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ただ帰りたかっただけなのに… 2
しおりを挟む弟にカツアゲされるなど、「なんて不憫なんだ」と思うか、「なんて情けない」と思うかはさておき、俺は昔から雅に対して頭が上がらない。そしてそんな俺を雅はとても嫌っているらしく、常日頃から「うぜえ」「邪魔」「いっぺん死んで」といった悪口のオンパレードを浴びせてきた。
声量も小さくボソボソと喋るのも嫌なのか、俺が意見しようとするとよく口を塞いできた。幸い、殴る蹴るといった暴力はないのでまだマシだが、どうしてこうも乱暴になっちゃったのか。両親も俺より雅の方を可愛がってきたから、それもあるんだろうな。
よくて自信家。悪くて傲慢。そんな彼は異世界転移をしてからというもの、すぐにこの世界に順応し、聖なる力とやらを使って日々大帝国を守っている。そう、態度が悪いのは俺に対してだけで、外面はものすごくいい。まるで二重人格者だ。つまり、とってもありがたい存在の聖者を弟に持つ俺が、この国でよくしてもらえた真意はそういうことなんだ。
雅がいなかったら俺はとっくに野垂れ死んでいたかもしれない。だからこうして罵られても、蔑まれても、あまり気にならない。むしろ、「世話をかけて悪かった」と、そう思う。
雅は俺を正面にして立つと、腰に手を当て額を小突いてきた。
「俺のおまけでついてきただけの無能力者のくせに、運がよかったな~。聖者の兄貴で。この二人がお前によくしてくれんのも、俺がいるからこそだ。元の世界じゃありえない。ここでしかチヤホヤされないぞぉ? ククッ。ついでに童貞も捨てちゃえば?」
あざ笑う雅の言う通りだった。ルイスやバイロンがここにいるのは、俺の友人というわけだからじゃない。国にとって貴重な聖者の護衛としてついているからだ。雅がいることで俺も彼らと交流を深めることができたわけだが、そうでなかったら気安くお目にかかれる存在じゃない。聖者不在の中、日々魔物たちから国を守ってきたのが彼らなんだ。英雄の彼らから送迎会を開いてもらえるなど、贅沢にもほどがある。
しかし……童貞なのは事実だけれど、誰彼構わずズッコンバッコンはやばいだろう。なんかこう、倫理的によろしくない。それにそういうのはお互いの気持ちが一緒でないとしたくはないし……あ、こういう思考が雅からすると女々しくてキモいのか。でも仕方ない。結局こっちで恋人も作らなかった(作れなかった)し、童貞のまま元の世界に転移しても未練はない。……たぶん。
そう考えながら黙っていると、バイロンが「ミヤビ。言い過ぎだ」と口を挟んだ。
「んだよ。本当のことだろ。俺が聖者としてこの国に召喚されたってのに、何の力もねえ人間が勝手に転移したんだ。大した仕事もなくただ飯食らっていたくせして、ずっと帰りたかっただと? だったら、はじめからついてくんなよって話じゃねえか。転移魔法を軽く見過ぎなんだよ、こいつは!」
転移魔法は召喚術の一つで高度な魔術を要求される。大帝国で最高位の魔術師ルイスをもってしても、それは簡単に行えないらしい。目の前のご馳走は送別会主役の俺の為でもあり、翌日転移魔法をかけるルイスの英気を養う為でもあった。
大役を買って出てくれたルイスには感謝してもしきれない。それでもルイスは一つも不満を漏らさなかった。酒も入っているせいか冷ややかな口調で、ミヤビに言った。
「スグルは勝手についてきたのではなく、術に巻き込まれたんだ。そこには私もいなかったし、どうすることもできなかった。それを責めてやるな」
俺に味方したルイス。軽くウインクをされた。絶対女性に受けるやつ。こんなことを自然にやってのけるとは……やっぱ美形って得なんだなぁ。
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