【R18】黒曜帝の甘い檻

古森きり

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第32話

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 興奮した。
 そして、自分もしたいと思った。
 他なる黒曜帝と。
 この国の皇帝と。

(へ、陛下ぁ……)

 今も。
 今すぐにでも触れて欲しいと体が泣いている。

「ヒオリ様はとても才能がおありですよ。そこの性狂いの調教師にも劣らぬ才能を。本当なら、貴方のそこを我々が丁寧に、丹念によりいやらしく淫靡に蕩けさせてやりたかったほど」
「あ、ああ、思い出したら……堪らなくなる……! 陛下のあの素敵な男根……! またアレで一番奥まで貫いて欲しい……」
「っ!」

 ダメ。
 と思わず声に出しそうになる。
 アレは、あの人は自分のものだからと。

(あ、ああ……なんて浅ましい)

 分不相応。
 しかし、それを聞いては、もう。

「行かれればいい。陛下の腹に乗り、ヒオリ様がその耳元で『陛下の逞しい男根の形を、ヒオリの尻穴に覚えさせてください』と囁けば念願叶いますよ。ふふふ」
「下品な誘い文句……ヒオリ様ならそれよりも『ヒオリを大人にしてください』と言えばよいのです。それだけで陛下のあのうっとりするような大きなモノを咥える事が出来ますよ……! あぁ、それよりも……早く……! 我慢出来ない……」
「ああ、そうだったな。ではヒオリ様、淫乱がそろそろ限界のようだ。これ以上待たせると熱も冷めてかねないからなぁ」
「んぁ!」

 ぎっ、とクォドがルゥイギーの乳首を服の上から摘む。
 右に、左に、つねったまま動かすと、布腰に赤い舌が見えた。
 ヒオリもそれなりに乳首は躾られている。
 アレもまた、ヒオリの知っている快楽だ。
 思い出してズボンの中がじんわりと濡れる。

「イッてらっしゃいませ」

 クォドはきっと妖艶に笑っていただろう。
 布で覆われて見る事は叶わなかったが、その笑顔だけは見たくないと思った。
 体の熱が暴走を始まる前に、たまらずヒオリは馬車を出る。
 ぜい、ぜいと荒い息のまま一際大きなテントを目指す。

 黒曜帝。
 陛下。
 スェラド様……。

 頭の中にいくつもの呼び名が浮かぶが全ては同じ人物を指す。
 テントの前にいた警備の兵が、赤く虚な顔のヒオリを見つけて驚いた顔をする。

「君は、どうした? 顔が赤いし、汗もかいて……医療テントはあっちだぞ」
「あ……」

 兵が優しく緑のテントを指差す。
 しかし、それに返事をする余裕がない。
 股間を腫らしたまま歩くのも立っているのも、とても辛いのだ。
 腹の下が熱く重い。
 どう言えばここを通してもらえるだろう?
 そればかりが頭を巡る。

「へ、陛下に……よ、よ、夜伽を……」

 耐えられない。
 唇が勝手にそう紡いだ。
 兵たちは驚いた顔をしたが、顔を見合わせた後なぜか納得したように道を開ける。
 重い布の入り口が開かれ、恐る恐る、中へと歩を進めた。
 自らが檻の中へ——……せっかく解き放たれた自由を捨てて、黒曜帝の仕掛けた甘い檻に入っていく自覚などなく。

「…………ほう、思ったよりも粘ったな?」
「?」
「いや、構わん。こちらの話だ」

 頰を汗が伝う。
 声を聞いただけで腰が砕けそうだった。
 テーブルで書類にサインをしていた黒曜帝は、立ち上がる。
 笑みを浮かべ、切長い目でヒオリを見つめるとゆっくり立ち上がった。
 その動作の意図的な遅さに歯を食いしばる。
 この人は、ヒオリの今の状態を正しく理解した上で意地悪をしているのだ。
 それを証明するかのようにゆっくりと歩き、ヒオリの前まで来るとニヤニヤ笑いながら見下ろす。
 悔しくて睨み上げるが、果たしてどれほどの効果があるのだろう?

「辛そうだな。いや、しかし、一応用件を聞こうか」

 などと言う程だ。
 意地悪、意地悪、と心の中で繰り返し罵る。
 しかし、これは言わねば与えてもらえない。
 先程二人に言われた誘い文句を思い浮かべるが、どちらも大変恥ずかしいものだ。
 それをこれから自分が口に出す。
 一巡、二巡、頭で二つのセリフが回る。

「…………へ、陛下の……陛下の逞しい、モノを……僕の……」

 あの二人の言葉を、思い出す。
 クォドのセリフは恥ずかしすぎる。
 首を横に振って、改めて顔を上げた。

「あ、ヒ、ヒオリを、僕を、陛下で、大人にしてください……っ!」
「…………」

 黒曜帝の笑みが妖艶な色を帯びる。
 その笑みにぞくり、と背が粟立つ。
 長い袖から出る指先。
 その指先が……肩に触れた。

「なかなかだが……もう一声欲しいものだ。まあ良い。それはベッドの上で聞くとしよう」
「……あ……」

 簡易とは思えない天蓋付きの寝台。
 そちらへ誘導され、ヒオリは自然に息が上がる。
 胸がドキドキと張り裂けそうなほどに鳴り響き、口の中に唾液が溜まっていく。
 それを嚥下し、重い下半身を引きずりながら目的地へと進む。

「あ……あの……湯浴みを、まだしていなくて……」
「それを言えばこれから夕食の時間だぞ」
「!」

 そうであった。
 白髪の世話係たちは、夕食の準備の為にヒオリたちを馬車に残していったのだ。
 勝手に出てきて、しかも……これから黒曜帝と性行為に耽けようとはなんという事だろう。
 そう思うのに——。

「……でも、僕……耐えられません……我慢、もう、出来ません……」

 ヒオリの言葉に黒曜帝がまた笑みを深くする。
 まるでそれを、その言葉を待ち望んでいたと言わんばかりの満足気な笑み。
 背中に腕を回され、ベッドの上に座らせられる。



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