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VSベヒーモス 2
しおりを挟む『ブゥァァァァアッ! 邪魔をするな! 我はキノコスープを飲むまでは死なぬ!』
「くっ! これがベヒーモス! 『十壁』の名に偽りなしということか!」
『ここにあるはずだ、闇キノコスープが! 我宿願を阻む人間! 消し飛べー!』
「全員待避ー!」
凄まじいブレス。
またも外壁の一部が破壊され、冒険者や騎士数名が吹っ飛ばされた。
ただ、それにしても——。
「…………」
「あの、エルンさん? そ、そろそろ、離していただいても……」
「え? あ、は、はい! す、すみません!」
シシリィの肩を抱き締め、ずっとただ、あのなんとも言えない光景を眺めてしまった。
声をかけられて自覚し、慌てて離したがこちらまでなんとも言えない空気になる。
いや、わざとではない。本当だ。信じてほしい。
「あ、あの、ありがとうございました。守ってくれて……え、ええと、お、お怪我などは?」
「だ、大丈夫です、すみません、えっと、シ、シシリィさんは……」
「へ、平気です! ……いえ、はい、本当に……なんというか、はい」
そわそわと、相当場違いな空気。
シシリィの肩を抱き締め、あんな近い距離にいたなんて自分が自分で信じられない。
「エルンさんは、やっぱり男の人なんだって、思っただけなので……」
「えっ」
今まで男だと思われていなかったのだろうか。
ギョッとして振り返ると、顔が赤いシシリィ。
(え、かわいい)
とんでもない可愛さに真顔になる。
すべての感情が一度宇宙の闇に溶けた。
なにを言っているかわからないと思うが、エルンも自分の感情がここまでこの一点に集結したことなどなくて困惑している。
シシリィがかわいい。
無限にかわいい。
「! あ、そ、そうだ!」
「エルンさん?」
「シシリィさん、ここで待っててください! すぐ戻ります! ベヒーモスを、もしかしたらなんとかできるかもしれません!」
「え?」
あまりにも凝視するように見つめていた結果、遥か遠くからギルマスの視線を感じて——気のせいかもしれないが、あのギルマスなので気のせいじゃないかもしれない——慌てて立ち上がり、ベヒーモスと戦うケイトの方へ近づく。
ケイトとベヒーモスの戦いは、一対一となっており、周囲には誰もいない。
大地は抉れ、踏み荒らされ、あそこだけ異様な姿になっている。
「みゅーん!」
「もってきたでー!」
「ナイスタイミング!」
外壁の下に降りて、あの苛烈な戦いの近くにいくのを戸惑っていると、タータとリエマユが小さな鍋を咥えて持ってきた。
闇キノコスープだ。
やはり厨房に残っていた。
そして、闇キノコスープの存在に匂いで目敏く気づいたベヒーモスが、こちらを見る。
気づくのが早い。
『キノコスーーーープ!』
『待て! ベヒーモス!』
『……!』
『魔獣使い』職業スキル[魔声]。
手を前に突き出し、ストップをかけるとまさかの急停止。
ビッグボアを一回り以上上回る巨体に、獣の顔、ドラゴンのような鱗と長い尾。
闘牛のような角と鼠のような大きな耳に、鋭い爪。
筋肉質で、威圧感がすさまじい。
それでも[魔声]の効果とキノコスープの香りには抗えなかったのか立ち止まってエルンを睨め下ろす。
『……俺の幼馴染に料理人がいる。そして俺は“魔獣博士”の職業で魔獣の好む味や素材に詳しい』
『なにが言いたい?』
『このまま魔獣を連れて帰っ——』
『そうよ! 帰れとっとと! お前が帰らないと、アタイが主人と主人の幼馴染のお手製で特別な闇キノコスープにありつけないのよ!』
「みゅんみゅん!」
「…………」
鍋を地面に落として叫ぶリエマユとタータ。
ケイトが「エルン殿!」と駆け寄ってくるが、頭を抱えて静止した。
大丈夫、任せて、と。
けれどリエマユの参戦でちょっと面倒くさいことになりそうな空気。
『と、特別製の闇キノコスープ、だと!』
『そうよ! でもアンタはスタンピードを起こしたからもらえないの! アタイは主人の使い魔になったからもらえるのよ』
「みゅん!」
『そうね、こいつももらえるわ。こいつの同僚ももらえるわね! だって約束したもの。ねー、主人』
『う、うん。みんなには作るよ。約束したもんね』
だがベヒーモス、想像していた以上の食いつきである。
これは本当に——。
(もしかして、本当にワンチャンある? ……リエマユの煽りっぷりを見ればもしかする、かも? …………。よし!)
本当は、ただ帰ってもらうだけのつもりだった。
だが、あの食いつきっぷり。
イケるかもしれない。
『魔獣には特に好む食材があるよね。闇キノコ、イブの花、ソードポプリ、木天蓼、ルナの実——これらは特に魔獣たち共通の好物と言われてる。特製キノコスープは、これらを、入れる』
『な、なんだと!? そんなバカな! 贅沢すぎる! 許されるのか? そんなことが! いや、さすがに全部入れしたら味が大混雑するのではないか!』
さすが『十壁』。賢い。
その通りだ。
だが、舐めてもらっては困る。
『それを調和させ、成立させる技術を持つのが“料理人”だ!』
『……!!』
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