愛玩人形 ~その人形は、戀(コイ)を知って少女(ひと)になる~

姫 沙羅(き さら)

文字の大きさ
13 / 39

ⅩⅡ.Six of Cups

しおりを挟む
 シェリルの綺麗な体形を主張する、腰部分が絞られたシャンパン色のパーティードレス。胸元には瞳と同じ色のサファイアが輝き、清楚なシェリルの雰囲気を最大限に引き出すように、細い身体のラインを見せつけながらも、決して露出部分は多くない。
 セスクがエスコートして現れた美少女の姿には、見た者全てに感嘆の吐息を洩らさせていた。

「今回はお招き頂きありがとうございます」

 宴の主催者でもある王太子へと、シェリルと共に挨拶に向かえば、まだ年若い黒髪の青年は、やはり少女に目を奪われた様子を見せていた。

「っ!? ……セスク……、こちらは……?」
「今、我が家でお預かりしているお嬢様です」
「! あぁ、ラファエル殿の」

 自分の母親にあたる王妃の治療に当たっている医者のことは、王子もよく知っている。そしてその医者に、助手のような少女が付き添っていることも。
 何故か一瞬驚愕に目を見張っていた王子だったが、セスクの説明を聞けば納得し、けれどチラチラとシェリルを上から下まで観察している様子が窺える。

「どうかなさいました……?」

 シェリルは、誰の目から見ても美少女だ。
 まさか王子まで心奪われてしまったのではないかと思うと気が気ではなく、セスクは思わず警戒するかのような眼差しを向けてしまう。

「いや……」
「?」

 シェリルは、自分が人目を惹く容姿をしているということをあまり理解していないらしい。
 言葉を詰まらせた王子から向けられる視線に不思議そうに小首を傾げつつ、セスクの顔を見上げてくる。

「……セスク」

 妙に神妙なその表情と声色に、思わず身構えるような態度を取ってしまう。
 他の男ならばまだしも、王子にシェリルを所望されれば、さすがのセスクも拒否することはなかなか難しい。もっとも、その場合はどんな怒りに晒されようと、決して従わない覚悟はあるのだけれど。

「……はい」

 やはり連れてくるべきではなかっただろうかと思いながら、セスクは重い唇で返事を返す。

「……後で少し話したい。ほんの少しでいいんだ。抜けられるか?」
「……畏まりました」

 王族の権力には逆らえない。
 一体なにを言われるのだろうと、セスクはごくりと生唾を飲み込んでいた。




 *****




 シェリルがドレスの裾を翻せば、まるで会場中の視線が自分達に注がれているような気分を味わった。
 注目を浴びながらも、愛しい少女と踊る時間はこれ以上ない幸せの一時で。楽しい時間は、すぐに過ぎ去ってしまう。
 シェリルが会場内で一番綺麗だと思う気持ちは、もちろんセスクの惚れた贔屓目だろうけれど、そこまで間違っていない認識だろうとも思い直させられる感覚もする。
 実際に、次から次へとシェリルへダンスを申し込む男たちが後を立たずにいる。その度に困ったような瞳で助けを求められ、セスクは波風立てないように断りを入れる為に、かなりの労力を費やされることになっていた。

 そうして短いようで長いダンスパーティーが終焉を迎えると、セスクはこっそりと王子に手招きされ、戸惑うように隣に立つ少女の姿を見下ろした。どうやらセスク一人に用事がある様子だが、シェリルを一人取り残して席を外すことは心配で堪らない。
 だが、そんなセスクの心中をしっかり察したらしいシェリルは、「子供じゃないんだから」と苦笑して、「いってらっしゃい」と笑顔で手を振ってくれていた。




 *****




 着いて来てくれと言われてやってきた場所は、王宮のかなり端にある、薄暗くがらんとした質素な部屋の中だった。

「この部屋は……?」

 明かりを灯された部屋の中。床に直接置かれている品々は、どう見ても長年放置され続けたものばかりであることが窺える。
 そしてそれを肯定するかのように、王子は神妙な面持ちのまま口を開く。

「ただの物置部屋だ」

 なぜこんなところにこんな場所がとも思ったが、施錠すらされていない部屋の中に転がされている品々は、確かに王家にとっては価値のない物ばかりなのだろう。

「だが」
「……肖像画、ですか?」

 部屋の一角に、白い布が被せられた画板があり、なんとなくその正体に当たりをつけて問いかければ、王子はゆっくりと頷き返していた。

「そうだ。……本来、何代か前の王太子妃になるはずだった女性の」
「"なるはずだった"……?」

 つまりは、そうはなっていないということだ。
 こんなところにひっそりと捨て置かれているのだから、確かに過去の王太子妃のものでないことは間違いないのかもしれないけれど。

「……見てくれ」

 ばさり……っ、と捲られた白い布。

「――っ!」

 そこに描かれた人物画に、セスクは言葉を失った。

 ――そこで柔らかく微笑む可憐な少女は、まさにシェリルそのものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...