「【限界突破】なんてやばいスキル誰が使うんだ(笑)」と言われて放置されてきた俺ですが、金級ギルドに就職が決まりました。

古森きり

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騒動

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「…………」

 その日の晩、エルンは自室でギルマスの言っていたことを考えていた。
 まだ最低限の物しかない、自室。
 それでも、エルンにとっては初めて自分で働いて得た居場所。
 それを与えてくれたシシリィと、ギルマス。

(俺の、固有ギフトスキル)

 金級だったなんて、本当に驚いた。
 けれど、それだけじゃない。
【限界突破】のスキルはまだ未知の部分が多いが、今日ギルマスに言われた“効果”は驚くべきもの。
 検証はまだ必要だが、ギルマスの話はつまり——。

(『剣士見習い』のレベル上限を上げると、その上位職である『剣士』にも経験値が流れてレベルが上がる。最高職の『剣聖見習い』はレベル10まで上げるだけでも必要経験値が『剣豪』のレベルを50にするぐらいって言ってたたから、高位職や最高職はあんまり関係ないかもしれない……けど)

 もし、それが事実なら多くの人が高位職や最高職を獲得しやすくなる。
『見習い』の上限レベルを上げて、カンストを繰り返せばその上位職のレベルまで底上げされるのだ。
 ギルマスは「今度『剣豪見習い』のレベルも上限20にしてみてくれ。あと『剣士見習い』のレベル上限も30まで上げられるのなら上げて検証を続けてみよう」と言っていた。
 あの人ギルマスなのに強くなることに貪欲すぎないだろうか?
 やはり根っからの剣士なのだろう。
 それはそれですごくかっこいいと思うが……。

(そういえばスキルはどうなんだろう……? スキルには『見習い』なんてないし)

 最近取り揃えたステータス、『見習い』の職業一覧を開き、ぽちぽちとスキルチェックする。
 すると、あることに気がついた。
 一番最初の基礎スキル。
 たとえば『僧侶見習い』なら【小回復】は上限レベル10。
 最初に覚えるスキルだからだろう。
【小回復】はスキルレベルマックスにしても効果は『体力を20回復させる』。
 この【小回復】をレベルマックスにすると覚えるのが【回復】。
 この【回復】のレベル上限は99。
【回復】をレベル10にすると【異常状態小回復】を覚える。
 ……と、言った具合に下位スキルはレベルを上げて、中位から上位のスキルを覚える基礎。

「そういえば、俺自身には使えるのかな、これ」

 自分の固有スキルではあるが、自分自身に使ったことがなかった。
 でも、俺、まだ全部の基礎スキルレベル10にしてないんだった……とステータスを消して両手を投げ出す。

「……俺は俺にできることを頑張ろう」

 まだわからないことだらけなのだ。
 自分の固有スキルにはずっと悩んできた。
 これはきっと贅沢な悩みだ。
 そう思うことにして、その日は休んだ。



 翌日。
 エルンがギルドに顔を出すと、すでにトラブル系の騒がしさ。
 なんだなんだと本棚の裏から顔を覗かせてみると、シシリィの後ろ姿。
 後ろ姿でさえ今日も可愛らしい。

(じゃ、なくて……シシリィさんの前にいるのって——!)

 カウンター越しとはいえ、そこには大柄な男たち。
 そのうちの一人が、「俺はトリニィの英雄だぞ!」と叫ぶ。
 その聞き覚えのある声に、全身が固まった。

「なんで進級試験が受けられないんだ!」
「ですから、貢献ポイントが足りません。何度ギルドカードを提出いただきましても、貢献ポイントが足らなければ進級試験はできないんです」
「王都までわざわざ来たんだぞ! ギルドマスターを出せ! 直接話をつけてやる!」
「ですからギルドマスターは現在別件で迷宮に行っております。重ねて申し上げますが、金級への進級は集団ではなく個別となるため予約も必要です。貢献度ポイントを一万ポイントにしてから、予約を——」
「だーかーら! その予約を先にさせろよ! 一万ポイントでもなんでも、すぐ稼いできてやるから!」
「できません。規則です」
「お前じゃ話にならねーよ! 上の奴を出せ! お前より上の奴!」
「現在このギルドではサブリーダーであるわたしが最高責任者です」
「嘘つけ!」

 バァン!
 と、すごい音がして、思わず身を縮めた。
 恐る恐るまた、カウンターを見るとシシリィは微動だにしていない。
 カウンターを殴った男——デンゴは、歯軋りをさせながらシシリィを睨みつけていた。
 そんな巨漢に一歩も引かないシシリィ。
 まだ十代の女の子なのに。
 淡々と、相手に一切つけ入る隙も与えぬ凛とした構え。
 可愛らしい彼女が、今は凄まじくかっこいい。

「舐めるなよ、クソガキ。ちょっと可愛いからって調子に乗りやがって……俺はトリニィのデンゴだぞ」
「お、おい、デンゴ、さすがにそれはまずいって」
「うるせぇ!」

 デンゴが背中の剣を抜く。
 まさか、そんな、さすがにそんなことは。
 そのまま振り上げた剣を、本当に振り下ろした。

「シ、シシリィさん!」

 周りは誰一人、止めようともしない。
 それどころか、涼しい目で彼らのやりとりを見ていた。
 特に隣のカウンターの同じ受付たちはいつもの笑顔で立っている。
 エルンだけが大慌てで本棚の影から飛び出し、手を伸ばす。

「まあ、おはようございます! エルンさん! 今日も図書館ですか?」
「…………」

 口を開けたまま、手を伸ばしたまま、エルンは固まった。
 デンゴがカウンターの前で倒れている。
 巨漢のデンゴをうつ伏せに倒し、その首筋に細い短剣を突きつけているのはシシリィ。

「あ、え?」
「ん? ……ああ、もしかして知りませんでした? 今この国にいる『剣聖見習い』三人のうちの一人はわたしの父で、もう一人はシルキーさんっていう迷宮中毒者。そして最後の一人はわたしです」
「え」
「ちなみに、わたしこう見えて白銀級冒険者なんですよ☆」
「えええええええーーーーー!?」

 ピースサインで目元を覆い、舌ペロ。
 可愛いの暴力。
 が、言ってることは全然可愛くなかった。
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