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地獄の王都探索へ
しおりを挟むだが、デンゴの周りには殺意が渦巻いている。
特に左右の二人——ケイトとシャクティア目がやばい。
「わ、わかった。やる、やってやる。やってやるから、剣をどけやがれ……!」
「その言葉に二言はないな?」
「おっけー、それならこの場では許してあげるよぉ。キミ、売らなくていい喧嘩売るのやめといた方が長生きできるよぉ?」
「っ!」
あ、これはケイトたちもアルバイトするつもりだな。
と、成り行きを見守っている者たちなら誰でも察する。
正々堂々、真正面から叩き潰してこのプライドだけの男の大事なプライドを叩き折るつもりだ。
「ったく、銀級が騒がしてくれるぜ」
「逆に言うと銀級だからじゃねーの? 一応階級としては中堅どころだからな」
「にしたって、ギルド職員に飛びかかろうとするのは礼儀がなってねーよ」
「田舎者丸出しだったよな」
「あんま笑ってやるなよ、田舎から出てきたばかりの銀級は調子乗っちゃうもんだって」
「俺も今銀級だけどアレと一緒にされたくねーや」
「俺も」
「俺たちはあんな銀級にならねーようにしようぜ」
「だな」
デンゴたちパーティーは他の冒険者たちに嘲笑われ、軽蔑の眼差しで眺められ、後輩らしい冒険者たちには苦笑いされていた。
顔を真っ赤にしたまま震えるデンゴの肩を叩き、パーティーメンバーがジンシの下で手続きを行い、三人はギルドから出て行く。
それを睨みつけながら腕を組んで立っていたケイトとシャクティアが、フン、と鼻で彼らを蔑む。
「コロシアムでコテンパンにしてくれる」
「だなぁ。うちも一発二発じゃ許せそうにないわぁ」
「ワタシもだ。エルン殿は我らの恩人。彼に乱暴しようとするのなら、我らの敵も同然」
「「うんうん」」
強い同意。
シシリィまで。
「さて、わたしは通常業務に戻ります。エルンさんはどうかされましたか? 図書館の鍵ですか? それとも達成依頼書の整理をお手伝いしてくれますか? あ、王都の地理を覚える探索に出る場合は、護衛を出すので申請してくださいね」
「え、あ……え、えーと……」
カウンターの中に戻ってきたシシリィに、今日の予定を聞かれて、今更ながらに全然考えていなかったことに気がつく。
(王都の地理か……そういえばギルド職員は、この広い王都に関しての道案内もやってるって最初に習ったな)
このギルドの建物内もただっ広いが、王都はもっと広い。
迷子にならないよう、王都の地図、なんてものまで存在するほど。
……なお、王都の地図もギルド内で販売している。
売店、買取査定系の職員も、地理は頭に入れておくのが必須。
ギルマスには「お前さん、まず自分の身を最低限守れるようになりやがれ」と言われていたので、地理はまだ未習得。
自分の身を守れるように、とは、エルンの固有スキルが“金級”とわかったから。
もし自分で戦えないようなら、護衛は必須と言いつけられていた。
買い物もギルド内で済ませられることばかりで、今まで深く気にしたことはなかったが——ここは王都なのだ。
(やることや覚えることが多すぎて、ギルマスも『そんな一気に全部覚えられるわけねーんだから一つ一つ、ゆっくり覚えていけ』って言ってくれてたんだよな)
自分の方向性もままならない状況だったからこそ、ギルマスはそう言ってくれたのだと思う。
顔のわりに、本当に優しい人だ。
けれど、だからこそその優しさにいつまでも甘えていないで、応えたいと思う。
若干『達成依頼書の整理』も、面白そうと思ってしまうけれど。
「あの、シシリィさん。王都の地理を覚えたいんですが、見回ってきてもいいですか?」
「! いよいよ地獄の王都地理に手をつけるんですね!」
「じ、地獄の……」
早くも心が折れそうになった。
「ちょっと待っててください。…………あったあった、ありました。はい、これ」
「……こ、これは?」
シシリィが自分の机から持ってきたのは、分厚い、それはもう分厚い手帳だ。
若干血の気の低レベル。
分厚すぎると受け取ってよく見ると、五冊分の手帳が、糸で括られている。
「地理を覚える新人にお渡ししている、『王都地理習得マニュアル』です」
「…………」
マニュアル。
これに沿って覚えましょう。
って、いうやつ。
「冒険者なら必ず押さえておきたい、武器屋、防具屋、装飾品屋、お宿に食堂、薬屋、酒場に娼館、商人ギルドと武具ギルド、食堂ギルド、魔法ギルドの場所は必須科目です」
「は、はい……」
「けれどそれよりも街中のトイレの場所や公園、訓練に適した広場、昼寝に最適な場所、水が飲めるところ、貴族街へ行き方とその注意点、美味いパン屋や、待ち合わせに使えそうな中央区の噴水……まあとにかく他にも冒険者が知りたいことはたくさんあります。たまに『観光したいんだけどどこがおすすめ?』とか聞かれるので、わたしが長年調べた『オススメ観光スポット厳選10』は必ず立ち寄ってみてください」
「……はい……」
「とはいえ、王都の広さを思うと今日のところは西区の武器屋防具屋お宿と酒場と食堂くらいしかチェックできないと思います。無理すると迷いますからね。あ、西区には商人ギルドがあるので余裕があったらみてくるといいと思います。一日で全部回れると思わないでください。足が死にますよ」
「…………はい」
早くも死の予感がした。
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