レイリア~桃色のタンポポを探して~

おおともらくと

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第六 熱帯雨林の住人達

インボリ族

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「皆の者、静まるのじゃ」
 突然、一人の初老の男が手を挙げると、それまで歌や踊りで異様な盛り上がりを見せていた場が、一瞬にしてシーンと静まり返った。
 総勢四、五十人の老若男女は微動だにせず、全員が初老の男に視線を向けている。そして、みんなの視線を一手に集める初老の男の体には、他の誰よりもド派手な渦巻き模様が描かれていた。
「どうやら、罪人が目を覚ましたようじゃ」
 初老の男はこっちを向き、僕を指差した。ギロリと、鋭い目で僕をにらみ付ける。他の全員の視線も、一斉に僕のほうを向いた。
「我らインボリ族の住む領域に無断で足を踏み入れた罪人め、お前の目的はなんだ? お前は西側から来たスパイか?」
「スパイだなんて、とんでもない」
 僕は慌てて首を横に振った。「僕はただ、桃色のタンポポを探すために、東の海に行きたいだけだよ」
 怪訝そうな表情で僕のことを見る初老の男に、僕は桃色のタンポポを探している理由を話した。
「なるほどな。それでは、お前は西側の連中の仲間ではないのだな」
 僕は頷いた。
「仲間だなんて。僕はレイリアの人間ですらないよ」
「そうか、それは失礼した。西側の連中は、自分勝手でとんでもない奴らじゃ。自分達の欲望のためだけに、平気でこのレイリアの自然を破壊し、他の生物の住む場所を奪う。あいつらが侵略してきたせいで、我々はこんな内陸まで追いやられてしまった」
「あなた達は?」
「我々はインボリ族。レイリアに古くから住む民族じゃ。西側の連中がレイリアに上陸するずっと前から、我々の先祖はこの地に生息していた」
 なんと、レイリアには先住民族がいた。
「わしはインボリ族の酋長ジニーじゃ。小僧、お前の名前はなんという?」
「僕の名前はタケル。レイリアとは別の場所、日本という国から来たんだ」
「ニホンか、知らんな」
 ジニーは興味なさそうに言った。「我々はずっと、この森の中だけで生活しておる。森の外のことは分からん」
「そう、それならば、この森がどこまで続いているのか教えてほしい。僕はこの森を東に抜けたいんだ」
 僕の質問に、ジニーはゆっくり首を横に振った。
「悪いが、その質問には答えられん」
「どうして?」
「なぜなら、わしもこの森がどこまで続いているのか知らないからじゃ。この森は広い。広過ぎる。我々は森の中を誰よりも熟知しているつもりじゃが、それでも知らないことや分からないことはある。この森に終わりがあるのかどうかすら、我々には分からん」
「そんなあ」
 僕は頭を垂れた。
「役に立てなくて悪かったな。その代わりといってはなんだが、面白い話を聞かせてやろう。お前が通り抜けて来た岩山の話じゃ。どうだ、聞きたいか」
「あの岩山がどうかしたの?」
 僕は顔を上げた。まるで壁のごとく、西側の地域とこちら側を隔てるようにそびえ立つ岩山。なにか秘密があるのだろうか。
「昔はな、あの岩山の西側も、ここと同じ森だった。そもそも、最初は岩山などなかったのじゃ」
「えっ?」
 僕はジニーの顔を見た。驚いた。あんなに大きな岩山が、昔は存在しなかったなんて。
「その昔、我々インボリ族は西側の海に近い場所に住んでいた。我々は森と共存し、自然の中であくまで他の動物達と同じように、狩りをしたり木の実を食べたりして生活していた。それがある時、どこからかあいつらがやって来たのじゃ」
「あいつらって、あなた達が『西側の連中』って呼んでいる人達のこと?」
「うむ」
 ジニーは頷いた。「西側の連中は姿形こそ我々と同じ人間だが、中身は凶暴でとんでもない悪魔じゃ。自分達の住みかを手に入れるためならば、なんのためらいもなく山を切り崩すし、快適な生活をするためならば、自分勝手に資源を食い散らす。おまけに、自分達にとって邪魔な生き物は平気で殺す。他の動物達と共存して生活することなど、まったく考えておらん。あいつらがレイリアに来てから絶滅した動植物は、数え切れないほどじゃ。我々インボリ族だって、追いやられるように東へと移り住んで来たのじゃ」
「ふーん、そうなんだ。でも、そのことがあの岩山となんの関係があるの?」
 僕は首を傾げた。
「あの岩山はな、西側の連中の横暴な行為に、神が怒った結果なのじゃ」
「神?」
「そう、正確には、神のごとき偉大な魔法使いじゃ」
「魔法使い?」
 思わず、笑いそうになった。魔法使いなんて、マンガやおとぎ話の世界にしかいないものでは……。
 冗談を言っているのかもしれないと思い、僕はジニーの強面の顔をまじまじと見たが、ジニーの表情は真剣そのもの。
「インボリ族に伝わる古くからの言い伝えによると、その偉大なる魔法使いは、ある時、どこからともなくやって来て、レイリアの雄大な自然に惚れ込み、そのまま森に住み着いた。不思議な力を持つその魔法使いが来てから、森では争い事がなくなり、平和が訪れたという。やがて、魔法使いはみんなから一目置かれる存在となり、いつの頃からか、我々インボリ族を含めた森の動物達は、その魔法使いを、森の守り神として崇めるようになった」
 そこまで話すと、ジニーは咳払いをした。そして、再び口を開く。「その数年後、レイリアの西海岸に忌々しい侵略者達が上陸した。森の守り神は、西から東へ次々と森を破壊していく西側の連中に腹を立てた。このまま連中を野放しにしておけば、レイリアから森がなくなってしまう。なんとか食い止めなければ。そう考えたのじゃ」
「それで、それでどうしたの」
 話の続きが聞きたくてジニーを急かしたが、ジニーははぐらかすようにゆっくりと間を空けてから、話し始めた。
「ある時、森の守り神は一大決心をした。森で一番高い大木の頂に登ると、いつも肌身離さず持っている魔法の杖を、天に向かって突き上げたのじゃ。すると、どこからともなく黒い雨雲が集まって来て、それまで青く晴れ渡っていた空は急に暗くなった。そして、しばらくすると、なんと空から大量の石が降ってきたそうじゃ。石の雨は三日三晩降り続き、ようやく止んだ時には、あの頑丈な岩山がそびえ立っていたという話じゃ」
「言い伝えとはいえすごい。あんなに高くて大きな岩山を、たった一人の魔法使いが作ったなんて……」
「しかし、それでも強欲な西側の連中は東への侵略を諦めなかった。なんと、今度はその岩山を堀り始めたのだ。そして遂には、岩山にトンネルを開通させてしまった」
「うん、僕もそのトンネルを通って、こちら側に来た」
「当時、西側の連中はトンネルを拡大させようと躍起になっておった。しかし、森の守り神である魔法使いも黙ってはいなかった。西側の連中が岩山を掘ったり、トンネルを抜けてこちら側に来たりしようとする度に、杖を突き上げて地震や台風、雷を起こし、奴らに恐怖を植え付け続けた。そしてやっとのことで、西側の連中に東への侵略を諦めさせたのじゃ」
「なるほど」
 すごいや、最後の部分なんて、ビダンから聞いた話とほぼ一致する。まあ、ビダンの話は西側目線だったけど。
「それでもな」
 ジニーは続けた。「今でもたまに、西側からあのトンネルを抜けてこちら側にやって来る奴がいる。タケル、お前みたいにな」
「ごめんなさい」
 僕は頭を下げた。
「我々はこの森に様々な罠を仕掛けておる。もちろん、目的はトンネルを抜けてこちら側に来た奴らを捕らえるためじゃ。これ以上、この森を破壊させるわけにはいかないからな。そしてタケル、お前は我々が作った落とし穴に、まんまと引っ掛かったというわけじゃ」
 そういうことか。それでこんなにぐるぐる巻きの状態で柱に縛り付けられて、罪人扱いされたのか。
「ジニー酋長、お願いがあるんだけど」
「なんじゃ」
 ジニーが恐い顔で僕を睨む。
「もう、僕を罪人じゃないって認めてくれたんだったら、このヒモをほどいて柱から解放してよ。このヒモ、結構ぎゅうぎゅうに縛ってあるから痛いんだよ」
 泣きそうな声で訴えたが、ジニーは口を一文字につむりながら、首を横に振った。
「だめじゃ。まだ、お前を完全に信用したわけではない。明日の朝には解放してやるから、今夜はそのままで我慢しろ」
「え~っ、明日の朝までなんて、そりゃないよ」
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