攻略なんてしませんから!

紫椛

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紹介をしましょう。

愛しのモフモフ様 *

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 あまり王子様方をこの席に留め置く事も出来ませんし、なんたってこのテーブルにはアイクお兄様の笑顔の結界がありますが、周囲の御令嬢はしっかりと耳を此方に向けて、会話が漏れ聞こえてこないかと、虎視眈々と狙っています。

(うん、前のめりの精神は嫌いじゃないが、私に向くのは怖いので逃げる)

 ドレスの隠しポケットから持ち歩きようのクッキーをこっそり取り出し、挨拶周りをしないといけないリモナイト殿下にそっと持たせる。道中お食べってやつです。でも、結局お勧めしたケーキと、この席用に置いていたのは、しっかりとリモナイト殿下の頬袋に詰め込まれていた。

(伸びるなぁと思ってたけど、そうか、リモナイト殿下はリスか。なら可愛いのも仕方無い。今日から心の中ではリス王子だ)

 一人そんな事を考えていると、アイクお兄様が珍しく周りを見渡して首を傾げている。そんな、落ち着きの無いお兄様は初めて見る。

「アイクお兄様、どうなさったの?」
「ああ、友人が来て無くてね。今日は参加するって言ってたから、アリアにも紹介したかったんだけど」
「ご友人ですか…」
「こういった場が嫌いだって言ってるから、やっぱり逃げちゃったのかもね」

 友人を思い出しているのか口元に微笑みを浮かべて、優雅に紅茶を口にする。私と言えば、普段は仲良くしている令嬢友達は、今日は親の指令も入っているだろう、王子様へのアピールに忙しそうなのを見かけたばかり。

(折角だから、中庭でも散策させて貰いましょうか)

「アイクお兄様、少し花を見てまいります」
「うん、気をつけてね」

 沢山の庭師が整備している王宮自慢の中庭に咲き誇る花々、温かい春の月には色取り取りの花が咲き乱れ、今日の令嬢達のドレスのように綺麗。だけど、私の目的はそれではなくて、お茶に使えそうな新しいハーブが入っていないかのチェックだ。
 背が低いので埋まってしまわないようにドレスの裾を持ち上げ、花を不要に踏まないようにと歩いていたら、目の前をちらつく白と黒の長いふわふわとしたもの。

(…尻尾?)

「なんで、こんな所に尻尾が生えてますの?」

 右へ左へとゆらゆら揺れている白黒の尻尾に合わせて、私の首も同じ様に揺れる。音をなるべく立てないようにと進んで行くと、其処に居たのは前世でも見た事のある、ホワイトタイガーの子供(大きさだけ言えばデカイ猫)が転がっていた。

 その時の衝撃は、まさに雷が落ちたよう。

 ゴロンゴロンと芝生の上に転がり、たまに口に自然と入ってくる草をあぐあぐと噛み締め、目の前を横切る小さな虫にじゃれて飛びつく。もふもふの手足にちらりと見えるピンク色の肉球まで確認出来たところで、私のリミットは切れました。

「か、かかかあわいい~~~~!!!」
「!?」

 私の声に尻尾がビクッっと驚きを表し、瞳の瞳孔が全開でまん丸の可愛い目がじっと私を見つめてくる。耳は警戒を示しているのか、ぺたんと寝ていてどうしようと戸惑っているのが目に見えて解る。誰か解らなくて警戒している姿は正しく猫科のそれ!守ってくれる人の気配をしっかりと探しているのか、じりじりと距離をとってくる。だけど、私にはそんな事関係ない!

「え、ええ、何で中庭に?聖獣?でも違うよね、なんにしても可愛いもふもふー!」
「にゃあああーー!?」
「逃がすか!」

 まさかホワイトタイガーも、女の子が飛び込んでくるなんて思わなかったのだろう。前世の私だって、肉食獣に飛び込んでいくような無謀な事はした事無いです。
 でもでも、この世界に来てからずっとモフモフ不足だったんだもん!お母様の身体が弱いのとラーヴァがまだ小さいので、屋敷で動物を飼う事が出来なかったんです。
 逃げようとする尻尾を素早く捕まえて、痛さにこっちへと向かってきたのを、しめた!とばかりに抱き締める。喉の下とか撫で撫でしながらふわふわの毛並みに顔を埋めて、お日様のいい匂いのする毛皮を堪能しつつ、いつの間にかゴロゴロ聞こえて来る声に笑みを浮かべた。

「可愛い、何処から来たの?お名前なにかなー?瞳が綺麗なエメラルドグリーンだねー?」
「うにゃああ~ん」
「そっかそっか、これが気持ちいいのねー」
「ふみゃぁあん」
「ホワイトタイガーの子供って本当に可愛い!うちに連れて帰りたいー!」

 膝に乗せて喉を擽りながら背を撫でて、擦り付けてくる額をまた撫でてと、しばし時を忘れて、私はその子をモフった。ええ、もう。モフりまくりましたとも!!猫科万歳!もうもう、大好きだ!勿論犬科も好きよ!!
 べろっと頬を舐められて、ざらっとした舌先にくすぐったくて笑っていると、其れが嬉しかったのかもっと舐めようと向かってくる。近付いてくる口元に、特製のクッキーを押し込むと美味しかったのか、瞳がキラキラと輝いて、もっともっと!とせがんでくるのが本当に可愛い。


 散々モフってモフってモフり捲くって、正気に返ったのは、戻りの遅い私を捜しに来たアイクお兄様から名前を呼ばれた時だった。


「アイクお兄様、申し訳ありません…」
「やり過ぎには注意って言ってるのに、この子は何処の子だろう?お城に入れる階級で、獣人の子息を持つ方の家とすると…」

 そうですよね、こんな所に聖獣でもない限りホワイトタイガーの子供が居るわけ無いですよね。獣人が普通に居る世界だという事をたまに忘れてしまいそうになります。

(…まてよ、ホワイトタイガー?)

 この世界での意識に目覚めてからの、久し振りの子猫。基、ホワイトタイガーの子供という最高のモフモフに出会えた喜びに、我を忘れて居ましたが、ホワイトタイガーとなれば、思い出すのは私の最愛のモフモフ様。
 獣人でホワイトタイガーだなんて、ゲームの中でのキャラでそんなのあの人しか居ません。白黒の斑な髪を恥ずかしそうにかき上げる仕草に悶え、照れ隠しでパタパタ振られる尻尾を触りたいと何度叫んだ事か。その姿を見たいが為に、攻略対象では無いのに通い詰めました。そして同じEDを繰り返した女です。

(ああ、あの憧れのモフモフ様が、今私の膝に!!)

「アリア?何だか解らないけど、落ち着こうね?」
「はっ、はい!アイクお兄様!」

 流石アイクお兄様と言うべきでしょうか、私の高揚している気持ちに気が付いたようで、しっかりと釘を刺されてしまいました。
 そもそも、私は獣人に出会うのは初めてではありません。侯爵家にもメイドや執事として働いている方も居るのですが、やはり獣人族の方々は力仕事や体を動かす仕事が得意なようで、うちの屋敷でも庭師としてだったり、厩舎の世話係などをして下さってます。

(反省して落ち着きましょう…。平常心、へいじょうし…)

 落ち着こうと深呼吸しても、私の膝の上で眠るホワイトタイガーの子供はまさに天使としか言いようがありません!幸せそうに眠るモフモフなんて、可愛いとしかいえないじゃないですか!撫でてモフモフして、突きたい。その幸せそうな口元を突きたい…っ!!

(我慢!我慢です。私、頑張れ!!)

 だけど、こういう風に完全獣化するのは、血が濃い証拠だと教えて貰ったのを本当にすっかり忘れて居ました。特に幼い子供程、獣化をコントロール出来なくて人に中々戻れないのだとか。そうだとすれば、私の膝の上で眠っているこの子も、獣化したまま戻れなくなった可能性が高いです。
 幼いうちに獣人である親から、変化の仕方などをしっかりと学ぶ為、あまり小さいうちは出歩かないとも聞いています。貴族なら尚更のことでしょう。世間体を考えるのが一般的な貴族ですから。

「アリアもしかして、この子知り合い?」
「あの…、知り合いではないのですけど…。お聞きした事がある名前がありまして」
「アリアは獣人の庭師達とも仲良しだからね」

 アイクお兄様にこの子の名前を告げようとした時、近くにあった茂みが揺れ紅い髪がひょこっと見えました。そのまま大柄な男の子?ですわよね?が顔を出したのです。
 人を惹き付ける真っ赤な炎の様な髪、なのに優しさを醸し出す琥珀色の瞳、設定どおりならアイクお兄様と同じ年のはずの、王道王子様に従えるこれまた王道の護衛騎士。その人気は夢を見る少女達だけではなく、我が家の麗しいアイクお兄様とセットでそっち系の妄想を滾らせる御姉様方の人気No.1でした。

(もしかして、アイクお兄様が捜していたご友人はジャスパー様?)

「あれ?アイドクレーズ?」
「ジャスパー?今頃お茶会に参加なんて、随分偉くなったね?」
「いや、最初から居たんだって!アイドクレーズに言われた通り居ました!ちょっと、一緒に来てた知り合いが迷子になって捜してるんだよ。まだ小さいから頼むって言われてて…」

 突然声を掛けられたにも関わらず、アイクお兄様はにっこりと怖い微笑みを浮かべて、ジャスパー様に近付いていきます。焦る様子を見るとジャスパー様はアイクお兄様に弱いのか、慌てて言い訳をすると其の視線が私の膝へと向いて固定されました。
 これは、ジャスパー様の捜している知り合いが、このホワイトタイガー君だと言っているようなものです。ジャスパー様は伯爵家の方ですから、任された可能性は十分あります。

「どうかしたのか?ジャスパー?」
「あ、いや。そちらの御令嬢はどなたかと思っただけだ」

(あ、やっと視線が私に向きました。ホワイトタイガー君の事を聞きたいのにそらしましたね?)

「ああ、ジャスパーにも紹介するよ。妹のアメーリアだ」
「ロードナイト伯爵家二男ジャスパーと申します、以後お見知りおきをアメーリア嬢」
「アトランティ侯爵家長女アメーリアですわ」

 膝を地面へとつけ胸に片手を当てて騎士の礼をとるジャスパー様、普段なら其処までしないのかもしれないが、今私の膝には獣人の子供が眠っているので、立てない私に合わせてくれたのだと思う。アイクお兄様に対する情けない態度を見た後ですので、御令嬢の様に胸をときめかせるような甘い感情は湧きませんが、私はにっこりと微笑みを浮かべ名乗り返しました。

(ジャスパー様は是非とも紹介して頂きたいと思ってましたが、まさかこんなに早くに出逢えるなんて夢の様です)

 ジャスパー=ロードナイト様は、勿論攻略対象者です。年上の騎士科に居た名前だったんですが、私年上に興味が殊更なく(アイクお兄様は特別です)前世でのゲームの時は流してみていたんですが、親しくなった人にはワンコの様に人懐っこく、決める場所ではしっかりと決めるかっこいい人です。人気はラズーラ殿下と同じくらいありました。ジャスパー様を選ぶと、その時の能力次第では騎士団専属魔術師か、宮廷魔術師エンドです。

「それと、大変聞きにくいんだが…」
「なんでしょうか?」
「もしかして、ジャスパーこの子の知り合いなの?」
「ああ、捜してた迷子だ。グラッシュラー伯爵家の二男、アズライト=グラッシュラー。見ての通り獣人なんだけど、まだ獣化が不安定でグラッシュラー伯爵にも頼まれていたんだ。助かりましたアメーリア様」
「やっぱり、アズライト様でしたのね。獣化のまま此方にいらしたのですか?」
「いえ、最近は獣化することなく過ごしていたので、今日のお茶会に参加させたのですが…」
「獣人の子供は不安定だって聞くからね、目を放したのは一時だけなのかな?ジャスパー」
「あ、あの…っ」

 アイクお兄様の有無を言わせない微笑みが怖いです、ですが、一時目を放したというのは、当然ジャスパー様の嘘ですわよね。私が散策に行く前から獣化していたようですし。

(久し振りのモフモフに我を失っていたとはいえ、ホワイトタイガーで気付きましょうよ私。最愛キャラのアズライト君なのに)

「んん…っ」
「目が覚めたようだな」
「あ!アズラ、ちょっと待て!」
「え?何が…?おはよージャスパー」

 ふわふわのお腹を出して眠っていたホワイトタイガーのアズライト様でしたが、目覚めると同時に獣化が解けたのか、目呆け眼を擦りながら舌足らずな話し方は、とっても可愛いのです。ですが、目のやり場はどうしましょうか?勿論、まだ私の膝を枕にしてますけどね。
 まぁ七つやそこらの男の子に、今更きゃあきゃあ叫んだりはしませんが。アイクお兄様とジャスパー様には、令嬢としての意地だと思って頂きましょう。毛皮が白黒ですが、アズライト様は結構色白さんでした。
 しっかりとアイクお兄様に視線で衣服を持って来てと訴え、にっこりと微笑みを浮かべる私と、それに微笑みで返すアイクお兄様。さすがの兄妹以心伝心です。

「ジャスパー、早く上着」
「解ってるから、怖い顔で笑うなって!」
「え…?誰?上着って、何が…」
「あまり可愛い顔で無防備にされてらっしゃるのでしたら、攫ってお婿さんにしてしまいましてよ?」
「う、うわああ!?」

 私の言葉を頭上から聞き、やっと頭が覚醒したのか。全裸だった恥ずかしさに真っ赤になって、泣きそうな顔をしてジャスパー様に上着を借りるアズライト様が可愛くて可愛くて。もう、連れて帰ろうかと思ったくらいです。驚きで膨らんでる尻尾とか掴んで撫で撫でしたいし、ぺたんと寝てしまってる丸いお耳をモフりたい。
 優雅に笑いあう私とお兄様に対し、服も着て身嗜みを整えたのに、何やら疲労困憊になっていたジャスパー様とアズライト様でした。

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