余命一ヶ月の公爵令嬢ですが、独占欲が強すぎる天才魔術師が離してくれません!?

姫 沙羅(き さら)

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番外編

家族のカタチ③

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「それより、どうやってここに?」
 少しだけ息の上がった様子の見えるクロムに、クロムの母はぱちぱちと瞳を瞬かせながら問いかけた。
 対し、
「途中までは馬車で」
 あとは走って。と返すクロムからはむすりとした空気が滲み出る。
 そこには、母親に対する遠慮が見え隠れしつつ、確かに“親子”としての絆があることをアリーチェに伝えてきて、少し意外に感じながらも嬉しくなる。
 きちんとした信頼関係が築かれているからこそ、クロムは子供っぽく不貞腐れることができるのだ。
「そうではなくて。お父様に聞いたの?」
 そんなクロムに先の言葉を否定して、クロムの母親は「なぜこの場所がわかったのか」を尋ね直す。
 どうやらアリーチェと二人きりで話をしたかったらしいクロムの母親は、一応居場所を知るクロムの父親にこの場所の口止めをしていたらしかった。
 けれどクロムは。
「アリーチェさんの居場所くらい把握してます」
「……え……」
「え?」
 さらりと告げられたクロムのセリフにアリーチェは固まり、クロムの母はきょとん、と瞳を瞬かせる。
「なにかあったら大変ですから」
「あらあらあらあら」
 悪びれなく言ってのけるクロムに、クロムの母はただ楽しそうな、からかうような笑みを浮かべるばかりだが、それはとんでもないことではないだろうか。
 ――クロムに常に居場所を把握されている……。
 なぜそんなことが可能なのかは少し考えればすぐに理解する。
 アリーチェの腹部には、クロムの”執着呪い“が刻まれているのだから。
 それを了承したのはアリーチェだ。
(だからって……!)
 そんなふうにアリーチェが背中に冷たい汗が流れていくのを感じていると、クロムの母は、ここでやっと我が子へと懐かしそうな瞳と共に笑顔を向ける。
「久しぶりね、クロム。……なんだか雰囲気が変わったわ」
 もう、何年もたつものね。と少しだけ寂しそうに微笑むクロムの母からは、僅かな緊張感が伝わってきた。
 何年も、というのは、きっと二、三年どころではないだろうから、クロムが成長するのは当然だろう。
「でも、こんなに素敵なお嫁さんを連れて帰ってきてくれるなんて……。お父様も安心して引退できるわね」
 そこでにっこりと笑った母親に、クロムの目は丸くなる。
「俺はスピアーズ家を継ぐつもりはありませんよ?」
「え……っ?」
 クロムの母の驚きは、明らかに「そのつもりで帰ってきたのでは?」という動揺から来ているものだ。
 クロムは、スピアーズ家の長子。
 けれど、クロムは。
「実の息子がいるのに、どうして俺が家を継ぐことになるんですか」
 さも当然とばかりに返された口ぶりに、クロムの母は一瞬息を呑む。
「貴方だってわたくしたちの息子よ……っ!」
 クロムは、死んだ息子の代わりに引き取った養子。とはいえ、実の息子と同じように育て、家を継がせるつもりだったのだろうと思う。そして、恐らくは、クロムにもその気はあったのかも……、しれない。――その後、奇跡的に子供を授かるまでは。
「……お母様……、クロム……」
 二人のやり取りに口を出すわけにはいかず、それでも困ったように二人を眺めるアリーチェへ、クロムは肩を落として苦笑する。
「……すみません。わかっています。でも、やっぱりここは実の子供が跡を継ぐのが正統だと思います」
 スピアーズ家の“血”を考えたならば。実の子供がいるにも関わらず、血を途絶えさせる意味はないだろうと告げるクロムに、クロムの母の瞳には哀しそうな涙が滲む。
「……もう戻るつもりはない、ってこと……?」
「……それは……」
 両親にアリーチェを紹介した後は。これを最後にスピアーズ家とは縁を切るつもりなのかと危惧する母親に、クロムは気まずそうに返事を濁す。
 家のためには自分はいない方がいい。クロムがそう考えてしまう気持ちはわからなくもないけれど。
「あ、あの……っ、お母様……っ」
 耐え切れず、アリーチェは顔を上げると思わずクロムの母へ訴えてしまっていた。
「わ、私……っ、実は、一人娘で……っ」
 途端、どこか似た母子の顔が向けられて、アリーチェはこくりと息を呑む。
「うちの両親も家のことは気にしなくていい、って言ってくれてるんですけど……っ。でも……っ」
 クロムが、円満に弟へ家督を譲ることができる方法。
 確かに思い合っている親子を、互いの遠慮から離れるようなことがないように。
 アリーチェに、できること。
「もし、できるなら……っ」
 クロムの母を真っ直ぐ見つめ、アリーチェは緊張で心臓を高鳴らせながら口を開く。
「クロムを……っ。私がもらってもいいですか……!?」
「……え……っ?」
「!」
 その瞬間、クロムの母の目は丸くなり、クロムの瞳は見開いた。
 そうして。
「……アリーチェさん、カッコいいです」
 傍にやってきたクロムに肩を引かれ、至近距離からクロムの甘い声が落ちてきた。
「惚れ直しました」
 そう笑うクロムはとても嬉しそうで。
「それって逆プロポーズですか?」
 大歓迎です。とこめかみにキスを落とされ、アリーチェの顔は羞恥でカァァァ……ッ! と赤くなる。
「違……っ」
 プロポーズ、なんて。そんなつもりで言ったわけではない。
 ただ、アリーチェは一人娘で。マクラーゲン家のことが心配であることも確かで。
 一方、研究オタクのクロムが、家は弟が継げばいいと思っていることは間違いなく本音で。
 そして、クロムの両親が。クロムを本当の息子として、クロムの幸せを本気で願っているのであれば。
 きっと、この選択肢が唯一にして最良なのではないだろうかと、そう考えただけで。
「母上」
 クロムは母の方へと向き直り、アリーチェを腕の中に引き寄せると満面の笑みを浮かべてみせる。
「そういうことなので」
「クロ……ッ」
 ぎゅ、とアリーチェを抱き締めて、今度は額にキスを一つ。
 恥ずかしがるアリーチェも、驚いて目を丸くしたままの母親も無視して、クロムは宣言する。
「俺、アリーチェさんにもらわれたいと思っているんですが」
 実際クロムがマクラーゲン家に“婿”に入ることはないのだが、そのまま研究室にいることを考えれば、もはや他国の人間になるも同然だ。
「……クロム……」
 そこで我に返ったのか、少しだけ寂しそうな、戸惑うような表情を浮かばせた育ての母に、クロムは気まずげに苦笑する。
「これからはちょくちょく会いにきます」
「え?」
 もう何年も戻っていなかったにも関わらず、これからは定期的に。
「子供が生まれたら、も一緒に」
 両親にとって“孫”となる自分たちの子供を見せに来ると告げるクロムに、クロムの母親は沈黙した。
「……」
「……」
「……」
 三者三様、口を噤み、しばしの時が流れた時。
「……アリーチェさん」
「は、はい……っ」
 クロムの母に静かに声をかけられて、アリーチェはびくりと肩を震わせる。
 アリーチェへ向けられる真摯な瞳に滲む涙は。
「ありがとう」
「え……」
 微かに浮かんだ涙を拭い、柔らかく微笑んだクロムの母に、アリーチェは動揺する。
 お礼を言われるようなことをした覚えはない。
 けれど。
「これからも、クロムのことを……、息子のことを、よろしくお願いしますね」
「! は、はい……っ」
 手を取られ、きゅ、と握られたぬくもりに、アリーチェは明るい笑顔を返す。
 これは、複雑な親子の想いが通じ合った瞬間――、だと思ってもいいだろうか。
「それじゃあ家に戻りましょうか」
 個室を出る意思を見せたクロムの母は、クロムとアリーチェを外へ促しつつ、ほんの少しだけ不安そうに首を傾けた。
「さすがにホテルに泊まったりはしないわよね?」
「……それは……、もちろんです」
 こちらもほんの少しだけ悩ましげな様子を見せながら、それでもそう頷いたクロムの答えが全て。 
 ――クロム・スピアーズは、間違いなくスピアーズ家の人間だから。
「積もる話はまたあとでね」
 そう言って笑ったクロムの母に、アリーチェはクロムに変わって「はい」と応えたのだった。




 ༓࿇༓ ༓࿇༓ ༓࿇༓




 スピアーズ家に向かう、マクラーゲン家の馬車の中。
「ありがとうございます。アリーチェさんのおかげです」
「?」
 そっと身体を抱き寄せられ、アリーチェはなんのことだろうと瞳を瞬かせる。
「アリーチェさんがあんなふうに言ってくれなければ話が拗れてました」
 あんなふうに……、というのは、アリーチェがクロムを「もらいたい」と言ったことだろうか。
「あ、あれは……っ」
 つい勢いで口にしてしまったが、今思い出しても恥ずかしい。
 クロムには逆プロポーズと言われたが、まさにその通りだとしか言い様がない。あの場を穏便に治めるためとはいえ、なんてことを言ってしまったのだろう。
 ――とはいえ、あの言葉は全てアリーチェの本音に違いないのだけれど。
「アリーチェさんは本当にカッコいいですね」
「クロム……」
 甘えるように髪の中へ顔を埋められ、アリーチェはくすぐったさに閉じた瞼を震わせる。
「惚れ直しました」
「ん……っ」
 耳元に掠めるようにして落とされる吐息はわざとだろう。
「アリーチェさん」
 ぴくり、と肩を反応させたアリーチェの顎を取ったクロムは、唇が触れるか触れないかの距離で甘く囁きかけてくる。
「好きです」
 至近距離から自分を見つめてくるクロムからは逃げられない。
「……うん。私も」
 恥ずかしそうに応えれば、クロムが嬉しそうに笑い、降りてくる唇に、アリーチェはそっと目を閉じていた。
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感想 2

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みんなの感想(2件)

ケム
2024.04.14 ケム
ネタバレ含む
2024.04.15 姫 沙羅(き さら)

お返事遅くなり申し訳ありませんm(_ _)m

主役2人を可愛いと言って頂き、とても嬉しいです。
無自覚いちゃ甘……いいですよね(ハート)。大好物です!

こちらこそ、嬉しい感想をありがとうございました!

解除
deko
2024.04.06 deko

素敵な作品ありがとうございました。他の作品も少しずつ読んでいます。読んだあと、幸せな気持ちになります。

2024.04.08 姫 沙羅(き さら)

お返事遅くなり申し訳ありません。
そう言って下さいますととても嬉しいです。
他の作品も楽しんで頂けますように……!

解除

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