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職員初日
しおりを挟む「みゅん!」
「う、うん、よろしく」
地面をトコトコ歩き出すタータ。
顔を前方に向け「仕方ねぇ、ついてきな!」と言わんばかり。
見た目可愛いのに、偉そうである。
「みゅん、みゅん」
「あ、ここ?」
廊下を歩くと一つの大きな扉の前に来た。
そこを開いて進まめば、これまた大きな渡り廊下。
星緑樹をぐるりと囲むような緩やかな円形の廊下から、隣の建物に移る。
その最中、窓から見えたのはギルドの建物の反対側。
大きな闘技場が、人で埋まって賑わう光景。
なるほど、あれがこの王都の稼ぎ頭の一つだろう。
「すごい……本当にすごいや……」
自分がいたトリニィの町が小さな村のようにさえ感じる、巨大な町——王都。
まさしく、まさしくだ。
王がおられる町の、これこそが『王都』と呼ぶに相応しい姿なのだろう。
自分の矮小な世界が、この巨大な都で上書きされる。
一歩、窓に近づいて改めて外を見た。
「みゅーん」
「うん、でもごめん。俺、田舎者だからさ……やっぱりすごいなって……」
「みゅんみゅん」
これが王都。
これが、これからエルンが住み働く町。
(……がんばるぞ……)
人に頼られ、認められ、役に立ち、賞賛を受ける人間になりたい。
あの日モーヴキングを倒し、町を救った英雄デンゴのような。
(いや、デンゴを、超えるような男になりたい……!)
涙を流して喜ぶシシリィのあの姿。
あんなふうに、これからも人に喜んでもらいたい。
胸に手を当てる。
(がんばるぞ……!)
***
翌日。
起きてすぐにギルドに向かうと、ギルマスが手を振っていた。
昨日から人の波が引いていないような冒険者の数。
聞けば、実際このギルドは昼夜人の出入りが絶えず、ずっとこんな感じらしい。
なので職員は昼の部夜の部と交代で、この時間帯は職員が交代する時間帯。
「おはようございます、エルンさん」
「お、おはようございます、シシリィさんっ」
シシリィはの昼の部担当。
受付業務以外に、魔法で転送できない各町のギルドから重要書類の運搬作業を行なっている。
なので受付職員の中では、その若さから考えられない古株なのもあり、一目置かれる『リーダー格』だという。
(だよね。やっぱり。うんうん。……シシリィさん、すごい人だよな)
そして、冒険者たちから見えない本棚の奥。
そこに連れて行かれると、夜の部リーダー、狼男のシャッツさんという人が、夜間にあった事案をすべて昼の部の職員に引き継ぎ報告してくれる。
案件のほとんどは映像と音声、報告書で残されており、特に重要と思しきものは昼夜、立場関係なく情報を共有することが定められていた。
「なるほど、わかった。さて、それじゃ昨日の案件で儂から一つ報告がある。そこのヒョロイガキだ」
じっ、とギルマスが指さしたのはエルン。
驚いて姿勢を正すと、エルンのこれまでの境遇と、固有スキルについて説明してくれた。
それからその固有スキルの調査を、ギルド職員として働きながら行う。
「なるほど、確かにギルドならば多くの冒険者、多くのスキルが集まる。調べるにはもってこいですもんね」
「そういうこった。まずはシシリィがすでに一つ、エルンの固有スキルの恩恵を授かっている。『見習い』で得られなかった上位職の取得だ」
「「!」」
「『見習い』をレベル10まで上げて得られなかったら、『才能・適性なし』……ではないということですか!?」
「そうだ」
おお、とギルド職員たちが顔を見合わせる。
その表情は、期待に満ちていた。
隣にいた若い男が「本当なのか?」とシシリィに尋ねると、シシリィは笑顔で頷く。
可愛い。
「なので、わたしは今日からコロシアムの方で『巫女見習い』をレベル20まで上げてみようと思うの。上限の上がった『巫女見習い』を、最大レベルまで上げたらその上位職『巫女』を取得できるかもしれない」
「儂も『剣士見習い』を20まで上げて、なにか起こるか検証してみるつもりだ。この実験に協力してもいい、という冒険者がいたら誘ってみてくれ。もちろん、憧れの職業を取得できる可能性を、お前ら自身が活かすのも悪くねぇと思ってる。ただし、くれぐれもエルンの都合と、記録は忘れんように!」
「「「はい!」」」
職員たちが返事をして、引き継ぎは終了。
すると、すぐに数人の職員が声をかけてきた。
受付の何人かは、『才能・適性なし』として、本当になりたかった職業を諦めた者たちを見てきたのだ。
『見習い』を苦労して10まで上げて、その上位職を会得できなかった——夢破れて落ち込む姿はなんとも後味が悪い。
そういう話はエルンが想像していた以上にありきたりなものであった。
悲しいけれど、やりたいことと、才能が一致しないことはよくあることらしい。
だから、エルンの【限界突破】は希望。
「っ」
そんなふうに、言われたら——。
「エルン、俺の知り合いで『騎士』を目指してる子がいたんだ。家が代々騎士のお家のお貴族様でな。でもその子、『騎士見習い』をレベル10にしても『騎士』が発現しなくて跡取り争いから早々に外されちまって、今は冒険者として日銭稼ぎしてるんだよ。見てて可哀想でなぁ……」
「そんな人が……」
「その子にお前の話をしてもいいか? かなり思い詰めてて、毎日自分のランクより上の、命の危険が高い依頼ばかり欲しがるんだ」
「わかりました! 俺でお役に立てるなら!」
「! ありがとう! 今日きたら話してみるよ!」
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