『はっぴー・はんまー』と呼ばないで!苛烈な運命に反抗して『世界で一番幸せな鉄槌』を目指します

けーくら

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第二章 出会いは魔剣と紅茶と共に

第二十五話 魔導競技体育大会⑧

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 えっ? 何言ってるの、ラルス……。
 じっとラルスを見ていると、「あっ、そうか」と一人小声で呟いてから、くるりと後ろを向いた。背中を見せながらわたしを見つめてもう一度叫んだ。

「こっちに来い!」

 ……どういう意味?
 少し悩むリア。困惑した顔のシャルロット先輩とも目が合う。

「リアちゃん……」

 センパイ、やっぱり痛そうだなぁ。
 わたし、退いたほうがいいよね……と思った時、はい、わたしゃピンと来ましたよ!

「そういうことー?」

 えーっ、楽しくなってきたー!
 ふふふ、ラルスの華麗でミステリアスな戦略にも気付けたわ。何故ならわたしは『ミステリアスな女』だから。

「ちょっとゴメンね」

 騎馬の皆さんに声を掛けると騎馬の上で立ち上がる。

「ちょっとちょっと、リアちゃん危ない……」

 心配そうなシャルロット先輩。
 おっとっと、ここで落ちたら悲しいわ、うふふー。
 では、ラルス、行くわよー!
 
「とーーぅっ!」

 ラルスの背中にポーンと飛び乗って肩車になった。
 ほらほら、これには誰も気付けなかったでしょ。皆さんビックリしてるわね。顔がニヤけちゃう。
 ここから二人の力を合わせて大逆転を演出するわよ!

『――おぉーっと! このピンチにリアとラルス、因縁の二人が協力だぁ!』

 シャーリーのアナウンスが観客を煽るから、観客も拍手喝采よ!
 って、あれ……? あっ……えぇ? すっごく恥ずかしくなってきた! よく考えたらわたし、チアのユニフォーム着てるのよ!

「あ、あの……ラルス……汗臭かったらゴメンね。あと、重くない?」

 耳元にこんなこと囁くのも恥ずかしいわ! ヤバい、顔が赤くなってきた。暑い暑い! やだ、汗出てきちゃうって、そもそも今日は汗を沢山かいてるし、えーっ、ちょっと、いやーん、恥ずかしー!

「や、柔らかい。羽の様に軽い。それに、凄く良い匂いがする……」

 きゃーーー!
 ラルスったら、何呟いてんのよ!

「ま、ま毎日お風呂入ってるし……って、そんなこと伝えてくれなくて良いから!」
「えぇっ? あっ……すまない……」

 こんなのモジモジするしかないわよ。ラルスは逆に微動だにしなくなっちゃったし。

『――おーっと、立ち止まる二人、何かトラブルかぁ? もしかして、リアはおトイレにでも行きたくなったのか?』

 観客から笑いが起きたところでハッとした。シャーリーは後でコロスとして、先ずはラルスの頭をペシっと叩く。真っ赤な顔をしたラルスがこちらを向いてくれた。
 そこに握り拳を突き出す。

「ラルス……勝つよ! 恥ずかしい思いまでして負けたら大損よ!」
「あ……あぁ、分かった。ま、先ずは追いかけるぞ!」

 ぎこちなくグータッチすると、ラルスも状況を把握したのか青チームの騎馬に向かって走り始めた。既に青チームの騎馬は陣地まで二十メートルほど。こちらとの距離はまだ楽に五十メートルほどはある。
 ラルスが走り始めると歓声が湧いた。

『――さぁ、動き始めた赤チームのペア! さぁ、他の騎馬に対して、さしずめ軽装騎兵というところでしょうか。機動力を活かせるか、といってもこの距離追いつけるのかぁ!』

 シャーリーのアナウンスが煽る煽る。
 しかし、この安定感。まるで高級車のようよ。
 まぁ、乗ったことないんだけどね。

「リア! 落ちるなよ」
「アイアイサー!」

 敬礼しながら元気良く返事をした。
 ラルスならなんとかしてくれる!
 そう信じれた。ワクワク感に勝手に笑顔が溢れて楽しそうな声色になる。

「よしっ!」

 ラルスが声を上げた瞬間、肩やわたしの膝辺りを持つ手に、とんでもない力が溢れ出すのを感じた。自分が乗っているのが軽自動車だと思ったらレーシングカーだったという感じ。
 もちろんレーシングカーなんて乗ったこと無いんだけどね!

「えいえい、ゴーゴー!」

 一歩、二歩と進むほどに速度が上がる。

「えいえい、ゴー……って、ひゃあーーー!」

 三歩、四歩で落ちたら大事故と身体が恐怖した。五歩目から正しく大型バイクの二人乗りだ。ラルスの背中で仰反る形になってしまった。
 こ、これは……ジェットコースターよ、『ド○ドンパ』な感じよー!
 ラルスの肩に両手をかけてなんとか気合いで前傾姿勢になることに成功。
 みるみる青チームの騎馬が近づいてくる。

「リア、奪い返せ!」
「うほほーい! まっかされましたよーっ!」

 テンション爆上がりだけど、今のわたしの目は獲物を狙う鷹の様に鋭いわよ、多分。
 視野が狭くなるほどのスピードの中で狙いを定める。
 さぁ、集中しろっ、リア!

「狙いは……やっぱりー……」

 近づく青チームの騎手が持つ赤いフラッグがヒラヒラと揺れ動く。ぐんぐん距離が近づく。右手をラルスの肩から離して居合抜きをイメージして構える。

「しまった、時間をかけすぎちゃった! 気をつけてーっ!」

 スリーAのアレクシア先輩の声が聞こえた。
 ははっ、もう遅い。
 追い抜きざまに騎手がつける青いハチマキを狙って抜き打ち。

「こっちよ! 取ったぁー!」

 リアの右手が青チームのハチマキを奪うことに成功。

『――やったー、リアが青のハチマキを奪ったーっ! これで青の男子チームは失格です。そこで止まってください!』

 シャーリーの変なテンションのアナウンスが最高に心地イイわ!
 目を瞑ってハチマキを持った腕をまっすぐ上に上げると歓声が響いた。
 今のわたし、サイコーにカッコいいわ。
 前髪を掻き上げながらクールに目を開くと場外ラインが目の前にあった。

『――おーっと、赤チームの軽装騎兵、思わず場外に飛び出てしまうのかー』
「ラルス、前っ! 場外は失格よー!」

 負けちゃう!
 身体がキュッと縮こまる。ラルスの頭に思わずしがみついた。その時、胸にラルスの体温を感じた。

「やわら……」
「えっ?」

 何かを言いかけたラルスは刹那に身体を傾けて体勢を無理やり変える。

「曲っがっれーーっ!」

 遂にラインに足がかかる。

「曲がってー!」

 そうだ! 掌を場外に向けて風の魔導を全開にする。たまたま近くに居たラインズマンが吹き飛んでいくのが見えた。ゴメンナサイ!
 その甲斐あって何とかギリギリ耐えたわよ。青チームのいる場所まで歩いて戻って赤フラッグも奪い返すことに成功。

「よーしっ、残るは二騎のみ。我々に勝機あり!」
「そうねっ、うふふ、やーっておしまい!」

 ラルスは腕を組むわたしの下で指の関節を鳴らしている。

「どうするー? 『筋肉オバケ』君と『腹ペコ暴れん坊』ちゃんの二人組……」
「あーっ! まだその二つ名でわたし呼ばれてるの! 腹ペコって、もう失礼しちゃう!」

 相変わらず腹ペコって憤慨モノよ! 最近はテラスではケーキを一個だけに我慢してるのに。

「でも、リアちゃんのケーキの食べ方は見てて気持ち良いから大人気よ」
「そうそう。大きなケーキが綺麗に無くなっていくのが可愛いわよね」
「ですよねー! リアってテラスでは一個しか食べないけど、外のカフェだと四個くらい食べるとこもカワイイです!」
「うん。それで良く貴族院の外でも暴れてるでしょ? 前も痴漢捕まえてたじゃない。お礼のケーキは結局一人で食べちゃうし……」
「ホールケーキを八等分したら、七個食べるんですよ。それも美味しそうに最後まで」
「見てた見てた。その後でパンケーキ食べてたの。感激しちゃった」

 スリーAとミレーネが矢継ぎ早でわたしの痴態を説明している。なんかラルスに聞かれるの今日恥ずかしい。あ、お腹出てないよね?
 うー、みるみる顔が赤くなってるのが分かるわよ。一応、わたしだって恥じらいくらいあるのよ!

「ひっどーい! ラルス! こうなりゃ四人とも木端微塵よ!」
『――さぁ、ラルスの上で地団駄を踏む腹ペコ暴れん坊。流石は筋肉オバケ。体幹がしっかりしてるぞ』

 シャーリー最低でも二回はコロス。よーし、勝ったらラルスにご褒美あげちゃおっと。何にしようかなぁ。やっぱりケーキかな。しかし……一人でチアのユニフォーム着てるから時々恥ずかしくなるわね。恥ずかしいから耳元で小声で伝えよっと。

「ねぇ、ラルスー、勝ったら二人で――」

 あっ、でもケーキっていうの恥ずかしい!

「――(ケーキ食べて)お祝いしましょ……」

 耳元でそっと囁くとラルスが少し痙攣した。
 ん? 何だろ? 暑くなってきた?

「その勝負、受けますわ、返り討ちよ!」

 アリス先輩、騎馬の先頭で演劇みたいに情感たっぷりで返してきたわ。正座の男子一同も大歓声を上げている。

「ラルス君とリアちゃん、恨みはないけど……私達、勝利がご飯よりも、おやつよりも大好きなの。優勝は私達のものよっ!」

 ラルスも少年漫画の主人公の様に大声で返す。

「わ、わ、わ分かりました先輩! 最後の勝負、受けます!」

 よーし、どんどん場全体の空気がおかしくなってきたわ。シャーリーのアナウンスも観客を最終決戦に向けて煽り始めたわね。

『――さぁさぁ盛り上がってまいりました。残るはスリーAとミレーネの青チーム! 対するはラルスとリアの赤チーム。さぁ……』
「ちょっと待ったーですわ!」

 あ、あれは……。
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