33 / 39
ⅩⅩⅩⅡ.Three of Swords
しおりを挟む
「……人間が純血の吸血鬼に血を貰って吸血鬼になるっていうのは、不老不死を得る代わりに、従属関係になることも意味するの」
裸で抱き合い、行為の余韻に浸りながら、シェリルは静かに口を開いていた。
不死とは言っても、結局は他人から生気を貰わなくてはならないのだから、本当に中途半端な存在だ。
そして、老いないからこそ、ずっと同じ場所には留まれない。年を取らないと。そう気づかれてはならないから。
だから、もう限界だと思った。そろそろ、シェリルが出逢った時から"変わらない"ことに周りが不審を覚える頃だろうと。
「従属関係……?」
「うん……」
自分へ血を与えた純血種へは絶対服従。
その命令には決して逆らえなくなってしまう。
「……だから」
男は少女のことを"所有物"だと言い、好き勝手していたのかと、どうしようもない嫉妬に唇を震わせれば、けれどシェリルは小さく首を振っていた。
「……ううん。ラファエルが私に命令したことは一度しかない」
あくまで「命令」をしなければ効果はない。
そして、長い時間の中でラファエルがシェリルにした命令は一つだけ。
「……私を、吸血鬼にした時。『死ぬな』って」
だからきっと。三日三晩生死を彷徨いながら生き延びた。
それが「命令」だったから。その時はまだ、シェリルが"人間"だったとしても。
そして、その言葉がずっと、逆にシェリルを縛り付けていた。
「……そっ、か……」
「うん……」
セスクの広い胸へとすり寄って、シェリルは逞しいその胸へと顔を埋めた。
そんな愛しい少女を抱き締めて、セスクはずっと、眠るまで少女の髪を撫でていた。
*****
「こんな時間にあの子から離れていいんですか?」
シェリルが深い眠りについたことを確認してからここへと足を運んだセスクへ、男は煙草を片手に苦笑した。
「……わざとだろ」
「なにがです?」
「この街での目撃情報。わざとオレに漏れるようにしただろ」
王都を出ていった痕跡を一切残さず。
その足取りを掴ませることもなく。
にも関わらず、突如としてもたらされた情報は不自然でしかない。
一体どうして男の気が変わったのかはわからないけれど。
「どうして私がそんなことを」
「"どうして"?」
机の上には、真っ赤な液体の入ったワイングラス。
優雅に嗜好品を楽しんでいたらしきラファエルへと、セスクは挑むような目を向ける。
「だって、お前。シェリルのことが好きだろう?」
刹那、男の動きがほんの一瞬だけ停止した。
「……なにをバカなことを」
「気づいてないのかよ」
煙草の煙を上空へと吐き出して、男はありえないと苦笑した。
けれど。
「オレはお前のことをそんなに知ってるわけじゃないけど、本来のお前は、誰が目の前で死のうか気にしないタイプだろ」
それを、少女が一言「死にたくない」と言ったくらいで自分の仲間へ引きずり込んだ。
「なかなか酷いことを言いますね。私は人の命を救う医者ですよ?」
「医者になったのは、合法的に、疑われずに人間の血を手に入れるためだろ?」
男自身がそう口にしていた。
元々の頭脳とその特殊能力もあり、「名医」と言われるほどにはなっているけれど。
「……少し、考えたんだ。不老不死って、人間の憧れだけれど、実際に自分がそうなったらどうなるか、って」
転々と居場所を変え、"友人"と呼べる者も作れずに。
それは、"独り"ではないのかと。
──永遠の、孤独。
「だからお前が、誰かと一緒にいたいと思ってしまっても、それは当然のことなんじゃないか、って」
もしかしたら。
今にも生き絶えそうな綺麗な少女を目の前にして。
彼女を自分のモノにして手元に置いておきたいと。
そう思ってしまってなにが悪いだろうか。
「だから、わざと他の男の元に行かせてたんじゃないか、って」
少女を好きだと。
自分の気持ちを認められなくて。
少女は自分の"人形"なのだと、自身に思い込ませるように、他の男たちに与えてきた。
「だけど、本当は、」
「あの子を助けたのはただの気まぐれです」
セスクへと目を向けることなく、男はハッキリとそう言った。
「あの子は貴方を選んだ。それ以上なにか必要ですか?」
窓の外には、大きく丸い月が輝いていた。
裸で抱き合い、行為の余韻に浸りながら、シェリルは静かに口を開いていた。
不死とは言っても、結局は他人から生気を貰わなくてはならないのだから、本当に中途半端な存在だ。
そして、老いないからこそ、ずっと同じ場所には留まれない。年を取らないと。そう気づかれてはならないから。
だから、もう限界だと思った。そろそろ、シェリルが出逢った時から"変わらない"ことに周りが不審を覚える頃だろうと。
「従属関係……?」
「うん……」
自分へ血を与えた純血種へは絶対服従。
その命令には決して逆らえなくなってしまう。
「……だから」
男は少女のことを"所有物"だと言い、好き勝手していたのかと、どうしようもない嫉妬に唇を震わせれば、けれどシェリルは小さく首を振っていた。
「……ううん。ラファエルが私に命令したことは一度しかない」
あくまで「命令」をしなければ効果はない。
そして、長い時間の中でラファエルがシェリルにした命令は一つだけ。
「……私を、吸血鬼にした時。『死ぬな』って」
だからきっと。三日三晩生死を彷徨いながら生き延びた。
それが「命令」だったから。その時はまだ、シェリルが"人間"だったとしても。
そして、その言葉がずっと、逆にシェリルを縛り付けていた。
「……そっ、か……」
「うん……」
セスクの広い胸へとすり寄って、シェリルは逞しいその胸へと顔を埋めた。
そんな愛しい少女を抱き締めて、セスクはずっと、眠るまで少女の髪を撫でていた。
*****
「こんな時間にあの子から離れていいんですか?」
シェリルが深い眠りについたことを確認してからここへと足を運んだセスクへ、男は煙草を片手に苦笑した。
「……わざとだろ」
「なにがです?」
「この街での目撃情報。わざとオレに漏れるようにしただろ」
王都を出ていった痕跡を一切残さず。
その足取りを掴ませることもなく。
にも関わらず、突如としてもたらされた情報は不自然でしかない。
一体どうして男の気が変わったのかはわからないけれど。
「どうして私がそんなことを」
「"どうして"?」
机の上には、真っ赤な液体の入ったワイングラス。
優雅に嗜好品を楽しんでいたらしきラファエルへと、セスクは挑むような目を向ける。
「だって、お前。シェリルのことが好きだろう?」
刹那、男の動きがほんの一瞬だけ停止した。
「……なにをバカなことを」
「気づいてないのかよ」
煙草の煙を上空へと吐き出して、男はありえないと苦笑した。
けれど。
「オレはお前のことをそんなに知ってるわけじゃないけど、本来のお前は、誰が目の前で死のうか気にしないタイプだろ」
それを、少女が一言「死にたくない」と言ったくらいで自分の仲間へ引きずり込んだ。
「なかなか酷いことを言いますね。私は人の命を救う医者ですよ?」
「医者になったのは、合法的に、疑われずに人間の血を手に入れるためだろ?」
男自身がそう口にしていた。
元々の頭脳とその特殊能力もあり、「名医」と言われるほどにはなっているけれど。
「……少し、考えたんだ。不老不死って、人間の憧れだけれど、実際に自分がそうなったらどうなるか、って」
転々と居場所を変え、"友人"と呼べる者も作れずに。
それは、"独り"ではないのかと。
──永遠の、孤独。
「だからお前が、誰かと一緒にいたいと思ってしまっても、それは当然のことなんじゃないか、って」
もしかしたら。
今にも生き絶えそうな綺麗な少女を目の前にして。
彼女を自分のモノにして手元に置いておきたいと。
そう思ってしまってなにが悪いだろうか。
「だから、わざと他の男の元に行かせてたんじゃないか、って」
少女を好きだと。
自分の気持ちを認められなくて。
少女は自分の"人形"なのだと、自身に思い込ませるように、他の男たちに与えてきた。
「だけど、本当は、」
「あの子を助けたのはただの気まぐれです」
セスクへと目を向けることなく、男はハッキリとそう言った。
「あの子は貴方を選んだ。それ以上なにか必要ですか?」
窓の外には、大きく丸い月が輝いていた。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる
春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。
夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。
形のない愛は信じない。
でも、出来立ての肉は信じてしまう。
肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。
これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる