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乙女ゲームのヒロインは、必ず私が幸せにしてみせる!

第3話!

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「ですが、確かに名乗ってはいませんでしたね……。失礼。僕は王国騎士団、魔法騎士隊隊長、ハーディバル・フェルベール」
「俺はハクラ・シンバルバ! 職業は~……うーん、今はとりあえず冒険家かなー」
「……王国騎士と冒険家……?」

 と、姿勢を正し、先ほどまでとは別人のように殊勝に腰を折り胸に手を当てて自己紹介をするドS美少年……改めドS騎士。
 騎士!
 それに、三つ編み美少年改め冒険家の美少年!
 なにそれ、まさか結構すごい人たち?
 というか、私より歳下みたいなのに……!?

「……あ、あなたたち私より歳下……よね? なんかすごいお仕事してるのね……?」
「俺はともかくハーディバルは王国始まって以来の魔法の天才って言われてるから。最年少、十二歳で魔法騎士隊の隊長になったんだって!」
「言っておきますがあんな腐りきった大陸の為に我が国の王族や幻獣族や八竜帝王……果ては大地の神まで巻き込んでるお前はクソふざけた存在以外の何者でもないです」
「……あはは……」

 ……なんかやばいやつなのね、ハクラは……。
 ハーディバルというドS騎士の眼差しの鋭さは、ここ一番のものだ。
 なんか恨み辛みみたいなのもふんだんに籠っている。
 ……一体なにしたのかしら。

「まあ、顔は広いかな?」
「そんなレベルの問題か」
「……お、怒らないでよハーディバル~」
「別に怒ってはいないです」
「あ、拗ねて」
「殺すぞ」
「すいません」

 ……訂正、どっちもやばそう。

「あの……ところで私が帰る方法の事なんだけど」
「ああ、その辺りの話もユスフィアーデ家の方が来たら詳しく話すです」
「さっき丸投げって言ってなかった?」
「うん」
「ハクラは知りませんが僕は忙しいので面倒事には巻き込まないでほしいです」
「ほんとに薄情無情冷血ねあんた!?」
「俺も大事な用があるからそっち優先したいんだよね。異世界には興味あるけど……」
「どいつもこいつも!?」

 ええええ……こ、こういう場合はもっと積極的に「帰る方法を探すのはお任せください!」とか「異世界なんて面白そう! 俺も協力は惜しまないよ!」とか、そういう展開になるんじゃないの~!?
 騎士と冒険家なんでしょ~!?
 乙女ゲーとか漫画じゃそういうもんじゃない!?
 面倒とか、大事な用があるとか……こ、こいつら乙女ゲーの攻略キャラみたいな顔してるくせに!
 展開的に私、主人公の位置じゃない!?
 それをこうもドスルーするって……!
 …………や、やっぱり……グレーのジャージとスニーカーに女子力皆無の眼鏡と一つ結びがルートを逃したのかしら……?
 女子力が低すぎて、恋愛イベントに発展しない……?
 ……せっかく異世界で、こんな美少年たちに会えたのに……やっぱり現実ってそんなもの!?

「……なんかロクな事考えてない顔してるです」
「うーん、異世界から召喚されたばかりで色々混乱してるんじゃない?」
「ゲームがどうとか言っていましたしね……。それより、いい加減移動するです。今後の事について、とりあえず住む場所が決まるまでは面倒見てやるです。仕事のついでに」
「うん、一緒に行こう?」
「!」

 手を差し伸べてくれたのはハクラ。
 人をおばさんと呼びかけた若干オブラートの足りない失礼な子だと思ったけど……ドS騎士よりは優しい……!
 満面の笑顔はまるで太陽のようだわ……。
 ちょっと泣きそうになっていた私だけど、その手を取ってようやく教室から出る。
 ナージャちゃんは俯いて泣いたまま、ドS騎士の後ろに付いていく。
 ……うーん、この子もどうなっちゃうのかしら……。
 諸悪の根源とはいえ、働きながら勉強してる、なんて聞いた後だとあんまり怒らないであげてほしい。
 きっと早く一人前になりたいってい気持ちが焦っちゃったんだろう。
 ……よし、決めた。
 ゲームができなくなった恨みはあるけど、私は味方になってあげよう。
 とりあえず目下被害者の私がフォローすれば、多少は大目に見てもらえるかもしれない。
 教室を出てすぐにハクラは私の手を離し、ニコニコしながらハーディバルの持つ魔導書へと興味を移した。
 美少年がぴったりくっついて並んで歩く様はやはり眼福だ。
 というか、立場……かなり違うのに仲良しね……?

「二人は仲がいいのね……?」
「うん、ハーディバルは俺にとって特別だしね」

 ニコ!
 と、なんとも可愛い笑顔。
 そして、台詞の威力。
 真顔で妄想が広がる私。
 それは所謂……青い春……BとL的な……?
 乙女ゲーや少女漫画の方が好きだけど、意外とそっちも嫌いじゃないんだけど、私……。

「同じ体内魔力容量が多い体質で、正反対の魔力属性……歳も同じで、お互いはじめての友達だし!」
「黙って歩けです」
「その上ツンデレ! 可愛いでしょ?」
「殺すぞ黙れ」
「……ツンが強めなのね……」
「一年に一回デレるかデレないかなんだよ」

 ……ただのツンじゃない……。
 まあ、よくわからないけど、共通点の多いはじめての友達って事なのね。
 ドS騎士はともかく、ハクラは人当たりもそれなりに良さそうだから友達多そうなものだけど。
 あ、もしかして……。

「幼馴染みたいな?」
「ううん、出会ったのは五年前……十三歳の時」

 この二人、十八歳なのか。
 へぇ、それまでは違う学校だった、とかかしら。
 でも十三歳になるまで友達がいないなんて、ハクラって中学生デビューした系?
 ……それならあんまり深く聞かない方がいいかしら?
 そういうのって黒歴史だものね。

「歩きながらベラベラ話すなです。舌噛んで死ぬなら死ね」
「酷いな。俺が舌噛んだらハーディバルが治してよ」
「置き去り確定です」
「…………………………」
「死ね! いや、殺す!」
「あはははー」

 ……なにかを耳打ちしたハクラに対して烈火の如くお怒りになるハーディバル。
 ……なるほど……恋愛イベントが起きなかったのはそういうわけなのね……!
 いいわ、BとLも嫌いじゃないから!
 美少年同士のBとLなんて、眼福よ!
 むしろそっちに転がり落ちそうで、怖い!



 ……と、美少年同士のじゃれ合いを後ろで舐め回すように堪能し、そろそろ本格的に腐の道に目覚めるんじゃあないかしらと思った頃、教員室に到着した。
 その隣の部屋、応接室に通される。
 広い部屋に、テーブルと赤い長めのソファーが二脚。
 絨毯もふわふわ。
 その赤いソファーには可愛らしい少女が座っており、横に鎧の騎士が一人佇んでいた。

「お久しぶりです、エルファリーフ嬢」

 ハーディバルが胸に手を当てて頭を下げる。
 可愛らしい少女は私たちに気がつくと、立ち上がってドレスの裾を摘む。
 上品な仕草。
 そして、丁寧に頭を下げた。

「はい、お久しぶりですわ、ハーディバル様。先日はお忙しい中、わたくしの誕生日会に来ていただきありがとうございます。欠席と伺っていたので嬉しかったですわ」

 わたくし!?
 ですわ!?
 ま、マジでガチなお嬢様……!?

「顔を出す事しか出来ませんでしたので……。お姉様は……お元気ですか?」
「はい。お気遣いいただきありがとうござます」
「……それならば良いのですが……。あまりお困りのようでしたら兄から殿下へお口添えいただくよう、私から話しますよ」

 私!?
 ドS騎士、口調が変わってるわよ!?

「…………。……いえ、姉の事ですので、わたくしの一存では……」
「そうですか……」
「……なんの話?」
「世間話です」

 ハクラの耳打ちは一応こちらにも聞こえたが、ハーディバルははぐらかした。
 うーん、とりあえずまるで中世の貴族同士の会話みたいだったわね……。
 まさか、ハーディバルって意外と良いところのお坊ちゃんなのかしら?
 こんなリアルご令嬢の誕生日会にご招待されてたって……。

 …………………………ハッ……!


 水守みすず【レベル5】
 職業:パート従業員
 あたま:百均黒ゴム
 からだ:ジャージ(グレー)
 あし:スニーカー(白)

 エルファリーフ【レベル99】
 職業:ご令嬢
 あたま:花飾り
 からだ:ドレス(エメラルド)
 あし:パンプス(エメラルド)

 …………な、なんていう、事……。
 ……なんか謎のステータスまで頭の中に表示されるほどに……圧倒的、女子力の……差が!

「? ……あら? そちらの方は? 珍しいお召し物ですわね」
「ウッッ!!」

 かいしん の いちげき !

「ええ、こちらの方のお話もしなければならないのです」
「どういう事ですか? 衛騎士隊の方より、至急こちらに来るように、としか聞いていないのですが…………あら? ナージャ?」
「っ!」

 私が倒された事により、一番後ろで小さくなっていたナージャがお嬢様の目に留まったのだろう。
 ナージャちゃん、ごめんね……私のHPは今のでゼロになったわ……。
 フォローしてあげたかったけど……。

「うっ、う……お嬢様ぁ……ごめんなさぁい……!」
「……一体どうしたのナージャ……」
「エルファリーフ様」

 ハーディバルが近づいて来ようとしたお嬢様を手で制する。
 そして、ナージャの持ち出したという魔導書を彼女へ差し出す。

「これに見覚えはありますか?」
「……こちらは? 魔導書……?」
「この娘がユスフィアーデ邸より持ち出したと言っているのですが」
「……我が家からですか? ……申し訳ございません、何分我が家の書庫はそれなりの広さでして……わたくしも全てを把握しているわけではありませんの。特に魔法関係はわたくし、あんまり……」
「そうですか。ユスフィーナ様も同じでしょうか?」
「どうかしら……? 聞いてみませんとなんとも」
「分かりました。一応物としては古代魔法書籍の部類となり、貴重蔵書指定となると思われます。無断の持ち出しは窃盗、使用は魔法法違反となります。ユスフィアーデ家の所有と分かり次第ご返却は出来ますが、それと断定できない場合は国の管理下に置いて保管、保全する事になると思いますので……」
「! お待ち下さい、まさかナージャが……!?」
「ええ。十五歳以下の者であっても、魔法法の罰則は適応されます。詳しくは衛騎士よりお聞きください。……ともかく、魔導書の方は騎士団で一時預かりの後、『図書館』へ寄贈となります」
「…………ナージャ……」

 口元をか細い指先で抑え、顔を青くしたお嬢様はショックを隠せない様子だ。
 私もまさかナージャちゃんがそこまできっちり裁かれる事になるなんて思わず、驚いて顔を上げる。
 ちょ、ちょっと、しっかり仕事やりすぎじゃないの!?

「ちょ、ちょっと待って! こんな女の子に、何もそこまで……!」
「因みに、この娘が魔法を使用した結果が彼女です。どうやら誤って異世界から人を召喚してしまったようです」
「ええ!?」
「……あ……は、はじめまして……」

 そうだ、私がその魔法の結果だった。
 更に驚いて、元々の大きな目をもっと大きくしたお嬢様に頭を下げる。
 あ、あれ? ……な、なんか見事に話をすり替えられたような……?

「……異世界から物、生物などを召喚するのは元より、人間を同意なしに呼び出すのは当然の事ですが重い罪になります」
「…………は、はい……存じ上げております……。……ああ……なんという事を…………」
「お、お嬢様……ごめんなさい……」
「その上、この娘の使用した魔法は古代魔法……送還には魔導書の解読と解析が必要。……資金も相当にかかるとお覚悟ください」
「…………分かりましたわ……。それよりも、その方は元の世界にお帰りいただく事が出来ますのね?」
「……今の時点ではなんとも言えませんね。これは僕が見ても、古過ぎて分かりかねる。ただ、魔法の構造上不可能ではないと思います。……時間がかなりかかる事になるでしょうが……」
「……そうですか……。では、それまではわたくしの家で責任を持ってお世話させていただきますわ。……あの、もし」

 青い顔のままお嬢様は大層落ち込んで、私の前に歩み寄る。
 今度はドS騎士も引き留めない。
 私の前に来たお嬢様は、それはそれは可愛いらしい。
 薄いオレンジ色の髪はふわふわで、それを左側にお団子にして花飾りで留めている。
 唇はプルップルのピンク色。
 グリーンの澄んだ瞳は、涙が滲んでいる。
 ……もはや敗北以前の問題。
 圧倒的美少女!
 眩し過ぎて、直視出来ない……!


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