほど付き、剣の扱いも格段と上達した。天才だった兄に比べたら覚えは遅いが、それでも才能は多分にあり、大人と手合わせをしても必ず相手を苦戦させ、互角まで持っていく位には剣の扱いも体の使い方も上手かった。
 力をつけたドラゴンをさらに疎む貴族も少なくないが、努力をする姿に好感を持ち味方となる貴族も増えているのも事実で、ドラゴンはそれなりに王宮での地位を確立させていった。
 そしてリオも相変わらず勉強は苦手としてアリアーサから逃げ回っているが、武術の才は天才と言っても差し支えがないほど、さまざまな武器を駆使することが出来た。その中でも弓の扱いはもはや王城衛兵や近衛騎士の誰よりも上手い腕前であり、命中率はほぼ十割という驚異的な記録を叩き出している。
 そんな風にドラゴンとリオは互いに切磋琢磨して技を磨き、互いを高めてきたのだった。
「隙あり!」
「ふ、わざとに決まってるだろっ。はぁっ!」
 ガキンッと刃を潰した剣同士がぶつかり合い、二人は不敵に笑いながらつばぜり合いをする。
「まったまた~。わざととか言って、本当は危なかったんじゃないの?」
かせ。お前こそ、俺の斬撃を受け止めるのが精一杯だっただろうが。そのふてぶてしい笑顔の裏で焦ってるだろう?」
「ふてぶてしいって、酷くない!? まったく…王子の俺にそんな事言うの、ドラゴンくらいだよっ、と!」
    ギンっと互いに剣を弾いて一旦距離を取ると、静かに互いの呼吸を読んで次の手を見抜こうと様子を伺った。
「あ、いたいた。やっぱり二人とも訓練場に入り浸っていたんだね」
 すると訓練場の入り口からひょこっとレイロンドが顔を出し、のんびりとした口調で睨み合う二人に声をかけた。その声に二人とも剣を下ろしてレイロンドを見ると、さっきまでの真剣な表情はどこへやら。笑顔でレイロンドの方に歩み寄った。
「兄様お帰り~! 公務お疲れ様~♪」
「レイド、帰ってきたんだな。お疲れ様」
「二人ともありがとう。それにしても…また二人とも背が伸びたかい? 二ヶ月前より目線の位置が高くなったね。私の背もすぐに追い越されそうだ」
 もうほとんど自分と変わらなくなった背丈に、レイロンドはちょっぴり悔しさを覚えつつ、それ以上に二人の成長を喜んで笑顔を向けた。
「ふふーん♪ 兄様の身長はすぐに越しちゃうよ。覚悟しておいてね!」
「それよりも、体調は問題ないのか? 疲れて調子を崩したりしていないか?」
 えっへんと胸を張るリオをさりげなく押し退けてレイロンドの前に来るとすかさず体調を心配してくれるドラゴンの姿に、レイロンドは父が最も信頼する側近が思い浮かび、こっそり将来の王家も賑やかそうだと微笑んだ。
「あぁ、今は大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、ドラゴン」
「いや、心配するのは当たり前だ。大切な兄弟、だからな」
 令嬢達に向けるものとはまったく別の、自然な笑顔でふわりと笑うドラゴンに、レイロンドとリオは自分達にだけ見せる笑顔を嬉しく思った。
「レイロンド殿下、リオ殿下、ドラゴン、ここに居たんだな。陛下がお呼びだ。謁見の間に向かいなさい」
 訓練場の入り口から、二年前にようやく嫁を取り、今年赤子が生まれる予定のデルトアが三人のところに来てそう言った。
「謁見の間? 随分と仰々しいね~。何かあったのかな?」
「さあ? 私も見当がつかない」
「デルトアさん、俺も呼ばれているんですか?」
「あぁ、三人を呼ぶように言われている。…深刻な話になるだろう。心して行った方がいい」
 デルトアの言葉に三人は顔を見合わせて首を傾げつつも、深刻な内容なのかと急いで謁見の間に向かった。
 そして両開きの四メートルはあるのではないかという繊細な模様が彫られている重厚な扉の前まで来ると、近衛騎士がギイィッとその大きな扉を開けた。
「失礼します、父上」
 レイロンドが代表して一言声を掛けてから謁見の間に入るとさらに天井が高くなる。
 何度見ても感嘆のため息を吐いてしまう神々の物語をモチーフに作られたステンドグラスから、昼下がりの陽光が降り注いで、大理石の床に美しい神々の姿が映し出される。両側に並ぶ柱も、一柱一柱に繊細な彫刻が施されていて、見ていて飽きることはない。
 その一番奥に数段高くなっている王座があり、豪奢な玉座に座って難しい表情を浮かべる王の前に三人は跪いた。
「急に呼び出して悪かった。息子達よ」
 いつもの優しい父親ではなく、人間を統べる王として接するライメティア王に、三人は無意識に緊張して気が引き締まった。
「いえ、陛下の呼び出しとあらば、すぐさま飛んで参りましょう」
 レイロンドもまた第一王子として王に返事をし、その場は一切おちゃらけた雰囲気を許さない空間となった。
「そうか。…では早速だが本題に入ろう。なお、これから私が発する言葉に関して、お前達はこの場で一切の不平不満、疑問を口にすることは許されない。よいな」
「はっ」
 王の言葉を三人とも怪訝に思いつつも、ここで否を唱えることも出来ないため、声を揃えて是を唱える。
「では申す。……ライメティア・イーゼ・オズウェル・ルディン・アークス=ナヴァルの名において、第一王子、レイロンド・イーリス・ルディン・アークス=ナヴァルの王位継承権を剥奪する。それにあたり、第二王子、リオ・ルディン・アークス=ナヴァルに王位継承権を与える」
「なっ…」
「なぜです、へい─ムグッ!?」
 立ち上がって王に問いただそうとしたリオの口をドラゴンは慌てて手で塞ぎ、無理やり跪かせた。レイロンドも、喉の手前まで出かけた言葉をなんとか飲み込むのが精一杯で、ただひたすら困惑した。
「さらに、ドラゴン・ロディアノスは一週間後から正式に近衛騎士団に入団し、騎士見習いとして鍛練を積むように。一週間の猶予は、荷物の整理と寮への引っ越しの期間と心得よ」
「はっ…、かしこまりました」
 そしてドラゴンも二人ほどではないが、側に居て二人を支えたいと思った矢先に寮へ移ることを言い渡され、内心苦い思いで深く頭を垂れて了承した。
「以上だ。レイロンドはあとで私の私室に来なさい。今後の事を話す。リオはこれから、王となるべく一層勉学に励みなさい。武を磨くことも悪くはないが、これからはやるべき事を終わらせてからやりなさい。ドラゴンは慢心せず、二人を、そしてこの国を守る立派な騎士になりなさい。分かったか?」
「……はい」
「っ…!」
「はっ」
 三者三用の反応でそれぞれ王に答えると王は玉座から立ち上がり、マントを翻して三人に背を向け、王座の奥にある扉から退室した。
 三人はしばらく呆然と今しがた言い渡された言葉を頭の中で反芻し、それぞれ眉間にシワを寄せて王の真意を図りかねていた。
 そして、いつまでも出てこない三人を心配した近衛騎士に声をかけられて、三人はようやく謁見の間を出たのだった。
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