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まおうさま 4
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「ごぶ、りん……?」
俺の背丈より半分の小さな小さな生き物は、俺の前に現れると、自身の何倍もの大きさの化け物たちに立ち向かった。
「えーし、はなせっ。えーし!」
たった一匹なのに、俺付きのゴブリンはその手に小さな槍を持って、俺の上に跨がる豚に襲いかかった。
しかし、身体の大きな豚はこの中で最強だった。
「ちっ、使い魔か……オラ!」
「ぎゃっ!?」
「ゴブリン!」
ゴブリンは腹を蹴飛ばされ、他の化け物たちの脚元へと転がった。
俺の様子をやたら心配していたゴブリンだ。寝ると言って部屋に入った後も、心配で見に来てくれたに違いない。
でも俺がいなくなったから、ここまで必死に追いかけてきてくれたんだ……!
「えーし……えーし……」
俺の名前を呼び、ぐったりするゴブリンを目にして、俺は胸を引き裂かれそうになる。
俺については自業自得というやつだ。豚どもに売られようが、犯されようが、自分で望んだことの末路だ。甘んじて受け入れよう。
でも、ゴブリンは関係ない。逃げた俺を追いかけて、屋敷へ連れ戻そうとしただけなんだ。ただ「魔王」の言いつけを守っただけなんだよ!
虫がいいのはわかっている。でも、頼む。「魔王」、俺たちを助けてくれ。俺のことは煮るなり焼くなり愛でるなり殺すなり、本当に好きにしていいから!
後悔先に立たず。俺は「魔王」が言っていた呼び寄せを思い出した。こんなことなら、「魔王」の名前を聞いとけばよかったな……。
「他に追っ手はいねえよな? ふん。ペット付きの魔物なんざ、知能も能力も低いもんで充分ってか。ギャハハ!」
「ぐえっ!」
横たわるゴブリンを、まるでサッカーボールのように脚で転がす化け物たちに殺意が芽生えた。
俺は地面の草を土ごと握り締め、自身の奥歯が欠けるほど噛み締めた。
「ゴブリンっ……!」
ごめん。ゴブリン。短い間だったけれど、コミュニケーションもろくに取れなかったけれど……お前は俺のことを思って、おやつを作ってくれたんだよな。
砂糖のたっぷりかかった揚げパン、形はヘンテコだったけど、すげえ美味かったよ。
ごめん。本当にごめん……!
「よーし。お楽しみ、再開~」
地に沈む俺が抵抗しないと踏んだのか、豚はズボンのベルトを緩めてジッパーを下ろし始めた。舐めてんのか? そんな隙だらけの格好で。
俺は嬲られるゴブリンへと視線をやった。ごめんな。無事に帰れたら、一時間でも二時間でも怒られるし、罰も受けるから。だから、ゴブリン。もうちょい待っててくれ。
「はーい、ヒトちゃーん。ほそーいあんよを開こうね~」
「……めろ」
「ん?」
「やめろっつってんだろ、この豚ー!!」
咆哮した俺はキッと見上げると、舌舐めずりをする豚の股間目がけて、思い切り拳を打ちつけた。
「ぎゃああっ!?」
まさに化け物が潰れた悲鳴。なよっちくとも、これは人間の男の手だ。急所の、しかも勃起した下でぶら下がっている睾丸目がけて拳を打ちつければ、いくら豚でも卒倒ものだろう。
ズドン! と、豚は泡を吹いて地に落ちた。その音に驚いてか、化け物たちが一斉に俺を見た。
おお、怖え。さすが化け物だらけだ。闇夜で見るこいつらには、恐怖しかない。
でもそれが何だ。俺は一度死んでるんだ。だったら、これ以上、何を恐れることがある!?
俺は倒れた豚にビシッと指を突きつけながら、それまで言わずにいられなかったことを叫んだ。
「てめえ、ずっと身体が臭えんだよ! ふざけんのは首から上だけにしとけ! こんのアブラギッシュがぁ!」
オークションの時からずーっと臭ってたんだよ!
やっと言えたわ! すっきりしたぁ!!
呆気にとられる魔物たち。これまでこんな風に逆らった人間はいなかったんだろう。しかし俺は気にせず、化け物に混じる神木へと指差した。
「おい、神木モドキ! てめえ、俺の惚れた男のフリして誑かすとはいい度胸だな! そのツラ、今すぐボコボコに腫れ上がるまで殴ってやるから、覚悟しとけ!!」
あまりの剣幕に慄いたのか、神木は後ずさると周りの化け物たちに俺を襲うよう手で指示を出した。
「ヒト風情が! 今すぐ食ってやるわぁ!」
「ああ、上等だよ! こちとら、一回死んでんだ! 二回も三回も変わんねーよ!」
こうなりゃヤケクソだ。相打ちどころか一方的なリンチになるだろうけれど、それでも不思議と後悔はなかった。
この世界に、少しでも俺のことを思ってくれる奴がいた。それがたとえ仕事でも。
それから「魔王」。顔は綺麗でも、性格は歪んでいたし、不器用だったよな。おまけに毎晩俺を抱きまくりやがってさ。
最悪も最悪。でも、短い間だったけど溺愛してくれてありがとな……。
俺はあいつへ届くように、腹の底から叫んでみせた。
「マオー!!」
俺の背丈より半分の小さな小さな生き物は、俺の前に現れると、自身の何倍もの大きさの化け物たちに立ち向かった。
「えーし、はなせっ。えーし!」
たった一匹なのに、俺付きのゴブリンはその手に小さな槍を持って、俺の上に跨がる豚に襲いかかった。
しかし、身体の大きな豚はこの中で最強だった。
「ちっ、使い魔か……オラ!」
「ぎゃっ!?」
「ゴブリン!」
ゴブリンは腹を蹴飛ばされ、他の化け物たちの脚元へと転がった。
俺の様子をやたら心配していたゴブリンだ。寝ると言って部屋に入った後も、心配で見に来てくれたに違いない。
でも俺がいなくなったから、ここまで必死に追いかけてきてくれたんだ……!
「えーし……えーし……」
俺の名前を呼び、ぐったりするゴブリンを目にして、俺は胸を引き裂かれそうになる。
俺については自業自得というやつだ。豚どもに売られようが、犯されようが、自分で望んだことの末路だ。甘んじて受け入れよう。
でも、ゴブリンは関係ない。逃げた俺を追いかけて、屋敷へ連れ戻そうとしただけなんだ。ただ「魔王」の言いつけを守っただけなんだよ!
虫がいいのはわかっている。でも、頼む。「魔王」、俺たちを助けてくれ。俺のことは煮るなり焼くなり愛でるなり殺すなり、本当に好きにしていいから!
後悔先に立たず。俺は「魔王」が言っていた呼び寄せを思い出した。こんなことなら、「魔王」の名前を聞いとけばよかったな……。
「他に追っ手はいねえよな? ふん。ペット付きの魔物なんざ、知能も能力も低いもんで充分ってか。ギャハハ!」
「ぐえっ!」
横たわるゴブリンを、まるでサッカーボールのように脚で転がす化け物たちに殺意が芽生えた。
俺は地面の草を土ごと握り締め、自身の奥歯が欠けるほど噛み締めた。
「ゴブリンっ……!」
ごめん。ゴブリン。短い間だったけれど、コミュニケーションもろくに取れなかったけれど……お前は俺のことを思って、おやつを作ってくれたんだよな。
砂糖のたっぷりかかった揚げパン、形はヘンテコだったけど、すげえ美味かったよ。
ごめん。本当にごめん……!
「よーし。お楽しみ、再開~」
地に沈む俺が抵抗しないと踏んだのか、豚はズボンのベルトを緩めてジッパーを下ろし始めた。舐めてんのか? そんな隙だらけの格好で。
俺は嬲られるゴブリンへと視線をやった。ごめんな。無事に帰れたら、一時間でも二時間でも怒られるし、罰も受けるから。だから、ゴブリン。もうちょい待っててくれ。
「はーい、ヒトちゃーん。ほそーいあんよを開こうね~」
「……めろ」
「ん?」
「やめろっつってんだろ、この豚ー!!」
咆哮した俺はキッと見上げると、舌舐めずりをする豚の股間目がけて、思い切り拳を打ちつけた。
「ぎゃああっ!?」
まさに化け物が潰れた悲鳴。なよっちくとも、これは人間の男の手だ。急所の、しかも勃起した下でぶら下がっている睾丸目がけて拳を打ちつければ、いくら豚でも卒倒ものだろう。
ズドン! と、豚は泡を吹いて地に落ちた。その音に驚いてか、化け物たちが一斉に俺を見た。
おお、怖え。さすが化け物だらけだ。闇夜で見るこいつらには、恐怖しかない。
でもそれが何だ。俺は一度死んでるんだ。だったら、これ以上、何を恐れることがある!?
俺は倒れた豚にビシッと指を突きつけながら、それまで言わずにいられなかったことを叫んだ。
「てめえ、ずっと身体が臭えんだよ! ふざけんのは首から上だけにしとけ! こんのアブラギッシュがぁ!」
オークションの時からずーっと臭ってたんだよ!
やっと言えたわ! すっきりしたぁ!!
呆気にとられる魔物たち。これまでこんな風に逆らった人間はいなかったんだろう。しかし俺は気にせず、化け物に混じる神木へと指差した。
「おい、神木モドキ! てめえ、俺の惚れた男のフリして誑かすとはいい度胸だな! そのツラ、今すぐボコボコに腫れ上がるまで殴ってやるから、覚悟しとけ!!」
あまりの剣幕に慄いたのか、神木は後ずさると周りの化け物たちに俺を襲うよう手で指示を出した。
「ヒト風情が! 今すぐ食ってやるわぁ!」
「ああ、上等だよ! こちとら、一回死んでんだ! 二回も三回も変わんねーよ!」
こうなりゃヤケクソだ。相打ちどころか一方的なリンチになるだろうけれど、それでも不思議と後悔はなかった。
この世界に、少しでも俺のことを思ってくれる奴がいた。それがたとえ仕事でも。
それから「魔王」。顔は綺麗でも、性格は歪んでいたし、不器用だったよな。おまけに毎晩俺を抱きまくりやがってさ。
最悪も最悪。でも、短い間だったけど溺愛してくれてありがとな……。
俺はあいつへ届くように、腹の底から叫んでみせた。
「マオー!!」
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