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ⅩⅡ.Six of Cups
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シェリルの綺麗な体形を主張する、腰部分が絞られたシャンパン色のパーティードレス。胸元には瞳と同じ色のサファイアが輝き、清楚なシェリルの雰囲気を最大限に引き出すように、細い身体のラインを見せつけながらも、決して露出部分は多くない。
セスクがエスコートして現れた美少女の姿には、見た者全てに感嘆の吐息を洩らさせていた。
「今回はお招き頂きありがとうございます」
宴の主催者でもある王太子へと、シェリルと共に挨拶に向かえば、まだ年若い黒髪の青年は、やはり少女に目を奪われた様子を見せていた。
「っ!? ……セスク……、こちらは……?」
「今、我が家でお預かりしているお嬢様です」
「! あぁ、ラファエル殿の」
自分の母親にあたる王妃の治療に当たっている医者のことは、王子もよく知っている。そしてその医者に、助手のような少女が付き添っていることも。
何故か一瞬驚愕に目を見張っていた王子だったが、セスクの説明を聞けば納得し、けれどチラチラとシェリルを上から下まで観察している様子が窺える。
「どうかなさいました……?」
シェリルは、誰の目から見ても美少女だ。
まさか王子まで心奪われてしまったのではないかと思うと気が気ではなく、セスクは思わず警戒するかのような眼差しを向けてしまう。
「いや……」
「?」
シェリルは、自分が人目を惹く容姿をしているということをあまり理解していないらしい。
言葉を詰まらせた王子から向けられる視線に不思議そうに小首を傾げつつ、セスクの顔を見上げてくる。
「……セスク」
妙に神妙なその表情と声色に、思わず身構えるような態度を取ってしまう。
他の男ならばまだしも、王子にシェリルを所望されれば、さすがのセスクも拒否することはなかなか難しい。もっとも、その場合はどんな怒りに晒されようと、決して従わない覚悟はあるのだけれど。
「……はい」
やはり連れてくるべきではなかっただろうかと思いながら、セスクは重い唇で返事を返す。
「……後で少し話したい。ほんの少しでいいんだ。抜けられるか?」
「……畏まりました」
王族の権力には逆らえない。
一体なにを言われるのだろうと、セスクはごくりと生唾を飲み込んでいた。
*****
シェリルがドレスの裾を翻せば、まるで会場中の視線が自分達に注がれているような気分を味わった。
注目を浴びながらも、愛しい少女と踊る時間はこれ以上ない幸せの一時で。楽しい時間は、すぐに過ぎ去ってしまう。
シェリルが会場内で一番綺麗だと思う気持ちは、もちろんセスクの惚れた贔屓目だろうけれど、そこまで間違っていない認識だろうとも思い直させられる感覚もする。
実際に、次から次へとシェリルへダンスを申し込む男たちが後を立たずにいる。その度に困ったような瞳で助けを求められ、セスクは波風立てないように断りを入れる為に、かなりの労力を費やされることになっていた。
そうして短いようで長いダンスパーティーが終焉を迎えると、セスクはこっそりと王子に手招きされ、戸惑うように隣に立つ少女の姿を見下ろした。どうやらセスク一人に用事がある様子だが、シェリルを一人取り残して席を外すことは心配で堪らない。
だが、そんなセスクの心中をしっかり察したらしいシェリルは、「子供じゃないんだから」と苦笑して、「いってらっしゃい」と笑顔で手を振ってくれていた。
*****
着いて来てくれと言われてやってきた場所は、王宮のかなり端にある、薄暗くがらんとした質素な部屋の中だった。
「この部屋は……?」
明かりを灯された部屋の中。床に直接置かれている品々は、どう見ても長年放置され続けたものばかりであることが窺える。
そしてそれを肯定するかのように、王子は神妙な面持ちのまま口を開く。
「ただの物置部屋だ」
なぜこんなところにこんな場所がとも思ったが、施錠すらされていない部屋の中に転がされている品々は、確かに王家にとっては価値のない物ばかりなのだろう。
「だが」
「……肖像画、ですか?」
部屋の一角に、白い布が被せられた画板があり、なんとなくその正体に当たりをつけて問いかければ、王子はゆっくりと頷き返していた。
「そうだ。……本来、何代か前の王太子妃になるはずだった女性の」
「"なるはずだった"……?」
つまりは、そうはなっていないということだ。
こんなところにひっそりと捨て置かれているのだから、確かに過去の王太子妃のものでないことは間違いないのかもしれないけれど。
「……見てくれ」
ばさり……っ、と捲られた白い布。
「――っ!」
そこに描かれた人物画に、セスクは言葉を失った。
――そこで柔らかく微笑む可憐な少女は、まさにシェリルそのものだった。
セスクがエスコートして現れた美少女の姿には、見た者全てに感嘆の吐息を洩らさせていた。
「今回はお招き頂きありがとうございます」
宴の主催者でもある王太子へと、シェリルと共に挨拶に向かえば、まだ年若い黒髪の青年は、やはり少女に目を奪われた様子を見せていた。
「っ!? ……セスク……、こちらは……?」
「今、我が家でお預かりしているお嬢様です」
「! あぁ、ラファエル殿の」
自分の母親にあたる王妃の治療に当たっている医者のことは、王子もよく知っている。そしてその医者に、助手のような少女が付き添っていることも。
何故か一瞬驚愕に目を見張っていた王子だったが、セスクの説明を聞けば納得し、けれどチラチラとシェリルを上から下まで観察している様子が窺える。
「どうかなさいました……?」
シェリルは、誰の目から見ても美少女だ。
まさか王子まで心奪われてしまったのではないかと思うと気が気ではなく、セスクは思わず警戒するかのような眼差しを向けてしまう。
「いや……」
「?」
シェリルは、自分が人目を惹く容姿をしているということをあまり理解していないらしい。
言葉を詰まらせた王子から向けられる視線に不思議そうに小首を傾げつつ、セスクの顔を見上げてくる。
「……セスク」
妙に神妙なその表情と声色に、思わず身構えるような態度を取ってしまう。
他の男ならばまだしも、王子にシェリルを所望されれば、さすがのセスクも拒否することはなかなか難しい。もっとも、その場合はどんな怒りに晒されようと、決して従わない覚悟はあるのだけれど。
「……はい」
やはり連れてくるべきではなかっただろうかと思いながら、セスクは重い唇で返事を返す。
「……後で少し話したい。ほんの少しでいいんだ。抜けられるか?」
「……畏まりました」
王族の権力には逆らえない。
一体なにを言われるのだろうと、セスクはごくりと生唾を飲み込んでいた。
*****
シェリルがドレスの裾を翻せば、まるで会場中の視線が自分達に注がれているような気分を味わった。
注目を浴びながらも、愛しい少女と踊る時間はこれ以上ない幸せの一時で。楽しい時間は、すぐに過ぎ去ってしまう。
シェリルが会場内で一番綺麗だと思う気持ちは、もちろんセスクの惚れた贔屓目だろうけれど、そこまで間違っていない認識だろうとも思い直させられる感覚もする。
実際に、次から次へとシェリルへダンスを申し込む男たちが後を立たずにいる。その度に困ったような瞳で助けを求められ、セスクは波風立てないように断りを入れる為に、かなりの労力を費やされることになっていた。
そうして短いようで長いダンスパーティーが終焉を迎えると、セスクはこっそりと王子に手招きされ、戸惑うように隣に立つ少女の姿を見下ろした。どうやらセスク一人に用事がある様子だが、シェリルを一人取り残して席を外すことは心配で堪らない。
だが、そんなセスクの心中をしっかり察したらしいシェリルは、「子供じゃないんだから」と苦笑して、「いってらっしゃい」と笑顔で手を振ってくれていた。
*****
着いて来てくれと言われてやってきた場所は、王宮のかなり端にある、薄暗くがらんとした質素な部屋の中だった。
「この部屋は……?」
明かりを灯された部屋の中。床に直接置かれている品々は、どう見ても長年放置され続けたものばかりであることが窺える。
そしてそれを肯定するかのように、王子は神妙な面持ちのまま口を開く。
「ただの物置部屋だ」
なぜこんなところにこんな場所がとも思ったが、施錠すらされていない部屋の中に転がされている品々は、確かに王家にとっては価値のない物ばかりなのだろう。
「だが」
「……肖像画、ですか?」
部屋の一角に、白い布が被せられた画板があり、なんとなくその正体に当たりをつけて問いかければ、王子はゆっくりと頷き返していた。
「そうだ。……本来、何代か前の王太子妃になるはずだった女性の」
「"なるはずだった"……?」
つまりは、そうはなっていないということだ。
こんなところにひっそりと捨て置かれているのだから、確かに過去の王太子妃のものでないことは間違いないのかもしれないけれど。
「……見てくれ」
ばさり……っ、と捲られた白い布。
「――っ!」
そこに描かれた人物画に、セスクは言葉を失った。
――そこで柔らかく微笑む可憐な少女は、まさにシェリルそのものだった。
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