45 / 51
反撃の狼煙
しおりを挟む「怖いですか?」
「あ……えーと、はい」
エナトトスが微笑む。
怖いといえば怖いに決まっている。
けれど、それ以上にここに立っていることが信じられない。
数ヶ月前まで、自分はこの町の冒険者ギルドで闇キノコを生やしていたのだ。
(シシリィさんに出会ってから——)
多くのことを学ぶことができた。
そして色々、識ることも気付くこともできた。
自分にできることも増えた。
リエマユという強力で、そしてエルンと同じくもっと外の世界を見せてあげたい。
そのために、リエマユはエルンと契約したのだ。
エルンだって、もっともっと多くのことを知りたいし体験してみたいし、人の役に立ちたい。
もっと戦えるようになりたいし、エルンの中の“夢”はシシリィの隣に——横に立ちたい。
そのためには。
「もっと、役に立ちたいし……もっと強くなりたい。でも、俺はまだまだ弱いです。怖いけど、自分にできることを知ることができましたから、俺は最後まで戦いたいです」
「エルンさん……」
「はい、エルンさんとエルンさんのスキル、期待していますよ!」
「! シシリィさん!」
きちんと髪や服装、装備を整えたシシリィが隣に現れた。
昨日の戦いで汚れた姿も凛々しくて格好良かったが、ちゃんと整えてくるあたりやはり“金級冒険者ギルドの受付嬢”らしい。
接客にはやはりこの姿でなければ、ということなのだろう。
「エルンさんに『見習い』をいっぱいレベル上限上げてもらったらなんだかすごいのを覚えたので、ちょっと試してきますね。お父さんが来たら引き留めておいてください」
「あ、そ、それってもしかして『剣士見習い』の[剣士見習い卒業の試練]とかですか?」
「はい、そうです。今朝見つけて驚きました。あと[巫女見習い卒業の試練]も出現していたのでこちらも試したいんですけど、大量の大怪我人が出るのは避けたいですからね、先手必勝です」
「え、ええ?」
先手必勝ってまさか直にベヒーモスを狙うつもりではないだろうな?
これまでの[卒業の試練]系は、自身が持つその職業の最大最強のスキルを全力で使うのが条件。
そして、その反動と危険性も思い知ったばかり。
そう、特に『魔法使い見習い』は魔力切れになると生死に関わる。
『剣士見習い』ならば[身体強化]と[魔力]を用いた技だろう。
あんな大量の魔獣の群れのど真ん中でそれをやって、ベヒーモスがそれでも倒れなかったら——。
「一人では——!」
「安心しろよな、アタシも行くからな」
「あ、ベリアーヌさん!」
「まったく仕方ねぇ。サポートは任せろ。とにかく出鼻を挫く。ベヒーモスがヤれたなら御の字だが、お前の全力で以ってもあのデカブツは無理だろう。順番でかましていく。まずはシシリィ。そのあと儂が行く」
「いやいや、次はアタシだよな? エド、お前はギルドマスター……指揮官だよな? 自覚しろよな」
「えっ、ええ?」
シャクティアが「ごめーん、起こしたらすでに[見習い卒業の試練]のこと知ってたー」とエルンの隣に着地した。
アンジェリィのところにも寄って、様子を確認してきたギルマスが、エルンの提案したアンジェリィの[魔法使い見習い卒業の試練]を用いた[広範囲転移]の詳細などを聞き、自分たちのステータスを確認した結果、自分たちにも[見習い卒業の試練]が出ていることに気づいたという。
そして、それの効果も。
あれは破格の効果だ。
他の職業にも出るというのなら、誰もが[卒業の試練]を使うに決まっている。
代償も危険性も大きいが、得るものはもっと大きい。
こんな状況でなければ積極的に[卒業]してほしい。
だが、指揮系統の上の方が軒並みアンジェリィや[魔法使い見習い卒業の試練]を使った直後のエルンのように倒れて使い物にならなくなるのはいかがなものたろう?
「ではこうしましょう。出鼻を挫くのはわたしの役目。わたしかアンジェリィさんが復活したら折を見てお父さんとベリアーヌさんが[卒業の試練]を使ってみる、という感じで」
「ま、とりあえずはそれしかないだろう。町の住民が一気に王都に転移したことで、ことのヤバさは王都にも知れ渡る。さすがにあれだけやらかせば、騎士団も自分たちの顔のために動かんわけにはいかない。騎士団が来るまでの辛抱だな」
「どれぐらいかかるだろうな?」
「五時間は必要だろう。アンジェリィ並みの魔法使いは騎士団にはいないからな、騎士団の魔法使いをかき集めて集団転移が可能なほどの魔法陣を生成するとなると——」
「そうですね」
「そうだな」
なるほど、とエルンとしても納得した。
そしておそらく、そうなると騎士団の魔法使いは軒並み休息を要する形となる。
だが、騎士団の戦力が入るのは願ってもない。
冒険者と違って騎士の実力は一定以上に保たれている。
国家に属する以上、冒険者で言えば金級かそれ以上の実力が必須だからだ。
11
あなたにおすすめの小説
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する
タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。
社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。
孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。
そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。
追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる