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Ⅴ.The Hanged Man
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一週間がたった。
毎夜愛しい少女を胸の中に閉じ込めて眠る日々。それは、これ以上ない至福の日々だった。
男として少し辛くないわけもない。けれどそれ以上の喜びがあった。
眠くなるまで語り合う時間はとても楽しくて時間を忘れ、ついつい寝不足の日々になってしまう。
それを言うと寝てくださいと言われるが、少女と過ごす限られた時間は勿体なくて眠れない。おかげで少女は最近、昼寝をするようになってしまったと笑っていた。
けれど、少しずつ。
「体調、悪いの……?」
「……少しだけ」
元々白い顔を益々青白くさせ、だるそうな吐息を吐き出す少女に、セスクは気遣うような視線を向ける。
日を重ねる毎に他人行儀の敬語が抜け、親しみが深まっていく関係はとても嬉しいものだったが、相変わらず彼女が自分自身のことを語ることはそう多くなかった。
「じゃあ、今日はもう寝ようか」
「っ!あ、あの……っ」
なにも語ることなく、ただ抱き合って眠るのもたまには悪くないと笑かければ、少女はどこか恥じらうような、縋るような瞳を向けてくる。
「……もう、一週間。……抱いては、くれないの……?」
とても不安そうな問いかけは、セスクを動揺させるのに充分な衝撃を与えてきた。
まるで抱かれなければ自分の価値はないとでも思っているかのようなそれは、セスクの胸を締め付ける。
「っ。身体が目当てなわけじゃないんだ」
「でも……っ」
何処か焦りすら感じる少女の表情は、今まで彼女が関わってきた男たちが陸でもない人間たちだったことを匂わせて、腹が煮えたぎるような思いがした。
少女も自分のことを欲しいと思ってくれているのであればこれ以上嬉しいことはない。
それでも。
「正直、欲しいと思うよ?オレだって男だ。好きな子と同じベッドで寝ているだけなんて耐えられない」
「だったら……!」
訴える少女の手を取って、セスクは緩く首を振る。
「でも、体調が悪いのに抱けないよ」
少女の顔色が悪いのは誰が見ても明らかだ。
例え抱きたいと思っても、今日すべきことではない。
身体を重ねることは、確かに愛を伝える為には一番手っ取り早い方法だけれども、なにもそれだけが愛を伝える行為じゃない。愛しているからこそ大切にしたくて手が出せない。その気持ちを、どうかわかって欲しいと願う。
「とにかく、今日はもう寝よう」
我が儘を言う子供を宥めるようなセスクの苦笑に、さすがの少女もそれ以上はなにも言えなくなり、大人しくセスクの腕の中へ収まった。
「おやすみ」
「おやすみなさい……」
そうしてしばらくすれば、腕の中から安らかな寝息を感じることはできたものの、青白い少女の顔へと赤みが差す様子は見られなかった。
*****
「貴方は、本当に呆れた人ですね」
「なんだよ、藪から棒に」
どうしてこの男に会うと苛々するのだろう。
同じ邸内で毎日生活しているというにも関わらず、滅多に会うことのない客人に、セスクはあからさまに嫌気な表情を浮かべていた。
「そろそろいいんじゃないんですか?」
男の言いたいことをなんとなく察したセスクは、ぴくりと眉を反応させる。
ここ最近は、朝食も夕食もセスクは少女と二人で取っていた。
家に帰ると愛しい少女に出迎えられ、そのまま朝まで共にする至福の日々。まるで本当の夫婦にでもなったかのような生活は、セスクを幸せな気持ちばかりで満たしていたというのに。
「どうして抱かないんです」
あからさまな問いかけに、一気に気持ちが暗くなる。
「……オレは、ちゃんと愛し合いたいんだ」
「強情ですねぇ……」
なぜ、まだ抱いていないと知っているのだろう。まさか少女が話すとも思えないから、二人の間に流れる空気を読んでいるのか、ただの勘か。
どちらにせよ、いちいち男に口を出されたくはないから余計なお世話には違いない。
少しずつ少しずつ。確実に少女と愛を育んでいるという自信はある。
だが。
「どうなっても知りませんよ?」
「……どういう意味だ」
嘲るような、意味深な男の笑みに、不快感を誘われる。
ざらりと、嫌な予感に肌が擽られるような感覚。
その答えを知るのは、すぐのことか、それともまだ先のことか。
「さぁ?」
男は肩を竦め、くすりと口を歪めていた。
「明後日から私は1ヶ月程留守にしますから。あの子のことはくれぐれもよろしくお願いしますよ?」
王妃の病を治す為に必要な薬草は、簡単に手に入るものではないらしい。往復1ヶ月ほどかかる場所まで行ってくるのだと、どうやら本当に有能らしい男は説明した。
「……言われなくても」
男が少女を置いていなくなるというのなら、セスクにとってはむしろ願ったり叶ったりの状況だ。
休日は一日中少女と過ごそうと、セスクは何処かで感じる嫌な予感を振り払うように、楽しい計画だけに思いを馳せていた。
*****
次の日の昼間。セスクは所用があって、少しだけ仕事を抜けると自宅へと足を運んでいた。
少女の体調は相変わらず良くならず、心配で堪らない。医者だという男が傍にいながらなにをしているのだろうと、理不尽な腹立たしさすら感じてしまう。
そんな男は、明日から1ヶ月留守になる。少女の体調が優れないから置いていくことにしたのだろうかと、そんなことを考えながら愛しい少女が滞在する部屋を見上げ。
――そこに在る光景に言葉を失った。
男は、少女とは決して恋人同士という関係ではない、と言っていた。
だが、彼女は自分の"持ち物"だと意味深に嗤う。
少女が男の"持ち物"なのであれば、なにをしても許されるということだろうか。
バルコニーへと続くガラス扉に少女の身体を押し付けて。
カーテンをすることもなく行われる情交は、誰に見られても構わないという男の気持ちの現れか。
まさか、ちょうどその時セスクが自宅に戻るなどとは、さすがの男もわかるはずもないというのに。
振り切るようにその場を後にしても、目の奥に焼き付いたその光景が離れない。
まるで、愛玩人形で己の欲を晴らすような。
ただその為だけに少女を手元に置いているかのような。
男はこれからしばらくの間、少女と離れることになる。
それは、少女の"持ち主"が誰であるかをその身体に刻み付けるかのように、狂おしく激しく続けられていた。
毎夜愛しい少女を胸の中に閉じ込めて眠る日々。それは、これ以上ない至福の日々だった。
男として少し辛くないわけもない。けれどそれ以上の喜びがあった。
眠くなるまで語り合う時間はとても楽しくて時間を忘れ、ついつい寝不足の日々になってしまう。
それを言うと寝てくださいと言われるが、少女と過ごす限られた時間は勿体なくて眠れない。おかげで少女は最近、昼寝をするようになってしまったと笑っていた。
けれど、少しずつ。
「体調、悪いの……?」
「……少しだけ」
元々白い顔を益々青白くさせ、だるそうな吐息を吐き出す少女に、セスクは気遣うような視線を向ける。
日を重ねる毎に他人行儀の敬語が抜け、親しみが深まっていく関係はとても嬉しいものだったが、相変わらず彼女が自分自身のことを語ることはそう多くなかった。
「じゃあ、今日はもう寝ようか」
「っ!あ、あの……っ」
なにも語ることなく、ただ抱き合って眠るのもたまには悪くないと笑かければ、少女はどこか恥じらうような、縋るような瞳を向けてくる。
「……もう、一週間。……抱いては、くれないの……?」
とても不安そうな問いかけは、セスクを動揺させるのに充分な衝撃を与えてきた。
まるで抱かれなければ自分の価値はないとでも思っているかのようなそれは、セスクの胸を締め付ける。
「っ。身体が目当てなわけじゃないんだ」
「でも……っ」
何処か焦りすら感じる少女の表情は、今まで彼女が関わってきた男たちが陸でもない人間たちだったことを匂わせて、腹が煮えたぎるような思いがした。
少女も自分のことを欲しいと思ってくれているのであればこれ以上嬉しいことはない。
それでも。
「正直、欲しいと思うよ?オレだって男だ。好きな子と同じベッドで寝ているだけなんて耐えられない」
「だったら……!」
訴える少女の手を取って、セスクは緩く首を振る。
「でも、体調が悪いのに抱けないよ」
少女の顔色が悪いのは誰が見ても明らかだ。
例え抱きたいと思っても、今日すべきことではない。
身体を重ねることは、確かに愛を伝える為には一番手っ取り早い方法だけれども、なにもそれだけが愛を伝える行為じゃない。愛しているからこそ大切にしたくて手が出せない。その気持ちを、どうかわかって欲しいと願う。
「とにかく、今日はもう寝よう」
我が儘を言う子供を宥めるようなセスクの苦笑に、さすがの少女もそれ以上はなにも言えなくなり、大人しくセスクの腕の中へ収まった。
「おやすみ」
「おやすみなさい……」
そうしてしばらくすれば、腕の中から安らかな寝息を感じることはできたものの、青白い少女の顔へと赤みが差す様子は見られなかった。
*****
「貴方は、本当に呆れた人ですね」
「なんだよ、藪から棒に」
どうしてこの男に会うと苛々するのだろう。
同じ邸内で毎日生活しているというにも関わらず、滅多に会うことのない客人に、セスクはあからさまに嫌気な表情を浮かべていた。
「そろそろいいんじゃないんですか?」
男の言いたいことをなんとなく察したセスクは、ぴくりと眉を反応させる。
ここ最近は、朝食も夕食もセスクは少女と二人で取っていた。
家に帰ると愛しい少女に出迎えられ、そのまま朝まで共にする至福の日々。まるで本当の夫婦にでもなったかのような生活は、セスクを幸せな気持ちばかりで満たしていたというのに。
「どうして抱かないんです」
あからさまな問いかけに、一気に気持ちが暗くなる。
「……オレは、ちゃんと愛し合いたいんだ」
「強情ですねぇ……」
なぜ、まだ抱いていないと知っているのだろう。まさか少女が話すとも思えないから、二人の間に流れる空気を読んでいるのか、ただの勘か。
どちらにせよ、いちいち男に口を出されたくはないから余計なお世話には違いない。
少しずつ少しずつ。確実に少女と愛を育んでいるという自信はある。
だが。
「どうなっても知りませんよ?」
「……どういう意味だ」
嘲るような、意味深な男の笑みに、不快感を誘われる。
ざらりと、嫌な予感に肌が擽られるような感覚。
その答えを知るのは、すぐのことか、それともまだ先のことか。
「さぁ?」
男は肩を竦め、くすりと口を歪めていた。
「明後日から私は1ヶ月程留守にしますから。あの子のことはくれぐれもよろしくお願いしますよ?」
王妃の病を治す為に必要な薬草は、簡単に手に入るものではないらしい。往復1ヶ月ほどかかる場所まで行ってくるのだと、どうやら本当に有能らしい男は説明した。
「……言われなくても」
男が少女を置いていなくなるというのなら、セスクにとってはむしろ願ったり叶ったりの状況だ。
休日は一日中少女と過ごそうと、セスクは何処かで感じる嫌な予感を振り払うように、楽しい計画だけに思いを馳せていた。
*****
次の日の昼間。セスクは所用があって、少しだけ仕事を抜けると自宅へと足を運んでいた。
少女の体調は相変わらず良くならず、心配で堪らない。医者だという男が傍にいながらなにをしているのだろうと、理不尽な腹立たしさすら感じてしまう。
そんな男は、明日から1ヶ月留守になる。少女の体調が優れないから置いていくことにしたのだろうかと、そんなことを考えながら愛しい少女が滞在する部屋を見上げ。
――そこに在る光景に言葉を失った。
男は、少女とは決して恋人同士という関係ではない、と言っていた。
だが、彼女は自分の"持ち物"だと意味深に嗤う。
少女が男の"持ち物"なのであれば、なにをしても許されるということだろうか。
バルコニーへと続くガラス扉に少女の身体を押し付けて。
カーテンをすることもなく行われる情交は、誰に見られても構わないという男の気持ちの現れか。
まさか、ちょうどその時セスクが自宅に戻るなどとは、さすがの男もわかるはずもないというのに。
振り切るようにその場を後にしても、目の奥に焼き付いたその光景が離れない。
まるで、愛玩人形で己の欲を晴らすような。
ただその為だけに少女を手元に置いているかのような。
男はこれからしばらくの間、少女と離れることになる。
それは、少女の"持ち主"が誰であるかをその身体に刻み付けるかのように、狂おしく激しく続けられていた。
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