レイリア~桃色のタンポポを探して~

おおともらくと

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第四 サビオ博士の仮説

ドライブは安全運転で(後編)

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 次に目を開けた時、僕達は空中にいた。といっても、優雅に空を飛んでいたわけではない。ただ単に、重力の法則に従って上から下に落ちている最中だった。
 僕達の車は深い茂みに突っ込んだが、茂みの先に地面はなかった。そこは崖のようになっていて、僕とサーチは車ごと落下。下から受ける風圧で、サーチの長い髪は逆立ち、海底の昆布のごとくゆらゆら揺れている。この状況を例えるなら、命綱のないバンジージャンプ。このまま地面に落ちたら、車は大破、そして、間違いなく僕達は死ぬ。
 それにしても不思議だ。本来ならば、こんなことを考えている余裕なんてないくらい速い速度で急降下しているはずなのに、僕には、この地面に落下するまでの時間が、まるでスローモーションのように長く感じられる。死ぬ間際とは、こういうものか。
 数秒後、僕達の車は強い衝撃とともに地面に落っこちた。ザッパーンという音がするのと同時に、車の前後左右に水しぶきが上がる。
 ん? 水しぶき?
 目を見開き、周囲を見回すと、なんと、そこは水の上。深い緑色をした沼がどこまでも広がり、僕達の車は、その沼の真ん中にぷかぷかと浮いていたのだ。
「うーん、スリル満点で最高ね!」
 隣を見ると、運転席のサーチが鼻の穴を膨らませて興奮していた。
 冗談じゃないよ、なにがスリル満点だ。
 心の中で思いつつも、声が出なかった。死と隣り合わせの恐怖。そこから解放されたばかりの僕は、放心状態でぜいぜいと息をするのが精一杯。
 そんな僕のことなど気にする様子もなく、
「さあ、先に進むわよ」
 サーチは何事もなかったかのように、車を発進させた。
 車はすいすいと沼の中を進む。
 やがて時間が経ち、恐怖のバンジージャンプで乱された心が落ち着きを取り戻すと、僕の頭にはある疑問が浮かんだ。
「ねえ、質問があるんだけど」
「なによ、あらたまって」
「見たところ、この沼はかなり深そうだけど……」
「ええ、深いわよ。それがどうしたの?」
「僕達の乗っているこの車のタイヤが、とても沼底に付いているとは思えない」
「ええ、当然じゃない」
「いや、だから、タイヤが沼底に付いていないのに、どうして沼の中を沈まずに進むことができるのかって、疑問に思ったんだ」
「なんだ、そんなことか」
 サーチは拍子抜けしたような表情をした。「理由は簡単よ。この車は水陸両用車なの。陸上では車、水上では船の役割を果たすわ。この車の後方にはスクリューが付いていて、今はそのスクリューを回転させて前に進んでいるってわけ」
 陸上使用の時のエンジン音は騒音のようにうるさかったが、水上使用の時のスクリュー動作は、ほとんど音がしない。そのおかげで、僕は熱帯雨林の本来の静けさを肌で感じることができた。耳を澄ますと、遠くのほうで流れる水の音や、あちらこちらで鳴く鳥の声が聞こえる。
 熱帯雨林の木々は背丈の高いものが多く、互いに競い合うように上へ上へと伸びていた。枝に付いている葉なんて、僕の顔よりも大きなものばかり。
 サーチは優雅に舵取りをしながら、時折、陸地にいる動物を見付けては指差し、それがなにか、僕に教えてくれた。
 チンパンジーやワラビー、ウォンバット、カメレオン、オオトカゲなど、動物園でしか見たことのない動物が、檻の中ではなく大自然の中で、ごく普通に生活していた。
「あそこがサビオ博士の家よ」
 入り江に入ったところで、サーチが言った。
 見ると、沼のほとりに、丸太で作られた掘っ立て小屋が一軒ぽつんと建っていた。
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