48 / 51
VSベヒーモス 2
しおりを挟む『ブゥァァァァアッ! 邪魔をするな! 我はキノコスープを飲むまでは死なぬ!』
「くっ! これがベヒーモス! 『十壁』の名に偽りなしということか!」
『ここにあるはずだ、闇キノコスープが! 我宿願を阻む人間! 消し飛べー!』
「全員待避ー!」
凄まじいブレス。
またも外壁の一部が破壊され、冒険者や騎士数名が吹っ飛ばされた。
ただ、それにしても——。
「…………」
「あの、エルンさん? そ、そろそろ、離していただいても……」
「え? あ、は、はい! す、すみません!」
シシリィの肩を抱き締め、ずっとただ、あのなんとも言えない光景を眺めてしまった。
声をかけられて自覚し、慌てて離したがこちらまでなんとも言えない空気になる。
いや、わざとではない。本当だ。信じてほしい。
「あ、あの、ありがとうございました。守ってくれて……え、ええと、お、お怪我などは?」
「だ、大丈夫です、すみません、えっと、シ、シシリィさんは……」
「へ、平気です! ……いえ、はい、本当に……なんというか、はい」
そわそわと、相当場違いな空気。
シシリィの肩を抱き締め、あんな近い距離にいたなんて自分が自分で信じられない。
「エルンさんは、やっぱり男の人なんだって、思っただけなので……」
「えっ」
今まで男だと思われていなかったのだろうか。
ギョッとして振り返ると、顔が赤いシシリィ。
(え、かわいい)
とんでもない可愛さに真顔になる。
すべての感情が一度宇宙の闇に溶けた。
なにを言っているかわからないと思うが、エルンも自分の感情がここまでこの一点に集結したことなどなくて困惑している。
シシリィがかわいい。
無限にかわいい。
「! あ、そ、そうだ!」
「エルンさん?」
「シシリィさん、ここで待っててください! すぐ戻ります! ベヒーモスを、もしかしたらなんとかできるかもしれません!」
「え?」
あまりにも凝視するように見つめていた結果、遥か遠くからギルマスの視線を感じて——気のせいかもしれないが、あのギルマスなので気のせいじゃないかもしれない——慌てて立ち上がり、ベヒーモスと戦うケイトの方へ近づく。
ケイトとベヒーモスの戦いは、一対一となっており、周囲には誰もいない。
大地は抉れ、踏み荒らされ、あそこだけ異様な姿になっている。
「みゅーん!」
「もってきたでー!」
「ナイスタイミング!」
外壁の下に降りて、あの苛烈な戦いの近くにいくのを戸惑っていると、タータとリエマユが小さな鍋を咥えて持ってきた。
闇キノコスープだ。
やはり厨房に残っていた。
そして、闇キノコスープの存在に匂いで目敏く気づいたベヒーモスが、こちらを見る。
気づくのが早い。
『キノコスーーーープ!』
『待て! ベヒーモス!』
『……!』
『魔獣使い』職業スキル[魔声]。
手を前に突き出し、ストップをかけるとまさかの急停止。
ビッグボアを一回り以上上回る巨体に、獣の顔、ドラゴンのような鱗と長い尾。
闘牛のような角と鼠のような大きな耳に、鋭い爪。
筋肉質で、威圧感がすさまじい。
それでも[魔声]の効果とキノコスープの香りには抗えなかったのか立ち止まってエルンを睨め下ろす。
『……俺の幼馴染に料理人がいる。そして俺は“魔獣博士”の職業で魔獣の好む味や素材に詳しい』
『なにが言いたい?』
『このまま魔獣を連れて帰っ——』
『そうよ! 帰れとっとと! お前が帰らないと、アタイが主人と主人の幼馴染のお手製で特別な闇キノコスープにありつけないのよ!』
「みゅんみゅん!」
「…………」
鍋を地面に落として叫ぶリエマユとタータ。
ケイトが「エルン殿!」と駆け寄ってくるが、頭を抱えて静止した。
大丈夫、任せて、と。
けれどリエマユの参戦でちょっと面倒くさいことになりそうな空気。
『と、特別製の闇キノコスープ、だと!』
『そうよ! でもアンタはスタンピードを起こしたからもらえないの! アタイは主人の使い魔になったからもらえるのよ』
「みゅん!」
『そうね、こいつももらえるわ。こいつの同僚ももらえるわね! だって約束したもの。ねー、主人』
『う、うん。みんなには作るよ。約束したもんね』
だがベヒーモス、想像していた以上の食いつきである。
これは本当に——。
(もしかして、本当にワンチャンある? ……リエマユの煽りっぷりを見ればもしかする、かも? …………。よし!)
本当は、ただ帰ってもらうだけのつもりだった。
だが、あの食いつきっぷり。
イケるかもしれない。
『魔獣には特に好む食材があるよね。闇キノコ、イブの花、ソードポプリ、木天蓼、ルナの実——これらは特に魔獣たち共通の好物と言われてる。特製キノコスープは、これらを、入れる』
『な、なんだと!? そんなバカな! 贅沢すぎる! 許されるのか? そんなことが! いや、さすがに全部入れしたら味が大混雑するのではないか!』
さすが『十壁』。賢い。
その通りだ。
だが、舐めてもらっては困る。
『それを調和させ、成立させる技術を持つのが“料理人”だ!』
『……!!』
11
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜
犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。
これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~
下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。
二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。
帝国は武力を求めていたのだ。
フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。
帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。
「ここから逃げて、田舎に籠るか」
給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。
帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。
鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。
「私も連れて行ってください、お兄様」
「いやだ」
止めるフェアに、強引なマトビア。
なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。
※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。
しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。
しかし――
彼が切り捨てた仲間こそが、
実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。
事実に気づいた時にはもう遅い。
道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。
“荷物持ちがいなくなった瞬間”から、
アレクスの日常は静かに崩壊していく。
短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。
そんな彼と再び肩を並べることになったのは――
美しいのに中二が暴走する魔法使い
ノー天気で鈍感な僧侶
そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー
かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。
自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。
これは、
“間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる”
再生の物語である。
《小説家になろうにも投稿しています》
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる