レイリア~桃色のタンポポを探して~

おおともらくと

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第六 熱帯雨林の住人達

宴(うたげ)

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 変な呪文を唱える声がする。
 気付くと、僕は柱を背にした格好で座っていた。上半身をヒモでぐるぐる巻きにされ、柱に縛り付けられている。
 長い時間気を失っていたらしく、辺りはすっかり暗くなっていた。空には星が見える。まん丸の月がきれいだ。
 数メートル先では、総勢四、五十人ほどの老若男女が、月明かりに照らされながら、大きな輪を作っていた。地べたに座っている者もいれば、立っている者もいる。みんな色黒で、裸に近い格好。裸に近いとはいっても、大事なところは葉っぱや草で作った衣類で隠している。男の人は股間に、女の人は胸にも、衣類をまとっていた。そして奇妙なことに、全員が体じゅうに、渦巻きのような変な模様を描いている。
 大きな輪の中心には、体格のいい男が三人。
 一人は、直径十センチくらいの木をくり抜いて作った、細長い笛のような楽器を吹いている。他の一人は、これまた手作りと思われる太鼓のような楽器を両手で叩きながら、呪文のような歌を歌っている。そして最後の一人は、この二人の間にあぐらをかいて座っていた。平らな板の上に木の棒を垂直に立て、両手でこすり合わせながら回転させている。どうやら、摩擦で火をおこそうとしているようだ。
 しばらくすると、板と棒の付け根から煙が出始めた。火おこし担当の男は休むことなく、棒を挟んだ両手をこすり合わせている。人間業とは思えない、もの凄いスピード。その甲斐あってか、煙の量はどんどん増えていく。
 突然、笛を吹いていた男が演奏を止めた。笛を地面に置き、近くに積んであった枯れ草を手に取る。そして、それを煙の元にそっと近付けると、驚いたことに数秒後には、枯れ草に米粒大の赤い火種が点いた。男が火種に息を吹きかけると、火種は次第に大きくなり、やがて枯れ草は燃え始めた。
 すごい、まるで原始時代の人達みたい。社会の教科書に載っていることを、まさか目の前で見られるとは……。
 枯れ草の炎は、あっという間に大きくなった。そして、男が炎を枯れ草ごと頭上に掲げると、周囲を取り囲んでいる老若男女から、盛大な拍手と歓声が沸き起こった。指笛を吹いている者もいる。
 そこからはもう、お祭り騒ぎ。全員がへんてこりんな振り付けで踊り出し、奇妙なリズムで歌い出した。そして、男が燃えている枯れ草を地面に置くと、周囲を取り囲んでいた老若男女は、入れ替わり立ち替わり炎に近付いて行き、次々と枯れ草や木の枝を炎の中に投げ入れた。
 小さかった炎は見る見るうちに勢いを増し、やがてはキャンプファイアーのように激しく燃え上がった。そして炎が大きくなるのに比例して、この奇妙な集団の歌や演奏、踊りも、激しさを増していった。
 空を見上げると、澄みきった夜空に、幾つもの星と丸い月が光っている。そんな美しい夜空のもと、森の奥深くで燃え盛る炎を囲みながら半裸で踊る老若男女の姿は、なんとも幻想的で、僕は見てはいけない秘密の儀式を見てしまったような気がした。
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