転生少女は海賊の愛を得る

Ariasa(ありあーさ)

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「あら、どこからか負け犬の遠吠えが聞こえたわ」
 ひょうひょうとした表情で激しい打ち合いをするロゼとネオだが、ロゼがそう言うとネオも「あれだけ元気ならそこまで傷つけられてない…か」とホッとした表情で呟いた。
「ほら、あんたの可愛い妹が待ってるわよ。私の事なんて構ってないで行ってあげたら?」
「そうしたい所だが、目の前に海賊王様がいるからな。みすみす逃すなんてできるわけがないだろう?」
「あぁ、もう。しつこいわね」
 うんざりとした表情でそう言うや、毒針を仕込んだネックレスを引きちぎり、接近した際にナティアの首に針を刺した。
「痛っ。おいロゼ、今何しやがった」
 剣を片手で構えたまま、もう片方の手で刺された部分をさするナティアに、ロゼはネックレスをナティアによく見せた。
「毒針よ。もう少ししたら動けなくなるわ」
「はっ、相変わらず物騒なもんを持っていやがる。毒の制作者はデュオって所か?」
 ナティアは軽い口調でそう言うも、どうやらすでに毒が回り始めているらしく、額に脂汗をかき始めた。それでも、ナティアは剣を両手で握り直し、真っすぐにロゼを見据えた。
「あら、あまり激しい動きをすると毒が早く回って死ぬわよ。大人しく投降したら? そうしたら、解毒剤をあげる。私の船に来てもらうけど、ね」
「昇進して早々に死ぬのは無いな。…でもな、それ以上にお前をここで逃がすことの方がありえないんだよ。逃がすくらいなら死んだ方がマシだっての」
「あらあら、熱烈な告白ね。いいわ。いつまで動けるか私が見てあげる」
 ナティアはグラグラと揺れる視界と、襲い掛かる強い倦怠感に心がくじけそうになるが、脳裏に自分を慕う部下や、自分の味方でいてくれた上司、そして何よりも兄妹との約束を思い浮かべて自分を奮い立たせた。そして深呼吸をした後、鉛のように重い体を動かしてロゼに向かって逆袈裟切りを放った。しかし、先ほどよりも遅いその切っ先はやすやすと避けられ、ロゼは嘲笑を浮かべて「諦めたら楽になるわよ」とナティアの腹に強烈な蹴りを入れた。
 何とか受け身を取ったナティアだが、地面に倒れこむと体を動かそうとしても全身に力が入らず、力を入れようとするとぴくぴくと痙攣を起こした。声も、のどが張り付いたように出なくなり、酸素が上手く入っていかない感覚に陥った。
「だから言ったでしょう? 動いたら死ぬって。諦めなさい」
 最後にロゼの声を聞き、ナティアの意識は遠く遠ざかっていった。
 ナティアが意識を失うとロゼは生きていることも確認し、胸の谷間に隠していた解毒剤をナティアに飲ませた。そして、ナティアが持っていた手錠をナティア自身に付け、カギはロゼが預かるとナティアを自分の肩に担いで大きく息を吸った。
「動きを止めなさい! 海軍兵士ども!」
 ロゼの鋭い声に海兵たちは思わず動きを止めてロゼの方を向いたが、ナティアがロゼの肩に担がれている様子を見ると兵士たちは動揺を隠しきれずざわめきが広がった。
「……ロゼちゃん、兄さんは生きてるよね」
 海兵の肩を借りてロゼの前に立つアロンは悲痛な表情でロゼに問いかけるが、ロゼはアロンとは真逆の表情でクスクスと笑う。
「もちろん生きてるわよ。死体を担ぐ趣味はないもの。それに、死んでたら私の海軍への恨みをナティアに受けてもらえないじゃない。…五体満足で帰ってくると良いわね、アロン」
 美しく笑うロゼは残酷な事を言っているにもかかわらず、一切そういう風に見えないため、一瞬何を言っているのか分からなかった。しかし、意味を理解するとアロンは悲しそうに目を伏せた後一言「落ちてしまったんだね」と呟いた。
「ロゼ…、やっぱり海賊は根絶されるべき存在だ。俺は、海賊という逃げ道があった事自体許せない。俺の初恋を奪った海賊を許せない」
「あぁ、もう。アロン、端正な顔をしているのにそんなにゆがめたら台無しよ。あと、殺気を飛ばしてるけど状況分かってる? 私に攻撃をしようとしたら、真っ先にナティアを殺すわよ。貴方の大好きなお兄ちゃんの命は、私が握ってるの。分かったら道を開けなさい。目の前で首を斬り落とされる様子を見たいの?」
 その言葉が本気であるように隣に立ったネオがナティアの首に剣を当てる。
「ソヴァン、テト、アリアナ。帰るわよ」
 ロゼが三人を呼ぶと、ソヴァンは路地裏から血を垂れ流した状態で現れ、すかさずテトがソヴァンの支えとなった。
「テト、いい。…お前はいつでも戦えるようにフリーでいろ」
 傷口を押さえながら小さな声でそう言うソヴァンに、テトはうなずいてソヴァンから離れてロゼの隣に立った。その代わりにアリアナがそっとソヴァンに寄り添うと、ソヴァンは嬉しそうに少しだけ口元が緩んだ。
「じゃあね、アロン。さっさと私を諦めて、癒してくれる女を見つけると良いわ」
 アロンの横を通る時に小さな声でそう言うと、ロゼは花道のごとく開けた海軍の脇を堂々と歩いて港へ戻ったのだった。

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