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ⅩⅢ.Five of Swords
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「……瓜二つだろう……?」
シェリルを見た時に走った衝撃はこれだったのだと、王子は静かに言葉を洩らしていた。
「……ですが、何代か前の、って……」
「300年ほど昔だと私は聞いた。ひっそりと語り継がれているらしい王家の黒歴史だ」
妙に、喉が乾いた。
それでもなんとか喉の奥から言葉を絞り出せば、王子は肖像画からもセスクからも視線を外して、ぽつりとその場に言葉を落とす。
「父上はこの肖像画の姿までは知らないみたいだが……」
初めてこの肖像画の少女を見たのは、案外やんちゃだった子供時代に、王子がこの部屋へ忍び込んだ時だと語り、王子は拳を握り締める。
「私はなぜか、その時見たこの少女の姿絵が忘れられなかった」
幼いその日に、なぜかたった一度見ただけのその姿が脳裏に焼き付いて離れなかったと王子は語った。
そしてそれから数年経った後。王子は、その少女の正体を知ることになる。
「……なにがあったのですか?」
「……」
「殿下……っ!」
まるで語ることを拒むような王子の横顔に、セスクはどくどくと嫌な音を立てて身体中の血流が巡っていくのを感じていた。
「……300年も前の話だ。他人の空似というヤツで、彼女とは無関係だろう」
「それはそうかもしれませんが……っ!」
ここまで自分を連れてきたというのに今さらなにを、と、セスクは責めるような声を上げる。
「もしかしたら、先祖ということもあるかもしれないでしょう?」
過去のことを語りたがらない少女。
ここになにか、答えに繋がる糸口が見えたような気もして。
けれどそれは、決して開けてはならないパンドラの箱。
「……それはない」
「どうしてですかっ」
「……彼女は、若くして亡くなっているからだ」
どくん……っ!と。
知るべきではない過去の出来事に、心臓がばくばくと早鐘を打っていた。
引き返すならば今のうちだと。聞くべきではないと、もう一人の自分が忠告の声を上げてくる。
「子を生んだという話は聞いていない。もっとも、兄はいたそうだから、遠い血縁者ということはあるかもしれないが」
「殿下……!」
王子自身も、部外者に何処まで話してしまっていいのか迷っているところがあるのだろう。
話を逸らそうとするかのような物言いに、セスクは今さらなにをと声を上げる。
「ここまで話されたのですから教えて下さい。誰にも話さないとお誓いします」
「……そうだな……。確かにお前の言う通りだ」
「殿下……!」
目を閉じて、意を決するかのような気配をみせる王子に、セスクは覚悟を決めて顔を上げる。
「……これは、もう表に出されることはない王家の黒歴史だ。本当に、この少女には申し訳ないことをしたと、私でさえ思っている」
「……一体なにが……?」
ごくり、と。唾を飲み込む音が妙に耳の奥を響かせた。
ぐっ、と拳をきつく握り締め、王子はゆっくりと口を開いていく。
「拐われたんだ」
どくん……っ!と心臓の音が鳴った。
「……結婚式の前日に。当時対立していた反対勢力の策略で」
王宮内での権力争い。二つに別れていた派閥。
その時の詳しい状況までは、今となってはわからない。
ただ、その結果起こった悲劇だけは、ひっそりと語り継がれている。
「無事に帰すという交換条件に、王は頑として首を振らなかったという」
そんなことに、王は私情を挟めない。
結果的に、犠牲になるのは、いつだってなんの罪もないか弱い人間だ。
「……そう言えば、その先に起こることはもう見えているだろう?」
連れ拐われた可憐な少女。
交渉が決裂し、男たちの怒りが向かう先にあるものは。
「殺されはしなかった。だが、助け出されたその時は……」
これ以上は、もう聞くべきことではない。
もう、セスクにもわかっている。
だが、無情にも、まざまざと悲劇は語られる。
「純潔は散らされていた」
シェリルを見た時に走った衝撃はこれだったのだと、王子は静かに言葉を洩らしていた。
「……ですが、何代か前の、って……」
「300年ほど昔だと私は聞いた。ひっそりと語り継がれているらしい王家の黒歴史だ」
妙に、喉が乾いた。
それでもなんとか喉の奥から言葉を絞り出せば、王子は肖像画からもセスクからも視線を外して、ぽつりとその場に言葉を落とす。
「父上はこの肖像画の姿までは知らないみたいだが……」
初めてこの肖像画の少女を見たのは、案外やんちゃだった子供時代に、王子がこの部屋へ忍び込んだ時だと語り、王子は拳を握り締める。
「私はなぜか、その時見たこの少女の姿絵が忘れられなかった」
幼いその日に、なぜかたった一度見ただけのその姿が脳裏に焼き付いて離れなかったと王子は語った。
そしてそれから数年経った後。王子は、その少女の正体を知ることになる。
「……なにがあったのですか?」
「……」
「殿下……っ!」
まるで語ることを拒むような王子の横顔に、セスクはどくどくと嫌な音を立てて身体中の血流が巡っていくのを感じていた。
「……300年も前の話だ。他人の空似というヤツで、彼女とは無関係だろう」
「それはそうかもしれませんが……っ!」
ここまで自分を連れてきたというのに今さらなにを、と、セスクは責めるような声を上げる。
「もしかしたら、先祖ということもあるかもしれないでしょう?」
過去のことを語りたがらない少女。
ここになにか、答えに繋がる糸口が見えたような気もして。
けれどそれは、決して開けてはならないパンドラの箱。
「……それはない」
「どうしてですかっ」
「……彼女は、若くして亡くなっているからだ」
どくん……っ!と。
知るべきではない過去の出来事に、心臓がばくばくと早鐘を打っていた。
引き返すならば今のうちだと。聞くべきではないと、もう一人の自分が忠告の声を上げてくる。
「子を生んだという話は聞いていない。もっとも、兄はいたそうだから、遠い血縁者ということはあるかもしれないが」
「殿下……!」
王子自身も、部外者に何処まで話してしまっていいのか迷っているところがあるのだろう。
話を逸らそうとするかのような物言いに、セスクは今さらなにをと声を上げる。
「ここまで話されたのですから教えて下さい。誰にも話さないとお誓いします」
「……そうだな……。確かにお前の言う通りだ」
「殿下……!」
目を閉じて、意を決するかのような気配をみせる王子に、セスクは覚悟を決めて顔を上げる。
「……これは、もう表に出されることはない王家の黒歴史だ。本当に、この少女には申し訳ないことをしたと、私でさえ思っている」
「……一体なにが……?」
ごくり、と。唾を飲み込む音が妙に耳の奥を響かせた。
ぐっ、と拳をきつく握り締め、王子はゆっくりと口を開いていく。
「拐われたんだ」
どくん……っ!と心臓の音が鳴った。
「……結婚式の前日に。当時対立していた反対勢力の策略で」
王宮内での権力争い。二つに別れていた派閥。
その時の詳しい状況までは、今となってはわからない。
ただ、その結果起こった悲劇だけは、ひっそりと語り継がれている。
「無事に帰すという交換条件に、王は頑として首を振らなかったという」
そんなことに、王は私情を挟めない。
結果的に、犠牲になるのは、いつだってなんの罪もないか弱い人間だ。
「……そう言えば、その先に起こることはもう見えているだろう?」
連れ拐われた可憐な少女。
交渉が決裂し、男たちの怒りが向かう先にあるものは。
「殺されはしなかった。だが、助け出されたその時は……」
これ以上は、もう聞くべきことではない。
もう、セスクにもわかっている。
だが、無情にも、まざまざと悲劇は語られる。
「純潔は散らされていた」
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