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番外編【奥さまのとある半日】
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※柳が成長期を終えた後のお話です
今朝の新聞と一緒に入ってきたチラシを見て、僕は大きな声を上げた。
「お醤油と、みりん! すごく安いっ!!」
普段、食材の買い出しは商店街を利用することが多いんだけど、調味料とかはスーパーで纏めて買っちゃう僕。この日、目にしたチラシには、いつも買っているメーカーのお醤油とみりんの価格がそれぞれ二百円を切って載っていた。このスーパー、蒼さんのお家からすごく近いの!
転校してから学校の友達がお昼をよく食べてくれるから、お弁当のおかずの量が増えてお醤油やみりんの消費が早かったんだよね。買うには今日が打ってつけ!
元々、今日は蒼さんのお家に行く予定だったし、その前にお目当ての物をちゃちゃっと買って行ければいいよね!
休日だけど海さんはお仕事でもう出てっちゃってて、今日は僕一人で過ごすのです。
お外も晴れてるし、お洗濯には持ってこいだし、お散歩も出来ちゃうね。
よーし、そうとなれば開店と同時にお店に入らなくちゃ!
僕はいそいそと出掛ける前の準備を始めた。
ーーーー…
「あらあら、柳ちゃん。たくさん買ってきたわねぇ!」
「お醤油とみりんがね、すごく安かったの! お母さんもここのメーカーの物、使ってるでしょ? 二本ずつどうぞ~」
「まあ、いいの? ありがとう~。ちょうどみりんが切れてストックを使い始めたところだったから助かるわぁ。さ、上がって」
「お邪魔しまーす!」
スーパーでお醤油とみりんを合計八本買って真藤家に着いた僕。
僕と海さんの二人だけならこんなに買っても仕方ないじゃないって言われそうだけど、蒼さんのお家にもお裾分けしようと思ってたくさん買ったんだよ。璃々子お母さんに渡すとすごく喜んでくれたし、タイミングも良かったね!
廊下を歩いてリビングに入ると、僕の「お邪魔します」に対して口悪く言う人が僕をギロリと睨み上げた。
「……あぁ、じあ……た……」
舌をだらりと出しながら、僕に向かって「ああ、邪魔だ」って言うの。酷いよね~。
僕は気にせずリビングに入ると、お醤油とみりんが入ったエコバッグをローテーブルの上に置いて、口悪く言う人に向かって言葉を返した。
「も~、邪魔って言わないでよね、蒼さん。あんまり酷いことばかり言うと、僕ここに入り浸っちゃうよ! それより、ご飯は食べた?」
蒼さんの朝はいつも遅いから、お昼ご飯と兼用になってるはずだけど、どうだろう? さっき見えたキッチンがすっきり片付いていたし、食べ終わったかな?
上着を脱ぐと、お母さんがパタパタと僕用に淹れてくれたお茶とお菓子を持ってリビングへとやって来る。お母さんも自分用のお茶を持ってきたから、ここからいつもの「お茶の時間」ことお喋りの時間が始まるんだと思ってたんだけど……
「すん……あれ? 蒼さん、何か臭くない?」
「……ぅ、ぅあ、ぃ……」
煩いって言われたけれど、気になって無視出来ない僕は蒼さんの赤い頭に鼻を近付けて思い切り匂いを嗅いだ。それを手で振り払われるんだけど、今じゃ僕の方が力は強い。蒼さんの手を制して、くんくんと嗅ぐ。蒼さんも歳だし、加齢臭かな? でも何だか蒼さんの体臭がいつもより強い気が……
その様子を見て、お母さんが「ほら」と蒼さんへ嗜めるように言った。どうしたの? と理由を聞くと。
「柳ちゃん、来て早々お願いがあるんだけど。この人をお風呂に入れてやってくれないかしら?」
「お風呂?」
「ぉ、ぃ……」
「私相手だと文句ばーっかり! この前なんかお風呂で喧嘩しちゃって、私もう怒っちゃって、怒っちゃって、この人の顔面にシャワーをぶっかけてやったのよ。そしたらむくれちゃってむくれちゃって……三日もこのまんまなのよ。汚いでしょ」
「え、三日も!?」
それは臭うよ! ばっちいよ! 蒼さん、不潔になっちゃうよ!!
蒼さんを見ると、苦虫を噛み潰したような顔で僕から目を逸らした。
こうしちゃいられない! 僕は腕捲りをして、蒼さんが腰掛けてる車椅子のブレーキを外してからハンドルを握った。
「もー、蒼さん。丸洗いするよー。僕も一緒に入るからね!」
「ぉ、ぉぁぇ……ぁ……」
「着替え、用意しとくわね!」
ブツブツと文句を言う蒼さんを無視して、お母さんから手拭いとバスタオル二枚を貰うとお風呂場へと直行した。
「ぉん、ぉ……ぉんぁ、お……」
「はいはい。こんにゃろ、こんにゃろー」
僕に身体を洗われるのがきっと気まずいんだろうね。下の世話はされたくないって常々言ってたもん。でもそんなもん、知るかーってやつ。
それに全部が全部こっちでやるわけじゃないよ。自分で出来るところはちゃんと自分でやってもらいますー。
もういい歳した二人かもしれないけれど、僕が小さかった頃は蒼さんとお風呂に入るのが当たり前で、頭から身体までちゃんと洗えるように躾けてくれたのも蒼さんだったんだからね。
今朝の新聞と一緒に入ってきたチラシを見て、僕は大きな声を上げた。
「お醤油と、みりん! すごく安いっ!!」
普段、食材の買い出しは商店街を利用することが多いんだけど、調味料とかはスーパーで纏めて買っちゃう僕。この日、目にしたチラシには、いつも買っているメーカーのお醤油とみりんの価格がそれぞれ二百円を切って載っていた。このスーパー、蒼さんのお家からすごく近いの!
転校してから学校の友達がお昼をよく食べてくれるから、お弁当のおかずの量が増えてお醤油やみりんの消費が早かったんだよね。買うには今日が打ってつけ!
元々、今日は蒼さんのお家に行く予定だったし、その前にお目当ての物をちゃちゃっと買って行ければいいよね!
休日だけど海さんはお仕事でもう出てっちゃってて、今日は僕一人で過ごすのです。
お外も晴れてるし、お洗濯には持ってこいだし、お散歩も出来ちゃうね。
よーし、そうとなれば開店と同時にお店に入らなくちゃ!
僕はいそいそと出掛ける前の準備を始めた。
ーーーー…
「あらあら、柳ちゃん。たくさん買ってきたわねぇ!」
「お醤油とみりんがね、すごく安かったの! お母さんもここのメーカーの物、使ってるでしょ? 二本ずつどうぞ~」
「まあ、いいの? ありがとう~。ちょうどみりんが切れてストックを使い始めたところだったから助かるわぁ。さ、上がって」
「お邪魔しまーす!」
スーパーでお醤油とみりんを合計八本買って真藤家に着いた僕。
僕と海さんの二人だけならこんなに買っても仕方ないじゃないって言われそうだけど、蒼さんのお家にもお裾分けしようと思ってたくさん買ったんだよ。璃々子お母さんに渡すとすごく喜んでくれたし、タイミングも良かったね!
廊下を歩いてリビングに入ると、僕の「お邪魔します」に対して口悪く言う人が僕をギロリと睨み上げた。
「……あぁ、じあ……た……」
舌をだらりと出しながら、僕に向かって「ああ、邪魔だ」って言うの。酷いよね~。
僕は気にせずリビングに入ると、お醤油とみりんが入ったエコバッグをローテーブルの上に置いて、口悪く言う人に向かって言葉を返した。
「も~、邪魔って言わないでよね、蒼さん。あんまり酷いことばかり言うと、僕ここに入り浸っちゃうよ! それより、ご飯は食べた?」
蒼さんの朝はいつも遅いから、お昼ご飯と兼用になってるはずだけど、どうだろう? さっき見えたキッチンがすっきり片付いていたし、食べ終わったかな?
上着を脱ぐと、お母さんがパタパタと僕用に淹れてくれたお茶とお菓子を持ってリビングへとやって来る。お母さんも自分用のお茶を持ってきたから、ここからいつもの「お茶の時間」ことお喋りの時間が始まるんだと思ってたんだけど……
「すん……あれ? 蒼さん、何か臭くない?」
「……ぅ、ぅあ、ぃ……」
煩いって言われたけれど、気になって無視出来ない僕は蒼さんの赤い頭に鼻を近付けて思い切り匂いを嗅いだ。それを手で振り払われるんだけど、今じゃ僕の方が力は強い。蒼さんの手を制して、くんくんと嗅ぐ。蒼さんも歳だし、加齢臭かな? でも何だか蒼さんの体臭がいつもより強い気が……
その様子を見て、お母さんが「ほら」と蒼さんへ嗜めるように言った。どうしたの? と理由を聞くと。
「柳ちゃん、来て早々お願いがあるんだけど。この人をお風呂に入れてやってくれないかしら?」
「お風呂?」
「ぉ、ぃ……」
「私相手だと文句ばーっかり! この前なんかお風呂で喧嘩しちゃって、私もう怒っちゃって、怒っちゃって、この人の顔面にシャワーをぶっかけてやったのよ。そしたらむくれちゃってむくれちゃって……三日もこのまんまなのよ。汚いでしょ」
「え、三日も!?」
それは臭うよ! ばっちいよ! 蒼さん、不潔になっちゃうよ!!
蒼さんを見ると、苦虫を噛み潰したような顔で僕から目を逸らした。
こうしちゃいられない! 僕は腕捲りをして、蒼さんが腰掛けてる車椅子のブレーキを外してからハンドルを握った。
「もー、蒼さん。丸洗いするよー。僕も一緒に入るからね!」
「ぉ、ぉぁぇ……ぁ……」
「着替え、用意しとくわね!」
ブツブツと文句を言う蒼さんを無視して、お母さんから手拭いとバスタオル二枚を貰うとお風呂場へと直行した。
「ぉん、ぉ……ぉんぁ、お……」
「はいはい。こんにゃろ、こんにゃろー」
僕に身体を洗われるのがきっと気まずいんだろうね。下の世話はされたくないって常々言ってたもん。でもそんなもん、知るかーってやつ。
それに全部が全部こっちでやるわけじゃないよ。自分で出来るところはちゃんと自分でやってもらいますー。
もういい歳した二人かもしれないけれど、僕が小さかった頃は蒼さんとお風呂に入るのが当たり前で、頭から身体までちゃんと洗えるように躾けてくれたのも蒼さんだったんだからね。
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