レイリア~桃色のタンポポを探して~

おおともらくと

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第一 レイリアって……どこ?

学校の図書室

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 放課後、一人で図書室に行った。
 僕はあまり本を読まないので、図書室にはほとんど行ったことがない。秀才君に言われるまで、その存在を忘れていたくらいだ。
 図書室の引き扉を開けると、中は誰もいないかと思うほど静か。話し声はもちろんのこと、物音ひとつしない。しかし実際には、受付のカウンターにおじさんが一人で退屈そうに座っていたし、奥を覗くと、閲覧席で四、五人の生徒がそれぞれ距離を置いて読書しているのが見えた。
 受付のおじさんは白髪混じりの頭を時折掻きながら、下を向いて黙々と本を読んでいたが、僕の存在に気が付くと顔を上げ、
「おや? 君は見かけない顔だな。図書室の利用は初めてかい?」声をかけてくれた。
「は、はい、国語の授業で一回だけ来たことがありますけど、放課後に利用するのは初めてです」
 場違いな場所に緊張して、声が裏返る。
 おじさんはそんな僕に微笑みながら、
「そうかい、それならば、この利用者名簿に君のクラスと名前を書いておくれ。放課後に図書室を利用する時の決まりなんだ」そう言って、ノートと鉛筆を差し出した。
 僕はおじさんに言われたとおり、利用者名簿にクラスと名前を書くと、
「桃色のタンポポについて書かれた本はありますか?」おじさんに質問した。
 すると、おじさんは首を捻った。
「うーん、おじさんの記憶では、そんな本はこの図書室にはないはずだ。でもまあ、念のために自分の目で探してみるといい」そして、僕を植物の本のコーナーへ案内してくれた。
 僕はおじさんにお礼を言うと、植物のコーナーにある本をはじから順番に手に取り、ぱらぱらとページをめくりながら、目を通していった。そして、十七冊目くらいに手にした『世界の不思議な植物』という本の十四ページと十五ページの見開きを目にした時、僕のページをめくる手は止まった。
 そこで紹介されていたのは、まさしく桃色のタンポポだったのだ。
 その『世界の不思議な植物』という本によると、桃色のタンポポの正式名称は不明となっていた。写真の掲載はなく、イラストでの紹介。僕の目には、花の色が桃色であること以外は、普通のタンポポとなんら変わらないように見えた。説明文はほとんどなく、ただ、「生息場所はレイリア地方」とだけ書かれている。
 これだ!
 僕の体に衝撃が走った。妹の優奈が夢で見たのは、この植物に間違いない。
 それにしても……。
 僕は首を傾げた。
 レイリア地方ってどこのことだ? 聞いたことがないぞ。
 僕は『世界の不思議な植物』の本を、受付にいるおじさんのところへ持って行った。
「あの、この本に載っていることで聞きたいことがあるんですけど……」
 僕が言うと、
「なんだい?」
 おじさんは白髪混じりの頭を掻きながら、僕の顔を覗き込んだ。
 僕は桃色のタンポポが載っている十四ページと十五ページを開き、おじさんに見せた。そして、レイリア地方と書かれている箇所を指差しながら尋ねる。
「ここに書いてあるレイリア地方って、どこにあるか分かりますか?」
 すると、
「うーん、聞いたことがないなあ。よし、地名辞典で調べてみようじゃないか」
 おじさんは辞典のコーナーから分厚い地名辞典を持って来て、ページをめくり始めた。
 しかし、時間が経つに連れておじさんの表情は曇り始め、やがて顔を上げると、浮かない表情をしながら首を横に振った。
「だめだ、ない。レイリア地方なんて、地名辞典のどこにも載ってないぞ!」
 おじさんは納得のいかない様子で、今度は、これまた分厚い世界地図の本を引っ張り出してきた。おじさんは虫メガネを使って地図の隅々まで調べてくれたが、それでもやはり、レイリア地方は見付けられなかった。
 結局、レイリア地方の場所は分からずじまいだったが、僕はせめて、この『世界の不思議な植物』の本を借りて帰ろうと思った。
「おじさん、僕、この本を借りたいんですけど、どうすればいいですか?」
「そうかい、じゃあ、本の一番後ろのページに貸し出しカードが入っているから、そのカードに今日の日付と君の名前、それからクラス名を書いておくれ」
 僕はおじさんに言われたとおり、裏表紙をめくって本の一番後ろのページを開いたが、貸し出しカードは入っていなかった。
 僕がおじさんにそのことを伝えると、
「そんなはずはない」
 おじさんは僕の手から『世界の不思議な植物』の本を取り上げ、背表紙を見た。「あれ? この本には管理番号シールが貼られていないぞ」
 おじさんが驚いたように言うので、
「管理番号シール?」
 僕は聞き返した。
「そう、管理番号シール。通常、図書室の本にはすべて管理番号の書かれたシールが貼られているはずなんだ」
「じゃあ、この本は図書室の本ではないってこと?」
「そういうことになるね。誰かがいたずらで、いらない本を図書室の本棚に入れたのかもしれないな」
「ふーん」
 僕はしばらく考えた後、「あの……、図書室の本でないのなら、この本を僕にくれませんか?」思い切ってお願いしてみた。
 おじさんが不思議そうな表情をして僕のことを見るので、僕は優奈の病気のこと、それから優奈の見た夢の話を、おじさんに聞かせた。
 すると、おじさんはゆっくり頷き、
「そういう事情ならば仕方がない。本来ならば、この本は忘れ物や落とし物として図書室に保管しておかなきゃいけないところだけど、君がそこまでこの本を必要としているのならば、今回は目をつむる。この本は君にあげるよ」そう言って、『世界の不思議な植物』の本を手渡してくれた。
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