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VSベヒーモス 3
しおりを挟むエルンの『魔獣博士』の知識の中にも、魔獣には料理の概念がない、とあった。
どうしてそんな知識が本に記載してあったかというと、『魔獣使い』の職業について調べていた時に『魔獣使いの中には、料理を用いて自分よりも強い魔獣を従えた者も多い』という記述が散見していたからである。
そう、つまり——餌で釣れ!!
歴代の『魔獣使い』が使ったレシピも多く残っており、なんなら『魔獣使いがおすすめする百のレシピ』本まであった。
そしてそのレシピに必ず使われているのがこの五つ!
闇キノコ、イブの花、ソードポプリ、木天蓼、ルナの実。
魔獣の種類によって加工の仕方が違ったり、無論個体差はあるものの、『魔獣使い』の餌作り基本となるのはこれらであり、これらをすべて用いた『特製スープ』の作り方は、なんとエルンが調べただけで十六種類存在。
エルンは正直そこまで料理が上手いというわけではない。
宿屋のお手伝いは基本、掃除、洗濯、ベッドメイク。
食堂の方はよほど忙しい時に料理運びくらいで、厨房には皿洗い、野菜洗いの時ぐらいしか入らなかった。
だがしかし、ナットは違う。
そしてナットが知らない魔獣餌の作り方を、エルンは覚えている。
『俺はレシピを知っているし、この町にはそのレシピを作れる俺の幼馴染がいる。その幼馴染が料理を作れる最高の環境こそがこの町! なくなったら作れなくなる!』
『っ!』
『嘘だと思うなら、作ってやる! でも、その代わり攻撃をやめてもらう!』
『…………人間を信じろというのか? 貴様のそれが真実だと!? 笑わせるな! 卑劣な人間が!』
『じゃあここにあるキノコスープはリエマユとタータが食べていいよ!』
『やったー! いただきまーす!』
「みゅん! みゅんみゅーーん!」
『ああああああああああああああ!』
蓋を開けたリエマユとタータが鍋の中に顔を突っ込むと、突風が巻き起こるほどにベヒーモスが叫んだ。
その非難の混じった声に、危うく鍋が吹き飛ぶのではと思ったがそこはリエマユ。
しっかりと押さえて、がつがつ食い続けている。
『お……、お、お、おのれ!!』
そして涙の逆ギレ。
いや、実際涙は出ていないが声が涙声。
魔獣には涙腺がない、って本に書いてあったので。
でも[魔声]で聞こえるその声は、震えていた。
『美味しいわ! 美味しい! こんな美味しいもの食べたことない! 闇キノコは食べたことあるけど、料理——スープにするとこんなに美味しいんだね!』
「みゅんみゅんみゅんみゅん」
『ああ、もうなくなっちまったよ!』
『これが終わったら他の材料と合わせたスープを作ってあげるからね』
『闇キノコだけでもこんなに美味しいのに……もっと美味しくなるのね』
『うん!』
『っぐ!』
力強く頷くと、ベヒーモスがたじろぐ。
さすがにそれを見て、ケイトも槍を下げた。
交渉している、と確信してくれたのだと思う。
リエマユの煽りが無自覚なのかわざとなのかはわからないが、同じ『十壁』としてリエマユとベヒーモスは面識がある。
リエマユが魔獣大量発生のことを聞いたのは、ベヒーモスから、と言っていた。
なのでわざとの可能性の方が高いような気がする。
ベヒーモスとしても、『十壁』を裏切ったリエマユはいかんとも許し難い存在だろう。
だというのに、キノコスープへの執着を断ち切れずにいる。
押せば、やはりイケるのでは?
確信が強まる。
『今すぐとは言わない。俺たちは今から材料を集めてこなければいけないから。そう、闇キノコの他の材料。イブの花、ソードポプリ、木天蓼、ルナの実とか』
『うぐぅぅぅ』
『ベヒーモス、お前のその巨体を思えば食事は質より量だろう。だから、これらの食糧では満足できない体のはずだ。量的に』
『っ』
『でもお前の体は美食を求めてる。違うか?』
『…………!』
なまじ知性が高い分、質より量の食生活に飽きてきているのだろう。
そこを、突く。
『いいことを教えてやる。魔獣使いの使い魔になると、身体変化のスキルが使えるようになる』
『!?』
『一定の大きさを持つ魔獣をテイムした魔獣使いが、使役の弊害になる魔獣の体の大きさを変えられる魔獣使い専用スキルだ。もちろん俺は習得している。そしてそのスキルを使えば、お前は量ではなく質を楽しめる。……違うか?』
『……』
本当は美味しいものを腹いっぱい食べたいのではないか?
ただ腹いっぱいにしたい、というわけではなく。
まずいものを腹いっぱいよりも、美味しいものを、一つでもいいから。
エルンと、そしてエルンの知るレシピを作れるのはナットと女将だけだろう。
この二人なら理想の味を生み出すことができる。
じっと見上げること数分。
『ごちそうさま~』
のほほん、とリエマユとタータが鍋の中身を食べ終わり、おまけに「げふぅ」とげっぷまでお付けする。
それにベヒーモスがあからさまに傷ついた表情をするので、リエマユはニヤ、と牙を見せて笑う。
『アタイ、このあともっと美味しいご飯をもらうから』
『ぐううううううううううぅ!』
『えーと……俺の使い魔に——召喚獣になる? 一緒に行くなら、お前にも美味しい目のあげるよ?』
『ふざけるな! 我は“十壁”が一角! ベヒーモス! 陸の王なるぞ! まずは貴様が貴様の話が真実であると証明してみせよ! でなくば我が貴様に膝をつくなどありえない!』
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