愛玩人形 ~その人形は、戀(コイ)を知って少女(ひと)になる~

姫 沙羅(き さら)

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ⅩⅩⅩⅡ.Three of Swords

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「……人間が純血の吸血鬼に血を貰って吸血鬼になるっていうのは、不老不死を得る代わりに、従属関係になることも意味するの」

 裸で抱き合い、行為の余韻に浸りながら、シェリルは静かに口を開いていた。
 不死とは言っても、結局は他人から生気を貰わなくてはならないのだから、本当に中途半端な存在だ。
 そして、老いないからこそ、ずっと同じ場所には留まれない。年を取らないと。そう気づかれてはならないから。
 だから、もう限界だと思った。そろそろ、シェリルが出逢った時から"変わらない"ことに周りが不審を覚える頃だろうと。

「従属関係……?」
「うん……」

 自分へ血を与えた純血種へは絶対服従。
 その命令には決して逆らえなくなってしまう。

「……だから」

 男は少女のことを"所有物"だと言い、好き勝手していたのかと、どうしようもない嫉妬に唇を震わせれば、けれどシェリルは小さく首を振っていた。

「……ううん。ラファエルが私に命令したことは一度しかない」

 あくまで「命令」をしなければ効果はない。
 そして、長い時間の中でラファエルがシェリルにした命令は一つだけ。

「……私を、吸血鬼仲間にした時。『死ぬな』って」

 だからきっと。三日三晩生死を彷徨いながら生き延びた。
 それが「命令」だったから。その時はまだ、シェリルが"人間"だったとしても。
 そして、その言葉がずっと、逆にシェリルを縛り付けていた。

「……そっ、か……」
「うん……」

 セスクの広い胸へとすり寄って、シェリルは逞しいその胸へと顔を埋めた。
 そんな愛しい少女を抱き締めて、セスクはずっと、眠るまで少女の髪を撫でていた。




 *****




「こんな時間にあの子から離れていいんですか?」

 シェリルが深い眠りについたことを確認してからここへと足を運んだセスクへ、男は煙草を片手に苦笑した。

「……わざとだろ」
「なにがです?」
「この街での目撃情報。わざとオレに漏れるようにしただろ」

 王都を出ていった痕跡を一切残さず。
 その足取りを掴ませることもなく。
 にも関わらず、突如としてもたらされた情報は不自然でしかない。
 一体どうして男の気が変わったのかはわからないけれど。

「どうして私がそんなことを」
「"どうして"?」

 机の上には、真っ赤な液体の入ったワイングラス。
 優雅に嗜好品を楽しんでいたらしきラファエルへと、セスクは挑むような目を向ける。

「だって、お前。シェリルのことが好きだろう?」

 刹那、男の動きがほんの一瞬だけ停止した。

「……なにをバカなことを」
「気づいてないのかよ」

 煙草の煙を上空へと吐き出して、男はありえないと苦笑した。
 けれど。

「オレはお前のことをそんなに知ってるわけじゃないけど、本来のお前は、誰が目の前で死のうか気にしないタイプだろ」

 それを、少女が一言「死にたくない」と言ったくらいで自分の仲間へ引きずり込んだ。

「なかなか酷いことを言いますね。私は人の命を救う医者ですよ?」
「医者になったのは、合法的に、疑われずに人間の血を手に入れるためだろ?」

 男自身がそう口にしていた。
 元々の頭脳とその特殊能力もあり、「名医」と言われるほどにはなっているけれど。

「……少し、考えたんだ。不老不死って、人間の憧れだけれど、実際に自分がそうなったらどうなるか、って」

 転々と居場所を変え、"友人"と呼べる者も作れずに。
 それは、"独り"ではないのかと。

 ──永遠の、孤独。

「だからお前が、誰かと一緒にいたいと思ってしまっても、それは当然のことなんじゃないか、って」

 もしかしたら。
 今にも生き絶えそうな綺麗な少女を目の前にして。
 彼女を自分のモノにして手元に置いておきたいと。
 そう思ってしまってなにが悪いだろうか。

「だから、わざと他の男の元に行かせてたんじゃないか、って」

 少女を好きだと。
 自分の気持ちを認められなくて。
 少女は自分の"人形おもちゃ"なのだと、自身に思い込ませるように、他の男たちに与えてきた。

「だけど、本当は、」
「あの子を助けたのはただの気まぐれです」

 セスクへと目を向けることなく、男はハッキリとそう言った。

「あの子は貴方を選んだ。それ以上なにか必要ですか?」




 窓の外には、大きく丸い月が輝いていた。
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