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諦めない、諦めたくない 5
しおりを挟む「お、おい、エルン。どうしてみんなを集めるんだ?」
「おい、エルン、どうするつもりだ?」
「今からトリニィの町のみんなを王都に転移させるんです。大丈夫、この国最高の『賢者見習い』が味方なんです! 全員一気に王都に避難させますよ!」
近隣の村の住民も、そこに混ざる。
隣町から食糧を買い込んで戻ってきた大将と、町長に事情を説明して屋根の上を見上げた。
そこには自信に満ちた表情のアンジェリィ。
「えー、こほん! はいはーい! ちゅっうもーーーーっく! どうもどうも、アンジェリィさんは王都の金級冒険者ギルドサブマスターのアンジェリィさんですよぉ! 職業は『賢者見習い』! でもって今から皆さんを王都に一斉避難させまーす! なんにも怖くないのでご安心を! 貴重品は持ちましたか? ことが収まるまでトリニィには戻ってこれませんから、忘れ物にご注意くださいですよぉ~」
と、口上を述べ、緊張を解す。
彼女のあの明るく気の抜ける口調は、とてもありがたい。
「では、行きます。特殊スキル[魔法使い見習い卒業の試練]発動。——か、ら、の! [転移]発動! 広範囲、最大質量、生物転移、個体捕捉、魔力最大!」
この町に残るのは、引き続き町を守るために戦う冒険者のみ。
ナットの不安げな表情に、エルンは微笑んで見せた。
宿から寝ぼけ眼のシシリィとギルマスが顔を出して、それを見送る。
「くぅううう! てええええやぁぁぁぁぁ!」
ドッ、という、空気の振動。
近隣の村人、町の住民と戦う意志のない冒険者たちの体を、白金の光が覆う。
広範囲に広がる転移の魔法陣。
空間が一度歪んで、固定される。
歪みの先に穴が開き、その穴へと人々が吸い込まれていく。
固定が解かれると一気に空間は元の形へと戻っていった。
数千人の住民と村人、冒険者が——トリニィの町から消えたのだ。
「これで後ろを気にせず戦えるな」
「だが、根本的な解決にはなってないぞ」
「ギルマスが起きたら相談するしかない。とにかく人でも足りないし、物資もすぐ足りなくなるぞ」
「アンジェリィさん、今ので魔力空っぽになったっぽいしな」
口々に今後のことを話す冒険者たちの視線が向かうのは、屋根の上で倒れたアンジェリィ。
[魔法使い見習いの試練]は、条件が『最強魔法を全力で放つ』なので、これを用いて魔法を使うと間違いなく倒れる。
心配になって駆け寄ると、眼鏡の下は白目を剥いていた。
美人が台無しである。
「アンジェリィさん、大丈夫ですか?」
「魔力空っぽになるまで魔法使うとか久しぶりすぎて逆に気持ちイイぉ……」
「まずい」
まずい。
これはまずい。
思わずシャクティアの方を向くと、シャクティアも半笑い。
仕方なくアンジェリィを倒れている屋根の家の中に運び、ベッドをお借りした。
「アンジェリィさんの魔力が回復するまでどれくらいかかるかなぁ?」
「アンジェリィさんぐらいの魔力量だと、丸一日は寝込みそうですね。俺が持ってる魔力回復薬全部置いておくので、体が起きられそうなら飲んでください」
「ア、アリガトー」
貴重な戦力ではあるが、これで町の人たちは大丈夫。
涎まで垂らして「ウーウー、きついー」と呟いている姿は、本当にこう、大人として、女として、人としてどうかと思うが、エルンは心から感謝した。
「アンジェリィさん、ありがとうございます」
町の人たちを助けてくれて。
「来たぞーーーー! 何波かわからねーけど魔獣の群れだー!」
「「!」」
表でそう叫ばれた。
もはや第何波かすら誰もわからなくなっている魔獣の攻勢。
エルンとシャクティアは立ち上がって、屋根伝いに外壁門の上へと急ぐ。
「あれ、エルン、身体強化使いこなしてるぅ?」
「はい、『魔法使い見習い』を卒業したので」
「え、そ、そうなんだぁ?」
アンジェリィやギルマス、シシリィが来るまで、持ち堪えなければと思ったが、外壁の上から見ると魔獣たちの歩みは存外遅い。
見張りの冒険者もそれが気になったのか、慎重に「誰か[遠視]スキル持ってるやついねぇ?」と周りを確認している。
弓士の中に数人、[遠視]スキル持ちがいたので各々確認して、エルンたちも報告を待つ。
「まずいですね。ギルマスとシシリィさんとベリアーヌさんを呼んできましょう」
「エナトトスも[遠視]スキル持ってたんだ? ってか、なにがやばいの? うち連れてくるからもう少し詳しくよろ」
「はい。簡潔に言ってベヒーモスがいます」
「……やばいね。オッケー、叩き起こして呼んでくるわ」
シャクティアが外壁の上から近場の屋根の上に跳ねて、中心部の宿屋へと向かう。
エルンも体が震えた。
ベヒーモスが、来る。
今回の魔獣大量発生のボス。
それを倒せばこの魔獣大量発生は終わるだろう。
だが、相手は危険度赤、難易度10の『十壁』が一角。
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今回は周りに大量の大型魔獣がいる状態。
ベヒーモス一体でも相当だというのに、果たしてそれを圧倒的に下回る冒険者たちでなんとかできるだろうか?
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