勝手に悪役にしないでください

梛桜

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平穏はどこでしょう

第一幕

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 女王陛下の御治世は、あっけなく幕を下ろしました。


 ラフィット兄様と王城へ向かったものの、女王陛下は親族の数名と少し言葉を交わした後、静かに息を引き取ったそうです。胸にぽっかりと空いたような空虚感をそのままに、女王陛下の葬儀を執り行い王太子殿下が王位を継ぐ為の準備が粛々と進んでいきます。
 最初は王妃不在で国王になる予定でしたが、崩御なさった女王陛下の最後の御言葉らしく、私のデビューと言う名のお披露目を早め王太子妃として婚姻、それと同時に王位を引き継ぐという事になりました。
 前女王陛下の喪が明けると同時に、私は、十三歳で王太子妃となると同時に王妃となったのです。ですが、結婚式なのに、国王となられた陛下は私と目を合わせることは有りませんでした。精一杯に背伸びをしたドレス姿が似合わなかったのか、溜息を零されただけで、後は流れるままに式は終わったのです。



「私のデビューも、成婚式も高位貴族のみでしたからお見掛けしませんでしたが、今日の夜会にはいらっしゃるのですよね?例の男爵令嬢」
「おそらくは…、護衛騎士を増やしておきましょうか?」

 公爵家での専属侍女だったミルフィーユとサラ、専属の護衛騎士のアシュリーとケイリオスは王城へと一緒についてきてくれましたが、王城には女官と呼ばれる役職の女性も働いています。私に付けられたのは、数人の女官と侍女。その中でもジュリアーナという名前で沢山の女官を纏める女官長が主に世話をしてくれています。
 女官になるのは貴族の紹介か、貴族の令嬢であるのが条件でもありますが、王城で仕えるための試験もあるそうです。その女官の長。簡単に言えば、とても有能な方です。
 白を貴重にして金や銀の豪華な刺繍を施されたドレスは、まだ幼い私を大人っぽく見せてくれるようデザインされています。育ちつつある胸元は下品でないくらいに肌をみせ、嫁入り道具として持たされた輝く赤い宝石で飾られています。頭上には宝石で彩られたティアラが載せられるので、アクセサリーは必要なものだけです。

「いいえ、アシュリーとケイリオスがいるから大丈夫です。ありがとう」
「ですけど、前陛下の喪明け直後だからといっても、国民へのお披露目も無しとは…」
「夜会へのエスコートも無しで、王妃様一人で会場へなどというのもありえませんわ!」
「ミルフィー、サラ。陛下は即位されたばかりでお忙しいのですよ。今夜のエスコートはお父様がしてくれると言ってくださったわ」

 まだ幼い私が陛下と並び立つのは無理があるのか、夜会も最初に参加だけして早々に退席するようにと言われている。
 公爵家に乗り込んできた男爵令嬢は、噂ではまだ付き合いはそのままらしいです。そのうち愛妾として後宮へと入れるのではないかと、臣下達が噂をしているとラフィット兄様が言っていました。

 政略結婚なのだから、愛されることを一番には願ってはいなかったけど。少しくらいはお父様とお母様のような夫婦関係を夢見てみたかった。

「婚約の時に見た笑顔は、なんだったのかしら?」

 思わず零れてしまった言葉に、一緒に王城へと来てくれたミルフィーとサラが哀しそうな顔をしているのに気がついて、手にした扇子で口元を隠しました。溜息ばかりでは心配させてしまうと思っていても、これ以上の溜息を零すことになるとは、この時の私は思ってもいませんでした。
 
 お父様に手を引かれて入った夜会会場では、目を疑いたくなるような光景が目の前にあったからです。
 高らかと名前を告げる侍従の声、大きな扉を潜ると私を見つめる貴族の方々の視線は、哀れみを多大に含んでいたのです。
 それもそのはず、玉座には新国王陛下の姿と、ふわふわの可愛らしいピンク色のドレスを纏った女の子の姿が寄り添うように並んでいたのでした。

「お父様、陛下のお側にいらっしゃる方はどなたですの?」
「…あれが、陛下が現在溺愛されている男爵令嬢だ。こんな場にまで連れてくるとは…」

 ふわふわとウェーブのかかったピンクの色味が強いストロベリーブロンドに、空色の大きな瞳は子猫の様に庇護欲をそそる。幼子のように柔らかそうな丸い頬に、薄紅色の唇。まるで幼い少女のような外見なのに、陛下に寄り添う姿は女性なのだと突きつけられる。

(ああ…、もしかして陛下は…)

 一つの考えが、私の頭の中に浮かびやるせない思いが胸一杯に広がりました。


 
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