攻略よりも楽しみたい!~モフモフ守護獣の飼い方~

梛桜

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プロローグ

やっぱりゲームかよ!

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 可愛い可愛い男の子と、私の硬化を解いたのは『ピローン』と鳴る効果音が頭に響いてきたからでした。男の子の顔の横に出現する長方形の白枠。その中に書かれていたのは。

『アイドクレーズ=アトランティ。アメーリアの兄』

 ゲームかよ!!

 いやいやいや。
 ゲームの世界とは違うかもって考えてたのに、早速訴えてきたよね?此処ゲームの世界ですよー!ってきたな!?じゃあやっぱり夢か!前世とか思ってたあの記憶は通常の私の記憶だね。よし、納得した。希望を打ち砕かれた。

 上へと気合を入れていた腕をそっと下ろして、にっこりと微笑みを浮かべてると何も無かったような顔をしてお兄様であるアイドクレーズへと話しかける事にした。確か、アイドクレーズへの呼び方は『アイクお兄様』だったはず。

「アイクお兄様、どうかなさいましたか?」
「え?あ、アリア?」

 外見では私が勿論年下だけど、精神年齢は私のほうが上です。兄が可愛い、なんだこれ最強かよ可愛いだろ、可愛すぎかよ本当有難う御座います。ショタ兄最高です!
 平静を装っていても中身は五歳+α(ここは突っ込まないで)。生前も小さい子やモフモフが大好きだった私からすれば、あんなに可愛いショタなアイクお兄様はご褒美です大好物です。

(ああああ!もう可愛い可愛い可愛いっ、何だ兄抱き締めたいいいい!!)

 本当に神様ありがとうございます!手をお祈りの形にして拝み倒しますよ!
 アメーリアと違いふわっとした柔らかそうな金髪とくりくりの大きな瞳は琥珀色。私の瞳はお父様譲りの薄紫ですが、お兄様はお母様譲りの優しい色合いです。ぷくっとした柔らかそうな頬とか、つつきたい。寧ろ、食べたら美味しそうじゃ有りませんか?じゅるり。

「あ、アリア…?あの、ちかよってもだいじょうぶ?」
「はっ!も、もちろんですわアイクおにいさま。なにもこわいものはございませんよ?」

 危ない危ない、涎出てたか。

 思わず口元に手をやって確認して、私はにっこりと笑みをアイクお兄様へと向けた。幸い、この世界では令嬢として育てられていたので、幼いながらの礼儀作法などは体が記憶してくれていた。なんてラッキー。
 若干怯えを表情に残したアイクお兄様が、それでもにこりと微笑みを浮かべて手を差し出してくる。首を傾げて其の手を取れば、『お母様が呼んでるよ』と手を引いてエスコートしてくれた。

(流石、攻略対象者でなかったのに人気を誇ったアイクお兄様です。アメーリアの兄でなかったら、きっと貴方は攻略対象者の中でダントツ一位を取ってたってくらいに惜しまれてたキャラでした。優雅で優しい微笑みと気品を醸し出す幼児すごい)

 傍から見れば仲良く手を繋いで歩いている兄妹ですが、アイクお兄様にエスコートされて辿り着いたのは一つの扉の前。アメーリアの記憶では、そこはアイドクレーズとアメーリアの両親の部屋です。
 確かお母様は長くベッドに臥せっていたようで、でも幼いアメーリアにはその理由を誰も教えてくれなかった。お母様と遊びたいのに、駄目だって怒られるだけで凄く拗ねていた記憶がある。

(だけど、不穏な感じはしないよね?)

 コンコンッとアイクお兄様がノックし、直ぐに返される返事。開けた扉の先では、椅子に座って何かを抱いているお母様の姿と珍しく微笑みを浮かべているお父様の姿。その腕にあるのは真っ白なおくるみに包まれた見覚えのある塊。

(ああ、だからお母様は体調が悪かったんだ)

 前世を思い出した私だから納得できた、お母様の体調不良の原因。
 遊びたくてもそりゃ遊べませんよね。このゲームの時代背景は中世のヨーロッパをモデルとしているのだから、病気や出産は正しく命がけ。今なら我が儘を言ってごめんなさい、と素直に謝ることが出来ます。
 そう思うのに、私の目が引寄せられたのは、おくるみに包まれた赤ちゃんの姿。

「アイク、アリア。貴方達の弟ですよ」
「可愛いです!ね?アリア」
「………」

 おくるみに抱っこされた可愛い赤ちゃんの、スヤスヤと眠る顔を見た瞬間、私の瞳には堪えきれないほどの涙が溢れていた。ボロボロと頬を伝う暇なく零れていく涙は、ふかふかの絨毯へと吸い込まれていく。
 私の涙に驚くお母様とアイクお兄様、そしていつもは冷静なお父様までもが目を瞠っていて、私に付けられていたけど、お産の手伝いに借り出されていた乳母が慌てて駆け寄ってきた。

「お嬢様?如何されましたか?旦那様も奥様も吃驚されてますよ」
「…っ、ふぇ…」
「アリア?」

 喉に何かが詰まっている様に声が出ない、ただボロボロに零れる涙は止まってくれない。お母様の腕に抱かれた天使の寝顔、それを見た途端に思い出してしまった。

 あの幸せな重み、匂い、見ているだけで溢れてくる幸福感。無条件で向けられる愛しさ。
 
 私は、その愛しい重みを知っている。だけど、何故か今はこの腕にないもの。

 小さいながらも泣いている私を慰めようと、アイクお兄様はぎゅっと私を抱き締めてくれていた。その生きている温かさが、哀しくて胸が締め付けられて、でも、嬉しかった。

 ゲームだのなんだの関係ない、その愛しいものがどうして私の側に無いの?知らない、こんな夢早く目覚めたい。

 誰か、私を叩き起こしてください。早く、私の天使を抱き締めさせて。

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