【R18】黒曜帝の甘い檻

古森きり

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第34話

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 なんという言い草か。
 しかし、体は確実にその言葉に喜んだ。
 顔が笑いそうになるのを耐えて、上半身を起こす。
 黒曜帝はテーブルで食事を始め、ヒオリにも簡易テーブルでの食事が用意された。
 下半身を露出したままそれを食べさせられる。
 時折、黒曜帝がヒオリの体を眺める為に布も掛けさせてもらえなかった。
 しかしそれを皇帝が望むのだ。
 この場の誰が逆えるだろう。

「さて、お食事が終わりましたら湯浴みですね。それから、後ろの方もご準備を」
「……は、はい」

 それはいつも、黒曜帝が渡りに来る日に行う準備。
 薬を塗り、後ろの穴の中身を出して滑りを良くするのだ。
 人がギリギリ入れる桶の中に湯を張り、そこに浸かる。
 黒曜帝のものも準備され、布も張らずに二人で湯浴みをした。
 ロンシ、と呼ばれた白髪の世話係が黒曜帝の身を拭い、ヒオリは兄弟のような世話係に準備の手伝いをされる。
 その時間さえも黒曜帝の視線を感じ、体の熱は一向に治らない。
 なにより、期待が大きかった。
 これから、ついに……ああ、ついに……黒曜帝のものを、ヒオリはこの身に迎え入れるのだ。
 長かった。
 一年間、徹底的に作り換えられた体。
 胸や尻の穴で感じるように躾けられ、ヒオリ自身もその快感を好んで味わうようになった。
 それでも一年……黒曜帝はたっぷり焦らしたのだろう。
 ヒオリが自分から望むように仕向け、調教師を二人も付けてより深みに誘った。
『魔窟』が出現するという思わぬ事態で、ヒオリの心が落ち込んでしまいはしたけれど、それさえも利用して……ついに。

「準備完了でございます」

 頭を下げるロンシ。
 三人の世話係はそのままテントの外へと出て行った。
 本当ならば、人質宮でこの日を迎えるはずであったが、そこから出てもヒオリの帰る場所はここのようだ。
 一歩、二歩、黒曜帝の側へと近づく。

「スェラド様……」
「! ……幼名ぞ」
「はい、でも、僕には慣れ親しんだ名前なのです。……僕にはもう、スェラド様しかおりません。だからどうか、どうか僕の全てをもらってください」
「…………」

 抱き寄せられた。
 胸の中に顔を埋め、その香りを吸い込む。
 湯浴み済みの新しい布と石鹸の香りだ。
 その中に混じる、スェラド自身の香り。
 それが、ヒオリが今一番欲しいもの。

「そうか、ではそう呼ぶのを許そう。……ああ、言い忘れていた」
「?」
「俺も貴殿にずっと懸想していたよ。幼い頃に、あの草原で遊んだ頃からずっとな。……ユイエン殿には全く以て頭が上がらぬ……貴殿を俺に……このような形で預けてきたのだから」
「!」

 ヒオリの父、ユイエン。
 スェラドがよく口にしていた『恩がある』とは、まさか——。

「…………」

 過去の、ささやかな夢を思い出す。
 あの時の父の言葉は分からなかった。
 スェラド様は優しいから、ヒオリに酷い事などしないだろう。
 ただ、そういう意味だと思っていたが少し違ったのだ。
 あれは——スェラドがヒオリを好きだから、酷い事はしないだろう。
 むしろ、幸せにしてくれるだろう?
 そう問いかけていたのだ。
 そして、ヒオリを『人質』として差し出した本当の意味は……。

「……スェラド様……僕はスェラド様のところに嫁がされたのですね」
「!」

 ほんのりとスェラドの目許が赤みを増す。
 それが答えで、それが全てだ。
 父の言っていた本当の意味。

「スェラド様は、僕にその事を気づいて欲しかったのですね」

 一年もかけた性行為で、ヒオリにその自覚を与えたかったのだ。
 この国では男が皇帝に嫁ぐなど聞いた事がない。
 後宮という女の園に入れるわけにもいかない。
 ならばどうしたらいいか。
 考えあぐねた末に『人質宮』に囲い、ゆっくりと自覚を与えて待っていた。
 ヒオリが精神的にも大人になり、気持ちに気づいて、その上で受け入れてくれるように。

「言葉で言ってくださればよかったのに……」
「言ったところで貴殿は反発したであろうが」

 唇を尖らせて、子どものように拗ねて顔を背ける。
 言われてぼんやり考えてみた。
 もしも、スェラドが去年の自分に「お前は嫁としてもらってきたのだ」と言っていたら?
 ああ、間違いなく「なにをおっしゃっているのですか。陛下はちゃんと後宮で美しい姫たちに世継ぎを生んでもらってください」と、即座に返した事だろう。
 その様子がありあり浮かんで、ヒオリも目を背けた。

「まあ、つまり、貴殿に……俺に懸想して欲しかった。そして自覚して欲しかったのだ。……俺は貴殿を……愛している。幼い頃からずっと。それを理解して欲しかった」
「……スェラド、様……」

 抱き締められて、目を閉じる。
 そうか、そうだったのか。
 そう言われればとても納得する。
 それにしても、気づくのに一年もかかってしまった。
 よく飽きずに、根気よく続けてくれたものだ。

「はい、お慕いしております」
「…………」

 ようやく、スェラドがヒオリに微笑みかけた。
 とても幸せそうな笑み。
 胸が温かくなる。
 安堵に似た感覚だ。
 手を伸ばして、背中に回す。
 スェラドもまた、ヒオリの背中と後頭部に掌を添えて抱き締めてくれた。
 その安心感、心地よさ。
 これまで感じた事のない、高揚感。

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