『はっぴー・はんまー』と呼ばないで!苛烈な運命に反抗して『世界で一番幸せな鉄槌』を目指します

けーくら

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第二章 出会いは魔剣と紅茶と共に

第二十四話 魔導競技体育大会⑦

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「うはははは、ラールースー! 勝負だぁーっ!」
「おーほほほっ! シャルローット! 覚悟なさーい」

 不穏な二騎がこっちに突っ込んでくるわ!
 しかし……折角考えた戦略的にも工夫いっぱいのルールは無視なの?
 もーっ、ラルスはどうするつもり……ってやる気満々じゃない?

「あいつら……戦略無視か。ならば!」

 あら、受けて立つのね。じゃあがんばって。

「ラルス! わたし達はフラッグに向かうよ。カッコいい作戦、期待してるね。先輩、行きましょう!」

 うふふ、上着を捲って肩が出ているちょっと男らしいラルスにもドッキドキよ。でも、勝負には冷静なの。わたしは『クールでミステリアスな女』、さっきも言ったけどフラッグ狙いよ!
 走り出すわたし達。でも、サーガ先輩の声が徐々に近くなってきた。

「リアちゃん、思ったよりサーガ達の足が速いわ。反撃に移るわよ」

 あら、そうなの? じゃあ反撃しましょう。

「いえっさー!」
「リアちゃーん、女性の上官には『イエス・マム』が正しいわよー!」

 ふふふ、シャル先輩もテンション高いわ。

「はい、いえすまむ! 反攻作戦かいし~!」

 あっ、ラルス達もがんばってる。よーし、わたし達もやるわよ!

「反転、はんてーん! 後方から来る騎馬を撃退しましょう。はい方向ヨシ! では、正面から足を止めてくださーい」
「オッケー、じゃあ、リアちゃん、衝撃注意~!」

 サーガ先輩の騎馬とみるみる近づく。あら、もしかして……どーーん! うひーー、激突よ! でも……。

「きゃーー! 押し込めー」
「あははは、突っ込め、突っ込めー!」
「イケイケー、シャルロット、押し崩すわよ」
「ちょっと、アナベル、押し過ぎないでー! 一旦後退しましょ」

 楽しそうだから良いわ!
 そういえば、ラルス達はどうかな?

◆◆

 ラルス達もイーリアス達の追撃を受けていた。
 相手の騎馬にタックルしようにも、騎馬の先頭で一気に前に出ようとすると後列の二名が全くついて来れずコケそうになる。

「ラルス! 勝手に動くな、倒れる。騎手の指示に従え!」
「そうだぞ、騎手が落ちたら失格だ!」
「なんと……」

 作戦『騎馬でタックルして全部潰す』って実は無茶な作戦じゃないのか? 今更疑問に思い始めたラルス。少し悩んでから首だけ後ろを向いて騎手のトビアスに声を掛けた。

「トビアス! 騎手の役目を果たせ、指示を出せ。敵の騎馬を蹴散らすぞ!」
「ラ、ラルス先輩、お、俺には無理っすー!」

 身体の震えがラルスにも伝わってくる。緊張するなという方が正直無理な話だ。彼の両親は、ラルスと同じチームと聞かされて、トビアスにくれぐれも失礼のないように、と強く伝えていた。それが、土足で跨っている。
 応援するため見学していた両親は既に気絶中だ。

「自主練での馬上訓練、あれは毎日か?」

 焦っているはずだが落ち着き払って尋ねるラルス。

「えっ? 見てたんですか……ハイッ! 毎日です!」

 イーリアスの操る騎馬が突っ込んでくる中、ゆっくり大きく頷き静かに伝える。

「オレ達を馬だと思え。手綱の代わりに声で指示をしろ。お前の手綱捌きはオレより上手い」
「ラルス先輩……」感激するトビアス。
「遠慮するな、こんな機会はもう無いぞ。命令だ、勝て! その為には全てを許可する!」

 イーリアスの騎馬が間近に迫る。

「ハイッ!」
「指示しろっ!」
「前方に全速で五メートル、その後で右回頭百八十度!」

 瞬時に反応する三人。
 ぎりぎりでイーリアスの手は届かない。

「くそっ、逃したかー、速度そのまま面舵いっぱい!」

 速度を落とさずラルス達を追撃。そこに迎え撃つ態勢のラルス。
 イーリアスの騎馬のタックル。
 相手の騎馬の肩をラルスが押し返す。その瞬間、イーリアスの手がトビアスのハチマキを襲う。ラルフが無理矢理に後退し、間一髪で躱す。

(やはり手技では敵わないか。ならば騎馬を狙う!)

「へへっ、ラルス覚悟しやがれー!」

 再度、速度を落とさず突進を指示するイーリアス。騎馬が勢いをつけてタックルしてくる。

「あ、に、逃げ……」
「いや、ここで迎え撃つぞっ!」

 ラルスが叫ぶ。

「ちいっ、ヤバい! ラルスに近づくなー!」

 不穏な雰囲気を感じ取り叫ぶイーリアス。だが既に時遅し。そのままタックルの態勢に移行するイーリアスの騎馬。

 ラルスはその瞬間に体内魔導制御を開始。尋常ではない速度のたった一歩の踏込みで三人の騎馬を弾き飛ばす。あたかも八極拳の発勁の様な衝撃がイーリアス達を襲う。

「ダメだーー!」

 バラバラになるイーリアス達。

『――あーっと、黄チームの男子騎馬、壊滅だー! 騎手のイーリアスが地面に落下したので失格です』

 シャーリーがアナウンスで実況する。
 超高速の一歩で相手の騎馬を破壊したが、ラルスの騎馬に乗る騎手トビアスはあまりの衝撃に脳震盪を起こしてしまった。

「トビアス、大丈夫か!」

 全く返事が無い。完全に白目で失神中だ。

「動けん……」

 完全に立ち止まるラルス。
 それを煽るシャーリーのアナウンス。

『――赤チームはトラブルかー? これはピンチだぞ! 黄チームを粉砕した赤チームは騎手が気絶しているようです。さぁ、どうするー?』

◇◇

 はいはーい、女の戦いも最高潮よ。

「シャルロットー!『氷の女王』の炎の壁、味わいなさい!」
「甘い、『炎のプリンセス』の名は伊達じゃ無いわよ! 喰らえ、アイスウォール!」

 この二人ね、出身国と魔導の得意な属性が真逆なの。同じコンプレックスが有ったからこその親友なのよ!

『――氷の女王は氷の壁……じゃない……あぁぁうー……』

 シャーリーのアナウンスも難しそう。

『――炎の女王……違う、炎のプリンセスの炎の壁……うぁぁぁ……ややこしいわ。えーっと『炎のプリンセス』シャルロットの得意な魔導は氷で、『氷の女王』サーガの得意な魔導は炎となっております。んーと、エルヴィン君、間違ってないよね?』
「――はい。炎が氷、氷が炎です」

 さぁさぁ『炎のプリンセスを従える裸足のチアガール』参上!
 それにしても、皆さん本気出してきたので魔導を使って凄いスピードなの。
 わたしが魔導有りで走る時は、体の周りに張り巡らせた『風の護り』の風の力をね、進みたい方向と逆方向に噴き出させるの。超簡単に言うと、強風の時に風に押される感じよ!

「うははは、シャル、覚悟ー!」

 サーガ先輩はジェットエンジンみたいに炎を出すんだって。魔導有りならこの学園で一番速いらしいのよ。だから騎馬の三人と息を合わせるのに苦労したんですって。

「やるわねぇ。だけどサーガ、私はあなたの炎では溶け落ちないわよ!」

 でもね、シャルロット先輩はもっと凄いの。自分の前だけ地面を凍らせて滑って進むの。氷の小山を作ってサーガ先輩を自信満々に見下ろす姿にちょっと惚れちゃいそうだったわ!
 それにしても……高速移動するライドに氷と雪と炎と火花の特殊効果。

「きゃー! あはははっ! すごーい!」

 こんなに面白いのはこの世界に転生してから初めてよ。ジェットコースターみたいに両手上げちゃう!
 って、そんなことしてる場合じゃなかった。
 ん? うげっ、青チームじゃん。横から突っ込んでくる~!

「青チームが来た、来たよ! 横だよ、よこよこーっ!」
「サーガ、観念しなさい!」

 スリーAの三人がスルスルと音も無く近づいてきた。騎馬の三人の先輩方はサーガと戦うのに夢中よ!

「よし、今だ、サーガ覚悟しろ――」
「――スリーA、キターー! みぎーーー‼︎」
「えっ、あっ!」

 音も無く青チームが忍び寄ってきた。エイっと手を伸ばしハチマキを取ろうとしたけど、三人が一斉にしゃがみ込んだ。先頭のアリス先輩がわたし達に足払いをしようとダンスのように足を回した。

「アリス先輩! 対人攻撃は禁止です!」

 一瞬で反応して無理矢理に足を止めるシャルロット先輩。でも、アリス先輩は反則にならないようにギリギリで蹴らずに足を止めていた。
 躓いて騎馬が倒れるかと思ったわ!

「あっぶなーい……あっ、先輩、足は大丈夫ですか?」
「痛たた、足を挫いちゃったわね……」

 満足そうな青チーム、その作戦はちょっとよ!

「作戦成功ね。うふふ、もちろん蹴らないわよー」

 スリーAは颯爽と立ち去って次の獲物のサーガをロックオンしていた。
 指揮官は冷静になるべきね。状況確認……あーっ!

「赤チームのフラッグ、取られてるー!」

 青チームの地味な男子チームが赤い旗を手にしているのが見える。アレを青チームの陣地に持って行かれたら負けだ。

「さぁ、青チームの勝ちの為、あなた達男子チーム、とっとと赤チームを片付けちゃって!」
「分かりました、女王さまーーーっ!」
「それ、やめなさいっ! 恥ずかしいんだから!」

 あら、スリーAは本気でイヤそうよ。怖いもんね。

「センパイ! 私達は黄チームを片付けて完全勝利を目指しましょう」
「ミレーネちゃん、騎手任せて正解だったわ! 行きましゃう!」

 同学年のミレーネも先輩の上で頑張ってるなぁ。
 どうしよう? 青チームは意気揚々とサーガの元に向かって行く。わたし達は動けない……。

「シャルロット先輩! 大丈夫ですか?」
「いててっ、ごめんねリアちゃん……ちょっと歩けそうにないわ」

 ダメかぁ……ヤバいよ、負けちゃう、負けちゃう!
 どうしたらいいの?
 あっ、ラルス!

「ラルス! そっちはどう?」
「すまん、こちらも動けん……」

 ラルスのしょんぼり顔。珍しいわね、じゃなくて、ここまできたら勝ちたい!

「ラルス、ねぇ、どうする? どうすれば勝てる?」

 ラルスはもう一度、騎手のトビアスに声を掛ける。

「トビアス、起きれないか? どうだ!」
「ダメだ……寝てやがる。こいつ寝ると何やっても起きないんだよな……」
「くそ、ぶん殴ることもできない」

 諦めの声しか聞こえない。ラルス達はこのまま進んでも餌になるだけ。わたし達は進めない。怪我をしてしまったシャルロット先輩を責めても意味が無い。
 どうしたら……。
 じっとラルスを眺めていると、何かを思いついたみたのかピタリと動きを止めた。
 こちらに視線を向けるラルス。目と目が合う二人。

「リア!」
「ラルス、勝てる方法ある?」

 すると、思いもかけないセリフが飛び出てきた。

「勝てる方法は……ある!」
「ホント!」

 シャルロット先輩や皆さんは静かにわたし達の会話を聴いている。すると、ラルスは後方の二人に「少し抜ける」と伝えると騎馬から離れてしまった。残された騎馬役の二人が慌てて騎手を支えてる。

「お、おい? どうするつもりだよ……」

 ラルスはわたし達の前まで来ると、わたしを見上げながら両手を前に出して叫んだ。

「来いっ!」
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