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VSベヒーモス
しおりを挟む(そ、そんな、まさか闇キノコスープ目当てでベヒーモスが出て来た、のか? え、ええええ?)
シシリィの召喚獣ジェッツに迷宮の入り口まで運ばせていた『闇キノコスープ』は、魔獣の大好物。
[魔声]で聞き取れる魔獣の言葉は、どれも『キノコスープ』『アレクイタイ』『ヤミキノコスープ』『ドコ? ドコ?』『ニンゲン、ジャマスル、ニンゲンジャマ』などなど。
これは完全に魔獣たちの目的は闇キノコスープだ。
(いや、裏を返すとベヒーモスを炙り出せた……? うん、プラスに考えよう)
ついでに言えば、キノコスープを探すあまりベヒーモスの指揮が行き届いていない。
魔獣たちにとって優先順位が個体ことに違っているのだ。
これにより統率がいまいち取れず、数の理が活かしきれていない。
それを悟ると、影の中からリエマユを呼んだ。
「リエマユ、仕事を頼んでいいか?」
「なんよ?」
「宿屋の中にキノコスープが残っていると思うんだ。それをタータと一緒に持ってきて。撹乱に使える」
「え! キノコスープ!? アタイも食べたい!」
「あ、うん。あとで特製のを作ってあげるね、タータたちにも」
「みゅ!? みゅんみゅんみゅーーーん!」
目に見えてめっちゃやる気になってくれた。
そういえばジェッツにもあげるって言っていたな、と思い出して、キノコスープに釣られて出てきた二匹に「この件が終わったら闇キノコスープスペシャルを、大将やナットに作ってもらおうな」と約束した。
「めっちゃやる“き”でたでー!」
「みゅーん!」
「頼むね!」
二匹に声をかけて、戦場を振り返る。
目を見開いた。
建物二階はある、エルンのいる外壁の上。
そこに、ベヒーモスの前足が迫っていたのだ。
『キノコスープ!』
という叫び。
今の会話を聞かれたのか。
いや、そもそもなんで数十メートル奥にいたベヒーモスが目の前に?
確かに他の魔獣よりも巨体だったが、目の前のベヒーモスは想像していたよりも大きい。
幻覚か?
周りの弓士や魔法使いも驚愕の表情。
みんな、誰も、この巨体の接近にこんな距離になるまで気づかなかったのか?
いや、あるいはベヒーモスも転移が使えた、とか。
頭の中を駆け巡る思考。
ベヒーモスの動きはとてもゆっくりで、この突然降って沸いたようなピンチに思考が加速したのだと片隅で思う。
だからと言ってここから逃げる時間はない。
(俺にできることは?)
考えるべきはこれ一択。
そして、できることは外壁の上の通路に横たえられたシシリィを守ること。
咄嗟にシシリィのところへ走って、彼女に覆い被さった。
心の底から、シシリィのためならば命などいらない。
この人を守らなければと、思った。
でも、小さく「いや」という声が聞こえて頭をもう一つのことがよぎる。
シシリィのお母さんが、人を救って、救いすぎて亡くなったこと。
壁の崩れる音。
飛んでくる残骸。
潰されて死ぬだろうか?
シシリィだけは、守りたい。
防御壁を張り、あとは天命に任すばかりと思った。
「エルン殿!!」
諦めた、その時だ。
ケイトの声に顔を上げる。
槍が残骸とベヒーモスの左の目玉を貫く。
貫いたのは白い鎧を見に纏ったケイトだ。
その鎧は、騎士団のもの。
「これ以上好きにはさせん! 全部隊、ベヒーモスは私に任せてその他の魔獣を押し戻せ!」
「「「おおおおおおおお!」」」
槍が抜け、悶絶して距離をとったベヒーモス。
その隙にケイトが魔獣の群れの方へと槍を向けた。
雄々しい雄叫びが聞こえて、地面が鳴る。
鎧が擦れる金属音と、冒険者たちを押し除けるように進軍する重盾兵。
統率の取れた動きで瞬く間に魔獣の群れを分散させ、各個撃破していくそれらは、王国騎士団。
「え?」
「騎士団が……」
来るとしても、もっと遅いと思っていた。
上半身を起こすエルンとシシリィは、赤いマントを翻したケイトを見る。
「遅れてすまない! ここからは我ら王国騎士団、聖赤隊が援護する!」
「ケイトさん……」
「ベヒーモスは『勇騎士』の私が倒す! たああああああぁぁ!」
勇騎士。
そういえばケイトは『聖騎士見習い』と『闇騎士見習い』の職を発現させていた。
その二つの上には『勇騎士』という特殊職がある。
『魔獣博士』の知識を得る時に、もはや伝説でしかないその職業の記載を読んで「無理でしょ」と半笑いになったのをよく覚えていた。
条件が厳しすぎるのだ。
『聖騎士』と『闇騎士』を習得し、レベル50まで上げ、さらにその二つの最強スキル[聖天断罪]と[暗黒断罪]をレベル5に上げる。
そこからさらに、一万体の魔獣を倒し、『十壁』級を一体、たった一人で倒す——など。
これをかつて、恋人を魔獣に眼の前で食い殺された騎士が実際やったという。
その騎士は最終的にこの『勇騎士』に上り詰めたが、その時の心境は「あまりにも虚しい力」と言い残している。
たた、『勇騎士』はまさしく“勇者騎士”と呼ばれるだけあり、【全魔獣特攻】の固有スキルが新たに与えられるというから驚きだ。
おそらく、女神エレメンタルプリシスが創星神タパロンをぶん殴るためにヒト類に与えた、最強クラスのギフト。
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