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本編
第二十五話 ライトとナイト④
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「! なんだよ、それ」
くす、と悪戯っぽい笑みを返してみせればナイトは可笑しそうに笑い、そんな楽しそうな姿にふわふわとした気分になってくる。
「前にライトと行ってたカフェデートとか買い物も悪くないけどなぁ……。でも、あぁいう雰囲気は苦手だしな」
「!」
けれど、本気でぶつぶつと悩み出したナイトの呟きを耳にして、ルージュは思わず目を見開いた。
「? どうした?」
不思議そうに見下ろされ、おずおずとナイトの顔を窺い、口を開く。
「それって……。ライトもそう思ってる……、てこと、よね……?」
ナイトは、ライトの隠された願望や押し殺した欲求が形になった人格。
つまり、嫌な顔一つせずにルージュに付き合ってくれていたライトも、本当は心の中で年頃の男の子たちのように「面倒くさい」と思っていたのかと思うとさすがにショックを受けてしまう。
「そんなに深く考えるなよ。オレは……、オレたちは、ルージュが一番だから。少し苦手なくらい、なんの苦痛でもない」
ショックを隠せずにいるルージュにナイトは苦笑して、困ったように小さく笑う。
「オレだって、ルージュが行きたいなら全然行くぜ?」
ナイトのその言葉に、「うわぁ~、女だらけで気まず……っ!」などとぶつぶつ言いながらも付き合ってくれそうなナイトの姿を想像し、確かにそうかもしれないと思って笑みが零れ落ちてくる。
恐らく、ルージュのその想像は間違っていない。
ナイトは態度も粗雑で口も悪いけれど、ルージュのことを想ってくれている気持ちだけはライトと変わらない。
だからきっと、「だったらいいわ」とルージュが拗ねても、「ほら、行くぞ」と、強引に連れて行かれてしまうような姿が見える。
それはそれで新鮮で……、楽しいかもしれないと思ってしまうルージュは、やはりナイトのこともライトと同じように好きなのだ。
「でも、ナイトが一番行きたいところは?」
それでもせっかくならばナイトの行きたいところへ、と尋ねるルージュに、ナイトは本気で悩まし気に考え込む仕草をする。
「そうだなぁ……」
そうして本気で考え込んだナイトが出した答えは。
「遊園地、とか?」
「!」
顔を上げたナイトに真面目に告げられて、ルージュの目は丸くなる。
「なんだよ」
「だって、まさかそんな……」
「子供っぽいってことかよ」
「そういうわけじゃないけど」
ちょっとだけ気恥ずかしそうに不貞腐れるナイトの姿を「可愛い」と思ってしまう。
なんとなく身体を動かす系のことをしたがると思っていたから、遊園地などという選択肢はルージュの中では皆無だった。
「一度行ってみたかったんだよ」
ぷい、と顔を背けるナイトの耳元が赤く染まっている気がするのは気のせいか。
「そうよね。ライトを通して見ているだけじゃつまらないものね」
それは本当の気持ちだが、ナイトが“遊園地”を選んだことに、別の思いも浮かんでくる。
ライトと共に仲のいい友人たちと遊園地に遊びに行ったことは何度かある。その時もちろんライトはいつものように微笑っていたけれど、当然他の男子たちと同じように無邪気に“はしゃぐ”ようなことはなかった。
けれど、穏やかに微笑むその心の中では、遊園地を心から楽しんでいたということなのだろうか。
「私も行きたいわ」
そう思うと自然と口元が綻んで、ルージュはナイトににこりと笑いかける。
王都の中心街から少し外れた場所には小さな遊園地があるから、そこに向かえばいいだろうか。
馬車を操る従者に行先を告げれば、馬の脚は遊園地に向かって走り出す。
「まずなにに乗る? なにか食べたいものとかある?」
考えてみれば、満月の夜にだけ出てくるナイトは、好きな食べ物すら自分で食べたことがないのではないだろうか。
ライトには好き嫌いがないけれど、それすらライトが作り出している理想の自分像なのかもしれない。
それが悪いことだとは決して思わないけれど、ナイトと過ごすことで、実はライトの苦手な食べ物や、それこそ大好物だという食べ物を知ることができたらと考えると、どんどん楽しくなってくる。
結局ナイトは、ルージュの知らない“ライトの一面”なのだ。
「ジェットコースターに乗って……。あと、チュロス?」
まずジェットコースターを選ぶところはナイトらしくもあり、やはり男の子だなぁ~、とほのぼのする。けれど、次いで選んだ食べ物は。
「チュロス?」
チュロスと言えば遊園地などではお馴染みの食べ物だが、あの砂糖たっぷりの甘いお菓子がナイトとライトの好物だとは意外過ぎる。
「好きなの?」
だから、つい驚いた顔を向ければ、ナイトは小さく苦笑する。
「チュロスそのものよりも……。前にライトと一緒に食べてただろ? 半分こ、って」
「!」
それがいつのことを言っているのかはわからないけれど、なんとなく思うところはある。
そういった場面でルージュがライトと食べ物を“半分こ”する時はいつも。
「オレもルージュに食べさせてほしい」
はい、と差し出した食べ物を、ライトがルージュの手を取って一口食べる。それが、いつもの光景。
特にチュロスは長いから、ルージュがそれを食べている間、ライトはいつも優しい瞳でルージュを見ていて、時折戯れるように横から一口食べていくのだ。
それはアメリア曰く「恥ずかしくて堪らないバカップル」の姿だというから、案外ナイトは甘えたな性格をしているのかもしれない。
「……じゃあいっそ、全部半分こする?」
食べさせることはまた別問題として、ルージュは首を傾げて提案する。
「全部、食べたことないものばかりでしょ? 食べられるだけ味見」
せっかくならば、できる限りの経験を。
そんなことを思って聞いてみたのだが、対してナイトは可笑しそうに笑い出す。
「それじゃ食い倒れツアーじゃねぇか」
「あ。ほんとね」
食べ物を制覇していたら、乗り物に乗れなくなってしまう。
笑いながらそれに頷いて、ルージュは次の質問を口にする。
「ちなみに、苦手な食べ物とかは?」
これは、ある意味一番知りたいことかもしれない。
ライトが苦手とするものを、食べ物はもちろん、勉強でもなんでもルージュは見たことがない。
そんな“完璧人間”であるライトが苦手とするものがあるのだろうか。
「あ~……。基本的にはねぇけど」
「そう……」
だから、期待外れのその答えには、つい残念だと思ってしまう。
ライトの弱点を知ってどうこうするつもりはないけれど、それでもほんの少しだけつまらないと思ってしまうのは仕方のないことだろう。
けれど。
「あえて言うならフランクフルトについてる辛子が……」
「辛子?」
少しだけ考え込んだナイトの答えに、ルージュはそれはどういう意味だろうかときょとん、となる。
辛いものが苦手だというのならばわかるけれど、その具体的すぎる限定はなんだろう。
「……初めて食べた時、誰かがふざけてめちゃくちゃ辛いヤツ塗ってくれて」
まだ子供の頃、ふざけた誰かに特製の辛子付きのフランクフルトを食べさせられた思い出があるのだと、ナイトは苦々しそうに顔を歪めて口にする。
「それ以来ちょっとトラウマ気味」
「! うそ……っ」
その時のことを思い出してでもいるのか、ものすごく嫌そうな顔をするナイトに、悪いとは思いつつ、つい笑ってしまう。
「そんなこと知らなかった……!」
その時ルージュが一緒にいたのかどうかまではわからないが、恐らく一緒にいたとしても、ライトはそれほど表情を変えなかったに違いない。
こうしてナイトと語っていると、ライトの意外な一面が次から次へと見えてきて楽しくなってくる。
「ナイト……! 行こう……!」
目的地に到着し、馬車の扉が開かれる。
ルージュは笑顔でナイトを遊園地に誘っていた。
くす、と悪戯っぽい笑みを返してみせればナイトは可笑しそうに笑い、そんな楽しそうな姿にふわふわとした気分になってくる。
「前にライトと行ってたカフェデートとか買い物も悪くないけどなぁ……。でも、あぁいう雰囲気は苦手だしな」
「!」
けれど、本気でぶつぶつと悩み出したナイトの呟きを耳にして、ルージュは思わず目を見開いた。
「? どうした?」
不思議そうに見下ろされ、おずおずとナイトの顔を窺い、口を開く。
「それって……。ライトもそう思ってる……、てこと、よね……?」
ナイトは、ライトの隠された願望や押し殺した欲求が形になった人格。
つまり、嫌な顔一つせずにルージュに付き合ってくれていたライトも、本当は心の中で年頃の男の子たちのように「面倒くさい」と思っていたのかと思うとさすがにショックを受けてしまう。
「そんなに深く考えるなよ。オレは……、オレたちは、ルージュが一番だから。少し苦手なくらい、なんの苦痛でもない」
ショックを隠せずにいるルージュにナイトは苦笑して、困ったように小さく笑う。
「オレだって、ルージュが行きたいなら全然行くぜ?」
ナイトのその言葉に、「うわぁ~、女だらけで気まず……っ!」などとぶつぶつ言いながらも付き合ってくれそうなナイトの姿を想像し、確かにそうかもしれないと思って笑みが零れ落ちてくる。
恐らく、ルージュのその想像は間違っていない。
ナイトは態度も粗雑で口も悪いけれど、ルージュのことを想ってくれている気持ちだけはライトと変わらない。
だからきっと、「だったらいいわ」とルージュが拗ねても、「ほら、行くぞ」と、強引に連れて行かれてしまうような姿が見える。
それはそれで新鮮で……、楽しいかもしれないと思ってしまうルージュは、やはりナイトのこともライトと同じように好きなのだ。
「でも、ナイトが一番行きたいところは?」
それでもせっかくならばナイトの行きたいところへ、と尋ねるルージュに、ナイトは本気で悩まし気に考え込む仕草をする。
「そうだなぁ……」
そうして本気で考え込んだナイトが出した答えは。
「遊園地、とか?」
「!」
顔を上げたナイトに真面目に告げられて、ルージュの目は丸くなる。
「なんだよ」
「だって、まさかそんな……」
「子供っぽいってことかよ」
「そういうわけじゃないけど」
ちょっとだけ気恥ずかしそうに不貞腐れるナイトの姿を「可愛い」と思ってしまう。
なんとなく身体を動かす系のことをしたがると思っていたから、遊園地などという選択肢はルージュの中では皆無だった。
「一度行ってみたかったんだよ」
ぷい、と顔を背けるナイトの耳元が赤く染まっている気がするのは気のせいか。
「そうよね。ライトを通して見ているだけじゃつまらないものね」
それは本当の気持ちだが、ナイトが“遊園地”を選んだことに、別の思いも浮かんでくる。
ライトと共に仲のいい友人たちと遊園地に遊びに行ったことは何度かある。その時もちろんライトはいつものように微笑っていたけれど、当然他の男子たちと同じように無邪気に“はしゃぐ”ようなことはなかった。
けれど、穏やかに微笑むその心の中では、遊園地を心から楽しんでいたということなのだろうか。
「私も行きたいわ」
そう思うと自然と口元が綻んで、ルージュはナイトににこりと笑いかける。
王都の中心街から少し外れた場所には小さな遊園地があるから、そこに向かえばいいだろうか。
馬車を操る従者に行先を告げれば、馬の脚は遊園地に向かって走り出す。
「まずなにに乗る? なにか食べたいものとかある?」
考えてみれば、満月の夜にだけ出てくるナイトは、好きな食べ物すら自分で食べたことがないのではないだろうか。
ライトには好き嫌いがないけれど、それすらライトが作り出している理想の自分像なのかもしれない。
それが悪いことだとは決して思わないけれど、ナイトと過ごすことで、実はライトの苦手な食べ物や、それこそ大好物だという食べ物を知ることができたらと考えると、どんどん楽しくなってくる。
結局ナイトは、ルージュの知らない“ライトの一面”なのだ。
「ジェットコースターに乗って……。あと、チュロス?」
まずジェットコースターを選ぶところはナイトらしくもあり、やはり男の子だなぁ~、とほのぼのする。けれど、次いで選んだ食べ物は。
「チュロス?」
チュロスと言えば遊園地などではお馴染みの食べ物だが、あの砂糖たっぷりの甘いお菓子がナイトとライトの好物だとは意外過ぎる。
「好きなの?」
だから、つい驚いた顔を向ければ、ナイトは小さく苦笑する。
「チュロスそのものよりも……。前にライトと一緒に食べてただろ? 半分こ、って」
「!」
それがいつのことを言っているのかはわからないけれど、なんとなく思うところはある。
そういった場面でルージュがライトと食べ物を“半分こ”する時はいつも。
「オレもルージュに食べさせてほしい」
はい、と差し出した食べ物を、ライトがルージュの手を取って一口食べる。それが、いつもの光景。
特にチュロスは長いから、ルージュがそれを食べている間、ライトはいつも優しい瞳でルージュを見ていて、時折戯れるように横から一口食べていくのだ。
それはアメリア曰く「恥ずかしくて堪らないバカップル」の姿だというから、案外ナイトは甘えたな性格をしているのかもしれない。
「……じゃあいっそ、全部半分こする?」
食べさせることはまた別問題として、ルージュは首を傾げて提案する。
「全部、食べたことないものばかりでしょ? 食べられるだけ味見」
せっかくならば、できる限りの経験を。
そんなことを思って聞いてみたのだが、対してナイトは可笑しそうに笑い出す。
「それじゃ食い倒れツアーじゃねぇか」
「あ。ほんとね」
食べ物を制覇していたら、乗り物に乗れなくなってしまう。
笑いながらそれに頷いて、ルージュは次の質問を口にする。
「ちなみに、苦手な食べ物とかは?」
これは、ある意味一番知りたいことかもしれない。
ライトが苦手とするものを、食べ物はもちろん、勉強でもなんでもルージュは見たことがない。
そんな“完璧人間”であるライトが苦手とするものがあるのだろうか。
「あ~……。基本的にはねぇけど」
「そう……」
だから、期待外れのその答えには、つい残念だと思ってしまう。
ライトの弱点を知ってどうこうするつもりはないけれど、それでもほんの少しだけつまらないと思ってしまうのは仕方のないことだろう。
けれど。
「あえて言うならフランクフルトについてる辛子が……」
「辛子?」
少しだけ考え込んだナイトの答えに、ルージュはそれはどういう意味だろうかときょとん、となる。
辛いものが苦手だというのならばわかるけれど、その具体的すぎる限定はなんだろう。
「……初めて食べた時、誰かがふざけてめちゃくちゃ辛いヤツ塗ってくれて」
まだ子供の頃、ふざけた誰かに特製の辛子付きのフランクフルトを食べさせられた思い出があるのだと、ナイトは苦々しそうに顔を歪めて口にする。
「それ以来ちょっとトラウマ気味」
「! うそ……っ」
その時のことを思い出してでもいるのか、ものすごく嫌そうな顔をするナイトに、悪いとは思いつつ、つい笑ってしまう。
「そんなこと知らなかった……!」
その時ルージュが一緒にいたのかどうかまではわからないが、恐らく一緒にいたとしても、ライトはそれほど表情を変えなかったに違いない。
こうしてナイトと語っていると、ライトの意外な一面が次から次へと見えてきて楽しくなってくる。
「ナイト……! 行こう……!」
目的地に到着し、馬車の扉が開かれる。
ルージュは笑顔でナイトを遊園地に誘っていた。
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