23 / 51
王都の様子
しおりを挟むそれを話すと「なるほど」とみんなに頷かれた。
この場の皆、冒険者である。
冒険者でありながら冒険者として冒険に出ていないのは、察して余りあるなにかがあるのだ。
「ならちょうどいい、新しくできた迷宮はトリニィの側にあるんだ」
「え!」
「かなり規模も大きいし、近く魔獣大量発生するんじゃないってカンジの気配がしたんだよな。だから元々冒険者は派遣する予定だったんだよな」
「そ、そうだったんですか!?」
「王都の探索も続けながら、迷宮調査も手伝ってもらおう。ついでにお前さん、戦闘系の職業レベルも上げとこうぜ」
「は、はい! ありがとうございます!」
ではいつからトリニィに移動するか。
トリニィまでの移動時間も考えて、王都探索を優先して四日後出発、ということになった。
その間にトリニィの町付近に出現した迷宮について、今わかっていることを教わる。
出てくる魔獣の種類や、傾向、対策。
必要な道具の買い足し、装備の新調。
装備に関しては、エナトトスに相談して、銀級迷宮に入っても問題なさそうなものを選んでもらった。
そもそも原石級のエルンが銀級迷宮に入るのはありえない。
だが、『白金級のパーティー』で『調査』ということなので、大丈夫だろう、と微笑んでもらった。
むしろ、エルンの出番はないだろう、ぐらい。
「新しい迷宮とか面白そうだなぁー、いいなぁー、うちも行こうかなー」
「まだ一般公開されてませんよ」
「なんだと! ず、ずるいぞ! エルン!」
「そ、そんなこと言われましても」
王都東区——南区と北区の探索後、最後の探索中、今日も護衛してくれていたティアとケイトに明日からトリニィに戻ることを伝えた。
新しい迷宮は冒険者にとっても、新たな稼ぎ場。
興味津々である。
「みゅーん、みゅんみゅん」
「タータも行くのぉ? いいなぁ」
「今回はシシリィさんも一緒に行くんです。『受付案内たる者、現場を直に見ないことには案内できません』っていう……」
「「「プロだ……」」」
「本当に……」
さすがすぎる。
「それで、エルンはギルド職員としてどの辺りに配属されるとか決まったのぉ?」
「実はまだ……。少なくとも、戦闘職系がまだまだ弱いので、ギルド職員には物足りないと言われてて」
「ギルド職員そんなに戦闘能力必要か?」
と、首を傾げるケイト。
言いたいことはわかる。
エルンも最初はそう思っていた。
けれどギルド職員たる者、武器の扱いから荒くれ者を制圧する能力が最低限必要なのだ。
それはシシリィを始めとするギルマス、サブマスの冒険者階級を見ればおわかりいただけるだろう。
実際デンゴたちが暴れたところも見ている。
身を守る意味でも、戦闘能力はもっと鍛えねばならない。
「でも、戦闘能力を鍛えたあとはギルド内の図書室で司書をしたらいいんじゃないか、ってシシリィさんに薦められてます。俺もそれがいいかな、って」
「図書室ですか。貴重な書物もありますからね」
「そうなんです。一日中勉強しててもいいし、本を守る仕事でもあるので、復元系の魔法を覚えようかなって、杖を持って行く予定です」
「へぇー」
近接系よりは、魔法系が得意な気がするのだ。
職の『見習い』も杖系はポコポコ習得できた。
『魔獣博士』の職業も習得できて、本を読むだけでレベルが上がっていく。
多分こちらが、エルンには向いている。
それがわかってきて、エルンは毎日とても楽しい。
だからケイトやエナやティアが毎日楽しそうな気持ちがわかる。
このあたたかくて、高揚する気持ちを自分が他の誰かに与えられているというのもすごく嬉しい。
「みゅっ」
「えっ」
そうして浮かれいたせいだろうか。
肩に突然小柄な男がぶつかってきて、タータを掴むとそのまま走り去ろうとした。
突然の出来事に固まるエルンとは反対に、ケイトとティアの反応は凄まじい。
タータを連れ去った男を一瞬で追い詰め、ティアの足かけで男が地面に倒れ、ケイトの槍が首の真横に突き刺さる。
背中にティアの体重が乗り、タータが「みゅー!」とエルンのところへ戻って来た。
「え? えっ?」
「ラッキーエアリス狙いの賊ですね。今回は捕らえられましたから、騎士団に引き渡しましょう」
「賞金かかってるといいなぁー」
「まったく、王都の探索をしているだけで賊を捕らえるのだから——騎士団はなにをしているのやら」
「…………」
前回は人数が多すぎたので、逃してしまい被害届だけ。
けれど、今回は単身。
引ったくり感覚でタータを攫おうとしたため、捕らえることができた。
ケイトとティアにより騎士団にしょっ引かれ、事情を話すと金と引き換えに引き取ってくれる。
そう、金と引き換えに。
「「なんで!?」」
「なんでこちらがお金を払ったんですか?」
ばたん、と詰所から追い出され、扉を閉められてからケイトとティアが叫ぶ。
エナが首を傾げながら二人に聞くと、「手数料たって!」とケイトが怒鳴るように言う。
手数料?
「盗人を引き渡すのに、こちらが手数料を払うんですか? な、なんで?」
「うちらが冒険者だから、だってぇ~! 納得いかなーい! この前までそんなのなかったし、うちらが冒険者だからってなんで盗人を捕まえたら手数料取られなきゃいけないのぉ~!?」
21
あなたにおすすめの小説
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する
タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。
社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。
孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。
そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。
追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる